• 2023年10月4日
  • 2023年10月2日

ミスを引きずると命取りに。看護師こそ重要な“気持ちの切り替え”を精神科医Tomyが伝授

 

多重課題やイレギュラーの連続でミスが起きがちな看護師業。そのミスが原因で、患者さんや先輩看護師に厳しく怒られ、「自分は看護師に向いてない……」と落ち込んでしまう看護師さんもいるのでは?

落ち込んだ気持ちを引きずると、さらなるミスを誘発してしまうリスクがあります。特に患者さんの命に関わる重大なインシデントは言語道断。

そこで看護師でもある筆者が、メディアやラジオなど多方面で活躍中の精神科医Tomy先生に、落ち込んだ時の気持ちの切り替え方や、スルースキルの高め方を教えてもらいました。

まずは「落ち込みやすい要因」を把握しよう

ナースプラス 精神科医Tomy 看護師 落ち込む

気持ちを切り替えるためには、落ち込みやすい要因を知ることが大切。Tomy先生によると、落ち込みやすい人には主に3つの要因があるそうです。

落ち込みやすい要因①:自分を責めるような反省をしてしまう

筆者
ミスを指摘されると他の業務に支障をきたすほど引きずってしまう看護師がいたのですが、何か要因があるのでしょうか?

Tomy
人は誰でも危機に直面したとき、無意識に自分を守ろうとします。これを心理学用語で「防衛機制」というのですが、落ち込みやすい人は、この防衛機制がネガティブに働いてしまいます。よく見られるのが、ミスをしたときに自分の心のバランスを保とうとして、あえて自分を責めてしまうという行動ですね。どんどん反省して自分を責めることで現実や自分の心と折り合いをつけようとしますが、逆に自分を苦しめてしまっています。

筆者
“ひとり反省会”をする看護師も多いと思います。これもかえって落ち込んでしまう要因なのでしょうか?

Tomy
内省すると問題に取り組んだ気になってしまうんですけど、結論を出さないケースが多いんです。結局自分を責めるだけになってしまうので、そのような反省会は避けた方がいいでしょう。

落ち込みやすい要因②:行動より頭で考えることが先行している

Tomy
ほかにも、行動に起こすことより先に、頭で考えてしまう状態も落ち込みやすい要因といえますね。新人看護師さんによく見られるんですけど「学生時代にたくさん努力をしたから、就職先でも大丈夫!」と自信を持っている人ほど、いざ現場に出て実践してみると、未熟な部分が露になって落ち込んでしまうんです。

筆者
想定していたより何もできずショックな気持ち、僕も経験しました。

Tomy
学生時代に得た知識より、就職してから覚える知識や技術の方が圧倒的に多いですよね。それをわかっていないと、理想と現実とのギャップに悩んだりするのかもしれません。

落ち込みやすい要因③:まだ起きていないことや未来ばかりに気を取られがち

筆者
新人看護師時代に現実を知って洗礼を受けたあと、またミスしてしまうんじゃないかって萎縮しちゃって、不安のループに入っていったような記憶があります。

Tomy
ミスが起きることは仕方ないと思います。でもそのミスに意識が向いている状態は、目の前の仕事に集中できていない証拠。次第に予測できない未来のことまで考えて不安になったり、変えられない過去のことを考えてくよくよして、新たなミスをしたりする可能性があるので、注意しましょう。

<落ち込みやすい要因>
①自分を責めるような“ひとり反省会”をよくする
②行動に起こすより先に頭で考えてしまう
③ミスに意識が向いていて、今に集中できていない

気持ちを切り替えるなら「次、どうするか?」に意識を向けて行動しよう!

ナースプラス 精神科医Tomy 看護師 落ち込む

落ち込みやすい要因について理解しました。とはいえ、それでも落ち込んでしまう時はあるもの。沈んだ気持ちを切り替えるためには「次の行動に目を向けることが大事」とTomy先生は話します。

Tomy
「次、自分は何をしたらそのミスを減らせるか」と未来に意識を持っていくことが大切です。具体的には手帳や紙にミスに対する対策や目標を書き出してみてください。書き出したあとはミスについて考えないようにしましょう。
それを次の出勤前に確認して、実行してみる。もしまたミスをしてしまったら「今度はこうしてみよう」という風に、PDCAを回して、経験を積み重ねてください。“ミスをしないゲーム”のような感覚で改善していけば、自分を責めることや落ち込む頻度が減っていくはずです。

筆者
頭の中で反省するより、次の打ち手を考えて行動することが大切なんですね。

Tomy
はい、とにかく行動して落ち込む暇をなくすことが大切です。 看護師さんってとにかく動き回りますよね。患者さんのためにいっぱい動いて仕事してくれるからこそ、どんどん業務は増えるし、必然的にミスも増える。だから「自分はまだまだ未熟だ」と落ち込む瞬間も多くなると思うんです。でもその落ち込んだ気持ちは、動き続けることでしかカバーできません。

筆者
くよくよ悩む隙を与えないってことですね。

Tomy
はい、余計なことを考えずに患者さんのために今やれる最大限のことを積み重ねていけば、あれこれ考える暇はないですし、行動することで経験値も溜まっていくのでミスが減っていくはずです。

筆者
看護師の中には、プライベートを充実させることで仕事とのバランスをとっている人もいますが、これも気持ちを切り替える上では有効な手段でしょうか?

Tomy
気持ちを切り替える手段として趣味を楽しむはありですが、何かに没頭しすぎてしまうのは心のバランスを崩してしまう可能性があるのでほどほどに。とくに酒、ギャンブル、買い物など依存要素が含まれる趣味は避けてください。依存性が強い趣味は、気持ちを切り替える効果より、現実逃避の要素が強いので注意が必要です。

筆者
自分ではなく、他人に気持ちを切り替えてもらいたい場合はどうですか? ミスを引きずり落ち込みやすい新人看護師をどう立ち直らせればいいか迷うプリセプターもいると思います。先輩看護師からできることは何かありますか?

Tomy
「そういうミスはみんな経験しているよ」や、「私もそのミスしたことある、難しいよね」のように、自分の失敗談や経験を織り交ぜて安心させてあげるといいと思います。「これさえ気をつければミスを防げるよ」のように、具体的な案を出してフォローする方法もおすすめです。ミスの内容にもよりますが「あなたが思うほど、ひどくないよ」ということを伝えてあげてください。

<気持ちを切り替えるためにまずすべきこと>
①未来に目を向けて、対策や目標を紙に書き出そう!
②PDCAを回して、ゲーム感覚で改善していこう!
③とにかく行動して思い悩む時間をなくそう!
④趣味を楽しむのも1つの手段だけど、没頭しすぎないように!
⑤相手に気持ちを切り替えてもらいたい時には、ホッとする言葉をかけよう!

先輩看護師からの必要以上に厳しい一言で、落ち込まない方法は?

ナースプラス 精神科医Tomy 看護師 落ち込む 先輩

気持ちを切り替えたくても、先輩看護師からの必要以上に厳しい一言でショックを受ける人も多いはず。そういった状況下で求められるのは「厳しい言葉だけをスルーするスキル」。Tomy先生によると、スルースキルを高めるには「言葉を直接受け止めすぎないこと」が大切とのこと。

筆者
看護師あるあるだと思うんですが「そこまで言う必要ないんじゃ……」というくらい、先輩看護師から心ない一言を浴びせられたことがありました。まともに受け取ったら心がもたないのですが、どうしたらいいですか?

Tomy
言葉を直接受け止めすぎないことが大切ですね。看護師という仕事はスピーディーに状況が変わるなか命を扱う仕事なので、厳しい言葉をかけられるのは仕方ないことだと思います。
それに先輩からの厳しい言葉はとっさに出たものであって、決してあなたのことを非難したいと思って放ったわけではないことも覚えておいてほしいですね。だからといって、叱る側は何でも言っていいわけではありませんし、きちんと言葉を選ぶ必要はありますが。

筆者
先輩看護師が後輩看護師を非難したくて言っているわけではないとわかっていても、割り切れない人もいるかと思います。

Tomy
頭の中で、先輩看護師からの言葉を翻訳してみてはいかがでしょうか。例えば「何をやってるんだよ!」と言われたら「そういうことはしないでね」と翻訳してみる。先輩の言葉をなるべく感情を入れずに翻訳してみると、本当に言いたいことが見えてくるはずです。厳しい言葉で叱りがちな先輩・上司にこそ活用してみてください。

<スルースキルの高め方>
①先輩からの厳しい言葉を直接受け止めすぎないことが大切!
②厳しい言葉はとっさに出たもので、あなたを非難したいと思っているわけではない!
③厳しい言葉を翻訳してみると、先輩が本当に伝えたいことが見えてくる!

日々の仕事で落ち込みやすく「自分は看護師に向いてないかも……」と思いがちな看護師さんは、ぜひ精神科医Tomyさんのアドバイスを参考にして前向きな気持ちにスイッチしていきましょう!

精神科医Tomy
精神保健指定医、日本精神神経学会専門医。Twitterフォロワー38万人越え。クリニックに常勤医として勤務する傍ら、執筆やYouTube、Voicyなど多方面で活躍。著書に『精神科医Tomyが教える 1秒で不安が吹き飛ぶ言葉』(ダイヤモンド社)、『精神科医Tomyの気にしない力』(大和書房)などを持つ。

取材:内山直弥(TAC企画)、企画・編集:藤田佳奈美(同)

著者プロフィール