バイタルは患者の状態を数値で明確に表す情報であり、医療福祉業界で働く人が押さえておくべき基本的な指標です。看護師として患者に接する職場で働く場合は、一日に何度もバイタルを測定する機会が訪れるでしょう。
しかし、複数の項目を一括で測定できる高度な医療機器が揃っている現場ばかりとは限りません。基本的なバイタルの測定方法やポイントを理解することで、どのような臨床現場でも適切な測定作業が可能です。
今回は、バイタルの概要・目的・正常値・基本的な測定方法を解説します。小児のバイタル測定における注意点も紹介するため、ぜひ参考にしてください。
バイタル(バイタルサイン)とは?
「バイタル(バイタルサイン)」とは、患者の「生命の(vital)兆候(sign)」を表す基本的な情報です。患者が現在置かれている状況や緊急性を数値として計測することで客観的に把握し、正確に伝達するための重要なデータとなります。簡易的な測定器や目視・触診でも、バイタルの数値を見ることで短時間で患者の健康状態をチェックすることが可能です。
単にバイタルと呼ぶ場合は、「脈拍(心拍)」「呼吸」「血圧」「体温」の4つを指します。救急医療現場・集中治療室などでは、4つの測定項目に「意識レベル」「尿量」の2項目を追加して「バイタル」と呼ぶ場合もあります。「バイタルを取る」「バイタルは安定している」「バイタルが崩れる」という使い方が一般的です。
(出典:厚生労働省「在宅療養技術指導マニュアル」)
バイタルを測定する目的
バイタルを測定する目的は、患者の状態が「正常値・基準値から逸脱していないか」「前回の測定値と比べてどの程度変化したか」を確認することです。
バイタルが正常値・基準値から大きく逸脱していれば、即時適切な処置を施さなければ生命の維持に関わる可能性があります。また、前回の測定値と比べて悪化・改善が見られる場合は、患者の状態に合わせて治療方針の見直しが必要です。
しかし、患者のバイタルが正常か・早期の処置が必要か否かは、患者個人の状況によって異なります。そのため、一般的なバイタルの正常値・基準値を把握するとともに、日頃から患者のバイタルを計測し、平常時の数値を記録しておかなければなりません。患者のバイタルを正確に把握・記録・伝達することによって、異常の早期発見、ひいては患者の生命活動を守ることにつながります。
バイタルの正常値・基準値
下記は、成人を対象とした一般的なバイタルの正常値・基準値です。
呼吸 | 14~20回/分 |
---|---|
体温 | 36.0~36.9℃ |
血圧 | 収縮期:120mmHg未満 拡張期:80mmHg未満 |
脈拍 | 50~80回/分 |
意識レベル | 意識清明 ● JCS 0 ● GCS 15 |
尿量 | 1回の排泄量:約200~400ml 1日の総排泄量:約1,000~2,000ml |
(出典:厚生労働省「在宅療養技術指導マニュアル」)
(出典:特定非営利活動法人日本高血圧学会「高血圧治療ガイドライン2019」)
(出典:堺市「意識レベル(JCS:Japan Coma Scale)」)
(出典:一般社団法人日本神経治療学会「脳卒中治療ガイドライン2009」)
(出典:関西医科大学「第10回市民公開講座 (2008) 男女ともに見られる尿漏れ、頻尿」)
上記の表を見ても分かるように、正常値・基準値といっても各数値には幅があります。一般的な数値を押さえた上で、各患者における平常時の数値を把握することが重要です。
バイタルの測定方法
バイタルの平常値は個人差が大きいため、定期的にバイタルを測定して個別の基準を記録しなければ、患者の状態を正常に把握できません。ここでは、バイタルの基本的な測定方法を解説します。なお、バイタル測定時に何らかの異常を感知した場合は、早急に医師へ報告し、判断を仰ぐことを忘れないでください。
呼吸
呼吸数の正常値・基準値は、1分回に14~20回です。呼吸数は呼息・吸息をワンセットとして数え、脈拍測定と同時に行います。測定を意識すると呼吸が乱れやすくなるため、測定開始を患者に告げないことが大切です。患者の状態によっては、パルスオキシメーターを使用した酸素濃度の測定も必要となります。
以下は、呼吸測定の呼吸数・呼吸音測定の手順とポイントです。
<呼吸数測定の手順>
(1) | 脈拍測定後、そのままの状態で測定を始める |
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(2) | 胸部・腹部の上下運動を1分間観察する |
<呼吸音測定の手順>
(1) | 患者にやや大きめの呼吸を行ってもらう |
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(2) | 気管支・肺に該当する部分へ聴診器を当てる |
(3) | 1カ所につき、呼気・吸気をワンセット以上聴取する |
(4) | 左右交互に聴取し、異常音の有無を確認する |
<呼吸測定のポイント>
- 上下運動が目視で分かりづらい場合は、患者の胸部・腹部に軽く手を置いて測る
- 苦しそうな表情をしていないか確認する
- 回数・深さ・リズムなど、呼吸パターンに異常はないか確認する
- 胸部の動きに左右差がないか確認する
- 「ゼーゼー」「ヒューヒュー」といった異常音が混じっていないか確認する
- 異常音がする場合は、音の種類を確認・報告する
体温
体温の正常値・基準値は36.0〜36.9℃です。しかし、体温は個人の活動量や筋肉量によって個人差があり、時間帯や直前の行動によっても数値が大きく変化します。患者の体温を測る際は、下記のポイントを押さえることが大切です。
<検温のポイント>
- 早朝から夕方にかけて体温は高まるため、毎日一定の時間帯に同じ方法で測る
- 検温時の室温は25度を目安とする
- 運動・入浴・食事の直後は避け、30分ほど時間を空けて安静状態を保ってもらう
以下は、腋窩検温法・口腔検温法の手順・ポイントとなります。
<腋窩検温法の手順>
(1) | 腋窩が発汗していないことを確認する |
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(2) | 身体の軸(背骨)に対して30~45度になるよう、身体の下側から差し込む |
(3) | 腋窩動脈へ当たる位置に調整する |
(4) | 検温中の腕は軽く肘を曲げ、反対側の手で腕を押さえてもらう |
<腋窩検温法のポイント>
- 検温の時間が決まっている場合は、30分ほど前から検温側の腋窩を閉じて安静にしてもらう
- 患者が側臥位しか取れない場合は、側臥位のまま上側の腋窩で測る
- 患者に麻痺がある場合は、健常側の腋窩で測る
<口腔検温法の手順>
(1) | 手指の洗浄・消毒を行い、手袋を装着する |
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(2) | 口唇・口腔内に異常がないか確認する |
(3) | 口唇中央に対して30~40度横の位置から体温計を挿入する |
(4) | 舌下中央より少し横に感温部を当てる |
(5) | 口唇を軽く閉じてもらう |
<口腔検温法のポイント>
- 体温計が安定するよう、舌小帯を避ける
- 検温の10分ほど前から飲食や会話を避けてもらう
血圧
血圧の正常値・基準値は、収縮期が120mmHg未満、拡張期は80mmHg未満です。この数値よりも高い場合は高血圧となります。ただし、血圧は時間帯などのさまざまな要因によって変化するため注意が必要です。看護師が測定する場合は、患者の緊張状態により「平時よりも高めの数値が測定されやすい」ことを覚えておきましょう。
以下は、血圧測定の手順・ポイントです。
<共通の手順>
(1) | 水銀が0点にあることを確認する |
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(2) | 寝衣の袖をまくり、人差し指・中指・薬指で上腕動脈の拍動位置を確認する |
(3) | 上腕動脈の位置に、ゴム嚢の中央が当たるように調節する |
(4) | マンシェットの下縁が肘より2~3cmほど上の位置に、指が1~2本入る強さで巻く |
<血圧測定のポイント>
- 室温は20度以上に保つ
- 毎回同じ時間帯・体勢・部位で測定する
- 運動・食事・入浴を行った場合は、30分~1時間ほど経過してから測定する
- 患者の上腕部の太さ・長さに合ったマンシェットを使用する
- 血圧を測定する部位の位置は心臓と同じ高さにする
- 患者に高血圧・動脈硬化の疑いがある場合は、触診法と聴診法を併用する
<触診法の手順>
(1) | 上腕動脈の脈拍を指で確認しながらマンシェットに空気を送り、平時の収縮期血圧より20~30mmHgほど高い値まで加圧する |
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(2) | 毎秒2~3mmHgの速度で空気を抜き、徐々に加圧を減らす |
(3) | 拍動を感知した数値を収縮期として記録する |
(4) | 拍動が消失した数値を拡張期として記録する |
<聴診法の手順>
(1) | 上腕動脈の拍動が確認できる位置に、聴診器のチェストピースを当てる |
---|---|
(2) | 上腕動脈の脈拍を耳で確認しながらマンシェットに空気を送り、平時の収縮期血圧より20~30mmHgほど高い値まで加圧する |
(3) | 毎秒2~3mmHgの速度で空気を抜き、徐々に加圧を減らす |
(4) | コロトコフ音を感知した数値を収縮期として記録する |
(5) | コロトコフ音が消失した数値を拡張期として記録する |
脈拍
脈拍数(心拍数)の正常値・基準値は、1分間に50~80回です。1分間に50回未満の場合は徐脈、100回以上の場合は頻脈となります。また、患者の体調が同じでも、仰臥位→座位→立位の順に脈拍数が増えることを覚えておきましょう。
<脈拍測定のポイント>
- 運動・食事・入浴・喫煙後30分以内の測定は避ける
- 徐脈・頻脈・脈拍リズムの乱れがある場合は、心機能の異常や脱水症状を疑う
- 患者の血圧が低く橈骨動脈で脈拍が測れない場合は、総頚動脈で測る
以下は、橈骨動脈・総頸動脈による脈拍測定の手順・ポイントです。
<橈骨動脈による測定の手順>
(1) | 患者がリラックスできる体勢を取ってもらう |
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(2) | 揃えた人差し指・中指・薬指を橈骨動脈に軽く当てる |
(3) | 1分間の脈拍数を数える |
<橈骨動脈による測定のポイント>
- 不整脈や脈拍欠損が見られる場合は、両手の脈拍を同時に測り、左右差がないかも確認する
- 脈拍が感じ取りにくい場合は、拳を握る→開くという動作を患者に10~15回程度行ってもらう
<総頸動脈による測定の手順>
(1) | 患者がリラックスできる体勢を取ってもらう |
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(2) | 顔を脈拍測定しないほうへ向けてもらう |
(3) | 揃えた人差し指・中指・薬指を下顎骨の下、総頸動脈に軽く当てる |
(4) | 1分間の脈拍数を数える |
<総頸動脈による測定のポイント>
- 左右の総頸動脈を同時に押さえない
- 総頸動脈を強く圧迫しない
意識レベル
日本の医療現場で患者の意識レベルを評価する際は、JCS・GCSのいずれかを用いることが一般的です。意識レベルの正常値・基準値は、覚醒状態にあって自分と周囲の状況を認識できる「意識清明」状態を指します。スコアの書き方はそれぞれ「JCS 0」「GCS 15」です。
以下は、JCS・GCSの概要・特徴・スコアの内容です。
JCS | Japan Coma Scale |
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I桁:刺激しなくても覚醒している状態 | |
0 | 意識清明 |
1 | 意識は保っているが、どことなくぼんやりしている |
2 | 現在の日付・時間・場所が言えない |
3 | 自分の名前・生年月日が言えない |
II桁:刺激で覚醒するが、刺激を止めると眠り込む状態 | |
10 | 普通の呼びかけに反応して開眼する |
20 | 大声または身体の揺さぶりに反応して開眼する |
30 | 痛み刺激を加えながら繰り返し呼びかけるとかろうじて開眼する |
III桁:刺激しても覚醒しない状態 | |
100 | 痛み刺激に対し、払いのける動作をする |
200 | 痛み刺激で少し手足を動かしたり顔をしかめたりする |
300 | 痛み刺激に反応しない |
(出典:堺市「意識レベル(JCS:Japan Coma Scale)」)
GCS | Glasgow Coma Scale |
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E:開眼 | |
0 | 意識清明 |
4 | 自発的に開眼する |
3 | 呼びかけによって開眼する |
2 | 痛み刺激によって開眼する |
1 | 痛み刺激による反応なし |
V:言語反応 | |
5 | 見当識あり |
4 | 混乱した会話をする |
3 | 不適当な発語をする |
2 | 理解不明の音声を放つ |
1 | 発語なし |
M:運動反応 | |
6 | 命令に応じる |
5 | 疼痛部位を認識できる |
4 | 痛み刺激からの逃避行動を示す |
3 | 痛み刺激に対して屈曲運動を示す |
2 | 痛み刺激に対して伸展運動を示す |
1 | 痛み刺激への反応なし |
(出典:一般社団法人日本神経治療学会「脳卒中治療ガイドライン2009」)
尿量
尿量の正常値・基準値は、1回につき約200~400ml、1日の総量として約1,000~2,000mlです。異常値に当たる尿量の目安は下記のとおりです。
乏尿 | 1日500~600ml以下 |
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無尿 | 1日50ml未満 |
1日の尿量が極端に少ない場合は、泌尿器の疾患や腎臓機能の異常などが疑われます。ただし、尿量を評価する際は、膀胱留置カテーテルなどを使用し、正確な数値を測定しなければなりません。
バイタルを測定する流れ|必要物品と準備方法
ここでは、バイタル測定に必要な物品と準備方法、大まかな測定の流れを解説します。
<バイタル測定の必要物品>
- 聴診器
- 秒針付き時計
- 電子体温計
- 電子血圧計
- アルコール綿
<バイタル測定の事前準備>
- 聴診器をハの字に装着し、音が正しく伝わるかを確認する
- 血圧計のマンシェットが正しく加圧されるか、目盛りが反応するかを確認する
- 患者の肌に触れる部分はアルコール綿で消毒する
<バイタル測定の流れ>
(1)患者説明 |
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(2)体温測定 |
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(3)脈拍測定 |
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(4)呼吸測定 |
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(5)血圧測定 |
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(6)測定終了 |
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上記の必要物品・手順はあくまでも一般的な基準です。病院や介護施設、患者の状態によって必要物品が増える・手順が変化する場合は、指示に従ってください。
【小児】バイタルを測定する流れ
バイタル測定が小児相手の場合は、下記のように大人相手とは異なる順番で行います。
大人 | 患者説明→体温→脈拍→呼吸→血圧→測定終了 |
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小児 | 患者説明→呼吸→脈拍→体温→血圧→測定終了 |
測定の途中で子どもが泣き出すと、すべての数値が変動し、正確な状態が把握できません。子どもの中には「病院やスタッフが怖い」「知らない人に近付かれたくない」と思い、バイタル測定を嫌がる子がいます。特に直接触れる測定は泣きやすいため、接触の少ない測定から順に行いましょう。
バイタル測定時のポイント
小児のバイタルを測定する際は、下記のポイントに注意するとスムーズに進めやすくなります。
●小児に対して分かりやすい言葉で丁寧に説明する |
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小児にとって「知らないこと=怖いこと」です。「何をどのくらいするのか」「どんな感じがするのか」を理解してもらうことで、小児の恐怖心を和らげることができます。測定方法を選択してもらったり、馴染みのない機器に触れてもらったりすることも有効です。 |
●聴診器を温める |
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聴診器が冷たいと痛みと勘違いして泣いたり、驚いて脈拍や呼吸が速くなったりします。手のひらなどで事前に温めましょう。 |
●幅の狭いマンシェットを使用する |
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腕に対して幅が広いマンシェットを使用すると、実際の血圧よりも低い数値が測定される傾向です。一般的な体格の小児には、規格に定められた年齢に応じたマンシェットを利用しましょう。 |
●測定が終了したら褒める |
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バイタル測定は定期的に行い、数値の変化を把握しなければなりません。小児にとって「バイタル測定が嫌な行為」とならないよう、測定が終了したら「最後までよく頑張ったね」と褒めてあげましょう。 |
小児のバイタルを測定する際は、子どもの心を解きほぐし恐怖を和らげた上で行い、次回の測定にも前向きに臨んでもらえる工夫が必要です。
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まとめ
バイタルは、正常値・基準値と比較することで、患者の状態を正確に把握・伝達できる重要な情報です。定期的なバイタル測定によって患者の些細な変化を敏感に察知できるため、日々の健康管理だけでなく異常の早期発見につなげることができます。
医療従事者であるからには、各測定のポイントや手順を押さえて測定精度を高め、いつでもスムーズに実行できるようにしておきましょう。他にも看護師として知っておきたい情報を探したい人は、「マイナビ看護師」をぜひご利用ください。