• 2023年1月14日
  • 2023年6月20日

臨床心理士の平均年収は? 勤務形態・分野・経験年数・地域による違いも

 

臨床心理士とは、臨床心理学にもとづいて精神的な悩みを抱える人々の「心の問題」を解決すべく、あらゆる心理支援を提供する専門職です。ストレス社会といわれる近年、あらゆる心理療法を行う臨床心理士は需要が高く、今後ますます活躍の場が広がる職種とされています。

また、各職種の収入は、仕事内容や負担のみならず人々の需要でも決定します。そのため、さまざまな分野において需要の高まる臨床心理士の年収が気になる方は多くいるのではないでしょうか。

そこで今回は、臨床心理士の平均年収や勤務形態による給与の違いを詳しく紹介します。加えて、臨床心理士が活躍できる分野についても説明しているため、臨床心理士の仕事に少しでも興味のある方はぜひご覧ください。

臨床心理士の年収は?

そもそも臨床心理士とは、公益財団法人 日本臨床心理士資格認定協会が主催・実施する民間資格です。臨床心理士資格を取得することで、心に問題を抱えたクライアントの問題解決に取り組む心理専門職としてさまざまなフィールドで活躍できます。
(出典:公益財団法人 日本臨床心理士資格認定協会「臨床心理士とは」

臨床心理士の主な仕事内容は、依頼者・相談者(クライアント)への面接や心理テストの実施、その結果に応じた適切な援助方針の決定などが挙げられます。そのほか、地域の公的機関や行政などとの連携・介入を行い、心の健康活動を推進することも臨床心理士の大切な役割です。

臨床心理士の年収は、公的なデータがありません。しかし、厚生労働省の賃金構造基本統計調査では、「その他の保健医療従事者」として臨床心理士も含めた業種の平均年収を公表しています。

■「その他の保健医療従事者」の平均給与(統計・男女別)

平均給与 約443万円
男性の平均給与 約473万円
女性の平均給与 約397万円

また、臨床心理士は心理職の民間資格の1つですが、心理職における唯一の国家資格として「公認心理師」も存在します。

心理職の国家資格である公認心理師の年収調査では、「300万~400万円」と回答する方が多くいました。
(出典:厚生労働省「公認心理師の活動状況等に関する調査」

臨床心理士と公認心理師の主な違いは、民間資格か国家資格かだけであり、その他仕事内容といった部分に明確な違いがないことが実情です。したがって、臨床心理士も公認心理師と同程度の年収が予想されるでしょう。

勤務形態による給与の違い

勤務形態による給与の違い

臨床心理士の勤務形態には、大きく「常勤で働く」か「非常勤で働く」かの2種類に分けられます。この2種類では、ひと月あたりの労働時間や役職・立場が大きく異なるため、年収相場にも違いが生じる可能性が高いです。

ここからは、臨床心理士が常勤で働く場合と非常勤で働く場合に分けて、給与の違いを詳しく紹介します。

常勤で働く場合

常勤とは、正社員として所定の労働時間(週5日/1日8時間程度)を満たしてフルタイム勤務をする雇用形態です。臨床心理士が常勤で働く場合は、月給制や固定制といった給料システムによって毎月定められた日にちに給与が振り込まれます。

前述の通り、臨床心理士の平均年収は、公認心理師の平均年収と同程度になると予想できます。ここでは、常勤で働く公認心理師の平均年収を参考に、常勤で働く臨床心理士の収入を予想します。

厚生労働省の調査データによると、平均月給を「約20万~25万円」、平均年収を「300万~400万円」と回答した常勤公認心理師が多くいることが分かりました。また、常勤公認心理師の約6割が「平均月給は30万円未満」と回答していることも分かります。
(出典:厚生労働省「公認心理師の活動状況等に関する調査」

分野によっても水準は大きく異なるうえ、あくまで公認心理師の月給データとなるため正確な実態を反映した数値ではありませんが、常勤で働く臨床心理士も同程度だと考えてもよいでしょう。

非常勤で働く場合

非常勤とは、常勤ではない働き方をする雇用形態です。いわゆるアルバイト・パートがこれにあたり、常勤者よりも労働時間は短いうえ、勤務先によってシフトや労働時間が定められることもほとんどありません。臨床心理士が非常勤で働く場合は、月給制ではなく時給制・日給制といった給料システムとなります。

ここでも、非常勤で働く公認心理師の平均年収を参考に、非常勤で働く臨床心理士の収入を予想します。厚生労働省の調査データによると、⾮常勤⼼理職の平均時給は「1,500~2,500円」、平均年収は「200万~300万円」の割合が高いことが分かりました。
(出典:厚生労働省「公認心理師の活動状況等に関する調査」

非常勤臨床心理士は自由にシフトを決められることから、平均年収は人によって大きく異なることも覚えておきましょう。

また、非常勤臨床心理士は賞与・ボーナスがありません。このような点も、常勤臨床心理士の平均年収と大きな違いがある理由の1つといえるでしょう。とはいえ、非常勤であっても資格を取得する・臨床経験を積みながら実績を上げるなどで手取り年収アップは大いに見込めます。

経験年数による給与の違い

経験年数による給与の違い

臨床心理士の年収は経験年数によっても異なります。厚生労働省が2019年に発表した公認心理師の統計資料によると、10年未満の勤続年数では年収300万~400万円の収入を得ている方が多い傾向にあります。
(出典:厚生労働省「公認心理師の活動状況等に関する調査」

一方、勤続年数が10年以上の層は、年収400万~500万未満の割合が最も多くなり、全体の約18.2%です。年収500万円以上得ている方は、勤続年数10年未満で約12.2%、10年以上で約41.4%の割合でした。年収800万円以上ともなれば、勤続年数10年未満で実現している方は0.9%と、ごくわずかです。

また、厚生労働省のほかの資料によると、臨床心理士を含む「その他の保健医療従事者」の経験年数別の年収は、下記の通りです。ただし、下記には時間外勤務への手当が含まれていないため、実際の給与は下記を上回る可能性もあります。

経験年数 年収
0年 約268万円
1~4年 約349万円
5~9年 約397万円
10~14年 約439万円

経験年数の長さは収入以外にも影響を与えます。

たとえば実務経験が少ない臨床心理士は、常勤の割合が低いとする統計結果も出ています。実務経験5年未満で常勤に就いている方の割合は約45.1%ですが、10年以上15年未満の実務経験があると常勤で働いている方の割合は56.3%まで増加します。
(出典:厚生労働省「公認心理師の活動状況等に関する調査」

常勤と非常勤の大きな違いは、業務範囲です。専門性の高い分野は相応の経験を積む必要があり、必然的に常勤や勤続年数10年以上の方が主に担当することとなります。非常勤は基本業務を担当する割合が多いため、専門性の高い業務を担える常勤や勤続年数10年以上の臨床心理士のほうが、年収は高くなる傾向です。

常勤、非常勤の差も影響している点から、厚生労働省は、実務経験が少ない方の雇用機会を確保することやキャリア形成の推進が今後の課題である、と認識しています。

地域による給与の違い

地域による給与の違い

臨床心理士の給与は、地域によっても異なります。北海道から沖縄まで主な都道府県の平均年収をまとめると、下記の通りです。

主な都道府県 平均年収
北海道 約519万円
東京都 約433万円
愛知県 約470万円
大阪府 約438万円
福岡県 約451万円
沖縄県 約346万円

なお、全国平均は約443万円です。年収データを比較するときの注意点として、上記はあくまで臨床心理士を含む「その他保健医療従事者」全体の数値であることが挙げられます。

地域ごとに臨床心理士の給与が異なる理由は、勤務先の規模や数、雇用形態、最低賃金の違いなど、複数あります。

臨床心理士の主な勤務先は病院のほか、メンタルクリニックや学校のスクールカウンセラーなどです。地域の医療機関と連携して災害や事故、事件に遭った方のケアを行うこともあるため、地方でも一定の需要があります。

ただし、勤務先や求人の数、最低賃金の影響によって平均年収は地方よりも主要都市のほうが高くなります。たとえば同じ九州地方でも、上記の通り福岡が約451万円となっている一方で、大分や鹿児島は年収300万円台でした。

臨床心理士は前述の通り、非常勤で働く方の割合が多いことも影響しています。非常勤で働く方は時給での契約が多いため、常勤の従業員とは処遇が異なることが一般的です。非常勤で臨床心理士として働く場合、地域ごとの平均時給や最低賃金の額が大きく影響すると考えられます。

臨床心理士が活躍できる分野は?

臨床心理士が活躍できる分野は?

臨床心理士は、教育分野・医療分野などさまざまなフィールドで活躍できます。そして、活躍する分野によって年収も大きく異なることが特徴です。

■臨床心理士の主な活躍分野

  • 教育分野
  • 医療・保健分野
  • 福祉分野
  • 司法・矯正分野
  • 労働・産業分野

ここからは、臨床心理士が活躍できる分野ごとに主な仕事内容や収入の傾向を説明します。
(出典:公益財団法人 日本臨床心理士資格認定協会「臨床心理士の職域」

教育分野

教育分野における臨床心理士の具体的な職場には、大学・専門学校・自治体の教育相談所・適応指導教室などが挙げられます。これらの職場で働く臨床心理士は、「スクールカウンセラー」として活躍することも特徴です。

スクールカウンセラーは、あらゆる子どもを対象としたメンタルケアと心理的問題の解決に向けた支援が主な役割となり、各学校における生徒からの生活相談やいじめをはじめとした生徒間トラブルの対応などを行います。ときには、教職員や自治体職員との連携・介入も求められ、業務は多岐にわたるといえるでしょう。

なお、教育分野で働く公認心理師(常勤・非常勤)における、回答者割合の高かった月給額・時給額は下記の通りです。紹介する給与額は、臨床心理士も同様の傾向にあると考えてよいでしょう。

勤務形態/給料システム 平均給与
常勤/月給 20万円未満
非常勤/時給 4,500~5,500円
(出典:厚生労働省「公認心理師の活動状況等に関する調査」

教育分野で活躍する公認心理師の給与水準は、月給で20万円未満が最も多くの割合を占めていました。次いで20万円~25万円未満の方、25万円~30万円未満の方が多くなっています。

医療・保健分野

医療・保健分野における臨床心理士の具体的な職場には、病院の心療内科や精神科、さらに街中のメンタルクリニック、精神保健福祉センターなどが挙げられます。

医療・保健分野で働く臨床心理士の主な役割は、患者さんへの心理カウンセリングや心理検査を含む心理的ケア・サポートです。主治医や看護師と連携しながら、チーム医療の一員として活躍します。ときには、患者さんの家族に対する心のケアを行うケースもあります。

なお、医療・保健分野で働く公認心理師(常勤・非常勤)における、回答者割合の高かった月給額・時給額は下記の通りです。

勤務形態/給料システム 平均給与
常勤/月給 20万~25万円
非常勤/時給 1,500~2,500円
(出典:厚生労働省「公認心理師の活動状況等に関する調査」

医療・保健分野は、月給20万円~25万円未満の方が最も多く、次いで20万円未満、25万円~30万円未満の層が続きます。医療・保健分野の給与の特徴は、月給20万円未満から30万円未満の臨床心理士で全体の6割以上を占めることです。

福祉分野

福祉分野における臨床心理士の具体的な職場には、児童相談所や療育施設、心身障害者福祉センター、老人福祉施設などが挙げられます。

福祉分野で働く臨床心理士の主な役割は、虐待やDV、セクシュアルマイノリティなどによって精神的な問題を抱えた人々や、高齢者ならではの心理的問題を抱える人々の援助です。職場によっては、医師や施設の支援員、ヘルパーなどといったさまざまな専門職の方と連携をとります。

なお、福祉分野で働く公認心理師(常勤・非常勤)における、回答者割合の高かった月給額・時給額は下記の通りです。

勤務形態/給料システム 平均給与
常勤/月給 20万~25万円
非常勤/時給 1,500~2,500円
(出典:厚生労働省「公認心理師の活動状況等に関する調査」

福祉分野も医療・保健分野と同じく、20万円~25万円未満の方が最も高い割合でした。特徴として、経験年数によって月給が大きく変わることが挙げられます。実務経験10年以上の方のみで見ると、若干の差でありつつも、月給30万円~35万円未満の割合が最も多くなります。

司法・行政分野

司法・行政分野における臨床心理士の具体的な職場には、家庭裁判所や少年院・少年鑑別所、児童自立支援施設などが挙げられます。

司法・行政分野で働く臨床心理士の主な役割は、非行少年少女の矯正に向けた心理的ケアや、加害者の犯罪防止・被害者の支援活動です。犯罪心理学の知識にもとづいて、専門的な研究に取り組むこともあります。

なお、司法・行政分野で働く公認心理師(常勤・非常勤)における、回答者割合の高かった月給額・時給額は下記の通りです。

勤務形態/給料システム 平均給与
常勤/月給 30万~35万円
非常勤/時給 4,500~5,500円
(出典:厚生労働省「公認心理師の活動状況等に関する調査」

月給25万円~30万円未満と、30万円~35万円未満の2グループが多くの割合を占めています。経験年数10年以上の方のみで見ると、月給40万円~45万円未満と50万円~100万円未満の方が多い傾向です。

労働・産業分野

労働・産業分野における臨床心理士の具体的な職場には、企業内相談室や企業内健康管理センター、公共職業安定所(ハローワーク)、障害者職業センターなどが挙げられます。

労働・産業分野で働く臨床心理士の主な役割は、企業の社員や求職者を対象とした心理的コンサルテーションや心理研修の主催です。公認心理師資格や看護師などの資格を有している場合は、臨床心理学的知見にもとづくストレスチェックを実施できるようになります。

なお、労働・産業分野で働く公認心理師(常勤・非常勤)における、回答者割合の高かった月給額・時給額は下記の通りです。

勤務形態/給料システム 平均給与
常勤/月給 30万~35万円
非常勤/時給 1,500~2,500円
(出典:厚生労働省「公認心理師の活動状況等に関する調査」

労働・産業分野における特徴は、月給20万円未満と、20万円~25万円未満、30万円~35万円未満の3グループの方が多くなっていることです。経験年数で見ると10年未満は月給20万円~25万円未満が多くを占めており、10年以上は30万円~35万円未満の割合が多い傾向にあります。

臨床心理士が年収を上げるには?

臨床心理士が年収を上げるには?

臨床心理士の年収は、前述の通りさまざまな要素によって変動します。経験年数のみならず、地域別あるいは勤務先の違い、担当する業務の範囲、ボーナスや手当の有無などでも年収は大きく変わります。

臨床心理士として活躍しつつ年収アップを目指す場合、いくつかの工夫が必要です。年収アップのためにできることとして、3つの対策を紹介します。

スキルを磨き続ける

より活躍できる臨床心理士になるためには、療法など専門的なスキルを磨き続けることが大切です。理由として、前述の経験年数や業務の幅による年収の違いが挙げられます。専門性の高い業務に対応できる人材は重宝され、給与も高くなる傾向にあります。

臨床心理士の業務の幅は広く、一人ひとりがすべての分野に対応することは容易ではありません。1つの分野に絞り込んでスキルを磨き、専門性を高めることで、年収アップが期待できます。

どのようなスキルを極めるべきか悩んだときは、キャリアプランを見つめ直しましょう。臨床心理士の主なキャリアプランは、公認心理師を目指すほか、セミナー講師の仕事を請け負う道もあります。

独立開業する

ある程度の経験とスキルがある方は、独立開業する道を検討するのもよいでしょう。臨床心理士が独立開業するメリットは、自由な働き方を選べることや、目指したい方向性でサービスを提供できることです。

病院など組織に属すると、施設ごとに勤務時間帯やサービスの方向性がある程度決められています。独立開業の場合、「夜間のみ」「平日のみ」「土日のみ」など、働く日数や時間は自由であり、本業のみならず副業としても働けます。

フリーランスなら柔軟に受付時間を変えられるため、ライフステージが変化しても働き続けやすい点もメリットの1つです。サービスの方向性も、組織の意向に縛られず、経営者として自由に決められます。

ただし、独立開業時は、入念な準備が必要です。開業届の提出のみならず、ウェブサイトの開設や広告の出稿など集客も行わなければなりません。

心理カウンセラーとして独立開業する場合、特定の資格は必要ありませんが、臨床心理士や公認心理師などの資格を有していると、専門職としてクライアントに信頼してもらいやすくなります。

年収の高い職場に転職する

臨床心理士は、分野や職場によっても給与が変わる仕事です。年収アップを目指すのであれば、転職も選択肢の1つです。

転職するときは、いくつかのポイントを押さえたうえで求人情報を検索しましょう。たとえば、可能な限り正社員やフルタイムでの勤務を選ぶことが重要です。臨床心理士の給与を決める要素の1つが、常勤と非常勤の差です。常勤で幅広い業務に対応できる人材のほうが、高い年収で勤務できる可能性が高くなります。

また、働く場所や分野ごとの給与水準も重視したいポイントです。比較的給与水準が高い分野は、病院やクリニック、学校が挙げられます。極端な高収入よりも安定性を目指すのであれば、福利厚生の充実した地方公務員も候補に加えましょう。

まとめ

臨床心理士とは、精神的な問題を抱えた人々の心理的支援を行える専門職です。臨床心理士の公的な平均年収データはないものの、国家資格であり同様の心理専門職でもある公認心理師の公的な年収データを目安にするとよいでしょう。公認心理師の平均年収は、約300万~400万円といえます。

しかし、常勤か非常勤かはもちろん、どの分野で活躍するかによっても期待できる月収・年収額は大きく異なります。年収だけを見て職場を決めるのではなく、職場ごとの働き方や必要な専門知識もチェックしたうえで理想の職場を選びましょう。

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※当記事は2023年4月時点の情報をもとに作成しています

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