「自衛隊看護師はどんな仕事をするの?どうやったらなれるの?」と疑問に思っている方もいるでしょう。自衛隊看護師には「自衛官看護師」と「技官看護師」の2種類があり、なり方や仕事内容はそれぞれ異なります。
この記事では、自衛隊看護師のなり方や仕事内容、給料事情を解説。自衛隊看護師になるメリットも紹介しているので、ぜひご一読ください。
自衛隊看護師とは
自衛隊看護師とは、自衛隊に所属する看護師のことです。特別職国家公務員に該当します。
自衛隊看護師は主に自衛隊病院や基地、国内外の災害地などで看護を行うのが仕事です。また、国際平和協力活動に参加する場合もあります。
自衛隊看護師には自衛官看護師と技官看護師の2種類があり、それぞれ仕事内容やキャリアが異なります。
自衛官看護師
自衛官看護師は、一人の自衛隊員として日頃から射撃訓練や戦闘訓練などを行います。自衛官看護師の主な勤務地は、全国16カ所にある自衛隊病院、国内の基地や駐屯地の医務室、陸上自衛隊の衛生科です。
自衛官看護師には16の階級があり、防衛医科大学校看護学科の自衛官コースを卒業した場合、陸上自衛隊・海上自衛隊・航空自衛隊の各幹部候補生として「曹長」という階級が与えられます。階級は試験に合格することで上がっていき、将来は幹部自衛官としての役割を担います。自衛官の階級は、以下のとおりです。
技官看護師
技官看護師は主に自衛隊病院、国内基地や駐屯地の医務室、防衛医科大学校病院で看護師として勤務します。自衛官看護師とは異なり、射撃訓練や戦闘訓練といった訓練を行うことはなく、国内外の災害地に派遣されることもありません。一般的な病院勤務の看護師と同じような働き方になります。
また、自衛官看護師には階級がありますが、技官看護師に階級はありません。
自衛隊看護師の仕事内容
自衛隊看護師の仕事には自衛隊隊員や関係者の看護、災害発生時の医療支援、国際平和協力活動への参加などがあります。これらは、一般的な看護師ではなかなか経験できない業務です。ここでは、自衛隊看護師の仕事内容を4つに分けて紹介します。
自衛隊隊員や関係者への看護業務
自衛隊基地や駐屯地の医務室では、怪我や病気の自衛隊隊員の看護を行います。また、自衛隊隊員の衛生教育や健康診断も仕事の一つです。
自衛隊中央病院では、自衛隊隊員だけでなく自衛隊関係者を対象とした看護も行います。
一般患者への看護業務
自衛隊看護師が看護を行うのは、自衛隊隊員や自衛隊関係者だけではありません。自衛隊病院では、一般患者への治療も行っています。
また、主に看護技官が勤める防衛医科大学校病院は、特定機能病院として先進医療を提供。重篤患者も多いため、より高度な看護業務に携わります。
災害発生時の医療支援
自衛官看護師は、国内外で災害が発生したときに医療支援や公衆衛生活動、現地に派遣された隊員の看護を行います。
過去の災害派遣の実績は以下のとおりです。
2009年 成田国際空港検疫支援:新型インフルエンザ対応
2011年 東日本大震災災害派遣
2016年 熊本地震災害派遣
2019年 台風19号に伴う民間病院からの患者受入
2020年 新型コロナウイルス感染症対策災害派遣
近年では、新型コロナウイルスの影響により人手不足になった医療機関へ自衛官看護師が派遣されています。
国際平和協力活動への参加
国際平和協力活動への参加も、自衛官看護師の大事な仕事の一つです。
2002年の東ティモールの国際平和活動を皮切りに、以降さまざまな活動に参加しています。過去に自衛官看護師が行った国際平和活動は以下のとおりです。
2006年 第9・10次イラク復興支援群
2006年 イラク・クウェート患者後送
2013年 パシフィック・パートナーシップ2013(パプアニューギニア)
2019年 パシフィック・パートナーシップ2019(ベトナム)
国際平和協力活動では、派遣先の国や地域の公衆衛生活動や人々の看護、看護技術の指導などを行います。
自衛隊看護師の仕事はきつい?
自衛隊看護師と聞くと、「一般的な看護師よりもきつい業務なのでは? 」と考える方もいるでしょう。自衛隊看護師の仕事がきついと言われる理由には、訓練や派遣があることが関係しています。
自衛官は訓練がある
前述したように、自衛官看護師は射撃訓練や戦闘訓練などを行います。看護師としてだけでなく、自衛官としても部隊で働くためです。
自衛官看護師は国内外で災害が発生したときに現地に行って医療支援や公衆衛生活動を行うほか、過去にはイラクやクウェートといった戦地での国際平和活動も行っています。そのため、万が一の事態に備えて訓練が必要なのです。
日頃から厳しい訓練を行うため、体力に自信のない方は、「きつい」「つらい」と感じるでしょう。
転勤や派遣がある
一般的な病院やクリニックに勤務する看護師には、県をまたいでの異動は基本的にないでしょう。しかし、自衛隊看護師はほかの自衛隊病院や基地、駐屯地への転勤があります。特に20代から40代の間は転勤が多く、その頻度は3年から6年、短いと1年から3年といわれています。なかには、単身赴任が続く人もいるようです。
また、災害時には国内だけでなく海外派遣があります。長期間派遣されることもあるため、負担に感じる人もいるでしょう。
自衛隊看護師の給料事情
自衛隊看護師といっても、自衛官看護師と技官看護師では給料制度が異なります。ここでは、自衛官看護師と技官看護師の給料制度と平均給料について紹介します。
自衛官看護師の給料
自衛官看護師の給料は、自衛官俸給表によって定められています。
防衛医科大学校病院看護学科の自衛官コースを卒業して自衛官看護師になった場合、階級が「曹長」になります。曹長の1年目の俸給月額は236,900円です。以降、号俸または階級が上がることで給料はアップします。
日本看護協会の「2022年 病院看護・助産実態調査」によると、一般的な新卒看護師の平均基本給与額は短大・専門学校卒で203,276円、大卒で209,616円でした。そのため、一般的な新卒看護師に比べて1年目の自衛官看護師のほうが給料が高いことがわかります。
なお、階級が曹長の場合の号俸別の俸給月額は以下のとおりです。
号俸 | 俸給月額 |
---|---|
1号 | 236,900円 |
10号 | 255,300円 |
20号 | 272,600円 |
30号 | 284,200円 |
40号 | 294,600円 |
50号 | 309,700円 |
60号 | 326,400円 |
70号 | 343,200円 |
号俸は145号まであり、在職年数や年間の評価によって上昇します。上がり幅は1年に4号アップが基本ですが、評価が良ければ一気に6号や8号上がることもあるようです。
自衛官看護師は上記の俸給月額に加えて、一般職国家公務員の共通手当として扶養手当、住居手当、通勤手当が支給されます。また、賞与は俸給月額等の4.5月分です。一般的な看護師に比べて、待遇は良いといえるでしょう。
参照元:
e-Gov法令検索「防衛省の職員の給与等に関する法律」
日本看護協会「2022年 病院看護・助産実態調査」
技官看護師の給料
技官看護師の給料は、医療職俸給表(三)によって定められています。
人事院の「令和3年国家公務員給与等実態調査」によると、勤続年数が1年未満の平均俸給額は226,154円です。自衛官看護師と比べると1万円ほど安くなりますが、一般的な新卒看護師の平均基本給与額よりは高い金額です。技官看護師は、勤続年数が増えるにつれて昇給します。
技官看護師の勤続年数ごとの平均俸給額は、以下のとおりです。
勤続年数 | 平均俸給額 |
---|---|
1年未満 | 226,154円 |
3年以上~5年未満 | 239,889円 |
10年以上~15年未満 | 282,428円 |
15年以上~20年未満 | 307,596円 |
20年以上~25年未満 | 328,904円 |
25年以上~30年未満 | 340,478円 |
30年以上~35年未満 | 352,784円 |
技官看護師は自衛官看護師と異なり、階級がありません。そのため、階級による昇給はありませんが、勤続年数が増えるにつれて確実に給料がアップする仕組みです。また、福利厚生も充実しています。
自衛隊看護師になるには
自衛隊看護師になるには、「防衛医科大学校看護学科へ入学する」「一般曹候補生として自衛隊に入隊して准看護師資格を取る」「自衛隊看護師の中途採用に応募する」という3つの方法があります。以下で詳しく解説します。
1.防衛医科大学校看護学科へ入学する
防衛医科大学校看護学科へ入学することで、自衛隊看護師をめざせます。
防衛医科大学校看護学科には「自衛官コース」と「技官コース」の2つがあり、自衛官コースは幹部候補生をめざすコースで、技官コースは防衛科大学校病院に勤務するコースです。
いずれのカリキュラムも4年間で、入学金や学費はかかりません。身分が特別職国家公務員になり、11万円程度の手当が出ます。さらに、自衛官コースの場合は年2回の賞与もあります。
一般的な大学や看護学校に入学して看護師をめざす場合、数百万円の学費が必要です。一方、防衛医科大学校看護学科であれば、学費の負担がないうえに給料を得ながら看護師をめざせます。
1次試験では筆記試験、2次試験では口述試験と身体検査が行われます。それぞれのコースの定員は、自衛官コースが約75名で技官コースが約45名です。過去5年の合格状況を見ると、平均倍率は自衛官コースが15.5倍で技官コースが7.4倍なので、入学難易度はかなり高いといえるでしょう。
過去5年間の防衛医科大学校看護学科の合格状況は以下のとおりです。
自衛官候補看護学生
入学年度 | 募集人員 | 受験者数 | 合格者数 | 倍率 |
---|---|---|---|---|
2023年 | 約75人 | 1,386人 | 130人 | 10.7 |
2022年 | 約75人 | 1,632人 | 130人 | 12.6 |
2021年 | 約75人 | 1,676人 | 131人 | 12.8 |
2020年 | 約75人 | 1,841人 | 130人 | 14.2 |
2019年 | 約75人 | 1,794人 | 130人 | 13.8 |
技官候補看護学生
入学年度 | 募集人員 | 受験者数 | 合格者数 | 倍率 |
---|---|---|---|---|
2023年 | 約45人 | 430人 | 77人 | 5.6 |
2022年 | 約45人 | 463人 | 77人 | 6.0 |
2021年 | 約45人 | 512人 | 77人 | 6.6 |
2020年 | 約45人 | 488人 | 78人 | 6.3 |
2019年 | 約45人 | 578人 | 78人 | 7.4 |
参照元:
防衛医科大学校「看護学科について」
防衛医科大学校「過去の合格状況」
2.一般曹候補生として自衛隊に入隊して准看護師資格を取る
自衛隊看護師をめざすにあたって、一般曹候補生として自衛隊に入隊して准看護師資格を取る方法もあります。
一般曹候補生とは18歳以上33歳未満の人を対象とした、陸曹自衛官・海曹自衛官・空曹自衛官を養成する制度です。1次試験では筆記試験および適性試験、2次試験では口述試験および身体試験が行われます。
入隊後は、まず一般曹候補生として部隊勤務に必要な基礎的知識と技能を習得し、約2年9カ月が経過したら部隊に配置されます。そこで准看護師課程の選抜試験に合格すると、准看護師養成施設で2年間の准看護師教育を受けることができるのです。
俸給は高卒が184,300円、大卒が193,900円で、昇給は年1回、賞与は年2回です。防衛医科大学校看護学科と同じように、学びながら給料を得られます。
参照元:自衛官募集「一般曹候補生」
3.自衛隊看護師の中途採用に応募する
看護師資格を持っている人が自衛隊看護師をめざす場合は、自衛隊看護師の中途採用に応募するという方法があります。
陸上自衛隊や航空自衛隊、海上自衛隊が看護師の求人を出しており、中途採用試験に合格することで各部隊の自衛隊看護師として働けます。勤務地は自衛隊基地や駐屯地の医務室、自衛隊病院などです。
防衛省の中途採用ページや自衛官募集のページに不定期で求人が掲載されています。
自衛隊看護師をめざす際の注意点
自衛隊看護師になるには年齢や身体検査をクリアしなければなりません。以下で詳しく解説します。
年齢制限がある
自衛隊看護師になるには防衛医科大学校看護学科へ進学する方法がありますが、入学には年齢制限があります。年齢制限はコースによって異なり、自衛官コースは18歳以上21歳未満、技官コースは18歳以上24歳未満です。そのほか、詳しい応募資格は以下のとおりです。
自衛官コース
- 18歳以上21歳未満の者
- 高卒者または高専3年次修了者(いずれも見込含)
技官コース
- 18歳以上24歳未満の者
- 高卒者または中卒者、高専3年次修了者(いずれも見込含)
また、准看護師をめざせる一般曹候補生の入隊にも、18歳以上33歳未満の年齢制限があります。なお、自衛隊看護師の中途採用では求人によって受験資格が異なる場合があるので、応募する前に確認が必要です。
参照元:
自衛官募集「防衛医科大学校看護学科学生」
自衛官募集「一般曹候補生」
防衛医科大学校「看護学科(技官コース)」
身体検査をクリアしなければならない
自衛隊看護師になるには、身体検査もクリアしなければなりません。防衛医科大学校医学教育部看護学科学生および自衛隊一般曹候補生の基本的な身体検査の基準は以下のとおりです。
検査項目 | 基準 |
---|---|
身長 | 男性:150cm以上のもの / 女性:140cm以上のもの |
体重 | 身長と均衡を保っているもの |
視力 | 両側の裸眼視力が0.6以上または矯正視力が0.8以上であるもの |
色覚 | 色盲または強度の色弱でないもの |
聴力 | 正常なもの |
歯 | 多数のう歯又は欠損歯(治療を完了したものを除く)のないもの |
上記のほかにも、「身体健全で慢性疾患、感染症に罹患していないもの」「四肢関節等に異常のないもの」「開腹手術の既往歴のないもの」「刺青がないもの」「自殺企図の既往歴のないもの」「妊娠中でないもの」「躁うつ病等の精神疾患のないものまたは既往歴のないもの」といった基準があります。
中途採用は募集が少ない
中途採用の求人は主に防衛省の中途採用ページや自衛官募集のページで出されていますが、不定期かつ募集自体が少ないのが現状です。また、採用予定人数も少人数の場合がほとんど。そのため、中途採用で自衛隊看護師をめざすのは、難易度が高いといえるでしょう。
自衛隊看護師になるメリット
自衛隊看護師になる主なメリットは、「給料の安定」「充実した福利厚生」「無料で看護師をめざせる」の3つです。以下で詳しく解説します。
給料が安定している
前述したように、自衛官看護師は「自衛官俸給表」、技官看護師は「医療職俸給表(三)」によって給料が定められており、いずれも勤続年数が増えるにつれて給料がアップします。
また、自衛隊看護師は公務員のため、景気の影響を受けにくいのも強みです。民間の医療機関は景気のあおりを受けて給与が下がったり、倒産したりする可能性があります。一方、国家公務員である自衛官看護師はリストラされるリスクが少なく、一般的な看護師よりも職が安定しているといえるでしょう。
福利厚生が充実している
自衛隊看護師は一般職国家公務員の共通手当として、扶養手当や住居手当、通勤手当が支給されます。また、基地や駐屯地内の医務室、自衛隊地区病院での医療が無料で受けられ、営舎内で暮らす場合は食費や光熱費が無料です。
さらに、団体保険制度や防衛省生活協同組合、団体扱い保険といった保険制度が充実。厚生年金制度のほか、ideco、財形制度、貯金制度もあるため、退職後の補償は一般的な看護師よりも手厚いといえるでしょう。
無料で看護師をめざせる
通常、看護師をめざす際は大学や看護学校の入学金・学費がかかります。しかし、防衛医科大学校看護学科へ進学して自衛隊看護師をめざす場合は、入学金・学費ともに無料です。それどころか、特別職国家公務員として給料を得ながら、看護師の教育を受けられます。
一般の病院でも奨学金制度が用意されていることがありますが、看護師資格を取得後にその病院で数年勤務することを条件としたものがほとんどです。そのため、完全に無料で看護師をめざせるのは大きなメリットといえるでしょう。
まとめ
自衛隊看護師は射撃訓練や戦闘訓練などを行うため、厳しい訓練に耐えられるか不安という方もいるでしょう。
しかし、自衛隊看護師は災害発生時に医療支援を行ったり国際平和協力活動へ参加できたりなど、大きなやりがいのある仕事です。また、国家公務員という安定した職でもあります。興味のある方は、ぜひめざしてみてはいかがでしょうか。