看護の現場でよく耳にする「プリセプター制度」。これは、新人看護師が現場にスムーズに適応し、必要なスキルを身につけるために導入されている教育システムです。プリセプターは、新人看護師(プリセプティ)に対して業務の指導だけでなく、精神的なサポートも行い、成長を支えます。
この記事では、プリセプターの具体的な役割やメリット・デメリットについて詳しく解説します。また、指導内容や求められるスキルも紹介しているので、プリセプターになる方はぜひ参考にしてください。
プリセプターとは
プリセプターとは、 新人看護師(プリセプティ)の指導・育成を担当する先輩看護師のことです。主に臨床現場での実践的なスキルや知識を教える役割を担い、新人看護師が自信を持って業務に取り組めるようサポートします。
なお、先輩看護師が新人看護師にマンツーマンで指導・教育を行う制度のことを、プリセプター制度(プリセプターシップ)といいます。
プリセプターによる教育は医療機関によって異なるものの、6ヶ月~1年程度行われるのが一般的です。
プリセプター制度の目的
プリセプター制度の目的は、先輩看護師が新人看護師にマンツーマンで指導を行い、仕事面とメンタル面の両方で細やかなフォローをすることです。新人看護師が現場の業務を早い段階で理解し、必要なスキルを効率的に習得できるよう支援します。また、メンタル面のサポートをして不安やストレスを減らすことで、早期離職の防止および職場への定着を図ります。
プリセプター制度の種類
職場によって異なりますが、プリセプター制度は主に以下の3つの種類に分けられます。
プリセプターのみのマンツーマン
プリセプター制度の基本形です。
プリセプターとプリセプティがマンツーマンで業務にあたりながら、プリセプターが看護技術や日常業務などの指導と精神的なフォローを行い、看護師としてのお手本を示します。
プリセプター+シニアプリセプター
プリセプターの上に支援・補佐役のシニアプリセプターが付き、全体の指導・教育の進捗状況を監督する形です。職場によってはプリセプターが日常業務の指導・相談を行い、シニアプリセプターが実践的な技術指導を行うなど、役割を分担するケースもあります。
プリセプター+メンター
看護技術や日常業務などの指導・教育をプリセプターが行い、精神的なフォローをメンターが担う形です。プリセプティに寄り添う立場で精神的・人間的な成長を手助けし、中長期的なキャリアを見据えて支援を行います。
プリセプターが行う指導内容

プリセプターにはプリセプティのスキルアップをサポートするだけではなく、精神面のフォローも求められています。
業務内容の教育・指導
プリセプターは、日常業務の基本指導および看護実践時のサポートを行います。
具体的には、ケアの仕方や看護記録の書き方、報告・連絡・相談の方法、患者さん対応などです。業務を通じて実践的なスキルを身につけさせ、職場のルールやチーム医療の大切さを伝えます。
看護知識の学習支援
プリセプターは、プリセプティの看護知識の習得をサポートします。
臨床現場で必要な知識や最新の医療情報を共有し、ケアを実践した後にレポート提出を指示します。また、参考書の選び方や勉強方法についてもアドバイスを実施。効率的な学習を促すほか、必要に応じて勉強会を開催して知識の定着を図ります。
看護技術習熟度の確認・評価
看護技術の習熟度を確認し、適切な評価を行うのもプリセプターの役割です。
注射や採血、バイタルサインの測定など、職場ごとに定められている看護技術のチェックリストに基づき、プリセプティの看護技術を評価します。実技を見守りながら改善点を指摘し、段階的にスキルアップできるよう指導するのがプリセプターの役目です。フィードバックを通じて、自信を持って技術を実践できるよう支援します。
精神面のフォロー
精神的なフォローも、プリセプターの重要な役割の一つです。新人看護師は、仕事のプレッシャーや人間関係で不安を感じることが多くあります。プリセプターは定期的に話を聞き、悩みや不安を共有できる環境を作ります。信頼関係を築き、業務をスムーズに遂行できたときには褒めて自信を持たせることも重要です。
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プリセプター制度のメリット

プリセプター制度は、新人看護師のスキルを底上げするとともに、新人看護師の職場への定着が期待できる教育制度です。
ここでは、プリセプター制度のメリットをプリセプター側とプリセプティ側に分けて解説します。
プリセプター側のメリット
プリセプターとして新人を指導する場合に得られるメリットは、主に以下の3つです。
- 自分が持つ技術や知識の再確認ができる
- 教えることで自分の能力向上も見込める
- プリセプティが評価されると自分の評価も上がる
プリセプティに分かりやすい教育を行うためには、プリセプター側が指導内容を理解していなければなりません。プリセプターとして看護業務の基礎を復習し、業務を意識的に振り返ることは、プリセプター自身の看護実践能力の向上にもつながります。
プリセプティ側のメリット
プリセプター制度を通してプリセプティ側が得られるメリットは、主に以下の3つです。
- 分からないことがあれば直接質問しやすい
- 技術を習得しやすい
- 実践時もサポートが入るため、精神的な負担が少ない
プリセプター制度の最大のメリットは、マンツーマン指導により、分からないことがあってもその場で質問しやすい点です。先輩看護師に付きっきりで指導してもらえるため、技術や知識が身に付きやすい傾向にあります。
また、看護現場で動揺しても先輩看護師にフォローしてもらいやすい環境のため、新人看護師にとっては心強い制度といえるでしょう。
プリセプター制度のデメリット

プリセプター制度には多くのメリットがある一方、デメリットも存在します。ここでは、プリセプター制度のデメリットをプリセプター側とプリセプティ側に分けて解説します。
プリセプター側のデメリット
プリセプター制度によって、プリセプターには以下のようなデメリットが発生することが考えられます。
- 通常業務以外の仕事が増え、負担が大きくなる
- プリセプターへのサポート体制が整っていない場合がある
プリセプターになった看護師は、通常の看護師業務に加えて、プリセプティの指導計画を立てる、評価を行うといった仕事をしなければなりません。プリセプターへのサポート体制が整っていない職場の場合、プリセプターへの負担が大きくなってしまうでしょう。
プリセプティ側のデメリット
プリセプター制度によって、プリセプティに生じるデメリットは以下のとおりです。
- プリセプターと良好な関係を築けないとつらい
- 能力不足のプリセプターもいる
プリセプティ側は基本的に、自分の教育担当者を選べません。相性が悪いプリセプターに当たった場合、人間関係がストレスになり、仕事や職場が嫌になるケースがあります。
また、プリセプターの実務能力や指導力が足りていない場合、プリセプティの知識・スキルの向上に影響します。
プリセプターに求められるもの

プリセプターとなる看護師に特別な資格やスキルは必要ありません。しかし、一般的には3年以上の職務経験を有した中堅看護師が任命される傾向にあります。
厚生労働省「新人看護職員研修ガイドライン」によると、求められる人物像とスキルは以下のとおりです。
【求められる人物像】
看護職員として必要な基本的知識、技術、態度を有し、教育的指導ができる者であることが望ましい
【求められるスキル】
- 新人看護職員に教育的に関わる能力
- 新人看護職員と適切な関係性を築くコミュニケーション能力
- 新人看護職員の置かれている状況を把握し、一緒に問題を解決する能力
- 新人看護職員研修の個々のプログラムを立案できる能力
- 新人看護職員の臨床実践能力を評価する能力
プリセプターは、職場ごとで必須となる技術や知識の基準をクリアした看護師から選ぶケースがほとんどです。
プリセプターに選ばれたということは、「看護師として十分な人柄と指導能力を備えている」と評価された証です。この抜擢をチャンスと捉え、新人看護師の素質や能力を伸ばすとともに自らの実力向上もめざしましょう。
プリセプターが心がけること

プリセプターに任命された方のなかには、プリセプティへの指導に不安を感じている方もいるでしょう。プリセプターとして指導する際は、プリセプティおよび周りの職員と積極的なコミュニケーションを欠かさないことが大切です。
ここからは、プリセプターとして指導者側になる際に押さえておくべきポイントを紹介するので、ぜひ参考にしてください。
新人看護師の緊張を解くことを意識する
新人看護師の多くは、慣れない環境の中で業務を覚えようと必死になっています。さらに、失敗して先輩に怒られるのではないかという不安も抱えており、心に余裕がありません。
しかし、プリセプティが過度に緊張したままでは、教育内容がうまく伝わらなかったり、ミスをする可能性が高くなったりします。プリセプターは、新人看護師の緊張を解くことに重点を置き、新人看護師が学びやすい環境づくりをすることが大切です。
ほかの新人看護師と比べない
プリセプターとして指導していると、ついほかのプリセプティと比較しがちです。しかし、「習得は遅いが正確性が高い」「基礎は完璧だが応用が難しい」など、プリセプティの成長度合いには個人差があります。
プリセプティを評価する際は、他者と比較せず、客観的かつ冷静に判断を下さなければなりません。
精神的なフォローをする
新人にミスは付きものです。ミスを叱ることも必要ですが、ただ厳しく叱責するだけではプリセプティを委縮させ、さらなるミスを招きかねません。ミスをしたプリセプティは十分に落ち込んでいます。
プリセプターとして必要なことは、同じ失敗を繰り返さないために指導し、前向きに業務へ取り組めるよう精神的なフォローに努めることです。
対等な立場で接する
プリセプターはプリセプティの指導者にあたる立場ですが、上下関係が厳しすぎるとプリセプティの心に遠慮が生まれ、相談や質問をためらう傾向があります。
プリセプターはプリセプティと対等な立場の構築を意識し、信頼関係を築くためのコミュニケーションを図ることが大切です。
相手のありのままの状態を認め尊重する
新人指導において特に避けたいのは、自分自身の物差しで新人看護師を測ることです。「入職して○か月経っているのなら、このくらいできて当たり前」のような固定観念で考えることは、お互いのためになりません。
プリセプターがプリセプティの「できない」「知らない」といった現状をありのまま受け入れることで、適切な看護師教育・指導につなげられます。相手の現状を理解し認めたうえで関わり方を考えることは、プリセプター制度に必要な「信頼関係の構築」にもつながるでしょう。
1人で抱え込まず周囲と協力する
プリセプターを任されたからといって、プリセプティに関するすべてを1人で抱え込む必要はありません。本来、新人教育は職場全体が一丸となって行うべきことです。自分では対応しきれない問題が起こったり、プリセプターとしての悩みが生じたりした場合は、周りの人に相談して協力を求めましょう。
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まとめ
プリセプター制度は、先輩看護師が1人の新人看護師をマンツーマンで担当し、教育・指導する制度です。プリセプティは直接指導を受けることで技術や知識を習得しやすい、プリセプターは自らの技術や知識の向上が見込めるなどのメリットがあります。ただし、マンツーマンが基本の制度とはいえ、新人教育は職場全体で責任を持って行うことが前提です。1人で解決しきれない問題が起こった場合は、遠慮せず周囲に相談しましょう。
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