• 2022年8月17日
  • 2022年8月17日

Z世代の新人看護師、プリセプターはどう接するべき?心理学者が解説!

 

プリセプターの皆さん、新人看護師と円滑にコミュニケーションを取れる自信はありますか? 元看護師である筆者も、プリセプター時代に世代の違う新人看護師への接し方に戸惑った記憶があります。

そこで、NHK国際放送「NHK-WORLD-JAPAN」やテレビ朝日「しくじり先生」などの番組監修でも活躍している心理学者の晴香葉子先生に、Z世代の新人看護師と接する際の注意点やコミュニケーション方法を教えてもらいました。

今年から新人看護師を指導するプリセプターさん必見です!

まずはZ世代の特徴を知ることから始めよう

Z世代の新人看護師と協働する上で大切なのは「彼らに比較的共通してみられる特徴を知ること」と晴香先生は話します。先生によると、デジタルネイティブであるZ世代は、いままでの若者とは少し異なる特徴が見られるそうです。

Z世代の特徴①:さらっと何でもできてしまう

内山:私は元看護師なのですが、プリセプター時代「いまどきの新人看護師にはどう教えたらいいのだろう?」「どのようにコミュニケーションを取るべきなのだろう?」と悩んだ時期がありました。一概には言えないと思うのですが、いまどきのZ世代の新人って、どんな価値観を持っていて、どのような傾向にあるのでしょうか……?

晴香先生(以下、晴香):Z世代は適応能力が高く、何でも自分でできてしまう優秀な方が多いですね。

内山:かなりポテンシャルが高いのですね……!適応力があるのは、何か理由があるのでしょうか?

晴香:彼らは、精神的に独り立ちが始まる中学生時代に東日本大震災を、社会に出る1歩前のタイミングでコロナ禍を経験しています。人生の節目で大きな環境の変化が起きたので、その都度適応することが求められてきました。その結果、おのずと適応能力が高まったのだと思います。現実的でクールなものの見方をする人も多いです。

内山:なるほど、そのような時代背景が関係していたのですね。これは頼もしい看護師さんになりそうな予感がします……!

晴香:それに加え、Z世代は分からないことをすぐに調べて解決することに長けている傾向にあるんですよ。

内山:おお。プリセプターとしては、手がかからない後輩で安心ですね。

晴香:Z世代が自己解決能力に優れているのは、中学生の頃からスマートフォンやパソコンに触れてきたためだとも考えられます。人に聞く前に自分で調べたほうが早いですし、自分なりに納得したり解決したりする習慣が身に付いていて、多くのことを自己完結できるんです。

また、夫婦共働きが当たり前の環境で育ってきたので、身の回りのことを自分でやってきた子が多いのも関係しているでしょう。

内山:Z世代はすごく自主性が高いのですね。なんでもサラッとこなせそう……

晴香:おっしゃる通り!ですが、ある程度なんでも自分でできてしまうがゆえに、ご両親や周囲の大人から強く怒られたり、叱責されて傷ついたり、といった経験が少ないのも特徴ですね。

内山:優秀だからこそ、怒られ慣れていないのですね。ともすると、プリセプターがZ世代に厳しく教えるのはよくないのでしょうか?

晴香:そうですね、厳しく接されることへの耐性がない人も多いと思います。信頼関係ができる前に強い口調で注意すると、自尊心を傷つけてしまう可能性もあります。

Z世代の特徴②:仕事は現実主義で、「嫌だな」と思ったらすぐ辞める

内山:最近は、入職して1年目で辞めてしまう新人看護師も珍しくありません。
ちょっと前までは「とりあえず3年は働くべき」といった考えがありましたが、Z世代は働くことに対してどのように考える傾向があるのでしょうか?

晴香:幼い頃から両親が働く姿を見ているので、男女共に働くことが当たり前だと思っている方が多いですね。ただ同時に、仕事に夢や理想を抱くよりも安定志向で現実的な方も多いです。

内山:「好きなことで生きていく!」みたいな世代なのかと思っていました。仕事に夢や理想を抱かないとなると、出世欲やキャリア形成に関する意識は低いのでしょうか? 

晴香:出世欲や競争心は低下傾向にあると考えられています。そのため、理不尽なことで強く怒られたり、「嫌だな」と思うようなことが増えたりすると、仕事を辞める決断も早くなる可能性が高いです。波風立てず、スーッと消えるように辞めていくんです。

内山:それは育成係としては悲しい……。なおさらZ世代の新人看護師に合った対応をしなければならないと感じました。

Z世代の特徴③:対面よりSNS上で感情を表現することが多い

内山:コミュニ―ケーションの面で、Z世代に多くみられる特徴はありますか?

晴香:個人差はありますが、対面よりSNS上で感情を表現するのが得意な傾向にありますね。例えば、最近よく見かけるのが、LINE上ではニコニコしたスタンプを送っているけど、実際にスマホをいじっている本人の顔を見てみると、無表情というパターンです。

内山:デジタルネイティブ世代は、ネットを介したやりとりに慣れ親しんでいるからこそ、ネットの方が感情を吐き出しやすいのかもしれませんね。

晴香:そうかもしれませんね。その傾向が他の世代より色濃く出ているため、対面とSNSでギャップを感じることもあると思います。デジタルネイティブではない30代後半以降の先輩から「何を考えているか分からない」と思われやすいのもZ世代の特徴です。

内山:個人差はあるものの、世代によって得意なコミュニケーションの手段が違うのですね。プリセプターとしては対面のやりとりだけでなく、メッセージでフォローすることも検討しておいた方がよさそうだと思いました。

 
<Z世代の特徴まとめ>
・Z世代には適応能力が高くて優秀な傾向にある
・優秀ゆえに怒られ慣れていない
・リアルよりSNSのほうが感情表現豊か
・働くことに対して夢や理想は低めで「現実主義者」
・キャリア志向や出世欲が強くないため、理不尽なことがあるとすぐに辞める傾向が強い
※個人差があります。

まずは新人看護師に「職場の決まりごと」や「求めていること」を伝えよう

Z世代の特徴を理解すると、「入職予定の新人看護師への最初の接し方や指示の出し方、教え方などが明確になる」と晴香先生は話します。


内山:Z世代の特徴は理解できました。次は具体的な対応の仕方について伺いたいのですが、入職してきたZ世代に、先輩看護師が最初にするべきことを教えてください。

晴香:まずは、職場のルールや職場が新人看護師に求めていることを明確に伝えてあげることですね。彼らは学生時代からネットで情報収集し、必要な情報を取捨選択してきたので、取扱説明書の内容を覚えるのが得意。また、それぞれの場のルールを守ることも得意です。職場の決まりごとが書かれた冊子などがあれば、それを読んでもらうと良いでしょう。

内山:でも、レギュレーションをまとめていない職場も多いような……

晴香:もしルールブックなどがなければ、その都度しっかり教えてあげれば大丈夫です。教えれば済む話、知ってさえいればできる話は、事前に共有しておきましょう。

内山:なるほど、まず初めにZ世代にすべきことが分かりました。逆に、Z世代に対して絶対にこれだけはしない方がいいことってありますか?

晴香:とにかく理不尽を嫌うので「理由なんかどうでもいいからやって!」といった指示は出さない方がいいですね。

内山:ああ……。何もわからない新人時代に、目的や理由が明確ではない雑な指示を受けてとまどった記憶が蘇りました……。

晴香:矛盾したことも苦手なので「自分で考えてやって」と言いつつ「そこまでやっていいとは言ってない」などと注意するのもNGです。指示を出すときは、彼らが1人でやっても問題ない範囲を明確に示すことも大事だと思います。

内山:ちなみに「職場に必ず1人は言葉がキツい先輩看護師がいる」というのが、看護師あるあるなのですが……ただ、言葉はキツいけど、正論だったりして。そういった情報も新人看護師には事前に伝えるべきですか?

晴香:伝え方がとても大切ですね。「あの人は基本的に言葉が乱暴な人だから真に受けすぎて傷つかないようにね!」など、相手を下げるような言い回しは控えてください。「あの人から教えてもらうとすごく勉強になるよ。でもちょっと冷たい言い方をするときがあるんだけどね」と、プラスの要素を取り入れつつ、“そういうキャラクターの人”という情報を伝えると、心の準備ができて関わりやすくなります。

 
<新人看護師にまずすべきこと>
・まずはルールブックを共有しよう!
・ルールブックがない場合は、その都度教えてあげよう!
・理不尽や矛盾を嫌うため、指示を出すときは理由や業務範囲を明確に伝えよう!

【シチュエーション別】新人看護師へのNG言動

Z世代への教え方が分かってきたところで、次は業務中や休憩中における新人看護師との接し方も押さえておきたいところ。「ここでも気を付けることがある」と晴香先生は指摘します。

NG事例①業務に追われているときに質問されて嫌な顔をする


内山:忙しいタイミングで新人看護師に質問されて、どう対応するのがいいのか分からない看護師さんは多いと思います。「今それ聞く?」みたいな……

晴香:看看護師さんに限らず、人は忙しいときほど表情が険しくなりがちですが、しかめ面で対応しないことが大切です。質問されたら、振り向くほんの一瞬でいいので穏やかな表情で対応しましょう。新人看護師から「質問しづらいプリセプターだな……」と印象づいてしまうと、今後の仕事上のコミュニケーションにも影響が出てしまいます。

内山:質問しづらいと思われてしまったら、本当に困っているときも質問できなくなって、一人で抱えた挙句、ミスが起こってしまっては本末転倒ですよね……話しかけやすいオーラ、大事ですね。

晴香:もし、すぐに答えられないような内容だった場合は、「いい質問!答えてあげたいんだけど、ちょっとドタバタしてるから○○さんに聞いてもらっていい?」「あ、それまだ説明してなかったね!書いたものがあるから後で渡すね」など、質問自体を受け入れつつ、代替案を提示してあげてください。


NG事例②休憩時間が一緒になったとき、プライベートな話を聞こうとする

内山:新人看護師とたまたま同じ時間に休憩することになり、お互いに話しかけられずに気まずい雰囲気が流れることもよくあります。そんな時はどうすればいいでしょうか?

晴香:仲良くなろうと矢継ぎ早に質問したり、「そんな趣味持ってるの?変わってるね」と言って茶化したりするのはNGです。そもそもZ世代には、価値観の多様性という特徴があり、自分のプライベートにむやみに立ち入られたくないと思っている人も多い傾向にあります。

内山:プライベートな話をすれば必ず仲を深められると思っている人は多そうです。Z世代には適度な距離感が大切なのですね。

晴香:そうですね。もし話しかけるなら、自分の休憩時間が終わる寸前がベターかもしれません。去り際に少し話すくらいが、ちょうど良いコミュニケーションの取り方だと思います。

内山:休憩時間中は、必要以上に相手を構まうより、各々好きなように過ごしておくくらいがいいんですね。

晴香:そうですね。あとは彼らの好きなことに共感を示すのも効果的です。例えばアイドルが好きな新人さんから、今度好きなアイドルのライブに行くという話を聞いたら、「今日、ライブだったよね。時間大丈夫?」などと声をかけてみてください。好きなことや価値観は違っても、それを大切な仲間の一部として尊重すると、心理的安全性や相互信頼性が高まります。


NG事例③新人看護師のフォロー中に「まだできていないの?」と急かす

内山:自分で受け持ちを持たず、新人看護師のフォローに入るときに、気をつけた方がいいことはありますか?

晴香:絶対に控えたほうがいいのは「まだそれできないの?」ですね。職場に慣れていない新人看護師ほど焦ってしまいますし、アクシデントの原因にもなりかねません。

内山:圧力をかけることで、結果的にミスを誘発してしまうなんて、先輩看護師としては最も避けたいことですよね。

晴香:そうですよね。ですから、できないことに着目するよりも、できたことや成功体験を重視していきたいものですよね。たとえば勤務終了間際に、短くてもいいので、今日できるようになったことを振り返り、一緒に成長を確認するだけでも新人看護師の自信になるはずです。

 
<新人看護師にとるべき対応まとめ>
・忙しいときでも、質問されたら穏やかな表情で対応しよう
・休憩中に踏み込んだ話は不要。短くコミュニケーションを取ろう
・日勤でフォローするときは、できなかったことよりできたことを重視
 

新人看護師も十人十色。一人ひとりの特徴に合わせて接し方を変えよう

ここまで、Z世代の特徴を踏まえた上で、対応策を教えてもらいました。

とはいえ、ひとえに新人看護師といっても性格や特徴はバラバラです。看護の現場に1人はいそうなタイプの新人看護師への接し方も伺いました。


声を掛けただけで萎縮してしまう新人看護師への対応は?

内山:新人看護師の中には、緊張から声を掛けただけで萎縮してしまう人もいます。どのような接し方が良いでしょうか?間違ったことに対して注意しようと思っても、気を遣ってしまいます……。

晴香:こちらから話しかけるときは、感情の起伏を出さずに同じトーンで話すようにしましょう。なにか注意や指導をするときも同じです。もちろん、ヒューマンエラーが命にかかわることもあるので、厳しく伝えなければいけないときもあるでしょう。ただ、大きな声を出したり、人前で厳しく叱責したりするとフリーズしてしまう人もいるので気を付けていただければと思います。

内山:確かに急に話すトーンが変わるとびっくりしますね……。とはいえ、とても重要なことを伝えるときに、普段と同じトーンで伝えても重要さは伝わるのでしょうか

晴香:先ほど述べたように、理由を明確にして伝えてあげることが大切ですね。仕事の厳しさを伝えたいがゆえに言葉がつい乱暴になってしまうこともあると思います。ただそのような方法は、Z世代の新人看護師にとって逆効果になってしまう傾向が。同じトーンでも「命にかかわることだから」「やり直しがきかないことだから」など、理由を明確に伝えると、納得して守りやすくなります。

仕事に関することを聞いても、具体的な返答がない場合は?

内山:1日の業務を振り返るときに、何を聞いても具体的な返事がない新人看護師の場合は、どのように接すれば良いでしょうか

晴香:質問の内容が抽象的で答えにくいだけかもしれません。
具体的な数字や言葉で表現しやすいように聞いてみるのがおすすめです。

内山:具体的な返答がないのは、聞き方が悪い場合もあるのですね……

晴香:そうですね。具体的な返答を聞き出すには、具体的に尋ねる必要があるでしょう。その日の仕事の振り返りをする際は「今日はどうだった?」と聞くのではなく、「今日は○○と○○を実践してみたけど、難しかったことや分からないことはあった?」と聞くのがベターです。「疲れた?」ではなく「今日の疲労度は10段階でどれくらい?」と聞けば、具体的な数字で返ってくると思いますよ。

報・連・相がない新人看護師にはどう対応すべき?

内山:新人看護師にとって報・連・相は徹底してほしいことですが、まったくできない人もいます。

晴香:業務に取り掛かる前に報・連・相のタイミングを決めて伝えましょう。報告したくてもタイミングが分からなくて困っている可能性は十分に考えられます。

内山:たしかに。先輩が話しかけづらいオーラを出してしまっていることも考えられそうです……。

晴香:ルールを守った上で働くことに長けている世代なので、あらかじめ報告のタイミングを明示しておけばきっと解決するはずです。同時に報・連・相の重要性もしっかり伝えられると良いですね。

やる気に満ち溢れて、1人で業務をこなそうとする新人看護師への対応は?

内山:やる気だけではなく妙に自信まであって、なんでも1人で業務をこなそうとする新人看護師もいます。やる気があることはいいことだけど、事故が起きる可能性もあるので連携する必要があるんです。なるべく、やる気を削がずに指導する方法はありますか?

晴香:その人のやる気を受け入れることと、自身の行動が大事故につながってしまう可能性があることを同時に伝えるのがベターですね。

「やる気があって助かる!でもまず新人は報・連・相も仕事の1つ。すべては患者さんを無事に退院させるためだよ」といったようなニュアンスで伝えてみてはいかがでしょうか?

内山:なるほど、改めて看護師の使命や役割を伝えてみるといいのかなと思いました。

ミスを引きずってしまう新人看護師にどう声をかけるべき?

内山:1つのミスを引きずってしまい、切り替えられない新人看護師も少なくありません。どのような声かけや接し方が良いでしょうか?

晴香:まずミスを防ぐ工夫が必要ですね。インシデントレポートのように、よく起こしがちなミスと解決策を冊子にまとめてルール化し、事前に読んでもらうと良いでしょう。彼らはトリセツ世代ですから、うまくキャッチアップしてくれるはずです。それでもミスをしてしまった場合は、「勉強になったね」と励ましたり、「他の人にもあり得ることだから注意喚起に役立つね」など前向きなミスとして扱うのもアリですね。

内山:幼い頃から問題を起こさずに育ち、ミスや迷惑を非常に嫌う彼らにとって、インシデントレポートは頼もしい味方になりそう。新人看護師を迎え入れる病棟は、少しずつでいいので、作ってみるとよさそうですね。

 
<新人看護師あるあるへの対応法まとめ>
・声掛けで委縮しがちな新人には、同じトーンで話しかけてあげよう
・質問するときは、新人が具体的に答えやすいように具体的に聞こう
・新人のやる気を褒めつつ、報・連・相の大切さの理由も添えて教えよう
・インシデントレポートを読んでもらうなど、ミスを防ぐ工夫を!
・それでもミスが起こった場合は、マイナスに捉えさせない声掛けを!

Z世代の新人看護師の特徴をつかんで、上手にコミュニケーションをとろう!

さまざまな特徴が見られたZ世代。4月から指導をする看護師さんは、ぜひこの記事を参考にしつつ、コミュニケーションをとってみましょう!

晴香葉子
作家・心理学者・心理コンサルタント、早稲田大学オープンカレッジ心理学講座講師。専門は心理学・コミュニケーション学。企業での就労経験を経て、心理学の道へ。研究を続けながら、様々な角度から情報を提供。執筆、講演、監修などの活動を続けている。メディアでの心理解説・監修実績も多数。著作・寄稿は30冊を超え、海外でも4冊出版。著書に『小さなことに落ち込まないこころの使い方』(青春出版社)『言葉って不思議だと思いませんか?』(彩雲出版)『「こんなはずじゃない」自分に負けない心理学』(明日香出版社)を持つ。

企画・取材:内山直弥(TAC企画)、編集:藤田佳奈美(同)

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