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尿道カテーテルQ&A「尿道カテーテル留置中の発熱は尿路感染症?どうやって見分ける?」

第29回

『エキスパートナース』20183月号<尿道カテーテル[挿入][継続][抜糸]の根拠Q&A>より抜粋。「Q6尿道カテーテル留置中の発熱は尿路感染症?どうやって見分ける?」を紹介いたします。

貝崎亮二
大阪市民病院機構 大阪市立十三市民病院 外科医長

治療が必要になるのは症状がある場合

尿道カテーテルが原因となる感染症は、「慢性複雑性膀胱炎」か「慢性複雑性腎盂腎炎」です。前者では通常は発熱を伴いませんが、後者では発熱・悪寒や膀胱炎症状(頻尿など)を伴うことが多いでしょう。貝崎亮二

尿路感染症の分類

尿路感染症は、臨床経過から「急性」と「慢性」、基礎疾患の有無から「単純性」と「複雑性」、感染の部位により「上部尿路(腎盂腎炎)」と「下部尿路(膀胱炎)」に分類され(表1)、それぞれを組み合わせて疾患名となります(引用文献1)。

単純性と複雑性では、治療に対する考え方が大きく異なります。単純性尿路感染症は、基礎疾患がなく抗菌薬の投与で治癒します。しかし複雑性尿路感染症は、基礎疾患を有し(表2・引用文献4)、その成立にバイオフィルムが深く関与しています。

バイオフィルムとは、微生物の産生する多糖体や蛋白質のゲルの中に細菌が入り込み、複合体を形成してカテーテル表面に付着したもので、環境変化や化学物質(消毒薬や抗菌薬)から内部の細菌を守ります。抗菌薬の投与のみでは再感染や再燃の可能性が高く、基礎疾患の治療が必要になります。

なお、カテーテル関連尿路感染症(CAUTI)は、『JAID/JSC感染症治療ガイドライン2015─尿路感染症・男性性器感染症─』によると、「カテーテル尿またはカテーテル抜去後48時間以内の尿培養で103/mL以上の菌を認め、症状がある場合」と定義されており(引用文献2)、慢性複雑性尿路感染症に分類されます

カテーテル関連尿路感染症(CAUTI)の病態

尿道カテーテル留置が原因になる感染症には、慢性複雑性膀胱炎慢性複雑性腎盂腎炎があります。

慢性複雑性膀胱炎の症状には、排尿時痛、頻尿、残尿感、排尿困難、尿意切迫感、血尿、下腹部不快感などがあります。

通常は、発熱を伴うことはありません(引用文献3)。

一方、慢性複雑性腎盂腎炎の症状は、発熱、側腹部痛、腰肋三角圧痛(CVA〈costovertebral angle〉tenderness)、悪寒、戦慄などであり、膀胱炎症状(頻尿、排尿時痛、残尿感)が先行することが多いです(引用文献4)。

カテーテル関連尿路感染症の多くは、慢性複雑性尿路感染症の急性増悪として発症し、尿路性敗血症、腎盂腎炎に陥り、38℃を超える発熱や全身症状を呈します(引用文献5)。尿道カテーテルの閉塞などで尿路内圧が上昇した際に起こるため、尿道カテーテルの閉塞など尿流の停滞をきたす病態がないかを確認することは重要です。

カテーテル関連尿路感染症の診断と治療

1)診断の進み方(図1)

①細菌尿の場合
治療が必要になるのは有症状の場合のみであり、無症状の場合(無症候性細菌尿)には治療の必要はありません。したがって、カテーテル尿に混濁(細菌尿)があっても治療が必要とは限らないわけです。

逆に、無症候性細菌尿に抗菌薬治療を行うことで耐性菌増加につながります。

②発熱の場合
さらに、カテーテル留置(細菌尿)中に発熱があったからといって、すなわち尿路感染症ではありません。

③肺炎の診断となる場合も
細菌尿があり発熱があっても、胸部単純X線写真で肺野の透過性が低下していれば、肺炎の診断となる場合があります。

このようなケースには、尿培養、喀痰培養、血液培養(2セット)が診断に役立ちます。

つまり、カテーテル関連尿路感染症は、他に炎症の感染源がないことが必須条件です(細菌尿+発熱などの尿路感染症状+他に感染源なし=尿路感染症)。

2)治療の進み方:抗菌薬の選択(図2)

抗菌薬を選択する際に念頭に置くべきは、慢性複雑性尿路感染症では、原因菌の頻度が急性単純性尿路感染症と異なることです。単純性の原因菌は大腸菌が大半ですが、複雑性になると大腸菌以外の菌種が増え(緑膿菌、クレブシエラ、グラム陽性球菌など)、薬剤耐性菌の分離頻度も増加します。

そのため、推定される原因微生物に合わせた抗菌薬の選択を行い(empiric therapy)、治療前に採取された尿培養の結果がわかれば、その原因菌に対する薬剤感受性に応じて、より狭域スペクトラムの薬剤を選択する(de-escalation)ことが重要です。

この抗菌薬の選択投与にあたって大事なことは、可能であれば尿道カテーテルを抜去する、もしくは抜去不可能であれば尿道カテーテルを治療開始前に入れ替えることです。長期間留置されたカテーテルからは、カテーテルの定着菌が培養され真の原因菌を反映しないことがあるため、入れ替え後の検体採取が望ましいのです。つまり培養採取および抗菌薬投与の前にカテーテルの入れ替えを行うことが、真の原因微生物の診断と早期症状改善につながるのです。

[引用文献]
1.上原慎也:尿路感染症治療ガイドライン.岡山医学会雑誌 2012;124(2):165- 166.
2.一般社団法人日本感染症学会,公益社団法人日本化学療法学会:JAID/JSC感 染症治療ガイドライン2015─ 尿路感染症・男性性器感染症─.日本化学療法学 会雑誌 2016;64(1):15-16.
3.東郷容和:急性複雑性膀胱炎.泌尿器Care&Cure Uro-Lo 2017;22(4):18-21. 4.重村克巳,荒川創一,藤澤正人:急性複雑性腎盂腎炎・膿腎症.泌尿器Care& Cure Uro-Lo 2017;22(4):22-25.
5.塚本泰司,高橋聡,栗村雄一郎:院内感染対策からみた特殊病態患者管理 3.尿道 カテーテル留置例.日本内科学会雑誌 2008;97(11):2737-2742.

[PROFILE]

貝崎亮二(かいざき・りょうじ)

大阪市民病院機構 大阪市立十三市民病院外科医長

1999年医師免許取得。2009年4月より現職。2014年ICDを取得 し、現在ICTメンバー。
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