• 2022年4月1日
  • 2022年4月11日

【識者の眼】「診療材料費」栗谷義樹

 
地方における急性期病院の課題のひとつに材料費比率の上昇があります。診療材料については、医療機関は特定保険医療材料として保険機関に請求するので、直ちに経営に影響するわけではありませんが、海外発診療材料比率が費用に及ぼす影響は年々大きくなっています。今回の【識者の眼】は栗谷義樹氏(山形県酒田市病院機構理事長)が「診療材料費」と題して寄稿。国の経常収支赤字が常態化した場合、現在の国民皆保険維持がこの数年以内に、取り返しのつかない状況に追い込まれる可能性について警鐘を鳴らしています。ぜひ、お読みください。

地方における急性期病院の課題のひとつに材料費比率の上昇がある。筆者の勤務する山形県酒田市病院機構日本海総合病院での材料費のこの5年間の増加は12億2100万円、費用に占める材料費比率全体では3.7%増加して64億円近くになっている(材料費0.3%増、薬品費3.2%増)。

診療材料については、医療機関は特定保険医療材料として保険機関に請求するので、直ちに経営に影響するわけではないが、海外発診療材料比率が費用に及ぼす影響は年々大きくなっている。医薬品についても国産新薬は、近年は存在感が低下する一方と聞く。財務省の貿易統計によると、医薬品の貿易赤字は6年連続で2兆円を超えるそうで、特に新型コロナワクチンの国産化が遅れ、現在まで輸入に頼っていることをはじめ、国の創薬競争力が低下したこともあり、医薬品の2021年度貿易赤字額は3兆円を超えるという。

加えて、かつては国内の強い製造業を背景として経常収支、貿易収支の黒字が日本円の安全通貨としての地位を維持していた構図が崩れ、ウクライナ侵攻などによる直近の原油高、資源高に加え、近年の製造業生産拠点の海外移転、日米金利差拡大等々による中長期的な円安が進んでも、貿易収支改善につながらない状況が生まれつつある。

万一、国の経常収支赤字が常態化すれば、現在の国民皆保険維持がこの数年以内に、取り返しのつかない状況に追い込まれる可能性はないのだろうか。

この原稿を書いている時点での円の対ドル相場は1ドル=121円台半ばと2016年2月以来、約6年ぶりの安値をつけたという。病院経営における費用管理は今後ますます重要になっていくが、費用管理を地域全体で行う仕組みづくりはこの点からも欠かせない。再編統合を含む医療提供体制の効率化と新しい事業体設立など、地域の強力なプラットフォーマーの育成は、地域全体の費用管理と裏表の関係にあり、待ったなしの状況と思われる。このために、地域医療連携推進法人を活用できないか、模索しているところである。

栗谷義樹(山形県酒田市病院機構理事長)[病院経営]


出典:Web医事新報