医師をサポートしながら患者さんの健康や生活を支える看護師は、医療現場において欠かせない存在です。しかし、「仕事内容と給料・待遇が見合っていない」という問題も度々指摘されています。看護師として働き始めたものの、給料の低さが原因で離職を考える方も決して少なくありません。
医療分野のみならず、介護福祉分野での看護師需要も高まっている近年、国は看護師不足の解消を目指して「処遇改善」に取り組んでいます。2024年度には、看護師をはじめとする医療関係職種の給与アップに向けた診療報酬改定が行われました。
そこで今回は、看護師の処遇改善の概要や2024年度における処遇改善の主な取り組みを分かりやすく説明します。処遇改善によって看護師の給与はどのくらい上がるのかについても解説しているため、ぜひ最後までご覧ください。
看護師の処遇改善とは?
看護師の処遇改善とは、看護師の給与アップを目的とした国の施策です。医療業界の大きな課題ともいえる看護師不足の解消に向けて、厚生労働省が主導しています。
医療現場を支える看護師は、人々にとって欠かせない存在です。今後も高齢化が続くと見込まれている近年、看護師の需要は特に高まっています。しかしその一方で、看護業務の大変さに比べて給与が見合わない点やキャリアアップを図りにくい点が度々問題視されてきました。
「看護師の需要が高まっているなか、看護師不足がさらに加速している」という状況に危機感を覚えた政府が、看護師の給与アップを図るべく取り組み始めたのが看護師の処遇改善です。
2022年2月~9月の間は、補助金によって看護師の収入の1%程度(月額4,000円)の引き上げが実施されました。そして、2022年10月以降は収入の3%程度(月額12,000円)を引き上げるための措置が実施されるとともに、診療報酬改定による看護職員の処遇改善も始まりました。
(出典:公益社団法人 日本看護協会「看護職員の処遇改善に向けて~看護管理者の皆さまへ~」)
(出典:公益社団法人 日本看護協会「看護職員の処遇改善に向けて」)
(出典:公益社団法人 日本看護協会「看護師の処遇改善に取り組みましょう。」)
2024年度の看護師の処遇改善
診療報酬は、基本的に2年に一度のペースで改定されます。2024年度には、「令和6年度診療報酬改定」によって看護師の処遇改善に関する新たな取り組みが進められるようになります。
ここからは、2024年度の看護師の処遇改善にかかわる診療報酬改定の方向性や、それによる看護師の賃上げを目的とした具体的な取り組みについて詳しく紹介します。
(出典:公益社団法人 日本看護協会「令和6年度診療報酬改定」)
(出典:公益社団法人 日本看護協会「令和6年度診療報酬改定賃上げについて」)
診療報酬改定の方向性
令和6年度診療報酬改定では、下記4つの観点で基本方針が定められています。
改定の基本的視点 | 具体的方向性 |
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人材確保・働き方改革等の推進 |
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地域包括ケアシステムの深化・推進 |
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安心・安全で質の高い医療の推進 |
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医療保険制度の安定性・持続可能性の向上 |
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なかでも、「人材確保・働き方改革等の推進」は令和6年度診療報酬改定における重点課題とされており、看護師をはじめとした医療関係職種の賃上げ・給与アップが大きな焦点となっています。
看護師の賃上げ
令和6年度診療報酬改定によって、2024年度の看護師の処遇改善では2024年度と2025年度における職員のベースアップ率に関する目標が掲げられました。
2024年度のベースアップ率 | +2.5% |
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2025年度のベースアップ率 | +2.0% |
目標実現に向けては、医療機関等の過去実績をベースとした「報酬改定による加算措置(上乗せ点数)」と「賃上げ税制」の活用の組み合わせが案じられており、報酬改定による加算措置の1つとして「賃上げに向けた評価(ベースアップ評価料)」が新設されました。
ベースアップ評価料によって、対象者には「+2.3%相当」を想定した賃上げが行われる見込みです。対象職員は看護師・准看護師・助産師のほか、薬剤師や看護補助者、さらに理学療法士・作業療法士をはじめとしたリハビリ専門職や介護福祉士なども含まれます。
また、ベースアップ評価料は「外来・在宅ベースアップ評価料(Ⅰ・Ⅱ)」と「入院ベースアップ評価料」、「訪問看護ベースアップ評価料(Ⅰ・Ⅱ)」の3つに区分されており、原則すべての医療機関や訪問看護ステーションが算定できる仕組みです。各ベースアップ評価料の算定要件(対象医療機関と点数設定)は、下記の通りとなっています。
対象 | 点数設定 | |
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外来・在宅ベースアップ評価料(Ⅰ) | 外来医療または在宅医療を実施する保険医療機関 | いずれの医療機関も一律 |
外来・在宅ベースアップ評価料(Ⅱ) | 外来・在宅ベースアップ評価料 (Ⅰ)の届出を行っており、入院医療を実施していない診療所で、 (Ⅰ)だけではベースアップ率が「+1.2%」に達しない診療所 |
いずれの医療機関も一律 |
入院ベースアップ評価料 | 外来・在宅ベースアップ評価料 (Ⅰ)の届出を行っており、入院医療を実施している病院または診療所 |
必要点数を1~165点に細かく分け、医療機関ごとに点数を設定・入院患者ごとに所定点数を算定 |
訪問看護ベースアップ評価料(Ⅰ) | 訪問看護ステーション | いずれの訪問看護ステーションも一律 ※訪問看護管理療養費を算定している利用者1人につき月1回が限度 |
訪問看護ベースアップ評価料(Ⅱ) | 訪問看護ベースアップ評価料 (Ⅰ)だけではベースアップ率が「+1.2%」に達しない訪問看護ステーション |
いずれの訪問看護ステーションも一律 ※訪問看護ベースアップ評価料(Ⅰ)を算定している利用者1人につき月1回が限度 |
処遇改善で看護師の給与はどのくらい上がる?
政府は診療報酬改定による対策に加えて、年次に応じて昇給する定期昇給や医療機関における税制優遇も含めて「2024年度に+2.5%、さらに2025年度には+2.0%の給与アップを達成する」という目標を掲げています。
しかし、+2.5%の給与アップと聞いても、具体的な給与額がどれくらいになるか分からないという方も多いでしょう。ここでは、勤続10年目の看護師の平均的な基本給与額である約25万円を例に挙げて、賃上げ後の具体的な賃金アップ額を紹介します。
(出典:公益社団法人 日本看護協会「看護師の基本給与額、税込給与額(全体)」)
【基本給が約25万円の看護師における給与アップ(+2.5%)のイメージ】 |
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月給:25万円 × 2.5% = 6,250円 →月々の給料が「6,250円」アップする 年間:6,250円 × 12か月 = 75,000円 |
25万円の基本給を得ている看護師の場合、2024年度の処遇改善加算によって年間の給与額は75,000円増えることが分かります。なお、ベースアップの対象は基本給のみであり、手当などには加算されないことに注意しておきましょう。
(出典:公益社団法人 日本看護協会「令和6年度診療報酬改定賃上げについて」)
実際に給与は上がる?
前述の通り、2024年度以降は診療報酬改定で新設されたベースアップ評価料によって、看護師をはじめとした34職種に「+2.3%相当」を想定した賃上げが行われる見込みです。
しかし、実際に給与が上がるかどうかは勤務先によります。なぜなら、賃上げを行う職種や具体的な給与アップ額は、各施設の裁量で決められるためです。したがって、勤務先によっては一部の職種が処遇改善の適用対象外と定められる・職種間で加算額に差が生じるということも十分に考えられるでしょう。
また、厚生労働省による処遇改善は進んでいるものの、ベースアップ評価料を算定するかどうかは結局のところ事業所次第です。実際に、「処遇改善事業がいつまでも継続される保証がなく、万が一次の診療報酬改定で打ち切られたらと考えると、賃金改善や手当の引き上げを行うことに躊躇する」と考える事業者も意外と多く存在します。
(出典:厚生労働省「看護職員処遇改善評価料の実績報告について」)
新設されたベースアップ評価料は、原則としてすべての医療機関が算定できる仕組みとなっているため、従来に比べて多くの医療機関が届け出ることも予測されます。しかし、「処遇改善による施策が長きにわたって継続される確証はない」という状況は依然として変わらず、医療機関の経営側はどうしても慎重にならざるを得ません。
なかには、これまで通り処遇改善を行わない医療機関もあるでしょう。医療現場で働く看護師側としては、やりがいを感じながら長く活躍し続けるためにも、「給与の上がりやすい職場」を選ぶことが大切です。
まとめ
2024年度の看護師の処遇改善では、2024年度と2025年度における職員のベースアップ率に関する目標が掲げられ、賃上げに向けた施策として「ベースアップ評価料」が新設されました。
しかし、なかには「2年ごとの診療報酬改定による施策の打ち切り」を不安に思った経営者側が、ベースアップ評価料を算定しないという選択をとるケースもあります。看護師がやりがいを感じながら長く働き続けるためには、給与の上がりやすい職場を選ぶことが大切です。
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※当記事は2024年6月時点の情報をもとに作成しています