看護師の処遇改善とは、国が進める看護師の給与アップを目的とした施策です。医療業界の大きな課題ともいえる看護師不足の解消に向けた取り組みの1つであり、近年では令和6年度診療報酬改定によって新たな制度が設けられたことから注目度がさらに高まっています。
現在看護師として働く方、または看護師を目指そうと考えている方が処遇改善と聞いて思い浮かべるのが「処遇改善手当」でしょう。看護師の賃金改善に向けて補助金が支払われていたこの制度は、2024年現在すでに終了しています。
今回は、看護師の処遇改善手当がいつまで支払われて、いくらもらえていたのかに加えて、2022年10月から新設された「看護職員処遇改善評価料」の概要や、2024年度の診療報酬改定による今後の看護師の給料事情について詳しく説明します。
看護師の処遇改善手当はいつまで支払われていた?
2022年2月から同年9月までは、一部の看護師を対象に「賃金改善を行うための補助金」が支払われていました。
「看護職員等処遇改善事業」と称されたこの施策は、当時の社会的な影響をカバーするための一時的な取り組みであったものの、現在の看護師をはじめとした医療関係職種の処遇改善がスタートした大きなきっかけでもあります。
そこでまずは、看護職員等処遇改善事業の概要や、処遇改善手当はいくらもらえていたのかについて詳しく紹介します。
看護職員等処遇改善事業とは?
看護職員等処遇改善事業とは、2021年11月に閣議決定された「コロナ克服・新時代開拓のための経済対策」にもとづき、地域でコロナ医療を中心とした一定の役割を担う医療機関に勤務する看護職員を対象に、賃上げ効果が継続される取り組みを行うことを前提として補助金を交付する制度です。
2022年当時、日本では新型コロナウイルス感染症の影響により、医療体制がひっ迫していました。従来から問題視されていた少子高齢化への対応に加えて、新型コロナウイルス感染症への対応も求められることに疲弊し、離職を検討する看護師も多くいたのが実情です。
医療ニーズが高まり続けるなか、医療現場に欠かせない存在となる看護師の離職を少しでも防ぐために実施されたのが、この看護職員等処遇改善事業です。
看護職員等処遇改善事業によって、対象医療機関に勤務する看護職員には2022年2月から同年9月の間、「看護職員等処遇改善事業補助金」によって収入を1%程度引き上げるという措置が実施されました。
なお、看護職員と同様に地域の人々の生活を支える介護職員の処遇改善事業は、2009年から2011年まで実施されていた「介護職員処遇改善交付金」を引き継ぐ形で、2012年に運用が開始されました。介護業界では10年前から処遇改善への取り組みが行われていたこともあり、2022年の看護職員等処遇改善事業は多くの看護職員から注目を集めました。
(出典:公益社団法人 日本看護協会「看護職員の処遇改善に向けて~看護管理者の皆さまへ~」)
手当はいくらもらえた?
看護職員等処遇改善事業では、対象となる医療機関に対して、勤務する看護師の収入を1%(1人あたり月額4,000円相当)引き上げるための経費が支給されていました。
看護職員等処遇改善事業が始まった2022年2月から同年9月の8か月間、すべての月で対象となる医療機関に勤務しており、かつ毎月4,000円が支給されていた看護師の場合は、総額32,000円の賃上げが行われたこととなります。
なお、前述の通り看護職員等処遇改善事業は地域でコロナ医療を中心とした一定の救急医療を担う医療機関に勤務する看護職員が対象です。看護師や准看護師のほか、保健師、助産師も対象に含まれます。
また、個々の医療機関の判断によっては、国から支給された補助金を看護職員だけでなく、看護補助者や理学療法士・作業療法士などのリハビリ職の賃金改善にも充てることが可能でした。
(出典:厚生労働省「看護職員等処遇改善事業補助金の概要」)
2022年10月からは看護職員処遇改善評価料が新設
2022年9月には看護職員等処遇改善事業が終了しましたが、医療機関は依然として看護職員の基本給を上げることが求められます。
こうした点を考慮して、国は同年10月から新たに「看護職員処遇改善評価料」を実施するとともに、診療報酬改定による看護職員の処遇改善加算もスタートさせました。看護職員処遇改善評価料は、診療報酬の枠組みを通して進められる取り組みの1つでもあります。
ここでは、看護職員処遇改善評価料の概要を説明します。
看護職員処遇改善評価料とは?
看護職員処遇改善評価料とは、地域でコロナ医療をはじめとした一定の役割を担う医療機関に勤務する看護職員等を対象に、収入を3%(1人あたり月額12,000円相当)引き上げるための処遇改善の仕組みです。
看護職員処遇改善評価料においては、医療機関における看護職員数および入院患者数によって算出した数字(A)にもとづいて点数が上乗せされます。医療機関側は、点数による収入の全額を看護職員の賃上げに充てるとともに、2/3は賃金のベースアップに使用することが求められます。
対象となる医療機関は、下記の通りです。
- 救急医療管理加算の届出を行っており、年間の救急搬送件数が200件以上ある
- 救急医療対策事業実施要綱に定める「救命救急センター」「高度救命救急センター」「小児救命救急センター」を設置している
2022年10月から始まった看護職員処遇改善評価料は、従来の看護職員等処遇改善事業と比較して給与の引き上げ額が高くなりました。しかしその一方で、対象施設・対象職員が非常に限定的である点に対する非難の声があったことも実情です。
(出典:厚生労働省「処遇改善(その1)」)
(出典:公益社団法人 日本看護協会「令和4年度診療報酬改定」)
今後の看護師の給与はどうなる?
診療報酬改定は、通常2年に一度のペースで行われます。令和6年度診療報酬改定では、看護師の処遇改善として「2024年度に+2.5%、2025年度には+2.0%の賃金ベースアップ」が目標に掲げられました。
そのほか、2022年10月に実施された看護職員処遇改善評価料において非難の声が殺到した「事業所・職種の対象要件」も緩和されています。看護職員がやりがいをもって長く働き続けられるよう、今後も処遇改善の充実が進められていくでしょう。
2024年度の診療報酬改定
令和6年度診療報酬改定では、看護師の処遇改善として掲げた「2024年度に+2.5%、2025年度に+2.0%のベースアップを目指す」という目標を達成すべく、賃上げに向けた評価(ベースアップ評価料)を新設しました。
ベースアップ評価料の対象となる職種は、看護職員(看護師・准看護師・助産師・看護補助者)や薬剤師、理学療法士をはじめとしたリハビリ専門職のほか、はり師・きゅう師、管理栄養士などであり、幅広い職種に「+2.3%相当」を想定した賃上げが行われる見込みです。
また、ベースアップ評価料は「外来・在宅ベースアップ評価料(Ⅰ・Ⅱ)」「入院ベースアップ評価料」「訪問看護ベースアップ評価料(Ⅰ・Ⅱ)」の3つの項目に分類されており、原則としてすべての医療機関や訪問看護ステーションが算定可能な仕組みとなっています。
(出典:公益社団法人 日本看護協会「令和6年度診療報酬改定」)
(出典:公益社団法人 日本看護協会「令和6年度診療報酬改定賃上げについて」)
今後の賃金処遇について
看護業界の人材不足に備えて、医療機関ではさまざまな人材が活躍できる環境の整備が急務となっています。多様な人材を確保・活用するためには、賃金処遇が最も重要なポイントといっても過言ではありません。
特に重要視されているのが、短時間勤務や夜勤にかかわる賃金処遇です。育児・介護との両立支援制度の普及や、ワークライフバランス施策の利用者が増加している近年、短時間勤務を望む方が増えているほか、夜勤要員の確保が困難となりつつあります。
多くの医療機関では、多様な人材の確保と柔軟な働き方の実現に向けたさまざまな取り組みを進めていますが、処遇改善にどのように取り組んでいるかは事業者によって異なります。今後も看護師として長く活躍し続けるためには、待遇がよいことはもちろん、時代とキャリアの変化に応じた給料改善にも積極的に取り組む職場を選ぶことが大切です。
まとめ
2022年2月から同年9月までは、「看護職員等処遇改善事業」として、一定の役割を担う医療機関に勤務する看護職員を対象に収入の+1%(月額4,000円相当)の処遇改善手当が支給されていました。
2022年10月からは、収入の3%程度(月額12,000円相当)を引き上げる措置が実施されるとともに、診療報酬改定による看護職員の処遇改善もスタートしました。そして令和6年度診療報酬改定では、看護師の処遇改善として新たにベースアップ評価料が設けられました。
看護職員の処遇は診療報酬改定のたびに改善されています。看護業界の大きな課題である人手不足が続く限り、今後も施策内容の充実が進められていくでしょう。
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※当記事は2024年6月時点の情報をもとに作成しています