トリアージタッグとは、トリアージの結果を示す3枚つづりの識別票のことです。医療救護活動が必要となる、トリアージや応急措置、搬送治療などの場面で、一貫して利用できます。3枚目の「収容医療機関用」の裏面には、医療情報や特記事項などが記載できるので、カルテとしての活用も可能です。また、トリアージタッグは傷病者の安否情報としても利用されています。
当記事では、災害医療には欠かせないトリアージタッグについて、使い方・記載項目・装着方法などを紹介します。
トリアージとは
「トリアージ(triage)」とは、元々はフランス語の「trier:選別する、分ける」が由来の言葉です。
トリアージは、災害発生時などにおいて、傷病の緊急度と重症度を考慮して治療優先順位を決めることを指します。緊急医療における重要なプロセスで、特に災害や大規模事故などのような、医療資源が限られた状況で多数の患者が発生した場合に使用されるプロセスです。
災害医療では「CSCATTT」という原則があり、トリアージはその1つに含まれています。
Command and Control:指揮と連携
Safety:安全確保
Communication:情報収集伝達
Assessment:評価
Triage:トリアージ
Transport:搬送
Treatment:治療
CSCATTTは、CSCA(メディカルマネージメント)とTTT(メディカルサポート)に大別されます。トリアージは限られた医療資源を使用するために、欠かせないプロセスです。
(出典:厚生労働省「災害医療体制のあり方に関する検討会 報告書」)
(出典:東京都福祉保健局「トリアージ ハンドブック」)
(出典:日本赤十字社 和歌山医療センター「災害対応の原則~CSCATTTとは~」)
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トリアージタッグとは
トリアージタッグは、災害や大規模な事故現場などで、トリアージを行うための識別票です。医療関係者が患者の病状や傷害の程度を迅速に特定し、適切な医療処置をもっとも必要とする患者に優先的に提供するために使用されます。
トリアージタッグには、緊急度を示す色分けシステムがあります。赤・黄・緑・黒の4つのレベルがあり、それぞれの色が患者の緊急性と治療優先度を表しています。
赤 色:即時に治療が必要な重症患者
黄色:重篤だが、直ちに命に危険があるわけではない患者
緑色:軽傷で、すぐに治療が必要ない患者
黒色:生存の見込みが非常に低いまたはない患者
トリアージタッグは、被災地内の医療機関で簡易カルテとしての利用を可能にする目的もあり、受入患者の総数や傷病程度別患者数を的確に把握する際にも役立ちます。
(出典:厚生省健康政策局指導課監修へるす出版『21世紀の災害医療体制』「トリアージ・タッグの標準化について」)
トリアージタッグの使い方・記載項目・装着方法
トリアージタッグの使い方・記載項目・装着方法は下記の通りです。
使い方 |
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トリアージタッグは、次の3条件に該当する災害時に使用されます。 ① 大震災等の広範囲かつ大規模な災害で 現場に到着した救急隊の救急救命士などが、まず患者の症状や状態を素早く評価し、トリアージを実施します。 |
記載項目 |
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トリアージタッグには以下のような記載項目があり、トリアージ実施者が記入します。
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装着方法 |
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トリアージタッグは、どこにつけてもいいわけではなく、原則として右手首につけることになっています。ただし右手首が負傷、もしくは切断されている場合は、左手首→右足首→左足首→首の順番でつけます(衣類や靴などにはつけない)。 |
トリアージタッグを記載する際の注意点
東京都福祉保健局「トリアージ ハンドブック」によれば、トリアージタッグを記載する際の主な注意点として、以下のような項目が示されています。
- トリアージを実施する前に、患者本人、家族、トリアージ実施補助者などが患者の個人情報を記載する(ただし多数の傷病者がトリアージエリアに殺到した場合は、場の混乱を避けるため、応急処置の際など、後ほど記入する)
- 搬送機関名や収容医療機関名など、記載時に確定していない項目は、後で書き加えられるように空欄のままにする(斜線などを引かない)
- トリアージは、1回だけでは終わらないので、数行記載できるように上に詰めて記入する(中央部分に大きい文字で記載することはしない)
- 訂正がある場合は、誤記を二重線で抹消する(容態変化などで追記する場合は、二重線で抹消するのではなく、同一欄の下側スペースに追記する)
- 複写された青色文字と区別できるように黒色のボールペンなどを使用する
トリアージタッグの優先順位
「トリアージタッグとは」の見出しでも説明した通り、トリアージタッグには、4色のトリアージカテゴリーがあります。
赤色:最優先治療群(Ⅰ)
黄色:待機的治療群(Ⅱ)
緑色:保留群(Ⅲ)
黒色:無呼吸(0)
以下では、東京都福祉保健局「トリアージ ハンドブック」を参考に、各色のトリアージカテゴリーについて詳しく解説します。
赤色
赤色は、優先度が第1順位にあたり、最優先治療群(重症群)です。
傷病状態・病態 |
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具体的事例としては、気道閉塞、呼吸困難、意識障害、多発外傷、大量の外出血、多
発骨折、などが挙げられます。赤色に分類された傷病者は、最初に現場救護所へ搬出し、応急処置を行ったうえで災害拠点病院へ搬送します。
黄色
黄色は、優先度が第2順位にあたり、待機的治療群(中等症群)です。
傷病状態・病態 |
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具体的事例としては、脊髄損傷、四肢長管骨骨折、脱臼、中等度熱傷など、全身状態が比較的安定しているものの、入院を要する重傷者が対象です。黄色に分類された傷病者は、赤色の処置が完了した時点で現場救護所へ搬出し、応急処置を行った後に災害拠点病院へ搬送します。
緑色
緑色は、優先度が第3順位にあたり、保留群(軽症群)です。
傷病状態・病態 |
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具体的事例としては、四肢骨折、脱臼、打撲、捻挫、擦過傷、小さな切創および挫創、軽度
熱傷、過換気症候群など、外来処置が可能な軽傷者が対象です。緑色に分類された傷病者は徒歩で現場救護所に向かってもらい、緊急医療救護所や医療救護所で応急処置を行います。
黒色
黒色は、優先度が第4順位にあたり、無呼吸群、死亡群となります。
傷病状態・病態 |
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具体的事例としては、圧迫、窒息、高度脳損傷、高位頚髄損傷、心大血管損傷、心臓破裂などにより心肺停止状態の傷病者などが挙げられます。黒色のトリアージタッグの場合でも、死亡診断のために、後で医師による確認が必要です。黒色に分類された方は、ほかの色に分類された傷病者の手当てが終わった後、最後に現場救護所に搬送し、死亡診断を行ったうえで遺体安置所に移動します。
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まとめ
トリアージタッグは、トリアージに使用される識別票であり、該当する色を残す(紙を切り離す)ことで、傷病者の状況が瞬時に確認・判断できる仕組みです。医療資源が限られた災害時などの状況では、どの傷病者に対してどの程度の治療をするかといった判断が重要になります。そのため、トリアージタッグは災害医療には必要不可欠なものです。
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※当記事は2023年7月時点の情報をもとに作成しています