エンパワーメントとは、一人ひとりが持つ本来の能力を十分に発揮できる環境や仕組みを実現することです。近年、多くの企業でスタッフの主体性を高めることを重要視しており、エンパワーメントという概念が注目されています。
この記事では、ビジネス・看護・福祉・教育など各分野におけるエンパワーメントの意味を解説。さらに、エンパワーメントのメリットや実践する際のポイントを紹介します。
エンパワーメントとは
「エンパワーメント(Empowerment)」とは、簡単にいうと自分で考えて行動する力や権限を与えることです。個人が本来持つ能力や長所を存分に発揮できる環境や仕組みを実現することを意味します。
エンパワーメントの起源
エンパワーメントという概念が広く知られるようになったのは、1970年代にアメリカで起こった公民権運動だといわれています。バーバラ・ソロモンによる著書『黒人のエンパワーメント』は、介護におけるエンパワーメントの重要性を説いた書として有名です。
本書ではエンパワーメントについて、マイナスイメージのある集団に所属しているために、力のない存在と見なされる状況を緩和するとしています。つまり、介護従事者が被介護者の可能性を決めつけるのではなく、本人が持つ本来の能力を引き出す助けとなり、自立を促すことが大切だという考え方です。
1980年代になると女性の権利獲得運動と連動して「社会的地位の向上」という意味でも、エンパワーメントの概念が用いられます。1990年代には日本にも伝わり、以降は開発援助論や社会学、経営分野においても有用な考え方として使われるようになりました。
エンパワーメントの8原則
エンパワーメントを取り入れる際は、下記の8原則を押さえることが重要です。
①目標を当事者が選択する。
②主導権と決定権を当事者が持つ。
③問題点と解決策を当事者が考える。
④新たな学びとより力をつける機会として、当事者が失敗や成功を分析する。
⑤行動変容のために内的な強化因子を当事者と支援者の両方で発見し、それを増強する。
⑥問題解決の過程に当事者の参加を促し、個人の責任を高める。
⑦問題解決の過程を支えるネットワークと資源を充実させる。
⑧当事者のより良い状態(目標達成やウェルビーイングなど)に対する意欲を高める
エンパワーメントが注目されている背景

エンパワーメントが注目される背景には、VUCA時代の到来と次世代リーダーの育成が急務であるという2つの大きな理由があります。
VUCA時代への対応
エンパワーメントが注目されている背景には、VUCA時代が到来したことが関係しています。
VUCA時代とは、「Volatility(変動性)」「Uncertainty(不確実性)」「Complexity(複雑性)」「Ambiguity(曖昧さ)」の頭文字を取った造語で、予測が難しく急速に変化する状況を指します。
VUCA時代にトップダウン経営をしていると、判断が遅れて市場での競争力を失うリスクがあります。エンパワーメントにより現場に迅速な意思決定を委ねることで、機会損失を防ぎ、ビジネスのスピード感を維持できます。
次世代リーダーの育成
エンパワーメントが注目されている背景には、人材不足による次世代リーダーの育成が急務である点も関係しています。
少子高齢化が進む日本では人材不足が深刻です。総務省の「令和4年版 情報通信白書」によると、生産年齢人口(15~64歳)は1995年の8,716万人をピークとしてその後減少。2021年には7,450万人と、総人口の59.4%となっています。
企業は限られた人材資源を効率的に活用し、未来のリーダーを育成しなければなりません。エンパワーメントを通じて、若手社員や中途社員が早い段階から自発的に行動し実績を上げると、企業の成長にも繋がります。
各分野におけるエンパワーメントの意味

エンパワーメントは、公民権運動や女性の権利獲得運動などで使用されてきました。しかし、時代が進むにつれ、ビジネスや看護、福祉、教育現場など、さまざまな分野でも注目されています。
ここでは、各分野におけるエンパワーメントの意味や考え方を解説します。
ビジネスにおけるエンパワーメントとは
一般的にビジネスにおいては、エンパワーメントを「管理者が持つ権限の一部をスタッフへ譲渡する」という意味で使用されます。「すべての権限を上司が握り、常に指示がなければ部下は動けない」といった状況では部下の持つ能力が制限されるうえ、想定外の事態に対応しきれません。
ビジネスにおけるエンパワーメントは、「スタッフの能力や業務内容に応じた権限を適切に委譲して、企業のパフォーマンスを高めよう」という考え方です。ただし、スタッフの能力を超える権限を持たせた場合や適切な指導が伴わなかった場合、かえって現場が混乱するケースがあります。
看護におけるエンパワーメントとは
看護においては、エンパワーメントを「患者さんを主体にしたプロセスを構成する」という意味で使用するのが一般的です。看護においては、看護師が主体となって動くことで完全な受け身となる患者さんが多く、本人や家族の意向が反映されにくいこともあります。
しかし、本来の看護における最大の目標は、患者さんの身体的・心理的な独立です。患者さんが主体となり、自らの意思で治療に参加してもらう必要があるのです。正確な情報を提供したうえで十分にコミュニケーションを取り、患者さんの積極的な参加を促すことが看護現場では重要といえます。
福祉におけるエンパワーメントとは
福祉においては、エンパワーメントを「それぞれの得意分野を見つけて能力を伸ばす」という意味で使用するのが一般的です。福祉の対象となる人のなかには、障がいを抱えている部分を除けば健常者と能力が変わらない、あるいは高い能力を有している人も少なくありません。
しかし、障がい者を庇護すべき弱者として扱うことにより、人としての尊厳を傷つけたり活躍する場を奪ったりするケースがあります。福祉の現場では、「苦手な分野や不足する能力を平均値まで引き上げる」のではなく、「本人が困っていることを援助しつつ長所を伸ばし、自信をつけてもらう」ことが大切です。
教育現場におけるエンパワーメントとは
教育現場においては、エンパワーメントを「子どもの知識欲を刺激し、自発的に行動する力を伸ばす」という意味で使用するのが一般的です。学校の宿題やテストのためだけにする勉強は、子どものやる気を削いでしまうケースが少なくありません。
教育では子どもの好奇心を否定せず、子ども自らが気になったことを調べて考え、試行錯誤しながら成功と失敗を積み重ねることが大切です。「自ら選んで判断し、行動する力を助けることが、子どもの生きる力を育むことにつながる」というのが、教育現場におけるエンパワーメントの考え方です。
■関連記事
【看護師向け】エンパワメントとは? 支援設計をステップごとに紹介
エンパワーメントを取り入れる3つのメリット

エンパワーメントの定義は分野によって微妙に異なりますが、取り入れることでもたらされるメリットには共通点があります。まずは、エンパワーメントを実践した際のメリットを知り、取り入れることでどのような変化が起きるかを想像してみましょう。
ここでは、エンパワーメントを取り入れるメリットを3つ解説します。
1.スピーディに意思決定ができる
エンパワーメントの実践によって、スタッフは自分で意思決定を行う権限を与えられます。これにより、業務の進行がスムーズになり、迅速な対応が可能です。
特に急速に変化するビジネス環境においては、上司の承認を待たずに現場で判断し、行動に移せることが重要です。たとえば、顧客の要望や市場のニーズに迅速に対応できるため、競争力が高まるでしょう。また、意思決定のプロセスを迅速化することで業務効率がアップし、結果として顧客満足度の向上も期待できます。
エンパワーメントの実践はスタッフのモチベーション向上にも寄与し、組織全体の活性化に繋がります。
2.主体性のあるスタッフを育成できる
エンパワーメントを取り入れると、社員は自ら考えて決断するようになり主体性が育まれます。
上司の指示に従って業務を行う場合、責任感が薄くなり、仕事の質が低下することも少なくありません。しかし、エンパワーメントを取り入れると裁量権の範囲内で自分自身で判断することが求められるため、責任感が生まれ判断力も養われます。経験を積むことで判断能力がさらに向上し、自律的に行動できる社員へと成長していくでしょう。また、本人も気づいていない能力が開花する可能性もあります。
3.スタッフの能力向上につながる
エンパワーメントを推し進めることにより、スタッフのスキル向上が見込めます。
スタッフの長所に応じて人員配置を的確に行えば、本来の実力をいかんなく発揮できるようになるでしょう。能力を正しく活かすことで仕事へのやる気がアップし、結果的に企業全体の業績アップも期待できます。
エンパワーメントを取り入れる3つのデメリット

エンパワーメントを上手に取り入れることで、前述したようなメリットが得られます。しかし、ときにはデメリットが生じるケースもあるため、リスクを知り対策を練っておくことが大切です。
ここでは、エンパワーメントを推進するデメリット・注意点を3つ解説します。
1.組織全体と個人の方向性が一致しないことがある
エンパワーメントの推進により個人の裁量が大きくなると、仕事にも個人の考えや価値観が反映されるようになり、指示や接客対応などにバラつきが出やすくなります。たとえば、顧客対応で裁量権を持たせた場合、「電話1本でいつでも駆けつける人」と「営業時間外は対応しない人」といった差が生まれる可能性があるでしょう。
人や店舗によって顧客対応に差が出ると、企業としての信頼性が損なわれかねません。そのため、エンパワーメントを進める際は、「どこまでならスタッフが自由に判断してよいか」「どのラインを超えたら上へ判断を仰ぐべきか」を明確にする必要があります。また、組織の方向性や行動指針を丁寧に説明し、共有することも大切です。
2.責任放棄となる恐れがある
エンパワーメントによる権限委譲は「部下に裁量権を与える」ということであり、「責任ごと丸投げする」ということではありません。「権限は与えるが損害が出た際には自己責任」と言われて、のびのびと自分らしく仕事ができるスタッフはいないでしょう。
部下が失敗して企業が損失・損害を被るケースもありますが、あくまでも責任の所在は上司や管理職です。エンパワーメントでは、部下の能力に見合ったレベルの権限を持たせつつ、ある程度の失敗は許容して成長を促すことが重要です。
3.重圧を感じるスタッフもいる
スタッフによっては、「エンパワーメントのシステムが合わない人」がいることも知っておきましょう。「指示通りに動くのは得意でも、自分で考えて動くのは苦手な人」や「計画を立てて行動するのが苦手な人」はどの企業にもいます。また、「潜在能力は高くても、プレッシャーに弱い人」は珍しくありません。
エンパワーメントは、あくまでも企業の生産性を上げる手段の一つです。責任を負うことで萎縮する特性のあるスタッフに対し、無理に権限を委譲する必要性はありません。導入する際は、スタッフの適性を見極めて実行することが大切です。
エンパワーメントを実践する際のポイント

エンパワーメントの実践を検討している方は、メリットを最大化し、デメリットを最小化したいと考えるのではないでしょうか。エンパワーメントを実践する際は、スタッフが自ら考えて正しい判断を下せる環境を企業や上司が整えることが重要です。
ここでは、エンパワーメントを実践する際のポイントを4つ解説します。
組織内で情報共有を行う
エンパワーメントの効果を最大限に高めるには、可能な限り組織内で情報公開し共有することが大切です。「人によって得られる情報に差がある」「把握する情報に偏りがある」といった場合、スタッフによって認識や判断にズレが生じます。
「権限を委譲された仕事の目的が何か」「何をどこまでやっていいか」を理解してもらうには、判断基準となる情報が必須です。委譲する権限の範囲や判断基準を明確化したうえで、常に報連相しやすい体制・組織づくりを徹底しましょう。
個人の判断を尊重する
エンパワーメントの導入から日が浅いうちは、意思決定までに想像以上の時間がかかったり、想定外のミスが発生したりするケースもあるでしょう。見ている側としては早々に手や口を出したくなるものですが、そこをぐっとこらえて許容する姿勢が重要です。
権限を委譲されたスタッフは、慣れない環境でこれまでにないプレッシャーを感じながら、最善を尽くすべく努力をしています。そのため、個人の判断を尊重しつつ、いつでもフォローに入れる体勢を整えながら適宜アシストすることが大事です。何度もトライアンドエラーを繰り返すことで、部下の判断力や決定力が養われます。
適切なフォローを行う
スタッフの判断を尊重するのは大切ですが、放置状態では組織の方向性と大きなズレが生じたり、取り返しのつかないミスが発生したりする可能性があります。権限を委譲した後は定期的に仕事の進捗を確認し、状況を把握しておくことが大切です。
適切なフォローを入れることで、トラブルへ発展するのを防げます。フォローを入れる際も答えを与えるのではなく、問題解決に至るためのヒントを提示し、自ら考えて判断させればスタッフの成長が促進できます。
トラブルへの対処・対策に協力する
すべてのスタッフが、有事の際に冷静かつ的確に対処できるとは限りません。特にこれまでにトラブル対応をしたことがないスタッフは、戸惑ってしまうでしょう。
トラブルの対処・対策に協力する際は、上司が解決策を指示するのではなく、スタッフが最適解を導き出せるようにアシストしましょう。ミスを犯したからといって相手を強く叱責すると、萎縮して能力を伸ばしづらくなります。エンパワーメントの効果が下がる恐れがあるため、叱責するのではなく、ともに問題の原因や再発防止策を考えるのが最適です。
エンパワーメントに関するQ&A

ここでは、エンパワーメントに関する疑問をQ&A形式で回答します。
エンパワーメントとはどういう意味ですか?
エンパワーメントとは、個人や組織が自己の能力を最大限に発揮できるよう、権限や責任を与えることです。特にビジネスの場では、スタッフが自ら意思決定を行い、行動する力を養うために必要なサポートやリソースを提供することを指します。
女性のエンパワーメントとは?
女性のエンパワーメントとは、女性が社会的・経済的・政治的な面で対等な権利や機会を得て、自らの意思で行動し、リーダーシップを発揮できるよう支援することを指します。ジェンダー平等の実現に向けた取り組みの一環であり、女性が自己の能力を十分に発揮し、意思決定の場に積極的に参加できる環境を整えることが目標です。
エンパワーメントとエンゲージメントの違いとは?
エンパワーメントは、スタッフに権限を与えて自律的に行動できるようにすることを意味します。一方、エンゲージメントは、スタッフが組織や業務に対して高い関与や情熱を持ち、貢献しようとする姿勢のことです。
まとめ
エンパワーメントは、ビジネス・看護・福祉・教育など分野によって少しずつ意味が異なります。看護の現場では、患者さんが治療に対して主体的に意思決定することを促すエンパワーメントが重視されています。エンパワーメントを効果的に推進するためには、組織内で情報共有や適切なフォローを行いつつ、個人の判断を尊重することが大切です。
マイナビ看護師では、看護職専門のキャリアアドバイザーが転職活動をサポートいたします。近年の看護業界の動向や働き方の変化などを考慮して転職先を検討したい方は、ぜひご相談ください。
-
今話題のトラベルナース!短期間かつ高給与の求人が揃ってます!
-
転職先で給与アップしたい方へ★
年収500万円以上の高収入求人や応募のポイントをご紹介! -
人気の転職時期である4月に転職するメリットはたくさん!
-
働きながら綺麗になれる♪常に人気の美容クリニック求人をピックアップ!
-
企業でも看護師資格を活かして働けます!ワークライフバランス◎
-
シフト勤務の環境を変えたい方向けに、土日祝休みの求人をご紹介!
-
看護師さんの約半分は夜勤なしで勤務中!無理なく働ける夜勤なし(日勤のみ)求人をご紹介!