• 2022年6月29日
  • 2022年6月29日

【看護師向け】エンパワメントとは? 支援設計をステップごとに紹介

 

看護師が行う看護アプローチには、患者さんへの身体的な援助だけではなく、精神的な援助も含まれています。患者さんへの精神的な援助を行ううえで重要な考え方が「エンパワメント」です。エンパワメントを押さえた看護は、患者さんの早期離床・退院や自分らしい生き方の選択を支援できます。看護師の方はエンパワメントの考え方を理解し、実践できるようにしましょう。

当記事ではエンパワメントの意味や原則を紹介し、看護におけるエンパワメントの重要性や支援設計の立て方を詳しく解説します。

エンパワメントとは? 看護現場での意味も

エンパワメント(エンパワーメント)とは、「権限を持たせること」「自信を与えること」を意味する言葉です。一般的には「組織を構成する1人ひとりの潜在能力の開花を促し、組織への影響力を持てるようになること」を意味します。

エンパワメントの考え方は、アメリカで1950~1960年代に行われた公民権運動において、社会福祉の分野で導入されました。介護分野のエンパワメントは「ある人のハンディキャップやマイナス面ではなく、長所やプラス面に着目して援助すること」を指します。
(出典:厚生労働省「身体障害者ケアガイドライン」

看護現場のエンパワメントも、介護分野のエンパワメントに近い意味を持つ言葉です。看護現場のエンパワメントは、「患者さんが自身の力で健康上の問題を解決できるように、看護師の知識・技術を活用して援助すること」を意味します。

エンパワメントの8原則

エンパワメントは、下記の8原則を押さえたうえで実践することが大切です。

エンパワメントの8原則

  • 当事者が目標を選択すること
  • 当事者が行動の主導権・決定権を持つこと
  • 当事者が問題点と解決策を考えること
  • 新たな学びと向上の機会として、当事者が失敗や成功を分析すること
  • 行動変容につながる内的な強みを当事者と専門職の両者で発見し、増強すること
  • 問題解決へのかかわりを当事者が持つようにして、個人の責任を高めること
  • 問題解決の過程を支えるネットワークと資源を充実させること
  • 当事者のより良い状態になることへの、当事者の意欲を高めること

看護現場のエンパワメントでは原則中の「当事者」を「患者さん」に、「専門職」を「看護師」に置き換えます。行動や意思決定の主体は患者さんであり、看護師は患者さんに補佐的な援助を行う役割です。

看護における「心理的エンパワメント」の重要性

エンパワメントには2つのアプローチ方法があります。

  • 構造的エンパワメント
    構造的エンパワメントは「社会的な力」に着目する考え方です。具体例としては、企業において上司から部下への権限委譲を進めて、人材1人ひとりが能力を発揮できるように勤務環境を構築するケースが該当します。
  • 心理的エンパワメント
    心理的エンパワメントは「心理的な力」に着目する考え方です。行動から目標達成までの経験によって自己効力感を高め、当事者が本来持っている力を引き出します。

看護現場で求められるアプローチ方法は、「心理的エンパワメント」のほうです。看護師は、患者さんが「やればできる」という自信を持って行動や意思決定に取り組み、自己効力感を高められるように努めます。

【STEP別】看護現場で活かせる! エンパワメントの支援設計

看護現場で活かせる! エンパワメントの支援設計

看護現場のエンパワメントを実践するときは、エンパワメントの支援設計を組み立てましょう。エンパワメントの支援設計は、患者さんが自主的かつ意欲的に行動する過程を踏まえながら、看護師が行う援助の内容をまとめた枠組みです。

エンパワメントの支援設計を5つのステップに分けて、ステップごとの内容を解説します。

【STEP1】もたらしたい成果を決める

最初に、患者さんにもたらしたい成果を決めます。もたらしたい成果とは、心理的エンパワメントで引き出したい、患者さんが本来持っている力のことです。

たとえば、糖尿病を治療中で自律した食事管理が苦手な患者さんであれば、「患者さんが食事管理に前向きに取り組める」をもたらしたい成果とします。もたらしたい成果は、現実的に達成可能な内容を設定することが大切です。

【STEP2】現状の問題点・課題を明確にする

もたらしたい成果を実現するうえでの現状の問題点・課題を明確にします。看護師の皆さんは患者さんとの対話を通して問題点・課題を掘り下げましょう。

たとえば「病院に入院してから感じた悩みはありますか」のように質問をして、患者さんが治療中の生活にどのような感情を持っているかを聞きます。患者さん自身が現状の問題点・課題を認識できるようにしてください。

【STEP3】目標を決める

現状の問題点・課題を解決するために、目標を決めます。目標の決定者は患者さん自身です。

患者さんによっては、「3か月で20kg痩せる」のように困難な目標を設定する可能性もあります。看護師は患者さんと対話をしながら、無理なく実現できる目標を設定できるように援助します。

【STEP4】課題解決のための計画を立てる

課題解決のために、患者さんがどのように行動すればよいかの計画を立てます。計画の立案者は患者さん自身です。

看護師は対話を通して、患者さんが計画を立てられるように援助します。たとえば「血糖値を下げる食事について何かアイデアはありますか」などの質問を行い、患者さんの考えを引き出しましょう。

患者さんから求められれば具体的な方法の提案も行うものの、提案を選択するかどうかは患者さんに委ねます。

【STEP5】行動の結果を評価する

計画に沿って実際に行動した結果を、患者さん自身に評価してもらいます。たとえば「新しい食事にチャレンジしてどうでしたか」のような質問を行って、患者さんに振り返りを促しましょう。

成功・失敗の判断基準による評価だけではなく、「行動によって患者さんがどのような気付きを得たか」も引き出すことが大切です。患者さんが得られた気付きを基に、ステップ1~4の見直し・改善をして、次の問題点や目標を設定します。

看護師なら押さえたい! エンパワメント以外に重要な言葉とは?

看護師 アドヒアランス

看護師として働く場合は、「アドヒアランス」の意味も押さえておきましょう。アドヒアランスとは、「医療従事者が提示する病気の治療方針を患者さんが理解し、患者さん自身の意思で遵守する」という概念です。

病気の治療を目的とした服薬や、療養を目的とした行動制限は、遵守されなければ症状の悪化を招く可能性があります。服薬や行動制限を患者さんに遵守してもらうためには、患者さんのアドヒアランスを高めることが重要です。

患者のアドヒアランスを高めるためのポイント

患者さんのアドヒアランスを高めるために、看護師の皆さんが意識するべき4つのポイントを紹介します。

  • 患者さんとの対話を行い、信頼関係の構築に努める
    治療方針に服薬や行動制限が含まれていることで、患者さんの生活には不便が生じています。患者さんが治療方針への不満を抱えたままにならないよう対話を行い、患者さんと看護師の間に信頼関係を構築しましょう。
  • 病気や怪我の情報を正しく伝える
    患者さんの中には病気や怪我を楽観的に捉えて、自己判断で服薬や行動制限をやめてしまうケースがあります。患者さんと家族に病気や怪我の情報を正しく伝えて、治療方針を納得してもらうことが大切です。
  • 患者さんに治療方針への関心を持ってもらう
    患者さんの治療方針への関心が薄いと、服薬の時間や用量を守らなかったり、行動制限の内容を忘れたりするケースがあります。病気や怪我の治療は患者さんが主体であることを理解してもらい、治療方針への関心を持ってもらいましょう。
  • 服薬や行動制限へのサポート体制を整える
    患者さんが遵守する治療方針の中には、服用する錠剤が大きすぎて嚥下しづらいなど、患者さんが遵守の継続を苦痛に感じるケースがあります。患者さんとの対話を通して治療方針への不満がないかを聞き出し、たとえば錠剤を粉末状にしておくなどのサポート体制を整えましょう。

患者さんのアドヒアランスを高めることで、患者さんが意欲的に病気や怪我の治療と向き合えるようになり、エンパワメントの成果も出しやすくなります。

まとめ

看護現場のエンパワメントは、患者さんが健康上の問題を自分の力で解決できるように、看護師が援助することです。紹介したエンパワメントの支援設計を活用して、患者さんが問題点を認識し、自発的に目標設定・行動計画・評価を行えるように援助しましょう。

エンパワメントを重視した看護師として働きたい方は、マイナビ看護師の利用がおすすめです。マイナビ看護師は看護師の求人情報が豊富で、看護職専門のキャリアアドバイザーによる転職サポートも受けられます。職場の情報をしっかりと把握したうえで応募を決められるマイナビ看護師にぜひご相談ください。

※当記事は2022年6月時点の情報をもとに作成しています

著者プロフィール