• 2023年4月11日
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エンパワーメントとは? 意味・メリット・推進のポイントも解説

 

エンパワーメント(エンパワメント)とは、一人ひとりが持つ本来の能力を十分に発揮できる環境や仕組みを実現することです。近年、企業における従業員の主体性の向上が求められる傾向にあり、エンパワーメントという考え方が注目されるようになりました。

一方で、エンパワーメントはビジネスだけでなく、さまざまなシーンで適用できる概念であるため、どのような意味かはっきり分からないという方もいるでしょう。この記事は、さまざまな分野でのエンパワーメントの意味などに加え、看護の現場で重視されていることなども解説します。

エンパワーメントとは?

エンパワーメント(エンパワメント)とは、組織に所属する一人ひとりが本来持つ能力や長所を存分に発揮できる環境や仕組みを実現することです。社会的制約や周囲からの抑圧により能力が制限されないことで、自発性・主体性の高まりや環境・感情のコントロールといった成長が期待できます。

ここでは、エンパワーメントの起源や注目されている背景、普及した理由を解説します。

エンパワーメントの起源

エンパワーメントという概念が広く知られるようになったのは、1970年代にアメリカで起こった公民権運動だといわれています。バーバラ・ソロモンによる著書『黒人のエンパワーメント』は、介護におけるエンパワーメントの重要性を説いた書として有名です。

同書ではエンパワーメントについて、マイナスイメージのある集団に所属しているために、力のない存在と見なされる状況を緩和するとしています。つまり、介護従事者が被介護者の可能性を決めつけるのではなく、本人が持つ本来の能力を引き出す助けとなり、自立を促すことが大切だという考え方です。

1980年代になると女性の権利獲得運動と連動して「社会的地位の向上」という意味でも、エンパワーメントの概念が用いられます。1990年代には日本にも伝わり、以降開発援助論や社会学、経営分野においても有用な考え方として使われるようになりました。

エンパワーメントが注目されている背景

ビジネスのグローバル化に伴い、ビジネスの進行スピードは以前と比べ物にならないくらい速くなりました。目まぐるしく変化する市場について行くためには、上層部のみで企業を動かしていたのでは間に合いません。エンパワーメントで現場に権限を持たせることにより、スピーディに状況を判断し問題を解決できるようになります。

また、早期に裁量権を持たせて経験を積ませることで、若手の早期育成や中途人材の早期適合が期待できる点も、注目が集まっている理由の1つです。

エンパワーメントが普及した理由

エンパワーメントが普及した理由として大きいのは、社会的に弱い立場にある人たちに対する意識の変化が挙げられるでしょう。

エンパワーメントでは、福祉や介護の対象となる人一人ひとりにも権利があり、ただ庇護されて憐れまれるだけの立場ではないとされます。環境さえ整えば個々の能力を十全に伸ばし、社会で活躍できるという考え方です。

また、エンパワーメントという言葉が持つ概念は多層的で、定義や対象もさまざまにあります。分野を問わず広く変換できることも、普及しやすかった理由です。

エンパワーメントの意味

エンパワーメントの意味

エンパワーメントは、公民権運動や女性の権利獲得運動などで使用されてきました。しかし時代が進むにつれ、ビジネスや介護・看護、福祉、教育現場など、さまざまな分野の施策に活用できるとして注目が高まっている言葉です。

ここでは、各分野におけるエンパワーメントの意味や考え方を解説します。

ビジネスにおけるエンパワーメント

ビジネスにおいては、エンパワーメントを「管理者が持つ権限の一部を従業員へ譲渡する」という意味で使用するのが一般的です。「すべての権限を上司が握り、常に指示が下されなければ部下が動けない」といった状況では部下の持つ能力が制限されるうえ、想定外の事態に対応しきれません。

ビジネスでのエンパワーメントは、「従業員の能力や業務内容に応じた権限を適切に委譲することにより、企業のパフォーマンスを高めよう」という考え方です。ただし、従業員の能力を超える権限を持たせた場合や適切な指導が伴わなかった場合、かえって現場が混乱するケースがあります。

介護・看護におけるエンパワーメント

介護・看護においては、エンパワーメントを「患者さんを主体にしたプロセスを構成する」という意味で使用するのが一般的です。以前の介護・看護業界では、医師や看護師さんが主体となって動くことで完全な受け身となる患者さんも多く、本人や家族の能力や意向が反映されにくいこともありました。

しかし本来、介護・看護における最大目標は、患者さんの身体的・心理的な独立です。そのためには患者さんが主体となり、自らの意思で治療に参加してもらう必要があります。正確な情報を提供したうえで十分にコミュニケーションを取り、患者さんの積極的な参加を促すのが介護・看護の現場では重要です。

福祉におけるエンパワーメント

福祉においては、エンパワーメントを「それぞれの得意分野を見つけて能力を伸ばす」という意味で使用するのが一般的です。福祉の対象となる人のなかには、障害を抱えている部分を除けば健常者と能力が変わらない、あるいは高い能力を有している人が少なくありません。

しかし障がい者を庇護すべき弱者として扱うことにより、人としての尊厳を傷つけるケースや本来の能力を発揮して活躍する場を奪うケースがあります。福祉の現場では、「苦手な分野や不足する能力を平均値まで引き上げる」のではなく、「本人が困っていることを援助しつつ長所を伸ばし、自信をつけてもらう」ことが大切です。
(出典:厚生労働省「身体障害者ケアガイドライン」

教育現場でのエンパワーメント

教育現場においては、エンパワーメントを「子どもの知識欲を刺激し、自発的に行動する力を伸ばす」という意味で使用するのが一般的です。学校の宿題やテストのためだけにする勉強は、子どものやる気を削いでしまうケースが少なくありません。

教育では、子どもの好奇心を否定せず、自ら気になったことを調べて考え、試行錯誤しながら成功と失敗を積み重ねることが大切です。「自ら選んで判断し、行動する力を助けることが、子どもの生きる力を育むことにつながる」というのが、教育現場におけるエンパワーメントの考え方とされます。

エンパワーメントの原則

エンパワーメントの原則

エンパワーメントを取り入れる際は、下記の8原則を押さえることが重要です。

エ ンパワメントの原則は、以下の8点である。

①目標を当事者が選択する。

②主導権と決定権を当事者が持つ。

③問題点と解決策を当事者が考える。

④新たな学びとより力をつける機会として、当事者が失敗や成功を分析する。

⑤行動変容のために内的な強化因子を当事者と支援者の両方で発見し、それを増強する。

⑥問題解決の過程に当事者の参加を促し、個人の責任を高める。

⑦問題解決の過程を支えるネットワークと資源を充実させる。

⑧当事者のより良い状態(目標達成やウェルビーイングなど)に対する意欲を高める。

(引用:福岡市社会福祉協議会「エンパワメントの理論と技術の活用」

看護の現場でエンパワーメントを実践する場合には、上記原則の「当事者」を「患者さん」に、「支援者」を「看護師」に置き換えて考えましょう。治療の目標や実際に取るべき行動を検討し、決定する主体は患者さんです。医師や看護師は、あくまでも必要な情報の提供や問題提起といった補佐をしつつ、患者さんの自主的な決断を援助する役割を果たします。

エンパワーメントを推進するメリット

エンパワーメントを推進するメリット

エンパワーメントの定義は分野によって微妙に異なりますが、推進することでもたらされるメリットには共通点があります。まずは企業がエンパワーメントを実践した際のメリットを知り、看護現場に取り入れることでどのような変化が起きるかを想像してみましょう。

ここでは、エンパワーメントを推進するメリットを3つ解説します。

スピーディに意思決定ができる

企業にエンパワーメントが導入されれば、さまざまなシーンでの意思決定が迅速に行われやすくなります。

現場には、イレギュラーな出来事がつきものです。予定外の顧客対応が必要になったときや突発的な事態が発生したときなど、通常はことあるごとに上司へ報告して判断を仰がなければなりません。しかし、「会議中で電話がつながらない」「入院中で指示を下せない」など、上司がすぐに反応できない場合は大幅な時間のロスが発生します。

エンパワーメントが行われていれば、急を要する案件にも部下が自らの判断で動くことが可能です。必要な瞬間に即座の対応ができるため無駄な時間が削減でき、仕事の効率も上がり成果を出しやすくなるでしょう。

主体性のあるスタッフを育成できる

エンパワーメントの実践により、部下が自分の考えで判断し行動できるようになれば、主体性のあるスタッフの育成が可能です。

権限を持って動くということは、自らが下した判断に責任が生じるということでもあります。すると必然的に、問題が起きた原因や遂行すべきプロセス、再発防止策などを考える機会も増え、トラブル時の判断力に加え仕事全体に対する理解が進む傾向です。

仕事への当事者意識も高まり責任感が増すと同時に、上司への不満が解消されることも多く、職場の環境もよくなるケースが少なくありません。

スタッフの能力向上につながる

エンパワーメントを推し進めることにより、スタッフの持つ潜在能力の発見や向上が見込めます。たとえば「相反する意見を調整して取りまとめるのがうまい」「状況の分析能力が高く緊急時にも冷静かつ適切に対応できる」といった能力が挙げられます。

スタッフの長所に応じて人員配置を的確に行えば、本来の実力をいかんなく発揮できるようになるでしょう。能力を正しく活かせば本人の成績も上がり、仕事へのやる気もアップし、結果的に企業全体の業績向上も期待できます。

エンパワーメントを推進するデメリット・注意点

エンパワーメントを推進するデメリット・注意点

エンパワーメントを上手に取り入れれば、スタッフの能力・実力が向上し、組織としての力もアップするなど、さまざまなメリットが得られます。しかし、エンパワーメントの扱い方によってはデメリットが生じるケースもあるため、リスクを知り対策を練っておくことが大切です。

ここでは、エンパワーメントを推進するデメリット・注意点を3つ解説します。

組織全体と個人の方向性が一致しないことがある

エンパワーメントの推進により個人の裁量が大きくなると、仕事にも個人の考えや価値観が反映されるようになり、指示や接客対応などにバラつきが出やすくなります。たとえば顧客対応で裁量権を持たせた場合、「電話1本でいつでも駆けつける人」と「営業時間外は対応しない人」に分かれる、といったことが挙げられます。

人や店舗によって顧客対応に差が出ると、企業としての信頼性が損なわれかねません。そのためエンパワーメントを進める際は、「どこまでならスタッフが自由に判断してよいか」「どのラインを超えたら上へ判断を仰ぐべきか」を明確にする必要があります。また、組織の方向性や行動指針を丁寧に説明し、共有することも大切です。

責任放棄となる恐れがある

エンパワーメントによる権限委譲は、「部下に裁量権を与える」ということであり、「責任ごと丸投げする」ということではありません。「権限はやるが損害が出たらお前のせいだ」といわれて、のびのびと自分らしく仕事ができるスタッフはいないでしょう。

権限を与えることにより部下が失敗して企業が損失・損害を被るケースもありますが、あくまでも責任の所在は上司や管理職です。エンパワーメントでは、部下の能力に見合ったレベルの権限を持たせつつ、ある程度の失敗は許容して成長を促すことが重要となります。

重圧を感じるスタッフもいる

スタッフによっては、「エンパワーメントのシステムが合わない人」がいることも、知っておきましょう。「指示通りに動くのは得意でも、自分で考えて動くのは苦手な人」や「計画を立てて行動するのが苦手な人」は、どの企業にもいます。また、「潜在能力は高くても、プレッシャーに弱い人」は珍しくありません。

エンパワーメントは、あくまでも企業の生産性を上げる手段の1つです。責任を負うことで萎縮する特性のあるスタッフに対し、無理に権限を委譲する必要性はありません。導入する際は、スタッフの適性を見極めて実行することが大切です。

エンパワーメントを高めるためのポイント

エンパワーメントを高めるためのポイント

エンパワーメントの推進にあたり、メリットを最大化し、デメリットを最小化したいという方は多いでしょう。エンパワーメントを高めるためには、スタッフが自ら考えて正しい判断を下せる環境を企業や上司が整えることが重要です。

ここでは、エンパワーメントを高めるためのポイントを4つ解説します。

組織内での情報共有を行う

エンパワーメントの効果を最大限に高めるためには、可能な限り組織内で情報公開し共有することが大切です。「人によって得られる情報に差がある」「把握する情報に偏りがある」といった場合、スタッフによって認識や判断にズレが生じます。

「権限を委譲された仕事の目的が何か」「何をどこまでやっていいか」を理解してもらうには、判断基準となる情報が必須です。委譲する権限の範囲や判断基準を明確化したうえで、常に報連相しやすい体制・組織づくりを徹底しましょう。

個人の判断を尊重する

エンパワーメントの導入から日が浅いうちは、意思決定までに想定外の時間がかかるケースや想定外のミスを犯すケースも出てくるでしょう。見ている側としては早々に手や口を出したくなるものですが、そこをぐっとこらえて許容する姿勢が重要です。

権限を委譲されたスタッフは、慣れない環境でこれまでにないプレッシャーを感じながら、最善を尽くすべく努力をしています。まずは個人の判断を尊重しつつ、上司はいつでもフォローに入れる体勢を整えながら適宜アシストしましょう。何度もトライアンドエラーを繰り返すことで、部下の判断力や決定力が養われます。

適切なフォローを行う

スタッフの判断を尊重するのは大切ですが、放置状態では組織の方向性と大きなズレが生じることや、取り返しのつかないミスを犯すことにつながりかねません。権限を委譲した後は定期的に仕事の進捗状況を確認し、環境を把握しておく必要があります。

スタッフが質問や相談をしやすい関係性を築けていれば、適切なフォローを入れることでトラブルへ発展する前に修正が可能です。フォローを入れる際も、答えを与えるのではなく問題解決に至るためのヒントを提示し、自ら考えて判断させればスタッフの成長が促進できます。

トラブルへの対処・対策に協力する

これまで大きなトラブルに対応したことのないスタッフの場合、有事の際に冷静かつ的確に対処できるとは限りません。トラブルが発生した場合でも、問題の原因や再発防止策をともに考えることで、よりエンパワーメントの効果が高まりやすくなります。

トラブルへの対処・対策に協力する際は、上司が解決策を指示するのではなく、スタッフが最適解を導き出せるようにアシストすると効果的です。ミスを犯したからといって相手を強く叱責すると、萎縮して能力を伸ばしづらくなります。エンパワーメントの効果が下がる恐れがあるため、避けましょう。

看護の現場で重視されているエンパワーメント

看護の現場で重視されているエンパワーメント

多くの分野・企業で実践が進んでいるエンパワーメントは、看護の現場でも存在感を増しています。現在の医療・看護の現場では、治療や健康増進についての主導権は患者さん自身にあるべきだという考え方が主流です。そして患者さんが自ら課題を見つけて目標を定め、行動に移すことで治療への意欲も高まり、健康上の問題を解決しやすくなるとされます。

看護師さんに求められるのは、患者さんが正しく行動を選択できるように必要な情報や支えとなるネットワークを提供することです。患者さんが抱える不安や疑念、不信感を取り払い、確かな情報に耳を傾けてもらう必要があります。看護師さんが患者さんとの間に信頼関係を築ければ、自己決定を促すサポートも行いやすくなるでしょう。

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まとめ

エンパワーメントは、ビジネス・看護・介護・福祉・教育などシーンによって少しずつ意味が異なります。医療・看護の現場でも患者さんが治療に対して主体的に意思決定することを促すエンパワーメントが重視されています。エンパワーメントを効果的に推進するためには、組織内での情報共有や適切なフォローを行いつつ、個人の判断を尊重することが大切です。

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※当記事は2023年3月時点の情報をもとに作成しています

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