• 2019年2月6日
  • 2023年12月27日

経口摂取に意欲的な42歳女性と、その食事介助に悩む夫

 

【問題】

Aさん(42歳、女性)は、2年前に筋萎縮性側索硬化症〈ALS〉(amyotrophic lateral sclerosis)の確定診断を受けた。夫(50歳)と長女(16歳)と自宅で過ごしている。Aさんは「なるべく口から食べるようにしたい」と話し、食事と併せて胃瘻から栄養剤の注入を行っている。要介護2の認定を受け、訪問看護および訪問介護を利用している。食事の介助を行う夫から、訪問看護師に「介助の方法が良くないのか、妻はうまく飲み込めていません」と相談の電話があった。

夫に対する訪問看護師の対応として最も適切なのはどれか。

  1. 「食事の介助に時間をかけましょう」
  2. 「胃瘻からの栄養量を増やしましょう」
  3. 「介助方法に問題があるかもしれません」
  4. 「嚥下食の宅配サービスを頼んでみましょう」
  5. 「飲み込みの状態に応じた食事を一緒に考えましょう」

【解答】

  1. 1.必要以上に時間をかけると、本人や家族が疲弊して逆効果になることもあります。その点を考慮して、時間をかけることで解決するのかどうか、実際の食事の様子を見てアセスメントする必要があります。
  2. 2.栄養状態の改善が必要ということでなければ、引き続きAさんの意向を尊重し、上手に経口摂取できる方法を検討していきます。
  3. 3.本当に介助の仕方に問題があったとしても、懸命に介護を行っている家族に対して、このような声かけは望ましくありません。否定する表現ではなく「○○という方法もありますよ」と提案するかたちにしましょう。
  4. 4.少しの工夫で飲み込み具合が変わる可能性は大いにあるので、まずは簡単にできることから試してみるのがよいでしょう。宅配サービスの利用には経済的な問題も絡むので、その点も考慮してアセスメントする必要があります。
  5. 5.飲み込み具合は、食事の内容や固さ、温度などの様々な要素で変化します。状況により柔軟な対応ができるよう相談に乗れば、家族も安心して介護を続けられるでしょう。

解説

「食」は「人を良くする」と書きます。口から食べることは、生命の維持に役立つだけでなく、生きる希望を見出したり明日への活力になったりと精神的に重要な意味をもたらします。Aさんの「なるべく口から食べるようにしたい」という思いは闘病生活を送る上でポジティブな側面であり、できるだけ尊重したいものです。ただし、その一方で介護する家族の負担も考えなくてはなりません。1日3回の食事をAさんが飲み込みやすいように工夫して準備することには多大な労力が伴います。家族の負担を抑え、継続しやすい方法を一緒に考えていくことが求められます。【状況設定問題】2016年 第105回 過去問題(午前115) 在宅看護論

現場ではこうする!

家族の「楽」を大切にしよう

Aさんの介護をしている50歳の夫と16歳の長女が「楽しめる方法」「少しでも楽できる方法」を提案できるとよいでしょう。例えば、飲み込みやすくておいしい料理を教えてくれる料理教室やセミナーなどのワークショップがあります。ここでは食材が軟らかくなるまで火を通す、とろみを付けるといった調理法の工夫を学ぶことができます。毎日の食事に少しの工夫をすることで、家族全員で一緒に食べられる料理ができるでしょう。また、家族介護をしているとどうしても閉鎖的な環境に陥りがちです。意識的に他者と接する機会を持つことで、介護者の気持ちが前向きになる効果も期待できます。料金の目安は1回当たり2000円前後で(区役所や地区センターで開かれるものはより安価なことも)、経済的な負担も比較的軽くて済みます。このようなコミュニティー情報を家族に提供するためには、ケアマネジャーと連携することが近道です。

香りの活用や嚥下体操の継続支援の工夫を

また、飲み込みを改善する工夫のひとつとしてブラックペッパーの香りを用いるというユニークな方法があります。ブラックペッパーの香りを嗅ぐことで脳の血流が増加し、嚥下反射や嚥下運動が改善するという研究報告があります。食べる前に嗅ぐだけなので簡単ですし、不快と感じなければAさんだけでなく家族も心地よい空間に包まれるでしょう。ブラックペッパーの精油であれば雑貨屋などで入手できますし、香りを染み込ませた介護用のアロマパッチという商品もあります。

もちろん、簡単な飲み込みの練習を1日1回から始めるというプランも看護的な提案です。頬を膨らませたり凹ませたり、大きく口を開いて舌を出したり引っ込めたりという嚥下体操を勧めましょう。嚥下体操の方法を視覚的に示したものを目に入りやすい場所に貼っておいてもよいでしょう。しかし、このような体操は継続して行うことが難しいものです。Aさんが好きな曲を流し、それに合わせて頬や口を動かすといった工夫を考えましょう。その際、実際に音楽をかけてもよいですし、余裕があるときはAさんの家族に歌ってもらうのもよいでしょう。歌うことで楽しい雰囲気になったり気分が前向きになったりすることもあるからです。

関係者の橋渡し役を担おう

食事するときのAさんの姿勢や食事介助の方法を実際に確認することは必須です。基本的な部分を見直して、改善できる部分があれば修正していきます。また、病状が進めば介護度の見直しも必要です。介護度が変わることで受けられるサービス内容も変わります。主治医やケアマネジャーと連携して現場に合った適切な介護が受けられるよう看護師が調整役を担っていきましょう。

家族へのねぎらいの声かけも大切です。飲み込みの不具合に気づき、次の訪問日を待つことなく電話相談をしてくるというのは、とても積極的で素晴らしい対応だといえます。その賞賛を言葉にして伝えてあげることで、家族が介護を続けていくエネルギーとなるでしょう。

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イラスト:シロシオ 「シロシオ イラスト&マンガポートフォリオサイト」

監修:医療法人鵬志会 別府病院 看護部長 行徳倫子

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