• 2025年5月18日
  • 2025年5月16日

腸ろうとは? 胃ろうとの違いやメリット・デメリットを分かりやすく解説

 

消化器系の障害や手術後など、口から十分な栄養を摂取できない状況では、経管栄養は体力や治癒力の維持に欠かせない選択肢となります。腸ろうは、小腸に直接アプローチして栄養を届ける方法であり、胃を経由できない患者さんにも対応しやすい点が特徴です。

記事では、腸ろうの基本的な仕組みやメリット・デメリット、胃ろうとの違いについて分かりやすく解説します。実際にケアを担う看護師が押さえておくべき注入速度の調整や口腔ケアのポイントにも触れているため、ぜひ参考にしてください。

■監修者
本多 洋介(新東京病院所属)

岡山大学医学部卒業 / 現在は新東京病院勤務 / 専門は整形外科、脊椎外科。

腸ろうとは?

腸ろうとは、お腹から小腸へと貫通する穴(ろう孔)を開けてカテーテルを通し、栄養を補給できるようにする方法です。口や胃を経由する栄養補給が困難な場合に行われる経管栄養法の1つに挙げられます。

経管栄養法とは、経口摂取が難しい患者さんに対して、カテーテルを通して栄養補給を行う方法のことです。経管栄養法には腸ろうのほかにも、「経鼻経管栄養」や「胃ろう」と呼ばれる方法があります。

胃を手術している方や、胃に進行がんがある方などの場合は、経鼻経管栄養や胃ろうのように胃を経由する栄養補給が行えません。腸ろうは胃を経由しないため、さまざまな事情で胃ろうを造れない方に適しています。また、誤嚥性肺炎を繰り返している人にも適しています。
(出典:厚生労働省「平成24年度 喀痰吸引等指導者講習事業(第三号研修指導者分)資料」

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腸ろうのメリット

腸ろうのメリット

腸ろうは、単に胃ろうの代わりに造られるわけではなく、さまざまなメリットもある経管栄養法です。腸ろうにかかわる看護師はより良いケアができるよう、腸ろうのメリットを把握しましょう。

以下では腸ろうの代表的なメリットを5つ解説します。

必要な栄養を安定的に摂取できる

嚥下障害がある方や、胃ろう造設ができない方は、経口や胃ろうによる栄養摂取が困難です。腸ろうは食道や胃を経由しない経管栄養法であるため、さまざまな事情で栄養摂取が難しい方も、必要な栄養を安定して摂取できます。

腸ろうは栄養剤を小腸に通すため、消化管の運動や消化液の分泌を促進するメリットもあります。消化管が働くことで腸管免疫が活発になり、全身免疫状態の改善も期待できるでしょう。

訓練次第では口からも食事できる

経管栄養法のなかには、鼻腔から胃や腸までカテーテルを通して栄養を補給する「経鼻経管栄養」があります。経鼻経管栄養は手術不要というメリットがあるものの、カテーテルが喉を通るため口からの食事はできないわけではありませんが、やりづらくなります。

対して、腸ろうや胃ろうはカテーテルが喉を通らない経管栄養法です。患者さんの訓練次第ではあるものの、腸ろうや胃ろうは口からの食事を併用しやすいメリットがあります。

患者さんが口から食事を取る喜びを感じることで、治療やリハビリに前向きになる効果が見込めます。

栄養剤の逆流の危険性が低い

腸ろうは小腸に栄養剤を注入する方法であり、栄養剤が逆流する危険性は低いとされています。栄養剤の逆流は、患者さんが逆流性食道炎(胸やけ)や嘔吐を起こす原因です。

胃ろうの場合は栄養剤を注入する部位が胃であり、胃内圧の上昇や胃食道逆流症などによる栄養剤の逆流に注意しなければなりません。

腸ろうが胃ろうよりも栄養剤の逆流が起こりにくい理由は、小腸が胃よりも奥に位置する臓器であるためです。

腸ろうは、患者さんが胸やけや嘔吐をせずに栄養を摂取しやすい方法といえます。

誤嚥性肺炎の予防につながる

栄養剤が逆流すると、患者さんが誤嚥性肺炎を発症するリスクがあります。腸ろうは栄養剤の逆流が起こりにくく、誤嚥性肺炎の予防につながる点もメリットです。

そもそも誤嚥性肺炎とは、食べ物などの誤嚥によって細菌が気管に入ったことで発症する肺炎です。誤嚥性肺炎は食べ物などが食道を逆流した場合でも起こる可能性があり、経管栄養法を行っている患者さんは注意する必要があります。

腸ろうは誤嚥性肺炎の予防につながるため、患者さんのリスクマネジメントができる方法です。

不快感や痛みが少なく生活しやすい

腸ろうは経鼻経管栄養と比較して、経管栄養に伴う不快感や痛みが少なく生活しやすい点がメリットです。

経鼻経管栄養では鼻腔や喉にカテーテルを通すため、生活するうえで不快感がある、痛みを感じるといった場面があります。カテーテルを固定するテープが剥がれないように、入浴や洗顔で不便さを感じることもあるでしょう。

一方、腸ろうは腹部に造設する方法であり、生活するうえで不快感や痛みを感じる場面は多くありません。カテーテルやろう孔周辺が水に濡れても問題ないため、入浴や洗顔も制限なく行えます洋服で隠れるため、生活が制限されにくく、また見た目を気にする方もストレスが軽減されます。

腸ろうのデメリット

腸ろうのデメリット

腸ろうは患者さんにとって多くのメリットがある一方で、いくつかのデメリットもあります。

看護師が腸ろうのケアや栄養管理を行うときは、以下で紹介する3つのデメリットに注意することが大切です。

病院でのカテーテルの交換が必要になる

腸ろうに使用するカテーテルは細く、管内の閉塞やカテーテルの汚染が発生することがあります。定期的にカテーテル交換をするために、病院への通院が必要になる点がデメリットです。

胃ろうの場合は、交換が比較的簡単な太いカテーテルを使用することが多く、自宅や介護施設でも交換できます。

しかし、腸ろう用の細いカテーテルは挿入に技術が必要であり、病院で交換してもらわなければなりません。カテーテルの閉塞や汚染予防のために、栄養剤投与後は白湯や酢水でフラッシュしましょう。また、定期的に挿入されているカテーテルの長さを観察し、適切に挿入されているか確認しましょう。

皮膚トラブルが起こる場合がある

腸ろう周りの皮膚は、腸液や栄養剤がろう孔から漏れることによる皮膚炎や、固定用テープやガーゼによるかぶれなどの皮膚トラブルが起こる場合があります。

患者さんの皮膚トラブルを防ぐには、看護師が腸ろうの管理をしっかりと行うことが大切です。ガーゼは小まめに交換し、腸液や栄養剤の漏出が見られる場合は医師に連絡して対処しましょう。

適切な口腔ケアが求められる

腸ろうによって栄養を摂取するときは口から食事を取る機会が減るものの、腸ろう中も口腔ケアは必要です。唾液の分泌量が減ると口腔内の自浄作用が低下するため、虫歯や歯周病になるリスクがあります。

口腔ケアの方法は通常の歯磨きと同じで、歯ブラシなどで口腔内の汚れを1日3回取り除きます。

なお、口腔を刺激することによる嘔吐や誤嚥を防ぐために、栄養剤注入後は口腔ケアを避けましょう。口腔ケアは患者さんの空腹時に行い、誤嚥が起こらないように座位であれば前かがみ、寝たきりであれば横向きの体勢を患者さんに取ってもらいます。

腸ろうと胃ろうの違い

腸ろうと胃ろうは、どちらも消化器にろう孔を造って経管により栄養摂取を行う方法であり、扱いに大きな違いはありません。

しかし腸ろうは胃ろうよりも栄養剤が逆流しにくく、使用するカテーテルが細いなど、栄養摂取のやり方や管理の点でいくつかの違いがあります。

特に看護師が注意したい違いは、栄養剤を注入する速度の違いです。

胃ろうにおける栄養剤の投与方法はボーラス投与・1時間投与・3~4時間投与などの種類があります。ボーラス投与は30分で300~500ml、1時間投与は1時間あたり300~500ml、3~4時間投与は1時間あたり80~100mlの速度で投与する方法です。
(出典:日本流動食協会「Ⅲ. 濃厚流動食の使用法」

対して、腸ろうによる栄養補給では、医師の指示に従ったうえで、最初は25ml/h程度の低速で始めましょう。誤嚥による中断がある、痙攣発作がある、発熱や炎症が見られる患者さんの場合は10ml/h程度の超低速で始めるときもあります。患者さんに負担がかからないように、様子を見ながら50ml/h程度に投与速度をゆっくりと上げてください。

経腸栄養に慣れ、患者さんが耐性を獲得した場合は、以後100ml/h程度まで少しずつ速度を上げることも可能です。通常、高齢の方は24時間ごとに緩やかに速度を上げていきます。

また、腸ろうは小腸に直接栄養剤を注入するため、投与速度が速いと患者さんが下痢を起こす可能性があります。看護師は患者さんの嘔吐だけでなく下痢にも注意して、投与速度の調整を行いましょう。
(出典:東京高輪病院「先進栄養療法の現場から学ぶ経腸栄養療法セミナー 最新トレンドと特別用途食品」

まとめ

腸ろうは、胃ろうと比べて逆流や誤嚥性肺炎のリスクが軽減され、不快感も少ない経管栄養法です。一方、細いカテーテルを用いるため病院での定期的な交換や皮膚周辺の管理を慎重に行う必要があります。また、腸ろうは胃ろうよりも栄養剤の注入速度を緩やかにする必要があるほか、下痢のリスクが起こりやすい点には注意しましょう。加えて、「経口摂取をしていなくても」もしくは「腸ろう使用時でも」でも適切な口腔ケアは欠かせません。

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腸ろうは、胃癌で胃を切除している方や、誤嚥性肺炎を繰り返している方に対して、非常に良い適応があるといえます。しかしその一方で、チューブが細いためつまりが起こりやすかったり、交換には病院での処置が必要となったりなどデメリットもあります。また腸ろうは栄養剤の吸収が胃ろうより早いため、血糖値の変動が起こりやすいというデメリットもあります。もともと糖尿病のある患者さんの場合は、腸ろうをはじめてやる時、栄養剤の量を増やす場合などは注意が必要です。また胃ろうより逆流が少ないですが、口腔内の分泌物や常在菌を誤嚥してしまうこともあり、完全に予防できるわけではありません。食事の機会が少なくなることにより、唾液の分泌が減ってしまうからです。こまめな口腔ケアはしっかり行うようにしましょう。

※当記事は2025年2月時点の情報をもとに作成しています

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