病棟勤務の看護師さんが抱えやすい「夜勤」に関する悩み。特に結婚、出産、育児でライフステージが大きく変化するときは、「夜勤のない職場に移ろうかな」と考える看護師さんは少なくないでしょう。
ただ、病棟からジョブチェンジすることで、求められるスキルやお給料、私生活などどう変化するのか不安ですよね。そこで看護師コミュニティ「ナースライフバランス研究室」協力のもと、現役訪問看護師さんに、病棟看護師から訪問看護師になって変わったこと、よかったことを伺いました!
今回、取材にご協力いただいた看護師さん

清水さん
・年齢:30代
・訪問看護師歴:1~5年
・訪問看護師になったきっかけ:病棟ではなく自宅で人生の最期をむかえる患者さんの看護にも興味を持ち始めたから。

・年齢:30代
・訪問看護師歴:1~5年
・訪問看護師になったきっかけ:学生時代から他人の生活に則した看護を提供する訪問看護に興味があった。病院勤務5年の節目で転職。

岩永さん
・年齢:20代
・訪問看護師歴:1~5年
・訪問看護を選んだ理由:学生時代に、地域で医療を展開する「地域包括ケアシステム」の構築が盛んに行なわれているのを知り、地域に根差した看護に携わりたいと思ったため。
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訪問看護師になって可処分時間は増えた?

可処分時間が増えるかどうかは、病棟からの転職を考える多くの看護師さんが気になるところ。また可処分時間が増えると、何ができるようになり、どんなメンタルの変化があるのでしょうか?
清水さん:私は、いまの職場に移ってから決まった時間に帰宅できるようになり、家族と一緒に過ごす時間が増えたので、可処分時間が増えたと感じています。
また、休みも土日で固定されているので、いままで予定が合わなかった土日休みの友人とも気軽にスケジュールが組めるようになりました。
山田さん:訪問看護師になってからは、夜勤明けのだるさや体調不良がなくなって、勤務後に動ける時間は増えたと思います。
また病棟時代は、夜勤以外のことを考えられる余裕がなかったので、入りと明けの日に仕事以外の予定を入れることは控えていました。
でも、訪問看護ステーションに移ってからは休みも勤務時間も原則固定になり、夜勤を気にする必要がなくなったので、心置きなく仕事以外の予定を入れられるようになりましたね。
岩永さん:僕は、勤務外ではなく“勤務中”の自由な時間が増えた気がします。
病棟では休憩する場所が固定され、受け持ち患者さんの対応が重なると思うように休憩できないことも。「過ごし方の選択肢が少ないな」と感じていました。
一方、訪問看護は利用者さんの家に移動する時間は比較的自由で有効に使えます。隙間時間の過ごし方の選択肢が広がりましたね。利用者さんからすすめられたお店にランチを食べに行くこともあり、休憩中にしっかり息抜きができていると感じます。
メンタル、フィジカル面はどう変わった?

病棟看護は夜勤によって生活リズムが乱れやすく、心身ともにしんどくなりがち……。夜勤がない訪問看護師になってから変化はあったでしょうか?
清水さん:夜勤があると睡眠時間が日によって変わるので、どうしても不規則になりがちでした。
でも訪問看護師になって、夜寝て、朝起きることの大切さを実感しました。おかげで心身ともに良い状態が保てています。
ただ、オンコールを担当する日は、利用者さんからの緊急連絡にすぐ対応しなければいけないので、帰宅していても少し緊張しますね。でも病棟と違って家で待機できる点は良いと思います。
山田さん:病棟に勤めていたころは、いつ急変するか分からない患者さんを看ていたので、常に全員ピリピリしている状態でした。家に帰ってもその緊張感は取れず、次第に肌がひどく荒れてしまって大変でしたね。
訪問看護師になってからも忙しい日はありますが、家で生活をできる方の看護はそこまで緊急性が高くありません。心に余裕もできて肌荒れも改善されました。
岩永さん:身体に関しては、少し体重が増えてしまいました(笑)。
病棟看護師は1日数万歩を越えるほど歩きますし、清潔ケアなどで立ったりしゃがんだりを繰り返すので、運動量はかなり多かったと思います。訪問看護は自転車移動はあるものの、利用者さんの自宅内での業務がメインなので、病棟時代よりも運動量が少なくなるのかなと。
ほかにも、しばしばオンコール対応が大変です。ただ土日にしっかり休めると分かっているので、それを活力に平日の仕事を頑張れるから、メリハリがある生活を送りやすいですね。
給与やお金の使い方は変化した?

可処分時間の確保や心身の健康と同じくらい、転職後の給与も気になります。訪問看護師の給与は、病棟時代より増えるのでしょうか?
また、夜勤明けはついテンションが高ぶり、浪費してしまうのが“病棟看護師あるある”でもあります。夜勤がない訪問看護師になることで、お金の使い方がどう変わるのかも気になります。
清水さん:働く時間が病棟時代より短いので、額面では減りましたね。もちろん給与が減ることに不安はありましたけど、私にとっては夜勤のない職場に転職することの方が重要でした。
訪問看護師になってからは、夜勤明けで気分が高揚したまま浪費することがなくなり、その分のお金も浮いたので、給与面で困ったことはありません。
山田さん:私も病棟時代と比べると給与は減りましたし、最初は減ったことへの抵抗がありました。
ただ夜勤明けや激務の疲れを癒すために一人旅をしてお金を散財することもなくなったので、生活レベルや満足度が低くなったとは感じませんね。
岩永さん:僕は、夜勤をまだ経験していない1年目のはじめに、病棟からオンコールがある訪問看護ステーションに転職したので、給与は上がりました。
オンコールありの訪問看護ステーションの給与相場は月30万円程度。
この額を若手の看護師がもらうには、月5回ほど夜勤をすることになるはずです。
僕の場合はレアケースですが、夜勤がなく生活リズムもある程度整った環境で病棟時代よりも高い給与がもらえているのは、嬉しいですね。
人間関係やコミュニケーションの取り方に変化はあった?

病棟では、その日の勤務メンバーによってモチベーションが左右されがちに。特に、これまでシフトが被らずコミュニケーションが取れていない職場のメンバーとの勤務は、気を遣いすぎてしまうものです。
こうした人間関係やコミュニケーションに関する悩みは、訪問看護師になったことで解消されたのでしょうか?
清水さん:少人数の訪問看護ステーションの場合は、ほぼ毎日同じメンバーと顔を合わせるので、病棟ほどコミュニケーションで苦労したことはありません。
病棟時代は、よく勤務表とにらめっこして一緒に勤務するメンバーを見ては一喜一憂していましたが、それはなくなりましたね。
山田さん:ICU時代では、一瞬の判断や行動が患者さんの生死に関わるので、常に緊張の糸が張り巡らされていました。そういう環境下だったので、普段は優しい人でも業務になったらキツイ言葉遣いになってしまう人もいたんです。
でも、病院よりも急変の可能性は少ないので、個人的には心理的に楽になりました。周りもピリピリした雰囲気が少ない印象です。きっと自分も周りも病棟時代より心に余裕が持てているので、人に優しくなれていると思います。
岩永さん:訪問看護ステーションは、基本的に病院よりも小さい組織であることが多いので、せまく深い関係になりやすいです。
先輩や上司と同行訪問をする日は、移動中に他愛ない話ができるので、1人で動き回ることが多い病棟よりもコミュニケーションは取りやすいと思います。
病棟看護と訪問看護の違いは?

病棟と在宅では、患者さんの状態や看護の仕方、求められるスキル、設定するゴールはどのように変わるのでしょうか?
清水さん:病棟看護は「退院して入院前の生活に戻ること」が目標であり、それに則してアセスメントをしていました。
一方、訪問看護は「利用者さんのいままでの生活を維持・継続させること」が目標のひとつ。
そのために病棟看護のときよりも利用者さんの話をより深く聞くことが大事なんです。利用者さんの考えを尊重しながら、彼らの生活に合わせた最適な看護を提供する知識や技術が必要になると思います。
山田さん:超急性期の患者さんを受け持ったときは、即時即決を求められることがありました。
でも訪問看護では、緊急を要する利用者さんはほぼいません。困ったことがあっても上司や先輩に相談する時間はありますし、ゆっくり考えられるんです。
病棟と違って、もし利用者さんが急変しても救急車を呼んで大きな病院に治療を託せるので、仕事上の心理的ハードルは低いのかなと感じますね。
岩永さん:看護師、あるいは一人間として単独でも患者さんと家族に満足してもらえるような“総合的なスキル”が求められると思います。病棟では先輩や上司が近くにいることが多いのですぐに頼れますが、訪問看護ではそれぞれ利用者さんの家に訪問しているため、簡単に頼ることはできません。
とは言っても、スマホやタブレットで簡単に連携が取れるので、不便さは感じないですね。
訪問看護の良いところは?

最後に清水さん、山田さん、岩永さんが考える、訪問看護の良いところを伺いました。
清水さん:訪問看護は病棟よりも自分のペースで働ける点が良いと思います。病棟時代は、休憩時間以外にコーヒーブレイクのようなちょっとした休息が取れませんでした。
いまの職場にはリフレッシュできる空間があるので、仕事中にオンオフの切り替えがしやすいんです。心の余裕もできてすごく働きやすいと感じています。
山田さん:さまざまな勤務形態の事業所があるので、自分のライフスタイルに合ったところを見つけやすいのが訪問看護の良いところですね。
仕事の面では、十人十色な患者さんの生活やバックボーンに興味がもてるようになると、看護の幅も広がって楽しくなるはずです。私は利用者さんから昔話を聞くのがすごく好きで、そういう時間を過ごしているときに、訪問看護に転職して良かったなと思います。
岩永さん:看護師の学校で学ぶ「その人が“その人らしく生きる”ために必要な看護」、いわゆる看護の原点に近いものを実践・提供できるのは訪問看護ではないでしょうか。そういう看護を志す人にとっては、すごく良い仕事だと思います。
セカンドキャリアに訪問看護という選択もあり!
看護師として働き続けるためには、いまの自分のライフステージにあった働き方を選択することも大切です。自分にとって無理のない働き方を探している人は、訪問看護を視野に入れてみてはいかがでしょうか?
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企画・取材:内山直弥(TAC企画)、編集:藤田佳奈美(同)