特定行為看護師になるには
  • 2024年5月18日
  • 2025年1月17日

特定行為看護師とは? 研修制度となり方について解説

 

特定行為研修を修了することで、看護師は医師の指示を待たずに手順書に基づいて高度な医療行為を行えるようになります。日本の医療現場では、超高齢化や医師不足といった課題が深刻化しており、特定行為看護師の役割がますます重要視されています。

この記事では、特定行為看護師の概要や必要な研修、取得するメリットなどをわかりやすく解説します。看護師としてスキルアップをめざす方は、ぜひ参考にしてください。

特定行為看護師とは

特定行為看護師とは、医師の指示を待たずに特定行為を実践できる看護師のことです。2015年10月に厚生労働省が施行した「特定行為に係る看護師の研修制度(通称:特定行為研修)」に基づいています。

特定行為には21区分38行為が含まれており、看護師は必要な研修を修了することで該当する特定行為を実施する資格が認められます。特定行為研修の修了者数は年々増加しており、2023年時点で6,875名です。

参照元:厚生労働省「特定行為研修制度の現状及び推進策の推進状況等について」

特定行為の種類一覧

特定行為の21区分38行為は以下のとおりです。

特定行為区分の名称 特定行為
呼吸器(気道確保に係るもの)関連 経口用気管チューブ又は経鼻用気管チューブの位置の調整
呼吸器(人工呼吸療法に係るもの)関連 侵襲的陽圧換気の設定の変更
非侵襲的陽圧換気の設定の変更
人工呼吸管理がなされている者に対する鎮静薬の投与量の調整
人工呼吸器からの離脱
呼吸器(長期呼吸療法に係るもの)関連 気管カニューレの交換
循環器関連 一時的ペースメーカの操作及び管理
一時的ペースメーカリードの抜去
経皮的心肺補助装置の操作及び管理
大動脈内バルーンパンピングからの離脱を行うときの補助の頻度の調整
心嚢のうドレーン管理関連 心 嚢のう ドレーンの抜去
胸腔ドレーン管理関連 低圧胸腔内持続吸引器の吸引圧の設定及びその変更
胸腔ドレーンの抜去
腹腔ドレーン管理関連 腹腔ドレーンの抜去(腹腔内に留置された 穿せん 刺針の抜針を含む。)
ろう孔管理関連 胃ろうカテーテル若しくは腸ろうカテーテル又は胃ろうボタンの交換
膀胱ろうカテーテルの交換
栄養に係るカテーテル管理(中心静脈カテーテル管理)関連 中心静脈カテーテルの抜去
栄養に係るカテーテル管理(末梢留置型中心静脈注射用カテーテル管理)関連 末梢留置型中心静脈注射用カテーテルの挿入
創傷管理関連 褥じょく 瘡そう 又は慢性創傷の治療における血流のない壊死組織の除去
創傷に対する陰圧閉鎖療法
創部ドレーン管理関連 創部ドレーンの抜去
動脈血液ガス分析関連 直接動脈 穿せん 刺法による採血
橈とう 骨動脈ラインの確保
透析管理関連 急性血液浄化療法における血液透析器又は血液透析 濾ろ 過器の操作及び管理
栄養及び水分管理に係る薬剤投与関連 持続点滴中の高カロリー輸液の投与量の調整
脱水症状に対する輸液による補正
感染に係る薬剤投与関連 感染徴候がある者に対する薬剤の臨時の投与
血糖コントロールに係る薬剤投与関連 インスリンの投与量の調整
術後疼とう痛管理関連 硬膜外カテーテルによる鎮痛剤の投与及び投与量の調整
循環動態に係る薬剤投与関連 持続点滴中のカテコラミンの投与量の調整
持続点滴中のナトリウム、カリウム又はクロールの投与量の調整
持続点滴中の降圧剤の投与量の調整
持続点滴中の糖質輸液又は電解質輸液の投与量の調整
持続点滴中の利尿剤の投与量の調整
精神及び神経症状に係る薬剤投与関連 抗けいれん剤の臨時の投与
抗精神病薬の臨時の投与
抗不安薬の臨時の投与
皮膚損傷に係る薬剤投与関連 抗癌剤その他の薬剤が血管外に漏出したときのステロイド薬の局所注射及び投与量の調整

特定行為は21区分ごとに研修があります。2023年時点では、「栄養及び水分管理に係る薬剤投与関連」の研修を終了した看護師が最も多く、6,875名中5,611名でした。

参照元:
厚生労働省「特定行為とは」
厚生労働省「特定行為区分とは」
厚生労働省「特定行為研修制度の現状及び推進策の推進状況等について」

認定看護師・専門看護師・診療看護師(NP)との違い

看護師のキャリア展開には特定行為看護師のほかに、認定看護師・専門看護師・診療看護師(NP)があります。それぞれの違いを知っておきましょう。

認定看護師

認定看護師とは、「特定の看護分野において熟練した看護技術や知識を用いて、水準の高い看護を実践できる」と、日本看護協会から認定を受けた看護師のことです。

認定看護師になるには、実務研修が通算5年以上(うち3年以上は認定看護分野の実務研修)が必要です。認定看護師教育を修了し、認定看護師認定審査に合格することで資格を取得できます。

参照元:日本看護協会「認定看護師」

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認定看護師とは? 役割や分野・資格取得の条件を丁寧に解説

専門看護師

専門看護師とは、「特定の専門看護分野において、卓越した看護実践能力を有する」と、日本看護協会から認定を受けた看護師のことです。

専門看護師になるには、「看護系大学院において専門看護師教育課程を修了している」「実務研修が通算5年以上(うち3年以上は専門看護分野の実務研修)」といった、2つの条件をクリアする必要があります。そして、認定審査(書類審査・筆記試験)を受けて合格したら、専門看護師認定登録を行います。なお、5年ごとに更新が必要です。

参照元:日本看護協会「専門看護師」

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専門看護師とは? 資格取得の条件・メリット・認定看護師との違い

診療看護師(NP)

診療看護師(Nurse Practitioner:NP)は、日本NP教育大学院協議会による認定資格です。患者さんのQOL向上のために、多職種と連携・協働し、倫理的かつ科学的根拠に基づき、一定レベルの診療を行える看護師を指します。

診療看護師(NP)になるには、実務経験が通算5年以上必要です。日本NP教育大学院協議会が認める大学院修士課程のNP養成コースを修了し、NP資格認定試験に合格することで資格を取得できます。なお、5年ごとに更新が必要です。

参照元:日本NP教育大学院協議会「診療看護師(NP)とは」

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診療看護師(NP)とは? 役割・給料・なり方・求められるスキルを紹介

特定行為看護師になるには

特定行為看護師になるには、特定行為研修を修了する必要があります。

特定行為研修の受講資格は、看護師免許を有していることです。
厚生労働省では、特定行為研修の受講者として3~5年以上の実務経験を有する看護師を想定していますが、経験年数は絶対条件ではありません。看護師の資格を保有している人であれば、受講資格があります。

学習する内容と研修時間

特定行為研修には共通科目と区分別科目があり、それぞれ研修時間が定められています。

共通科目

科目 時間
臨床病態生理学 30時間
臨床推論 45時間
フィジカルアセスメント 45時間
臨床薬理学 45時間
疾病・臨床病態概論 30時間
医療安全学 10時間
特定行為実践 45時間

区分別科目

科目 時間
呼吸器(気道確保に係るもの)関連 9時間
呼吸器(人工呼吸療法に係るもの)関連 29時間
呼吸器(長期呼吸療法に係るもの)関連 8時間
循環器関連 20時間
心嚢のうドレーン管理関連 8時間
胸腔ドレーン管理関連 13時間
腹腔ドレーン管理関連 8時間
ろう孔管理関連 22時間
栄養に係るカテーテル管理(中心静脈カテーテル管理)関連 7時間
栄養に係るカテーテル管理(末梢留置型中心静脈注射用カテーテル管理)関連 8時間
創傷管理関連 34時間
創部ドレーン管理関連 5時間
動脈血液ガス分析関連 13時間
透析管理関連 11時間
栄養及び水分管理に係る薬剤投与関連 16時間
感染に係る薬剤投与関連 29時間
血糖コントロールに係る薬剤投与関連 16時間
術後疼とう痛管理関連 8時間
循環動態に係る薬剤投与関連 28時間
精神及び神経症状に係る薬剤投与関連 26時間
皮膚損傷に係る薬剤投与関連 17時間

参照元:厚生労働省「特定行為研修とは」

研修施設

特定行為研修は、指定研修機関で実施されます。研修機関によって実施されている科目が異なるので、受講予定の方はしっかりと確認しておきましょう。

研修施設は、2023年8月時点で全国に373機関あります。また、実施頻度が高いと想定される特定行為をまとめた「領域別パッケージ研修」を行っている機関は、2023年2月時点で193機関です。

参照元:
厚生労働省「【特定行為に係る看護師の研修制度】指定研修機関について」
厚生労働省「特定行為研修制度の現状及び推進策の推進状況等について」

かかる費用と支援制度

費用は研修機関や区分別科目によって異なり、30万~250万円ほどかかります。受講予定の方は、研修機関の募集要項を確認しましょう。

なお、特定行為研修には支援制度があります。

教育訓練給付

一定の要件を満たした雇用保険の被保険者、または被保険者でなくなってから1年以内の方が、受講費用の4割(上限20万円)を受給できる制度です。

人材開発支援助成金

事業主が雇用者に対して、職務に関連した専門的な知識や技能を習得をさせるための職業訓練等を計画的に実施した場合に、受講費用や受講期間中の賃金の一部を助成する制度です。

地域医療介護総合確保基金

いくつかの都道府県では、地域医療介護総合確保基金を活用して、受講生やその受講生が所属する施設に対して、受講料や代替職員雇用の費用といった支援を行っています。

参照元:厚生労働省「これからの医療を支える 「看護師の特定行為研修」」

特定行為看護師になる3つのメリット

ここでは、特定行為看護師になるメリットを3つ紹介します。

1.医師の指示を待たずに処置ができる

特定行為看護師は、医師の指示を待たずに、事前に定められた手順書に基づいて迅速に処置を行うことが可能です。タイムリーな処置により、患者さんの苦痛を軽減するだけでなく、処置の遅れによる重症化のリスクを減らす効果が期待できます。

また、医師の負担が軽減されることで、治療全体の効率化が図られ、医療チーム全体にとっても大きなメリットとなります。特に医師不足や高齢化の問題がある現代において、特定行為看護師は欠かせない存在です。

2.業務の幅が広がる

特定行為研修を修了することで、看護師は業務の幅を大きく広げることができます。特定行為の実施においては、事前に定められた手順書に従う必要がありますが、自らの判断で処置を行うことが可能です。特定行為看護師になることで高度な医療処置や診療補助を担当する機会が増え、専門性を活かした働き方ができるでしょう。

なお、特定行為看護師が求められる職場は、病院だけではありません。特に訪問看護ステーションや介護福祉施設など、患者さん・利用者さんのニーズに応じた柔軟な対応が求められる現場で、特定行為看護師の活躍が期待されています。

3.給料アップが期待できる

特定行為看護師は、高い専門性とスキルを持つことから、給与面での優遇が期待できます。多くの医療機関では、特定行為看護師に資格手当が支給されたり、基本給が一般看護師より高く設定されたりしています。また、特定行為看護師として経験を積み、そのスキルを実績として示すことで、さらなる昇給の可能性も広がるでしょう。

特定行為看護師の社会的需要は年々高まっており、厚生労働省も2025年までに約10万人以上の特定行為看護師を育成する目標を掲げています。これに伴い、職場環境や給与体系の改善が進むことが見込まれます。医療現場で欠かせない存在としての価値が評価されるため、安定した高待遇が期待できるでしょう。

特定行為看護師が必要とされている背景

特定行為看護師が必要とされる背景には、日本が抱える医療現場の課題があります。日本は超高齢社会に突入し、高齢者人口の増加に伴い医療ニーズが拡大しています。しかし、医師や看護師の人手不足や病床数削減が進み、限られた医療資源の中で効率的な医療提供が求められているのが現状です。

こうした状況を解決するため、多職種が連携する「チーム医療」の重要性が増しています。その中で特定行為看護師は、医師があらかじめ用意した「手順書」に基づき、高度な診療補助を行う役割を担います。特定行為看護師がいることで、医師の到着を待たずに患者さんの症状に応じた迅速かつ適切な処置が可能となり、症状の悪化を防げるのです。

また、医療現場全体の効率化を進めるとともに、医師の負担軽減にもつながるため、特定行為看護師の存在は患者さんと医療提供者双方にとって大きなメリットがあります。

現代の医療の課題に対応するため、特定行為看護師が必要とされているのです。

まとめ

特定行為看護師は、在宅医療の推進のほか医師の働き方改革に伴うタスク・シフト/タスク・シェアの推進を担う役割として期待されています。今後、特定行為看護師のニーズはさらに高まると予想されており、活躍の場は広がるでしょう。

特定行為看護師になるには、時間と費用がかかります。しかし、特定行為看護師になることで、キャリアアップや給与アップが叶う可能性も。スキルアップしたい分野がある方は、特定行為研修の受講を検討されてみてはいかがでしょうか。

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