何らかの事故や病気で倒れている方に救命処置を行うのは、決して医療従事者だけではありません。街中を歩いているときに傷病者を見かけたら、「バイスタンダー」として応急処置・一次救命処置を実施する必要があります。
バイスタンダーとは、急病人の発生に際して救急現場に居合わせた方のことです。医療従事者以外の一般市民がバイスタンダーとなるケースもあれば、患者さんの急変や緊急事態が発生しやすい医療機関においては看護師もバイスタンダーとして対応するケースも多々あるでしょう。
そこで今回は、バイスタンダーの概要や役割・重要性から、救命率への影響、基本的な手順、事例まで詳しく説明します。バイスタンダーとして最善の行動をとるための具体的な知識を習得したいという方は、ぜひご一読ください。
バイスタンダーとは?
バイスタンダーとは、傷病者が発生した際、その場に居合わせた方のことです。
家族が突然苦しみ始めた・街中で倒れている方を見かけた・職場で社員が倒れたなど、さまざまなケースでバイスタンダーになる可能性があります。このときバイスタンダーは、ただ119番通報をするだけでなく、適切な応急手当・救命処置を行わなければなりません。
バイスタンダーは英語で「bystander」と書き、直訳すると「傍観者」を指します。しかし、事故でけがをした方や病気で倒れている方に対して、ただ見ているだけとなるか救命処置を行うかによって、傷病者の今後が左右されるといわれています。
バイスタンダーの役割と重要性
バイスタンダーの主な役割は、救急隊員が到着するまでの応急・救命手当の実施です。基本的に、119番通報から救急車が現場に到着するまでには数分~15分程度の時間がかかります。この間に傷病者の発見者であるバイスタンダーが適切な応急処置を施すことによって、傷病者の命や今後が大きく変わることもあります。
具体的な役割としては、傷病者の心停止の早期認識と119番通報、さらに一次救命処置が挙げられます。意識のない方や倒れている方を見かけたとき、まずは心停止ではないかの確認と119番通報を同時に行い、救急隊が到着するまでの数分間でAEDなどによる一次救命処置を行うことが基本です。
なお、一次救命処置とは呼吸停止・心停止傷病者に対する応急処置(CPR)であり、医療従事者ではない一般人でも実施できる処置となります。医師や救急救命士、看護師などが行える高度な応急処置は、二次救命処置です。
二次救命処置では、胸骨圧迫(心臓マッサージ)や人工呼吸、気道確保といった基本的な心肺蘇生法の実施に加え、気管挿管や薬物投与など専門器具や薬品を用いた処置を行います。看護師をはじめとした医療従事者にとっては、不可欠な知識・技術といえるでしょう。
バイスタンダーの行動が救命率に与える影響
前述の通り、バイスタンダーが適切に救命処置を行えるかどうかによって、傷病者の蘇生率・生存率・社会復帰率が大きく左右されます。
「カーラーの救命曲線」という、心肺停止や多量出血などの緊急事態からの時間経過が人体に与える影響を示したデータによると、各ケースにおいて死亡率が50%を迎える経過時間は下記の通りとなっていました。
【ケース別】死亡率が50%を迎える経過時間 |
---|
|
119番通報から救急隊が現場に到着するまでには、10分ほどかかる可能性があります。このように、バイスタンダーによる応急処置は傷病者の命を救うため、そして社会復帰率を上げるためにも重要な行為といえるでしょう。
日本ACLS協会ガイドでは、バイスタンダーによる心肺蘇生が行われたケースと行われなかったケースそれぞれの生存率・社会復帰率を公表しています。
1か月後の生存率 | 1か月後の社会復帰率 | |
---|---|---|
心肺蘇生が行われなかったケース | 8.2% | 3.8% |
心肺蘇生が行われたケース | 15.2% | 10.2% |
バイスタンダーの救命処置の基本的な手順
急病人発生の状況に置かれたときは、大切な命を救うためにも、適切な手当を素早く実施しなければなりません。バイスタンダーとして慌てずに一次救命処置を行えるよう、あらかじめその流れと基本的な手順を把握しておくことが大切です。
そこで次に、急病人が発生したときの救命処置の基本的な手順を紹介します。
STEP(1) |
|
---|---|
STEP(2) |
|
STEP(3) |
|
STEP(4) |
|
救急処置の実施スキルを高めるためには、基本手順を把握しておくほか、消防本部・消防局が一般市民向けに実施する「救命講習」の受講も一案です。救命講習修了者は、講習後の修了テストに合格すれば資格を取得できます。
バイスタンダーが救命処置を行う際の注意点
バイスタンダーが傷病者に対して一次救命処置を行う場合は、下記2つの点に注意しておきましょう。
●人工呼吸をするときは専用のマスクを使用する
バイスタンダーが傷病者に人工呼吸を行う場合は、可能な限り専用マスクを使用しましょう。双方のいずれかが感染症に罹患している場合は、相手への感染が懸念されるためです。なお、人工呼吸用のマスクがなかった場合は、救急隊に急病人を引き継いだのち、速やかに接触部分の洗浄・消毒を行いましょう。
●手袋やガーゼを使用する(患部に直接触れない)
傷病者が出血している場合は、患部に直接触れると傷口からウイルスや細菌が侵入することによって、感染症リスクが高まります。したがって、可能な限り手袋の装着とガーゼでの患部圧迫(止血)を実施しましょう。
なお、人工呼吸用のマスクや感染防止のための手袋や不織布、ガーゼは、基本的にAEDケースに入っています。とはいえ、口対口の人工呼吸などによる感染症リスクは比較的低いといわれているため、AEDの到着が遅くなると見込まれた場合で、救助者に意思がある場合は、そのまま速やかに一次救命処置を行うことを優先しましょう。
バイスタンダーによる救命処置の事例
バイスタンダーの救命処置によって救われた命は、数多くあります。最後に、バイスタンダーによる救命処置の事例を2つ紹介します。
【事例1】家族の心肺蘇生により救命した事例 |
---|
父親が息子に胸の苦しさを訴えた直後意識不明となり、間もなく呼吸と脈が感じられなくなりました。息子はすぐさま119番通報をし、救急隊が到着するまでにテレビで見たことのある記憶を参考に胸骨圧迫を続けます。その後到着した救急隊によって除細動が実施され、その場で呼吸と脈が回復しました。 |
【事例2】スイミング指導員の心肺蘇生により救命した事例 |
---|
10代の女性がスイミングスクールで水泳練習をした直後に突然意識不明となり、呼吸と脈も感じられなくなりました。発見した4名の指導員が119番通報・心肺蘇生・AED手配などと役割を分担し、救急隊が到着するまでAEDによる電気ショックを含む一次救命処置を行います。救急隊の到着時に呼吸と脈が再開し、搬送中の救急車内では会話できるようになるまで回復しました。 |
1つめの事例のように、たとえ救命処置の知識を深く習得していない方でも、ドラマや映画などで誰もが見たことのあるシーンを参考に胸骨圧迫を実施すれば、命を救える可能性があります。また、2つめの事例のように、数人の協力者とともに一次救命処置を行うことによって、さらに早い段階での回復が期待できるでしょう。
まとめ
バイスタンダー(bystander)とは、直訳すると「傍観者」のことで、救命においては「急病人発生時、その場に居合わせた方」を指します。主な役割は救急隊到着までの応急処置であり、心停止の早期認識や119番通報、さらに一次救命処置の実施が求められます。
医療機関では、患者さんが急変する可能性も低くなく、看護師がバイスタンダーとなるケースもあるでしょう。看護師が医療機関でバイスタンダーとなった場合は、一次救命処置に加えて二次救命処置の実施やサポートも行う必要があります。落ち着いて対処するためにも、基本的な手順や知識をしっかりとおさえておきましょう。
看護師求人サイト「マイナビ看護師」では、二次救命処置の知識も学べる医療機関の求人情報を豊富に掲載しています。業界に精通したキャリアアドバイザーによる転職サポートサービスも提供しているため、転職活動が不安な看護師さんはぜひ一度お気軽にご相談ください。
※当記事は2023年7月時点の情報をもとに作成しています