• 2023年4月7日
  • 2023年5月1日

治験の実施において守るべき「GCP」とは? ルールの詳細を解説

 

治験に関わる看護師として働きたい方、治験コーディネーター(CRC)としての転職を考えている看護師さんが知っておきたいルールに「GCP(医薬品の臨床試験の実施の基準に関する省令)」があります。治験データの捏造などの不正を防ぐために、事前の届け出や審査、治験状況の確認といったルールを定めたGCPは、治験に関わる誰もが守らなければならない省令です。

この記事ではGCPの策定に至る歴史的背景や、GCPの主要なルールについて解説します。また、治験に携わろうとする看護師さんにおすすめの取り組みを紹介します。

GCPとは?

製薬会社や病院、医師が治験を実施するときに守るべきルールとして、GCPがあります。

GCPとは「Good Clinical Practice」の略で、「医薬品の臨床試験の実施の基準に関する省令」を意味します。治験が適正かつ参加者の人権を守りつつ実施されるように、国が薬機法にもとづいて定めた規則です。

たとえば治験を実施するときには、事前に概要を書面で届け出て、参加者の同意を得る必要があります。重大な副作用が発見された場合の報告も、法的に定められた義務の1つです。

治験は、多くの国や地域で行われています。日本で用いられているGCPは、国際的に内容が認められた規則です。
(出典:厚生労働省「2.治験のルール『GCP』」

日本におけるGCPの歴史

GCPの歴史のはじまりは、1989年に厚生労働省が通知した「医薬品の臨床試験の実施に関する基準について(通知)」(薬発第874号)です。1982年に治験データを一部捏造する事件が発生したことを機に、専門家による方策の検討が行われた結果、策定されました。

1989年に通知された方策は現在、旧GCPと呼ばれています。当時はあくまで通知にすぎず、法的拘束力がなかったため、治験データの改ざんや隠ぺい、同意のない実施などが後を絶ちませんでした。
(出典:国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)「わが国の治験・臨床試験の規制:GCPの歴史とその結果得られたもの」

国内の治験トラブル多発と前後して、1992年ごろから日・米・EU医薬品規制調和国際会議にて、治験に関するガイドライン策定が検討されるようになりました。

検討の末に合意に至った国際的ルールが、E6ガイドラインとも呼ばれるICH-GCPです。ICH-GCPの基本を国内に取り入れ、法制化した結果、1997年に厚生省令第28号のGCP省令が誕生しました。
(出典:国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)「臨床試験の実施の基準(GCP)」

治験のルール「GCP」の内容

治験のルール「GCP」の内容

GCPでは、治験の流れに沿ってルールが定められています。
(出典:厚生労働省「2.治験のルール『GCP』」

治験を実施した医療機関がGCPに違反した場合、治験依頼者はただちに治験を中止し、契約を解除しなければなりません。また、治験参加者に生じた健康被害の補償を行うことも義務付けられています。

十五条の九 自ら治験を実施しようとする者は、あらかじめ、治験に係る被験者に生じた健康被害(受託者の業務により生じたものを含む。)の補償のために、保険契約の締結その他の必要な措置を講じておかなければならない。

第二十四条 治験依頼者は、実施医療機関がこの省令、治験実施計画書又は治験の契約に違反することにより適正な治験に支障を及ぼしたと認める場合(第四十六条に規定する場合を除く。)には、当該実施医療機関との治験の契約を解除し、当該実施医療機関における治験を中止しなければならない。

(引用:e-gov法令検索「医薬品の臨床試験の実施の基準に関する省令(平成九年厚生省令第二十八号)」

GCPで定められているルールのうち、代表的なものを解説します。

治験内容の届け出

薬機法では、治験内容の届出義務が明記されています。届出の義務が発生するのは治験を依頼する側であり、主に製薬会社が該当します。

八十条の二

2 治験(薬物、機械器具等又は人若しくは動物の細胞に培養その他の加工を施したもの若しくは人若しくは動物の細胞に導入され、これらの体内で発現する遺伝子を含有するもの(以下この条から第八十条の四まで及び第八十三条第一項において「薬物等」という。)であつて、厚生労働省令で定めるものを対象とするものに限る。以下この項において同じ。)の依頼をしようとする者又は自ら治験を実施しようとする者は、あらかじめ、厚生労働省令で定めるところにより、厚生労働大臣に治験の計画を届け出なければならない。ただし、当該治験の対象とされる薬物等を使用することが緊急やむを得ない場合として厚生労働省令で定める場合には、当該治験を開始した日から三十日以内に、厚生労働省令で定めるところにより、厚生労働大臣に治験の計画を届け出たときは、この限りでない。

3 前項本文の規定による届出をした者(当該届出に係る治験の対象とされる薬物等につき初めて同項の規定による届出をした者に限る。)は、当該届出をした日から起算して三十日を経過した後でなければ、治験を依頼し、又は自ら治験を実施してはならない。この場合において、厚生労働大臣は、当該届出に係る治験の計画に関し保健衛生上の危害の発生を防止するため必要な調査を行うものとする。

(引用:e-gov法令検索「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律(昭和三十五年法律第百四十五号))」

治験内容を届け出るためには、治験実施計画書が必要です。治験で用いる被験薬について、服薬量や回数、検査内容、時期などを治験計画として書類にまとめ、治験責任医師の同意を得たうえで厚生労働省へ提出します。

七条 治験の依頼をしようとする者は、次に掲げる事項を記載した治験実施計画書を作成しなければならない。

一 治験の依頼をしようとする者の氏名(法人にあっては、その名称。以下この号及び次号、第十三条第一項第二号及び第三号、第十五条の四第一項第二号及び第六号並びに第十六条第一項第二号において同じ。)及び住所(法人にあっては、その主たる事務所の所在地。以下この号及び次号、第十三条第一項第二号及び第三号、第十五条、第十五条の四第一項第二号及び第六号、第十六条第一項第二号並びに第二十六条第二項において同じ。)(当該者が本邦内に住所を有しない場合にあっては、その氏名及び住所地の国名並びに第十五条に規定する治験国内管理人の氏名及び住所。第十三条第一項第二号において同じ。)

二 治験に係る業務の全部又は一部を委託する場合にあっては、当該業務を受託した者(以下この章において「受託者」という。)の氏名、住所及び当該委託に係る業務の範囲

三 実施医療機関の名称及び所在地

四 治験責任医師となるべき者の氏名

五 治験の目的

六 治験使用薬の概要

七 治験の方法

八 被験者の選定に関する事項

九 原資料の閲覧に関する事項

十 記録(データを含む。)の保存に関する事項

十一 治験調整医師に委嘱した場合にあっては、その氏名

十二 治験調整委員会に委嘱した場合にあっては、これを構成する医師又は歯科医師の氏名

十三 第十九条に規定する効果安全性評価委員会を設置したときは、その旨

(引用:e-gov法令検索「医薬品の臨床試験の実施の基準に関する省令(平成九年厚生省令第二十八号)」

提出後、厚生労働省が治験実施計画書の内容を調査し、問題がなければ届け出が受理されますが、問題点が見つかったときは変更や修正を指示されます。治験実施計画書の内容が変更される場合にも、治験責任医師の同意が必要です。

七条

4 第一項の規定により治験実施計画書を作成するときは、当該治験実施計画書の内容及びこれに従って治験を行うことについて、治験責任医師となるべき者の同意を得なければならない。

第二十条

4 治験依頼者は、治験使用薬の品質、有効性及び安全性に関する事項その他の治験を適正に行うために重要な情報を知ったときは、必要に応じ、治験実施計画書及び治験薬概要書を改訂しなければならない。この場合において、治験実施計画書の改訂について治験責任医師の同意を得なければならない。

(引用:e-gov法令検索「医薬品の臨床試験の実施の基準に関する省令(平成九年厚生省令第二十八号)」

治験審査委員会による治験内容の審査

届け出た内容に対して、専門的・倫理的な観点から問題がないか、審査が行われます。治験内容の審査を担当するのは、医師や薬剤師、看護師などで構成される治験審査委員会です

二十七条 実施医療機関の長は、治験を行うことの適否その他の治験に関する調査審議を次に掲げるいずれかの治験審査委員会に行わせなければならない。

2 前項第二号から第四号までに掲げる治験審査委員会は、その設置をする者(以下「治験審査委員会の設置者」という。)が次に掲げる要件を満たすものでなければならない。

一 定款その他これに準ずるものにおいて、治験審査委員会を設置する旨の定めがあること。

二 その役員(いかなる名称によるかを問わず、これと同等以上の職権又は支配力を有する者を含む。次号において同じ。)のうちに医師、歯科医師、薬剤師、看護師その他の医療関係者が含まれていること。

三 その役員に占める次に掲げる者の割合が、それぞれ三分の一以下であること。

イ 特定の医療機関の職員その他の当該医療機関と密接な関係を有する者

ロ 特定の法人の役員又は職員その他の当該法人と密接な関係を有する者

四 治験審査委員会の設置及び運営に関する業務を適確に遂行するに足りる財産的基礎を有していること。

五 財産目録、貸借対照表、損益計算書、事業報告書その他の財務に関する書類をその事務所に備えて置き、一般の閲覧に供していること。

六 その他治験審査委員会の業務の公正かつ適正な遂行を損なうおそれがないこと。

第二十八条 治験審査委員会は、次に掲げる要件を満たしていなければならない。

一 治験について倫理的及び科学的観点から十分に審議を行うことができること。

二 五名以上の委員からなること。

三 委員のうち、医学、歯学、薬学その他の医療又は臨床試験に関する専門的知識を有する者以外の者(次号及び第五号の規定により委員に加えられている者を除く。)が加えられていること。

四 委員のうち、実施医療機関と利害関係を有しない者が加えられていること。

五 委員のうち、治験審査委員会の設置者と利害関係を有しない者が加えられていること。

(引用:e-gov法令検索「医薬品の臨床試験の実施の基準に関する省令(平成九年厚生省令第二十八号)」

安全性への配慮とともに治験参加者の人権を守る目的で、医師などの専門委員に加えて、非専門委員や外部委員も治験審査委員会に参加します。外部委員とは、治験の実施医療機関とはいっさいの利害関係がない第三者です。

治験審査委員会に選定されるメンバーには、関係者との利害関係がない人物も一定数含むことが条件とされています。専門委員、非専門委員、外部委員の3種類を含む、最低5人から構成される治験審査委員会で、治験が正しく行われるかを審査します。

治験参加者の同意

GCPでは、治験参加者に対してあらかじめ適切な説明を行い、同意を得ることが求められています。適切な方法で説明を行っても、状況的に本人の同意が得られない場合は、親権者や配偶者などの代諾者が必要です。

治験参加者への説明は、内容が正しく理解されるように配慮しなくてはなりません。口頭ではなく文書にて服薬方法や服薬期間、回数、注意事項などを説明します。予測される副作用についても、あらかじめ通知します。

 五十条 治験責任医師等は、被験者となるべき者を治験に参加させるときは、あらかじめ治験の内容その他の治験に関する事項について当該者の理解を得るよう、文書により適切な説明を行い、文書により同意を得なければならない。

2 被験者となるべき者が同意の能力を欠くこと等により同意を得ることが困難であるときは、前項の規定にかかわらず、被験者となるべき者の代諾者の同意を得ることにより、当該被験者となるべき者を治験に参加させることができる。

第五十一条

2 説明文書には、被験者となるべき者に権利を放棄させる旨又はそれを疑わせる記載及び治験依頼者、自ら治験を実施する者、実施医療機関、治験責任医師等の責任を免除し、若しくは軽減させる旨又はそれを疑わせる記載をしてはならない。

3 説明文書には、できる限り平易な表現を用いなければならない。

(引用:e-gov法令検索「医薬品の臨床試験の実施の基準に関する省令(平成九年厚生省令第二十八号)」

治験参加者に認められている権利は、説明を受けた上で自由に治験への参加の可否を決めることです。文書や説明内容で不安な部分や疑問点がある場合は、納得するまで質問できます。

治験参加者の意思確認後は、同意文書に本人と治験責任医師が署名します。

治験による重大な副作用の報告

モニタリング中、事前に発見されていなかった重大な副作用が発生したときは、治験責任医師は速やかに報告する義務があります。

四十八条 治験責任医師は、治験の実施状況の概要を、適宜、実施医療機関の長に文書により報告しなければならない。

2 治験依頼者が治験を依頼する場合にあっては、治験責任医師は、治験使用薬の副作用によると疑われる死亡その他の重篤な有害事象の発生を認めたときは、直ちに実施医療機関の長に報告するとともに、治験依頼者に通知しなければならない。この場合において、治験依頼者、実施医療機関の長又は治験審査委員会等から更に必要な情報の提供を求められたときは、当該治験責任医師はこれに応じなければならない。

3 自ら治験を実施する者が治験を実施する場合にあっては、治験責任医師は、治験使用薬の副作用によると疑われる死亡その他の重篤な有害事象の発生を認めたときは、直ちに実施医療機関の長(一つの実施計画書に基づき共同で複数の実施医療機関において治験を実施する場合には他の実施医療機関の治験責任医師を含む。)に報告するとともに、治験薬提供者に通知しなければならない。この場合において、治験薬提供者、実施医療機関の長又は治験審査委員会等から更に必要な情報の提供を求められたときは、当該治験責任医師はこれに応じなければならない。

(引用:e-gov法令検索「医薬品の臨床試験の実施の基準に関する省令(平成九年厚生省令第二十八号)」

重大な副作用とは、たとえば重篤な有害事象の発生や、治験の影響によると疑われる死亡などです。因果関係が明確でない異変も、治験期間中に発生したものであれば報告義務が生じます。

副作用の情報は、現場から治験依頼者の製薬会社へ報告されます。製薬会社は厚生労働省へ報告し、指示に従って治療や補償措置など適切な対応を行います。

後日、治験審査委員会などから情報提供が求められることもあり、審議の結果によっては治験の中止や見直しなどの処置も必要です。

製薬会社による治験状況の確認

治験は、主に製薬会社から依頼された医療機関で実施されます。依頼人となる製薬会社には、定期的な治験状況の確認が義務付けられています。

第 二十一条 治験依頼者は、モニタリングに関する手順書を作成し、当該手順書に従ってモニタリングを実施しなければならない。

(引用:e-gov法令検索「医薬品の臨床試験の実施の基準に関する省令(平成九年厚生省令第二十八号)」

確認されるポイントには、GCPにもとづいた適正な治験内容か、進行に問題はないか、などがあります。

また、モニターとは別に医療機関は治験審査委員会の意見を踏まえ、当該計画書及び手順書に従っているかをチェックする監査者を用意しなければなりません。

二十六条の九 自ら治験を実施する者は、監査に関する計画書及び業務に関する手順書を作成し、第二十七条第一項の治験審査委員会の意見を踏まえて、当該計画書及び手順書に従って監査を実施させなければならない。

2 監査担当者は、当該監査に係る治験を実施する医療機関において当該治験の実施(その準備及び管理を含む。)及びモニタリングに従事してはならない。

3 監査担当者は、監査を実施した場合には、監査で確認した事項を記録した監査報告書及び監査が実施されたことを証明する監査証明書を作成し、これを自ら治験を実施する者及び実施医療機関の長に提出しなければならない。

(引用:e-gov法令検索「医薬品の臨床試験の実施の基準に関する省令(平成九年厚生省令第二十八号)」

モニタリングや監査の内容は医療機関の担当者や長に加え、治験審査委員会にも共有され、審査されます。

看護師が治験に参加する患者さんにできること

看護師が治験に参加する患者さんにできること

治験に関わって働く看護師さんには、患者さんの負担を減らすような取り組みが必要です。看護師さんの立場からできるのは、コミュニケーションで患者さんの不安や悩みを和らげることです。

服薬指導などの業務はもちろん、治験期間中の患者さんの不安を取り除き、疑問点を分かりやすく説明する心のケアも求められます。看護師さんに向けた治験セミナー・研修会がある場合は積極的に参加してスキルを磨くのも、患者さんの不安を取り除く要素となります。

治験セミナー・研修会の内容は、初級や上級などレベル別で構成されたプログラムや、1つのテーマに絞ったものなどさまざまです。近年はWeb開催が主流となりつつあり、会場までの距離やスケジュール調整を気にせず、誰でも手軽に参加できるようになっています。

参加実績によって得られる研修単位は、関連する認定資格の受験要項を満たすメリットもあります。キャリアアップを目指す方にも、治験セミナー・研修会への参加は効果的です。

また、治験審査委員会のメンバーには、専門委員として看護師が含まれることもあります。患者さんと直接関わらなくとも、将来的に治験審査委員会などで間接的に支える可能性もあるため、治験セミナー・研修会での勉強は無駄になりません。

まずは、自分のレベルや興味に合ったものから参加して、徐々に専門知識を増やしましょう。

まとめ

治験を実施するときに守るべきルールにGCP(医薬品の臨床試験の実施の基準に関する省令)があります。GCPには治験内容の届け出や外部の審査委員会の設置、参加者の同意を得ることや定期的なモニタリング、副作用の報告などのルールが定められています。

治験に関わって働く看護師さんには、治験期間中の患者さんの不安を取り除き、疑問点を分かりやすく説明する能力が必要です。看護師さんに向けた治験セミナー・研修会に積極的に参加しましょう。

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※当記事は2023年3月時点の情報をもとに作成しています

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