• 2022年4月15日
  • 2023年11月15日

公認心理師は「食えない」って本当? 将来性や収入アップの方法も

 

近年では「ストレス社会」という言葉が全国で広まっているように、職場や家庭において何らかの強いストレスを感じ、メンタルの不調を訴える人が増加しました。そして2017年9月にはメンタルの不調による健康被害を防ぐことを目的に、「公認心理師」が誕生しています。

公認心理師は、医師をはじめとした医療従事者と連携しながら、メンタル面に関する支援に特化した資格(職業)です。資格制度が誕生して以降、取得者は徐々に増加しています。ストレス社会に生きる人たちを支援できる公認心理師は一見需要が高く見えるものの、実際は「食えない職業」と言われていることも事実です。

では、なぜ「食えない」と言われているのでしょうか。当記事では、公認心理師の概要・「食えない」と言われている理由・実際の将来性・稼げる公認心理師になるための方法を紹介します。

公認心理師とは?

公認心理師とは、人々のメンタルケアに携わる心理職専門の国家資格です。公認心理師法では、公認心理師を下記のように定義付けています。

「公認心理師」とは、第二十八条の登録を受け、公認心理師の名称を用いて、保健医療、福祉、教育その他の分野において、心理学に関する専門的知識及び技術をもって、次に掲げる行為を行うことを業とする者をいう。

一 心理に関する支援を要する者の心理状態を観察し、その結果を分析すること。

二 心理に関する支援を要する者に対し、その心理に関する相談に応じ、助言、指導その他の援助を行うこと。

三 心理に関する支援を要する者の関係者に対し、その相談に応じ、助言、指導その他の援助を行うこと。

四 心の健康に関する知識の普及を図るための教育及び情報の提供を行うこと。

e-Gov法令検索「公認心理師法」

公認心理師は、ストレス社会などの社会情勢の変化に伴い、2017年9月に誕生した心理系国家資格です。ほかの国家試験に比べて試験実施回数も少なく、保有者もさほど多くありません。しかし、メンタルケアに携わる専門の国家資格は公認心理師のみであるため、今後はより認知度が高まるとされています。

参照元:厚生労働省「公認心理師」

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公認心理師が「食えない」と言われている理由

公認心理師が「食えない」と言われている理由

公認心理師は「食えない(生活ができない)」と言われることもありますが、年収は約300万~400万円が平均とされており、決して生活が厳しくなるほどの低収入というわけではありません。

公認心理師の年収は勤務先や働き方によっても大きく異なります。ここでは、公認心理師が「食えない」と言われている理由について詳しく解説します。

参照元:厚生労働省「公認心理師の活動状況等に関する調査」

統計上で公認心理師の平均年収は全体よりも低い傾向にある

前述の通り、公認心理師の平均年収は約300万~400万円が平均です。数字だけを見るとさほど収入の低さは目立ちませんが、国税庁が公式に発表した「給与所得者1人あたりの平均年収」と比較すると、公認心理師のほうがやや低いことが分かります。

公認心理師の平均年収 給与所得者1人あたりの平均年収
約300万~400万円 458万円

しかし、上記に示す公認心理師の平均年収はあくまでも「全体の中で割合が高かった年収データ」であり、職場によっては平均以上の年収を得ている公認心理師も多くいます。

したがって、統計上の公認心理師の年収の低さが「食えない」と言われている大きな理由となることは考えられません。あくまでも、小さな理由の一つにすぎないでしょう。

参照元:厚生労働省「令和4年分 民間給与実態統計調査」

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経営者目線で雇用するメリットが少ない

公認心理師は、ストレス社会と言われている世の中においては需要の高い職業ですが、経営者目線となるとさほど需要が高くないことが実情です。その理由は、第一に「雇用のメリットが少ないため」です。

資本主義社会である日本において、企業経営者は労働者を使ってお金を生み出すことが基本です。病院をはじめとした医療機関の場合、患者さんに行う診療や検査、治療は保険点数を獲得でき、医療報酬を得られます。そのため、医師や看護師は経営者にとって「お金を生み出す人材」となるでしょう。

一方で、公認心理師は医師や看護師が行う医療ケアに比べて、獲得できる保険点数が非常に少ないことが特徴です。カウンセリングのために1人あたり数十分の時間をかけなければならない割には、大きな医療報酬を得られません。経営者は公認心理師を雇用するメリットが少ないと感じ、ほかの医療系職種よりも低い給料で雇用するケースがあります。

資格取得に時間やコストがかかる

公認心理師は国家資格となるため、取得するためには多大な時間とコストが発生します。

公認心理師国家試験を受けるためには、A~Fの6つの受験ルートによる条件を満たさなければなりません。各ルートでは大学院や4年制大学で必須科目を履修したり、指定の施設で2年間以上の実務経験を積んだりするなどの受験資格が定められています。

また、2023年に実施された公認心理師国家試験の合格率は73.8%と決して高いわけではないため、試験勉強にも時間を費やす必要があります。

前述のとおり、公認心理師は給与が比較的低く設定されている求人も少なくありません。公認心理師資格を取得するために多大な時間とコストをかけた割には、給料が見合っていない求人が多いという事実が、「公認心理師は食えない職業」というイメージをさらに加速させています。

参照元:
一般財団法人 日本心理研修センター「公認心理師試験」
一般社団法人 日本心理研修センター「第6回公認心理師試験(令和5年5月14日実施)合格者の内訳」

正規雇用が少ない傾向にある

公認心理師は、正規雇用が少ない傾向にあります。厚生労働省が発表しているデータによると、公認心理師の全体のうち38%が非常勤勤務です。さらに、非常勤勤務の公認心理師のうち54%が「希望する常勤の公認心理師求人がないため、仕方なく非常勤で働いている」と答えている状況です。

非常勤勤務は柔軟な働き方ができる一方で、給料が低くなりがちです。非常勤勤務として働く公認心理師が一定数いることも、「公認心理師は給料が低い」というイメージの定着に繋がっているといえるでしょう。

参照元:厚生労働省「公認心理師の活動状況等に関する調査」

公認心理師の将来性

公認心理師の将来性

「食えない」と言われている公認心理師ですが、決して将来性のない職業というわけではありません。公認心理師は心理職における国内で初めての国家資格であり、認知度や注目度も年々高まっています。

加えて、日本は世界的に見ても自殺者数が多く、毎年2万人以上が自殺により命を落としていることが実情です。さらに、精神疾患者数は年々増加傾向にあり、多くの人がメンタルヘルスケアを必要としています。

近年はAI技術が発達しており、今後は多くの仕事をAIが代替すると見込まれています。しかし、人と人との関わりが重要となる公認心理師の仕事は、AIによって代替されることはありません。
したがって、公認心理師は今後ますます需要が高まっていく、将来性のある職業といえるでしょう。

参照元:
厚生労働省「令和4年中における自殺の状況」
厚生労働省「精神疾患を有する総患者数の推移」

公認心理師が「食えない」環境改善について期待できること

公認心理師が「食えない」環境改善について期待できること

心理職の需要が高まり、多くの人々から必要とされる職業となっていくなか、やはり気になる点が給与面・待遇面です。「公認心理師は食えない」というイメージを払拭すべく、各医療機関や関連団体では、公認心理師の処遇改善を積極的に進めています。
ここからは、環境改善について期待できるポイントを説明します。

常勤公認心理師の増員

厚生労働省が発表しているデータによると、公認心理師の雇用状況は下記のとおりです。

常勤勤務 約55%
非常勤勤務 約38%

常勤公認心理師は全体のおよそ半分程度です。
常勤と非常勤では働き方にやや違いがあります。非常勤公認心理師は心理支援やアセスメントといった基本業務を中心に行い、常勤公認心理師は基本業務に加えて家族への支援やマネジメント、さらに組織内関係者への支援や教育・研究といった専門性の高い展開業務を行っています。

常勤公認心理師の展開業務は幅広く、着実にキャリア形成のできた常勤公認心理師は、いずれ基本業務に割く時間が不足してしまうと考えられています。その場合、一刻も早い常勤公認心理師の増員が必要です。

「常勤公認心理師になりたくても、求人がないからなれない」「常勤公認心理師の展開業務が幅広くなることによって、基本業務に手が回らなくなった」といった問題を解決するため、常勤公認心理師の積極的な増員への取り組みが検討されています。

参照元:厚生労働省「公認心理師の活動状況等に関する調査」

専門性向上に向けた生涯学習支援

人々の抱えるトラブルや悩みは千差万別であり、公認心理師は多様な分野で支援を行うこととなります。しかし、各分野の専門的な知識を得ている公認心理師は決して多くありません。基本業務から展開業務へと組み立て、着実にキャリア形成を見通すのであれば、各心理分野の専門性を向上させる必要があります。

そこで、各関連団体では公認心理師の専門性向上・技能学習向上に向けたさまざまな生涯学習支援の取り組みを進めています。代表的なのが、一般社団法人 日本公認心理師協会が開始した「専門認定制度」です。

公認心理師の生涯学習支援における専門認定制度は、「認定専門公認心理師」「認定専門指導公認心理師」の2つの専門認定を行うという制度であり、認定を受けるとより高い専門性をもった公認心理師として認められます。

専門認定制度は始まって間もない制度であるため、資格手当や処遇改善加算などはまだ期待できないものの、就職・転職が有利になったり、活躍の場が広がったりするなどの恩恵は十分に得られるでしょう。

参照元:一般財団法人 日本心理研修センター「公認心理師の生涯学習制度について」

配置基準や診療報酬の制定

医療機関では「チーム医療」が基本となっており、精神科病棟においては公認心理師もチーム医療を担う一員として活躍することがあります。しかし、医療機関でチーム医療に携わる公認心理師は非常に少ないことが特徴です。これには、非常勤公認心理師の多さや患者さんに対するメンタルヘルスケアが必要となるタイミングが不定期といった理由が挙げられます。

公認心理師がチーム医療の一員として活躍するには、常勤として職場に根付いていなければ困難です。そのため、今後は公認心理師を含めた医療チームの配置基準や多職種連携、公認心理師の常態化が検討されています。

また、現在診療報酬化しているのは精神科リエゾンチームのみというのが実情です。公認心理師の常態化や診療報酬加算の基準拡大に向けて、緩和ケアチームやリハビリテーションチームなどあらゆる医療チームで公認心理師の活躍実績を精査し、患者さんの支援に成果を挙げていることの確認が急がれています。

公認心理師が「食える」ようになるには?

公認心理師が「食える」ようになるには?

公認心理師は「食えない」と言われているものの、処遇改善につながるあらゆる取り組みによって、今後は心理職を取り巻く環境改善が大いに期待できます。しかし、すぐに実現するとは限りません。

国や各医療機関・関連団体による取り組みの実施を待つよりも、まずは自身で収入アップに向けて取り組む必要があります。働き方を工夫することで「食える」公認心理師、つまり十分な稼ぎを得られる公認心理師となれるでしょう。

ここでは、公認心理師が「食える」ようになるためのポイントを紹介します。

時給の高い仕事を選ぶ

時給の高い仕事を選ぶことが、公認心理師の収入を上げる最もオーソドックスな方法です。時給で働くため、自ずと「非常勤公認心理師」として働くこととなります。

求人サイトに掲載されている情報をもとに算出した公認心理師の平均時給は、約1,400~1,600円です。しかし、なかには時給2,000円ほどの求人もあるため、なるべく高い時給を得られる好条件の仕事を選びましょう。

特にスクールカウンセラーは時給が高い傾向にあります。そのため、収入アップを狙っている非常勤公認心理師におすすめです。

仕事をたくさん引き受ける

独立して個人事業主として活躍する公認心理師の場合、依頼された仕事をたくさん引き受けることが収入アップへの近道です。

しかし、仕事をたくさん引き受けるためには、多くの依頼を貰える土台作りをしなければなりません。SNSやブログを開設し、何らかの悩みやメンタルの不調を抱える人々に向けて有益な情報を発信して問い合わせにつなげるなどの「営業活動」が必須です。

また、SNSやブログでの情報発信活動は、メイン業務となるメンタルヘルスケア業務以外の収入源にもなるでしょう。

開業する

現在、病院や福祉施設などで働いている常勤公認心理師・非常勤公認心理師の場合は、思い切って独立開業することもおすすめです。勤務経験のある公認心理師は独立開業のハードルも低く、事業が軌道に乗りやすくなります

独立開業すれば、比較的自由なタイミングで働けるうえ、事業が軌道に乗れば年収1,000万円以上を目指すことも決して不可能ではありません。

しかし、公認心理師として必ず重要となる心理カウンセリングスキル・心理療法スキルに加えて、黒字経営を続けるための経営力・集客力も同時に必要となったり、定期的に訪れてくれる顧客が増えるまで売上が不安定になったりするなどのリスクがあることも覚えておきましょう。

関連資格を取得し心理職としての価値を高める

非常勤公認心理師や独立開業は検討しておらず、常勤公認心理師として働き続けたいという人におすすめの収入アップ方法が関連資格の取得です。関連資格を取得すれば、心理職としての価値をより高めることができ、活躍の場が広がる・給与が上がる可能性もあります。

心理職の関連資格にはさまざまありますが、代表的な資格が「認定心理士」「産業カウンセラー」です。

認定心理士とは、公益社団法人 日本心理学会が認定する心理職の民間資格です。心理学の専門家として必要な基礎知識・技能スキルの保有を証明できます。2020年度では総審査数の約94%が認定を取得しており、難易度が低く、チャレンジしやすいのが特徴です。

産業カウンセラーは、一般社団法人 日本産業カウンセラー協会が認定する心理専門職の民間資格です。職場におけるメンタルヘルスケアやキャリア形成に向けた支援、職場の環境改善に対応できる専門知識・スキルの保有を証明できます。産業カウンセラーの資格を取得すれば、「企業に駐在するカウンセラー」としてより専門的な働き方が可能となります。

そのほかにも、分野ごとに価値を高められる専門民間資格が存在します。どの分野で働きたいかを明確にしたうえで、業務に役立つ資格を取得しましょう。

関連領域の仕事に目を向ける

公認心理師の主な仕事内容は、大きく基本業務と展開業務の2つに分けられます。

基本業務 展開業務
・関係者へのメンタルヘルス支援
・心理支援
・心理的アセスメント
・メンタル面の健康教育
・マネジメント
・教育
・研究

項目は基本業務のほうが多いものの、展開業務は複雑かつ、あらゆる方面で活動することとなります。展開業務は、最前線で活躍する常勤公認心理師ならではの業務と言っても過言ではありません。

収入アップを目指したい常勤公認心理師は、関連資格の取得に加えて、関連領域に仕事にも目を向け積極的に取り組むことがおすすめです。展開業務に取り組むうえで新たな発見を得たり、専門的知識を取り入れられたりして、次なる目標を見出すことにもつながるでしょう。

また、展開業務は組織内外の関係者や相談者とその家族からも目に見えやすい業務であり、公認心理師の認知度を高めて必要性を感じてもらうことにも効果的です。つまり、関連領域の仕事に積極的に取り組むことは、公認心理師業界全体の質向上にもつながるといえるでしょう。

まとめ

公認心理師は、人々のメンタルケアに携わることを業とした、心理専門職における国内で初めての国家資格です。2017年9月に誕生し、徐々に認知度も高まっています。精神疾患を抱える患者さんが増加する近年、公認心理師は需要のある心理系資格ですが、「食えない」職業と言われていることも事実です。

「食えない」と言われている理由には、平均年収の低さ・経営者目線による雇用メリットの少なさ・正規雇用の少なさなどが挙げられます。将来性のある公認心理師の処遇改善に向けて、今後は常勤公認心理師の増員や配置基準・診療報酬の改正が期待できるでしょう。

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