• 2022年1月26日
  • 2022年1月26日

公認心理師の年収は? 公認心理師の将来性やキャリアアップ方法も

 

「ストレス社会」と言われる近年、全国でメンタルヘルスの不調を訴える人が増加しました。しかし、医療関係者と連携しながら、心理に関する支援に特化した職業(資格)はこれまでありませんでした。

公認心理師は、このようなメンタルヘルス問題の解消・心理支援を目的に、2017年9月につくられた比較的新しい資格です。あらゆる分野における専門知識を得た公認心理師の需要は、徐々に高まっています。

この記事では、公認心理師の概要や年収を徹底的に解説します。加えて、公認心理師の将来性や年収アップを目指す方法も紹介しているため、公認心理師を目指す人はぜひ参考にしてください。

公認心理師とは? 臨床心理士とどう違う?

公認心理師とは、いわゆる「心理職の専門国家資格」です。ストレス社会への変化といったあらゆる社会情勢に伴い、2015年9月に公認心理師法が成立し(施行は2017年9月)、国家資格が誕生しました。第1回公認心理師国家試験が2018年に実施されて以来、毎年一度実施されており、2022年には第5回公認心理師国家試験が実施されます。

国家試験の実施回数が少ないことから、まだまだ保持者の少ない、比較的新しい国家資格といえるでしょう。人々のメンタルケアに役立つ職業はこれまでもいくつかありましたが、心理職の専門国家資格は公認心理師のみとなっているため、今後はより多くの人に認知されることが見込まれます。

公認心理師になる方法と難易度

公認心理師の資格を取得するためには、国家試験に合格することが必須です。そして公認心理師国家試験の受験ルートには、A~Gまでの受験区分に分けていくつかのルートが存在します。 第4回公認心理師国家試験では、A・B・C・D1・D2・E・F・Gの合計8ルートがありました。各ルートにおける国家試験受験資格の対象者は、下記の通りです。

ルート 対象者
通常ルート A 4年制大学で必要科目を履修した後、大学院で必要科目を履修している
B 4年制大学で必要科目を履修した後、施行規則第5条で定められた施設で2年以上の実務経験を積んでいる
C A・Bの受験区分と同等の知識や技術があると認められている
経過措置
ルート
D1 2017年9月15日以前に大学院で必要科目を履修している
D2 2017年9月15日以前に大学院に入学し、2017年9月15日以降に必要科目を履修している
E 2017年9月15日以前に4年制大学で必要科目を履修し、2017年9月15日以降に大学院で必要科目を履修している
F 2017年9月15日以前に4年制大学で必要科目を履修し、施行規則第5条で定められた施設で2年以上の実務経験を積んでいる
G 心理職として5年以上の実務経験があり、公認心理師現任者講習会を受講している
(出典:一般財団法人日本心理研修センター「第4回公認心理師国家試験 受験の手引」

上記表の通り、A~Cの受験区分は「通常ルート」にあたり、D~Gは「経過措置ルート」にあたります。しかし、通常ルートとはいえA・Bルートで国家試験を受けられるのは2024年からであるため、それまでの国家試験は基本的に経過措置ルートが主となります。

なお、Gルートは公認心理師法の施行日である2017年9月15日から5年間限定の受験区分です。そのため、2022年に実施される第5回公認心理師国家試験がGルートのラストチャンスであることを覚えておきましょう。Gルートの詳細は、下記の記事・外部ページを参考にしてください。

(参考:一般財団法人 日本心理研修センター「公認心理師試験について」

公認心理師国家試験は筆記試験のみであり、総得点の230点に対して60%の正答率が合格ラインです。日本心理研修センターが公表した第4公認心理師国家試験の合格発表データでは、全体で58.6%の合格率となっていることが分かります。

受験者数 合格者数 合格率
21,055人 12,329人 58.6%
(出典:一般財団法人日本心理研修センター「第4回公認心理師試験(令和3年9月19日実施)合格者の内訳」

国家試験を受けた約半数の人のみが合格しているという事実を考えると、公認心理師国家試験の難易度は決して低くはないといえるでしょう。Fルートでの合格率が高いことから、教育機関での学習と現場での経験がポイントとなります。

■関連記事
公認心理師とは? 受験資格の取得ルートや合格率を解説

公認心理師が活躍する場所

公認心理師は、あらゆる分野の就職先で活躍することが可能です。具体的な分野と施設例は、下記表を参考にしてください。

分野 施設例
保健医療
  • 病院・クリニック
  • 保健所・保健センター
  • 介護療養型医療施設
  • 精神保健福祉センター
  • 地域包括支援センター 等
福祉
  • 一般相談支援事業施設
  • 障がい者支援施設
  • 救護施設・更生施設
  • 婦人保護施設
  • 子ども・若者総合相談センター 等
教育
  • 公立教育相談機関
  • スクールカウンセラー 等
司法・犯罪
  • 鑑別所・少年院
  • 家庭裁判所
  • 保護観察所 等
産業・労働
  • 企業内の健康管理・相談室
  • 生活支援センター
  • 就労支援機関(ハローワーク) 等
その他
  • 地域向け心理相談室
  • 私設心理相談室
  • 大学・研究所 等
(出典:厚生労働省「公認心理師の活動状況等に関する調査」

臨床心理士との違い

公認心理師と似た資格として、「臨床心理士」が挙げられます。臨床心理士は1988年に誕生した、公益財団法人の日本臨床心理士資格認定協会が認定する「心理に関する民間資格」です。公認心理師法が成立するまでは、心理に関する事実上の公認資格とされていました。

公認心理師と臨床心理士の概要や仕事内容の詳しい違いは、下記を参考にしてください。

  臨床心理士 公認心理師
資格 民間資格 国家資格
受験資格 指定大学院の修了・実務経験 等 指定カリキュラムの履修・指定大学院の修了・実務経験 等
資格更新制度 あり(5年) なし
仕事内容 臨床心理査定・臨床心理面接・心理的地域援助・臨床調査・研究 等 要支援者に向けた心理に関する支援・指導・観察・結果分析・情報発信 等

いずれも、人間の心理的な部分に大きく携わる職業であり、主な業務に大きな違いはありません。しかし、心理療法以外において臨床心理士は「心理に関する研究や調査結果の公表」、公認心理師は「心理や心の健康に関する情報の提供」に主観が置かれていることがポイントです。

公認心理師の年収

公認心理師の年収

厚生労働省が2021年3月発表したデータによると、公認心理師全体の年収は「約300万~400万円」の割合が最も高いことが分かりました。
(出典:厚生労働省「公認心理師の活動状況等に関する調査」

しかし、公認心理師は働く場所によって業務内容や必要性も多く異なることが特徴です。さらに、公認心理師に限らずどの仕事においても雇用形態や経験年数によって、平均年収は大きく異なります。

ここからは、公認心理師の年収をより詳しく理解するためにも、分野・雇用形態・経験年数別の年収の違いを説明します。多職種との年収の違いについても解説するため、公認心理師はどれほど稼げるか気になる人はぜひ参考にしてください。

分野別の年収の違い

公認心理師は、職場の分野によっても働き方や活躍度が異なります。では、稼ぎやすい分野はどのような分野なのでしょうか。下記に、厚生労働省が発表したデータに基づいて、分野別の公認心理師の年収を紹介します。

分野 割合が最も高かった年収
保健医療 約350万~400万円
福祉 約300万~400万円
教育 約300万~400万円
司法・犯罪 約500万~600万円
産業・労働 約400万~500万円
その他 約1,000万円~
(出典:厚生労働省「公認心理師の養成や資質向上に向けた実習に関する調査」
(出典:厚生労働省「公認心理師の活動状況等に関する調査」

保健医療・福祉・教育分野においては、約300万~400万円の年収を得ている公認心理師が多くいました。その次に年収が高い分野は産業・労働分野で、その次が司法・犯罪分野です。

また、その他の分野では約1,000万円を超える年収を得ている公認心理師が多くいます。具体的な職場は大学・研究所であり、幅広い知識や技術をもって活躍していることがうかがえます。

雇用形態による年収の違い

公認心理師の年収は、常勤・非常勤といった雇用形態によっても大きく異なることがポイントです。下記に、厚生労働省が発表した「割合が最も高かった年収データ」を記載します。

常勤公認心理師 非常勤公認心理師
約300万~400万円
約400万~500万円
(※同程度)
約200万~300万円
(出典:厚生労働省「公認心理師の活動状況等に関する調査」

常勤公認心理師は、約300万~400万円と約400万~500万円の割合が同程度で最も高くなっていました。一方で、非常勤公認心理師は約200万~300万円と、常勤公認心理師と比べてやや低くなります。

また、公認心理師の主な活躍フィールドである保健医療分野においては、厚生労働省から下記の給料情報が示されていました。

常勤公認心理師 非常勤公認心理師
年収:約350万~400万円 時給:約1,600円未満
(出典:厚生労働省「公認心理師の養成や資質向上に向けた実習に関する調査」

そもそも、非常勤公認心理師はアルバイト・パート勤務となるため時給制となります。しかし、たとえ1,500円の時給だったとしても、毎月20日程度で8時間のシフト勤務をこなした場合の平均月収は240,000円で、年収にすると288万円と、決して少ない額ではありません。公認心理師だけでなくその他専門性の高い国家資格・民間資格保有者の場合は資格手当がつくため、さらなる収入が期待できるでしょう。

経験年数による年収の違い

公認心理師は、経験年数によっても年収に差が生まれます。厚生労働省が発表したデータによると、経験年数が10年未満の公認心理師と、10年以上の公認心理師とでは、年収に下記のような違いがありました。

経験年数 割合が最も高かった年収
10年未満 約300万~400万円
10年以上 約400万~500万円
(出典:厚生労働省「公認心理師の活動状況等に関する調査」

上記のように、経験年数が10年あるかないかで、年収は100万円以上異なります。しかし、職場によっては10年以上の経験がある公認心理師よりも、経験年数が10年も満たない公認心理師のほうが年収が高くなるというケースも珍しくありません。「10年以上の経験をしなければ、高い年収を得られないというわけではない」ことを覚えておきましょう。

他職種との年収の違い

公認心理師と、その他医療系職種の年収には、下記のような違いがありました。

職種 平均年収
公認心理師 約300万~400万円
看護師 約492万円
准看護師 約413万円
保健師 約476万円
コメディカル職
(理学療法士・作業療法士・言語聴覚士・視能訓練士)
約419万円
(出典:厚生労働省「公認心理師の活動状況等に関する調査」
(出典:厚生労働省「令和2年賃金構造基本統計調査」

医療系職種の中で特に年収が高い職種は、看護師・保健師です。公認心理師の平均給与は、その他医療系職種と比較してやや低い傾向にあるといえるでしょう。

公認心理師の年収が低い理由

公認心理師の年収が低い理由

公認心理師の平均的な年収が低い理由には、下記3つが挙げられます。

〇新しい国家資格であり、現場に浸透していない

公認心理師は2018年に実施された国家試験から徐々に保持者が増えた国家資格であり、業界の中でもさほど認知度は高まっていません。そのため現場に浸透しておらず、需要が獲得できていないことが年収の低さの理由となっています。

〇業務独占資格・必置資格ではない

公認心理師は、業務独占資格・必置資格ではありません。例えば、医療行為は医師の資格を保持する人しか行えませんが、公認心理師でなければ行えない業務というものはないことが特徴です。需要が高まりづらいことが、全体の平均年収アップを妨げる要因となっています。

〇収益性が実証されていない

メンタルヘルス問題が取り沙汰されている近年、公認心理師の存在は徐々に認識され始めているものの、医療機関など各職場によっては「公認心理師を拡充しても、収益につながるのか」といった疑問はまだまだ残っています。新たな資格であることから、収益性が実証されていないことも、公認心理師の年収が低くなる要因です。
(出典:厚生労働省「公認心理師の養成や資質向上に向けた実習に関する調査」

公認心理師の将来性

公認心理師の将来性

2021年現在、5回目の国家試験実施を控える公認心理師は、認知度が高まっているとは言い難い国家資格です。しかし、心の健康を保つことが課題となる日本では、専門職である公認心理師の存在が徐々に多くの人から認知されていくでしょう。

公認心理師の認知度が高まるにつれ、国家資格として優遇されるようになる可能性は大いにあります。また、診療報酬化などにより、職場や業界の収益に貢献できる働き方も徐々に確立されることが期待できるでしょう。

厚生労働省が発表した患者調査データによると、心の病気の患者数は年々増加している傾向です。

年度 患者数(総数)
2002年 約194.5万人
2011年 約224.2万人
2017年 約290.1万人
(出典:厚生労働省「図表1-2-9 こころの病気の患者数の状況」

近年では、AI技術の発達により業務の自動化が進んでいますが、人々の感情・心理を扱う業務は人にしか行えません。公認心理師は感情・心理を扱う唯一の国家資格であり、ニーズは今後さらに高まり続けると想定されます。そうなれば、より幅広い分野で必要とされる職業となるでしょう。

公認心理師が年収アップを目指す方法

公認心理師が年収アップを目指す方法

公認心理師の働き方や需要は、今後変化する可能性が大いにあります。それに伴い、働き方や需要の変化により全体的な収入の底上げも期待できるものの、確実な年収アップを目指すためには、キャリアアップを見据えた働き方を実践することが大切です。

最後に、公認心理師が年収アップを目指すための方法を3つ説明します。

幅広い就職先を視野に入れ経験を積む

精神病患者の増加に伴い、心の健康を保つことが重要とされている近年、幅広い分野において心理職の需要が高まっています。医療機関などは公認心理師の主な活躍フィールドであり、現在でも多くの求人が出されているものの、特定分野にこだわらずさまざまな分野に目を向けて経験を積むことは重要です。

あらゆる業界で多くの経験を積むことで、想定されるさまざまな場面にスムーズに対応できるようになります。また、他の公認心理師にはない得意分野をつくることで、転職も有利となるでしょう。

開業する

公認心理師のキャリアアップ方法として、最も代表的となるであろう方法が独立・開業です。公認心理師が開業する際は、「心理カウンセラー」として開業することとなります。公認心理師の国家資格を保持したうえで心理カウンセラーとして開業すれば、お客様からも信頼されやすくなります。

心理カウンセラーとして開業するメリット・デメリットは、下記の通りです。

メリット デメリット
  • 比較的自由な時間に働ける
  • 年収の限界がなくなる
  • ランニングコストが比較的少ない
  • 集客から事務作業まで、経営に関するすべての業務を行う必要がある
  • 認知度を高めたうえで集客をしなければ売上が不安定になりやすい

開業をするということは、代表者や上司に縛られず自由にサービスの提供方法を決めることができるため、育児中の人でも時間を有効に活用して働くことが可能です。あらゆるメリットがある一方で、経営に関するすべての業務を担わなければならない点や、集客がうまくいかない場合の影響が大きいことがデメリットとなります。

関連資格を取得する

これから公認心理師を目指す人や、国家試験の受験・取得要件を満たす人は、関連資格の取得をするとキャリアアップ・スキルアップにつながる可能性があります。特におすすめの関連資格は、下記の通りです。

〇臨床心理士

公認心理師と臨床心理士は、いずれも心理学に関する代表的な資格であり、共通点が多いことが特徴です。臨床心理士は公認心理師が誕生する前から存在していた資格のため、信頼度は高まっています。公認心理師と臨床心理士のダブルライセンスの場合は、いずれか一方の資格取得者よりもさらに幅広い知識を持っている人とみなされ、キャリアアップや転職に有利となるでしょう。

〇福祉心理士

福祉心理士とは、日本福祉心理学会が認める民間資格です。主に福祉サービスの利用者に向けたアセスメント・心理相談や支援を行う専門家として知られています。公認心理師と福祉心理士のダブルライセンスであれば、「福祉領域での専門知識も有した心理職」として信頼されやすくなり、キャリアアップや転職に有利となるでしょう。

〇精神保健福祉士

精神保健福祉士とは、「精神科ソーシャルワーカー(PSW)」とも呼ばれる心理専門の国家資格です。精神的な病を抱えた人に対し、心理相談や生活支援・社会参加のサポートを行う職業であり、公認心理師と共通点の多くある資格といえます。公認心理師と精神保健福祉士のダブルライセンスであれば、心理学に関する2つの国家資格の保持者として大いに信頼されやすくなり、キャリアアップや転職に有利となるでしょう。

まとめ

公認心理師は、2015年9月に公認心理師法が成立したことに伴って誕生した、心理職の専門国家資格です。国家資格の誕生から5年も経過していない当資格は、まだまだ認知度の低い資格ではあるものの、今後は認知度が徐々に高まり、ニーズの高まりも想定されています。

公認心理師全体の平均的な年収は、約300万~400万円です。しかし、分野によっては約1,000万円を超える場合もあり、職場やキャリアアップがいかに重要かということが分かります。

キャリアアップを目指すためには、あらゆる職場を視野に入れ経験を積むことが最も大切です。公認心理師が活躍できる求人情報をお探しの人は、ぜひ全国の求人情報を掲載する転職・求人サイト「マイナビ看護師」をチェックしてください。自分に合った求人検索の仕方が分からないという人は、専門のキャリアアドバイザーによる転職サポートもおすすめです。

著者プロフィール