• 2021年9月21日
  • 2024年4月8日

特定看護師とは? 役割・目指すメリット・なり方・向いている方の特徴

 

特定看護師は近年になって登場した、看護師に関する新しい制度です。

看護師が診療の補助として医療行為を実施するときは、基本的に医師の指示を仰がなければなりません。しかし特定看護師は、手順書に従う条件のもとで、自分の判断で特定行為に区分される医療行為を実施できます。

医療業界では特定看護師の需要が高まっており、看護師のキャリアとしても高い価値があります。

当記事では特定看護師の基礎知識とメリットと、特定看護師が実施できる特定行為や実施の流れ、特定看護師になるための方法と費用などを解説しますので、ぜひ参考にしてください。

目次

特定看護師とは?

特定看護師とは、特定行為を実施するうえで必要とされる、高度な知識・技能を有する看護師のことです。特定看護師になると、医師の作成した手順書に従う条件のもとで、自己の判断により特定行為を実施できます。

特定看護師は、2015年に「特定行為に係る看護師の研修制度」が施行されたことで誕生しました。特定看護師が誕生した背景には、日本の高齢化社会が関係しています。

日本は2025年に団塊世代が75歳以上となり、高齢化の更なる進展が予測されている状況です。超高齢社会を迎え、チーム医療や将来的な在宅医療の重要性が見直される中で、看護師の役割拡大が求められました。

「特定行為に係る看護師の研修制度」では、今後の在宅医療などを支える看護師の計画的な育成を目的としています。チーム医療を構成する看護師として特定行為を実施し、質の高い医療を提供することが、特定看護師の役割です。

特定看護師と専門看護師・診療看護師との違い

特定看護師と、呼称や役割が似ている専門看護師・診療看護師との違いを解説します。

特定看護師と専門看護師との違い

専門看護師とは、特定の専門看護分野に必要な知識・技術を有する看護師を認定する資格です。

一方、特定看護師は資格ではありません。あくまでも「特定行為に係る看護師の研修制度」の研修修了者を示す呼称です。

また、専門看護師は専門看護分野における広範な役割を持っています。特定看護師は実施できる特定行為の内容が具体的に定められている点が、専門看護師との違いです。

●特定看護師と診療看護師との違い

診療看護師とは、医師の直接的指示もしくは手順書に従って、一定範囲の診療行為を実施できる看護師のことです。

特定看護師と診療看護師との違いとしては、実施できる特定行為の数が挙げられます。特定看護師が実施できる特定行為は、自分が修了した区分別研修に該当する行為のみです。

一方、診療看護師は大学院でNP教育課程を履修しており、履修内容に含まれる多くの特定行為を実施できます。

特定看護師の役割と働き方|現場はどう変わる?

特定看護師となることで、状況を的確に判断し、ニーズに合わせた看護業務が行えます。たとえば、患者に脱水症状が表れた場合に手順書があれば、医師の指示を待つことなく特定看護師自身の判断により点滴の実施が可能です。このように、特定看護師は望ましい看護ケアを適切なタイミングで行えるため、症状の悪化や進行を防ぎ、早期回復に貢献できます。

看護的視点と医学的視点を合わせ持つ特定看護師は、チーム医療でも重要な存在です。チーム医療における特定看護師の主な役割は、下記の通りです。

【チーム医療における特定看護師の主な役割】

  • 他職種に対し適切な状況説明や指導を行い、チームの連携強化を図る
  • 医学的視点から治療方針を深く理解し、円滑な診療をサポートする

地域医療でも、地域包括ケアのレベルを底上げするために、特定看護師の参加が期待されています。特定看護師はあらゆる現場でリーダーシップを発揮し、主体的・能動的に活躍できるでしょう。

特定看護師の配置状況

特定看護師は、主に病院や診療所、訪問看護ステーションなどに勤務します。各施設における特定看護師の配置状況は、以下の通りです。

特定看護師の配置人数割合
1人 43%
2~3人 30%
4~5人 12%
6~9人 9%
10人以上 6%
(出典:厚生労働省「特定行為研修制度の現状と今後の方向性」

厚生労働省によれば、特定看護師を1人配置している施設が最も多く、1~3人まで配置している施設が全体の7割を占めています。

また、施設の規模別で、特定看護師の配置人数を以下の表にまとめました。

全看護師の常勤換算数別 施設数
特定看護師の配置人数 50人未満 50~100人
未満
100~200人
未満
200~300人
未満
300~400人
未満
400~500人
未満
1人 74施設 33施設 52施設 31施設 16施設 28施設
2~3人 16施設 23施設 34施設 27施設 14施設 48施設
4~5人 2施設 3施設 15施設 10施設 9施設 27施設
6~9人 3施設 4施設 3施設 4施設 6施設 27施設
10人以上 1施設 3施設 2施設 3施設 25施設
(出典:厚生労働省「特定行為研修制度の現状と今後の方向性」

特定看護師は、400人以上の常勤看護師がいる大規模な施設であるほど、多く配置されていることが分かります。

なお、特定看護師の指定研修機関および研修修了者の数は、年々増加しています。2021年~2022年にかけての1年間では、研修修了者の数が約1,900人増加しました。各都道府県においても、研修修了者や指定研修機関の目標を定めるなどの取り組みを行っており、今後さらに、特定看護師の配置人数が増えることが予測されています。

特定看護師に期待されていること

日本では高齢化により医療機関の利用者が増加する一方で、医師の不足が問題となっています。医師不足の状況が続くと、患者さんの待ち時間が長くなることはもちろん、医師への負担が増して医療ミスが発生するリスクも高まるでしょう。このような背景を踏まえ、円滑な診療体制を整えるために、特定看護師の活躍が期待されています。

通院困難な患者さんに対して特定看護師が在宅診療を行えば、迅速な処置が可能となるうえ、医療従事者と患者さん双方への負担が軽減します。患者さんが受診するタイミングも判断できるため、病院の混雑が緩和しスムーズな医療サービスの提供が実現するでしょう。

また、医療機能情報提供制度では、2020年10月より、チーム医療や働き方改革と併記する場合は、特定看護師の実施業務の広告が可能となりました。地域住民に対する情報公表を目的とした医療機能情報提供制度に記載されることで、特定看護師の認知度向上が期待できます。今後は特定看護師の存在が医療機関の判断基準の1つとなり、患者さんの安心にもつながるでしょう。
(出典:厚生労働省「第16回医療情報の提供内容等のあり方に関する検討会資料」

特定看護師を目指す4つのメリット

特定看護師を目指す4つのメリット

特定看護師は、指定機関による研修を修了することにより、専門的な医療知識と技術を身につけられる制度です。ここでは、特定看護師を目指す4つのメリットを解説します。

タイムリーなケアを提供できる

特定看護師は、特定の医療行為について、医師の指示を待たずに処置を開始できます。タイムリーなケアを提供できることにより、患者さんの苦痛を軽減させることが可能です。また、処置が遅れることによる重症化リスクも減らせます。

高齢化が進む現代では、医師の不足や現場の多忙化が懸念されています。特定看護師が、医師の到着を待たずに処置ができることは、チーム医療にとって、大きな貢献となるでしょう。迅速にケアがなされることで、患者さんも安心感を得られます。

仕事の幅が広がる

特定看護師の研修を修了することで、業務の幅が広がります。特定行為を実施するときには手順書に沿って進める必要がありますが、看護師自身の判断で行うことが可能です。

特定看護師は、病院だけでなく、訪問看護ステーションや介護福祉施設、教育機関などでも活躍しています。在宅医療や急性期医療など、仕事の幅が広がることは、看護師としてのやりがいにもつながるかもしれません。

キャリアアップを図れる

特定看護師を目指すと、看護師としてのキャリアアップを図れるメリットがあります。高いスキルを身につけることで、日常業務でも活躍できる場面が増えるでしょう。

また、特定看護師は、高齢化の進行で医師が不足傾向にある医療業界において、非常にニーズの高い仕事です。転職活動をする際には、大きなアピールポイントにもなります。求人のなかには、特定看護師を歓迎要件としているところも多くあります。

給料アップが期待できる

特定看護師は、厚生労働省が推進している制度の1つです。厚生労働省が2025年に向けて約10万人以上の要請を目指していますので、今後の処遇改善も期待できるでしょう。社会的に需要の高い職種であるため、高待遇も望めます。

特定看護師になると給与が上がる制度や、資格取得に対して補助制度を設けている施設も珍しくありません。資格取得時だけでなく、研修プログラムの進行に合わせて給与アップを実施している例もあります。

特定看護師を目指す際の注意点

特定看護師を目指す際の注意点

特定看護師を目指す際には、いくつかの注意点があることを把握しておきましょう。あらかじめ注意点を知っておくことで、研修受講時および修了後の業務に関するギャップを軽減できるかもしれません。

時間とコストがかかる

特定看護師の研修を修了するためには、時間とコストがかかります。特定看護師の研修は、3~5年以上の実務経験を受けた看護師が対象です。研修にかかる期間は、施設によって異なりますが、6か月~2年程度と言われています。

研修にかかる費用は、受講内容や研修機関によって異なります。共通科目にかかる受講料が数十万円程度、各科目で数万円程度のケースが多くなっています。研修費用に関しては、給付制度や助成金の制度を活用することも可能です。費用は30~250万円と高額ですが、研修の実施期間が厚生労働省の指定を受けていれば支援制度が利用できます。

  • 教育訓練給付
  • 人材開発支援助成金
  • 地域医療介護総合確保基金

すべての研修がEラーニングで実施されるところもあれば、登校がひつようなところなど受講方法はさまざまです。

看護業務との両立による負担が増えるおそれがある

特定看護師になると、通常の仕事内容に、特定行為に関する業務が加わります。やりがいやスキルアップにつながる一方で、業務の負担が増えるおそれがあることを覚えておきましょう。

特定行為は、患者さんの生命に関わる行為も多く、重大な責任を伴う仕事です。また、チーム医療としての連携が取れていない現場では、責任の所在があいまいになるケースもあります。業務量の増加や責任の重さは、精神的負担の要因になるかもしれません。

特定行為の実施機会が必ずしも増えるわけではない

時間とコストをかけて特定看護師になっても、必ずしも特定行為を実施できる機会が増えるわけではありません。

実際に厚生労働省が公表した調査データによれば、過去1年間において勤務先で特定行為を実施したことのない特定看護師は31.6%です。理由としては、就労している施設において、特定行為を実施できる体制が整っていないことが挙げられます。また、勤務先から特定行為研修制度の理解が得られていないことも、特定行為の実施機会が増えていない理由の1つです。
(出典:厚生労働省「特定行為研修制度の現状と今後の方向性」

特定行為を実施する際の流れ

特定行為を実施する際の流れ

特定看護師が自己の判断で特定行為を実施するときは、下記の流れで行います。

(1)医師が作成した手順書により特定行為の指示を受ける

(2)患者の病状を確認し、異変が見られたときは手順書の「患者の病状の範囲」を確認する

※「患者の病状の範囲」がその病状の範囲外であるときは、手順書を作成した医師または歯科医師に指示を求める必要があります

(3)病状の範囲内であるときは、手順書の「診療の補助の内容」に従い、処置を実施する

(4)手順書の「医師または歯科医師に対する報告の方法」に従い、特定行為の結果と患者の状態を報告する

上記の流れを見ると分かるように、特定看護師が自己の判断で特定行為を実施するときは、医師が作成した「手順書」に従わなければなりません。次項では手順書について解説します。

手順書とは?

特定行為における手順書とは、看護師に特定行為を実施させるために、医師または歯科医師が指示内容として作成する文書のことです。

手順書は、下記に示す6つの記載事項を含めて作成されます。

1.看護師に診療の補助を行わせる患者の病状の範囲

2.診療の補助の内容

3.当該手順書に係る特定行為の対象となる患者

4.特定行為を行うときに確認すべき事項

5.医療の安全を確保するために医師又は歯科医師との連絡が必要となった場合の連絡体制

6.特定行為を行った後の医師又は歯科医師に対する報告の方法

(引用:厚生労働省「手順書とは」

なお、記載事項3の「当該手順書に係る特定行為の対象となる患者」とは、手順書を適用する患者の一般的な状態のことです。記載例は特定行為の区分・行為によって異なるものの、下記のような状態が挙げられます。

  • 嘔吐や下痢が続き、脱水が疑われる患者
  • 呼吸状態の変化が見られ、早急な対応が必要とされる患者

医師または歯科医師は、手順書を適用する患者の情報を具体的に指示し、特定看護師は指示された患者にのみ特定行為の可否を判断します。

特定看護師が実施できる特定行為21区分・38行為

特定看護師が実施できる特定行為21区分・38行為

特定看護師が実施できる21区分・38行為の特定行為について、各区分・行為の名称と、手順書に従って実施する内容を簡単に紹介します。

なお、より詳しく知りたい方は、厚生労働省の情報を確認してください。
(出典:厚生労働省「特定行為とは」

呼吸器(気道確保に係るもの)関連
  • 経口用気管チューブまたは経鼻用気管チューブの位置の調整
挿入した経口用気管チューブまたは経鼻用気管チューブの深さを調整する

呼吸器(人工呼吸療法に係るもの)関連
  • 侵襲的陽圧換気の設定の変更
酸素濃度や換気様式など、人工呼吸器の設定条件を変更する
  • 非侵襲的陽圧換気の設定の変更
非侵襲的陽圧換気療法の設定条件を変更する
  • 人工呼吸管理がなされている者に対する鎮静薬の投与量の調整
鎮静薬の投与量を調整する
  • 人工呼吸器からの離脱
人工呼吸器からの離脱を行う

呼吸器(長期呼吸療法に係るもの)関連
  • 気管カニューレの交換
留置された気管カニューレを交換する

循環器関連
  • 一時的ペースメーカの操作・管理
ペースメーカの操作・管理を行う
  • 一時的ペースメーカリードの抜去
一時的ペースメーカリードを抜去し、抜去部は縫合などを行う
  • 経皮的心肺補助装置の操作・管理
経皮的心肺補助装置の操作・管理を行う
  • 大動脈内バルーンパンピングからの離脱を行うときの補助頻度の調整
大動脈内バルーンパンピングからの離脱を行うために、補助の頻度を調整する

心嚢ドレーン管理関連
  • 心嚢ドレーンの抜去
心嚢ドレーンを抜去し、抜去部は縫合などを行う

胸腔ドレーン管理関連
  • 低圧胸腔内持続吸引器の吸引圧の設定・変更
吸引器の吸引圧の設定・変更を行う
  • 胸腔ドレーンの抜去
患者の呼吸を誘導しながら、胸腔内ドレーンを抜去し、抜去部は縫合などを行う

腹腔ドレーン管理関連
  • 腹腔ドレーンの抜去(腹腔内に留置された穿刺針の抜針を含む)
腹腔ドレーンまたは穿刺針を抜去し、抜去部は縫合などを行う

ろう孔管理関連
  • 胃ろうカテーテル・腸ろうカテーテル・胃ろうボタンの交換
胃ろうカテーテル・腸ろうカテーテル・胃ろうボタンを交換する
  • 膀胱ろうカテーテルの交換
膀胱ろうカテーテルを交換する

栄養に係るカテーテル管理(中心静脈カテーテル管理)関連
  • 中心静脈カテーテルの抜去
・中心静脈カテーテルを抜去して止血を行い、抜去部は縫合などを行う
・カテーテル全長の抜去を確認する

栄養に係るカテーテル管理(末梢留置型中心静脈注射用カテーテル管理)関連
  • 末梢留置型中心静脈注射用カテーテルの挿入
・肘静脈または上腕静脈から、超音波検査で穿刺静脈を選択する
・経皮的に穿刺して、末梢留置型中心静脈注射用カテーテルを挿入する

創傷管理関連
  • 褥瘡または慢性創傷の治療における血流のない壊死組織の除去
・血流のない遊離した壊死組織を取り除き、創洗浄や排膿などを行う
・出血時は指定の止血処置を行う
  • 創傷に対する陰圧閉鎖療法
創面全体を被覆剤で密封し、ドレナージ管を接続して、吸引装置の陰圧設定やモード選択を行う

創部ドレーン管理関連
  • 創部ドレーンの抜去
創部ドレーンを抜去し、抜去部は開放やガーゼドレナージなどを行う

動脈血液ガス分析関連
  • 直接動脈穿刺法による採血
・経皮的に橈骨動脈、上腕動脈、大腿動脈などを穿刺し、採血する
・採血後、針を抜いて圧迫止血を行う
  • 橈骨動脈ラインの確保
・経皮的に橈骨動脈から穿刺して、留置するカニューレの橈骨動脈ラインを確保する

透析管理関連
  • 急性血液浄化療法における血液透析器または血液透析濾過器の操作・管理
血液透析器または血液透析濾過器の操作・管理を行う

栄養および水分管理に係る薬剤投与関連
  • 持続点滴中の高カロリー輸液の投与量の調整
高カロリー輸液の投与量を調整する
  • 脱水症状に対する輸液による補正
脱水症状に対し、輸液による補正を行う

感染に係る薬剤投与関連
  • 感染徴候がある者に対する薬剤の臨時の投与
感染徴候時の薬剤を臨時投与する

血糖コントロールに係る薬剤投与関連
  • インスリンの投与量の調整
インスリンの投与量を調整する

術後疼痛管理関連
  • 硬膜外カテーテルによる鎮痛剤の投与および投与量の調整
硬膜外カテーテルによる鎮痛剤の投与や、投与量を調整する

循環動態に係る薬剤投与関連
  • 持続点滴中のカテコラミンの投与量の調整
カテコラミン(注射薬)の投与量を調整する
  • 持続点滴中のナトリウム、カリウムまたはクロールの投与量の調整
ナトリウム、カリウムまたはクロール(注射薬)の投与量を調整する
  • 持続点滴中の降圧剤の投与量の調整
降圧剤(注射薬)の投与量を調整する
  • 持続点滴中の糖質輸液または電解質輸液の投与量の調整
糖質輸液、電解質輸液の投与量を調整する
  • 持続点滴中の利尿剤の投与量の調整
利尿剤(注射薬)の投与量を調整する

精神および神経症状に係る薬剤投与関連
  • 抗けいれん剤の臨時の投与
抗けいれん剤を臨時投与する
  • 抗精神病薬の臨時の投与
抗精神病薬を臨時投与する
  • 抗不安薬の臨時の投与
抗不安薬を臨時投与する

皮膚損傷に係る薬剤投与関連
  • 抗癌剤その他の薬剤が血管外に漏出したときのステロイド薬の局所注射および投与量の調整
副腎皮質ステロイド薬(注射薬)の局所注射や、投与量を調整する

特定行為における6つの領域別パッケージ研修

領域別パッケージ研修では、実施頻度の高い特定行為について、領域ごとにパッケージ化して研修を行うことが可能です。各領域の特定行為をまとめて受講することにより、研修期間の短縮が図れます。

現在では、以下の6つの領域についてパッケージ研修が設けられています。

  • 在宅・慢性期領域パッケージ
  • 外科術後病棟管理領域パッケージ
  • 術中麻酔管理領域パッケージ
  • 救急領域パッケージ
  • 外科系基本領域パッケージ
  • 集中治療領域パッケージ

(出典:公益社団法人 日本看護協会「看護師の特定行為研修制度 ポータルサイト」

ただし、領域別パッケージ研修の場合は、領域ごとに定められている一部の特定行為について、研修が免除されます。免除された特定行為は、研修を受講していないため、現場で実施できません。

領域別パッケージ研修の数は年々増えており、今後も追加されていくことが予測されます。

特定看護師になるための方法

特定看護師になるための方法

特定看護師になるためには、厚生労働大臣の指定する指定研修機関において特定行為研修を受講し、修了する必要があります。

特定行為研修とは、特定看護師が特定行為を実施するときに必要な知識・技能とともに、思考力や判断力なども習得できる研修です。特定行為研修を申請・受講すると、下記の流れで研修が行われます。

(1)共通科目の履修
自宅学習(eラーニング)や集合研修(スクーリング)を受講する

(2)筆記試験
共通科目の筆記試験を受験し、合格する

(3)区分別科目の履修
自宅学習(eラーニング)や集合研修(スクーリング)を受講し、臨床実習で5症例以上を経験する

(4)筆記試験
区分別科目の筆記試験を受験し、合格する

(5)修了証の公布
研修修了した特定行為区分の修了証が交付される

なお、特定行為研修を受講するときは、指定研修機関によって受講できる区分別科目が異なる点に注意してください。自分が受講したい区分別科目が存在する指定研修機関を選ぶことが大切です。

特定行為研修の受講対象者は?

特定行為研修の受講対象者は、基本的に下記のような働き方ができている看護師です。

  • 確かな知識と経験をもとに、職場における日常的な医療ケアを自律的に行える
  • チーム医療のキーパーソンとして活動している

上記の働き方ができる看護師としては、3~5年以上の実務経験がある方が想定されています。

ただし、3~5年以上の実務経験はあくまでも想定における目安であり、受講対象者の要件として明確に設定されているわけではありません。受講対象者の要件は、特定行為研修を実施する指定研修機関ごとに異なります。

特定行為研修を実施する指定研修機関において、受講要件として定められている主な要件をいくつか紹介します。

看護師免許があること
特定行為研修は特定看護師として働くために必要な研修であり、受講するときは看護師免許が必須です。なお、准看護師免許は不可とされています。

看護師免許取得後、通算3年または5年以上の実務経験があること
多くの指定研修機関では、3年または5年以上の実務経験を受講要件に定めています。

勤務先の施設長から推薦を受けていること
特定行為研修は、修了後に勤務先での実践が期待されている研修です。多くの指定研修機関では、施設長の推薦書があることを受講要件に定めています。

特定行為研修で学習できる科目は?

特定行為研修は、共通科目と区分別科目に分かれています。共通科目は、すべての特定行為に共通して必要とされる内容です。臨床病態生理学、臨床推論、フィジカルアセスメント、臨床薬理学、疾病・臨床病態概論、医療安全学、特定行為実践の7科目であり、全250時間のカリキュラムです。研修内容は、講義と演習が主ですが、臨床推論、フィジカルアセスメント、医療安全学、特定行為実践の4科目では、実習も行います。

区分別科目は、呼吸器関連、創傷管理関連、創部ドレーン管理関連など、全部で21区分に分かれています。研修にかかる時間は5~34時間であり、区分ごとに異なります。区分別科目では、表の時間数に加えて、区分に含まれる行為ごとに、5~10症例の実習が必要で

共通科目 区分別科目
共通科目の内容 時間数 特定行為区分(例) 時間数
臨床病態生理学 30 呼吸器 (気道確保に係るもの)関連 9
臨床推論 45 呼吸器 (長期呼吸療法に係るもの)関連 8
フィジカルアセスメント 45 創傷管理関連 34
臨床薬理学 45 創部ドレーン管理関連 5
疾病・臨床病態概論 40 ※上記の時間数に加えて、区分に含まれる行為ごとに5~10症例の実習が必要
医療安全学/特定行為実践 45
合計 250
(出典:厚生労働省「これからの医療を支える看護師の特定行為研修制度ご案内」

特定行為研修は、厚生労働大臣が指定した研修機関で行われます。一部の指定研修機関では、講義と演習にe-ラーニングを用いているところもあります。e-ラーニングを活用すれば、看護師として働きながら、特定行為研修を受けることが可能です。

特定行為研修での学習を修了すると、指定研修機関から修了証が交付され、厚生労働省に名簿が報告されます。研修修了後は、現場において特定行為の実施ができるようになります。

特定行為研修は働きながらでも受講できる?

特定行為研修は、共通科目の受講だけでも250時間の研修時間がかかります。複数の区分別科目を受講すると、研修時間の合計は300時間以上になることもあります。特定行為研修の研修期間は一般的に6か月~8か月と言われており、看護師として働きながらでも受講できるか、気になる方が多いのではないでしょうか。

実際には、特定行為研修は働きながらでも受講できます。特定行為研修は、eラーニングを活用した研修方法が推進されており、講義や演習を自宅学習で受講できる体制が整えられているためです。

特定行為研修のeラーニングでは、動画教材を通して特定行為に関する学習を進められます。eラーニングは共通科目・区分別科目の履修時に活用されており、指定研修機関によっては、研修時間の大部分を自宅学習で済ませることが可能です。2019年の調査では、eラーニングの導入率は共通科目で92.9%、区分別科目で73.4%となっています。
(出典:厚生労働省「特定行為に係る看護師の研修制度」

そのため看護師として働きながら特定行為研修を受講したい方は、eラーニングで研修を受講できる指定研修機関を選ぶとよいでしょう。

また、区分別科目の履修時に受講する臨床実習については、受講対象者が勤務する医療機関や協力施設を研修先として実施するケースもあります。臨床実習を受講するためだけに指定研修機関へ赴く必要がなく、働いている看護師にとって大きな負担とならない点がメリットです。

特定看護師になるために必要な費用

特定看護師になるために必要な費用

特定看護師になるためには、特定行為研修の受講料が必要です。特定行為研修の受講料は、各指定研修機関によって異なります。また、受講する科目によっても費用は変わります。ここでは、例として2つの病院の例を紹介します。

公益社団法人 日本看護協会 看護研修学校
受講科目 受講料
一般価格 会員価格
共通科目 636,000円 402,000円
栄養及び水分管理に係る薬剤投与関連 79,000円 50,000円
呼吸器(気道確保に係るもの)関連 41,000円 26,000円
呼吸器(人工呼吸療法に係るもの)関連 150,000円 94,000円
呼吸器(長期呼吸療法に係るもの)関連 39,000円 25,000円
栄養に係るカテーテル管理(末梢留置型中心静脈注射用カテーテル管理)関連 39,000円 25,000円
創傷管理関連 112,000円 70,000円
動脈血液ガス分析関連 72,000円 45,000円
感染に係る薬剤投与関連 91,200円 57,000円
血糖コントロールに係る薬剤投与関連 93,000円 58,000円
循環動態に係る薬剤投与関連 167,000円 105,000円
精神及び神経症状に係る薬剤投与関連 129,000円 81,000円
領域別パッケージ研修「救急領域」 318,000円 199,000円
領域別パッケージ研修「在宅・慢性期領域」 184,000円 117,000円
(出典:公益社団法人 日本看護協会 看護研修学校「2024年度 特定行為研修 募集要項」

看護研修学校では、共通科目と必須の区分別科目(栄養及び水分管理に係る薬剤投与関連)を学ぶ「基本コース」と、上記以外の区分別科目を学ぶ「選択コース」に分かれています。受講費用は、基本コースの金額と、選択コースの合計額です。領域別パッケージ研修では「救急領域」と「在宅・慢性期領域」が受講可能です。

大阪大学医学部附属病院
受講科目 受講料
一般価格 在籍者価格
審査料 10,000円 10,000円
共通科目 478,800円 239,400円
呼吸器(気道確保に係るもの)関連 29,700円 14,850円
呼吸器(人工呼吸療法に係るもの)関連 95,700円 47,850円
栄養に係るカテーテル管理(中心静脈カテーテル管理)関連 23,100円 11,550円
動脈血液ガス分析関連 42,900円 21,450円
栄養・水分管理に係る薬剤投与関連        52,800円 26,400円
感染に係る薬剤投与関連 95,700円 47,850円
血糖コントロールに係る薬剤投与関連 52,800円 26,400円
術後疼痛管理関連 26,400円 13,200円
循環動態に係る薬剤投与関連 92,400円 46,200円
術中麻酔管理領域 ※領域別パッケージ受講料 231,000円 115,500円
(出典:大阪大学医学部附属病院「看護師特定行為研修」

大阪大学医学部附属病院では、病院に在籍している看護師であるかどうかで、受講料が変わります。在籍者である場合は、一般価格の半額で研修を受けることが可能です。領域別パッケージ研修では「術中麻酔管理領域」を受講できます。

特定行為研修を受講する際に使用できる給付金・助成金

最後に、特定行為研修を受講する際に対象者や事業主が使用できる、2つの給付金・助成金制度を紹介します。

教育訓練給付制度

教育訓練給付制度は、一定条件を満たす「受講者」に対し、教育訓練の受講費用を一部給付する制度です。

教育訓練給付制度にはいくつかの種類があり、特定行為研修では下記の2種類が利用できます。

  給付額
一般教育訓練給付 受講費用の20%・上限100,000円
特定一般教育訓練給付 受講費用の40%・上限200,000円
人材開発支援助成金

人材開発支援助成金とは、一定条件を満たす「事業主」に対し、職業訓練の実施などにかかる経費・賃金を助成する制度です。

特定行為研修は、人材開発支援助成金の特定訓練コースにおける助成対象とされており、助成額は下記の通りとなっています。

  中小企業への助成額 中小企業以外への助成額
経費助成 45%・上限500,000円 30%・上限300,000円
賃金助成(1人1時間あたり) 760円 380円

(出典:日本看護協会「これから指定研修機関になろうと考えている皆さま、すでに指定を受けている研修機関の皆さまへ~ 各種申請手続きや補助金等について ~」

特定看護師が活躍できる場所・就職先

特定看護師が活躍できる場所・就職先

特定看護師は、さまざまな場面で活躍が期待されています。下記は、特定看護師の主な就職先です。

【特定看護師の主な就職先】

  • 大学病院、総合病院
  • リハビリテーション病院
  • 救急病院、救急救命センター
  • 訪問看護ステーション
  • 老人ホーム
  • 医療研究センター

救急医療現場では、重症度や緊急度が高い患者さんに対し、迅速で安全な処置を行うために、特定看護師の状況判断能力が大いに役立ちます。救急外来にはさまざまな症状の患者さんが搬送されるため、医療に関わる幅広い知識と観察力が必要です。

リハビリテーション病院では、患者さんの異変にいち早く気付き、迅速な処置を行うことが求められます。特定看護師の活躍により、患者さんの脱水症や低栄養を予防し、重篤化を防げるでしょう。患者さんが自分らしい入院生活を過ごせるよう、介護士や理学療法士らと協働して入院生活を支えます。

訪問看護ステーションでは、患者さんの自宅へ訪問し、身体診察などを通して病態を把握したのち、必要に応じて特定行為を実践します。異常を早期発見できるため、救急搬送に至る前に病院の受診を勧めることも可能です。特定看護師は医学的視点から見通しを立てられるため、医師との連携が円滑になり、効率的・効果的な在宅医療を実現できるでしょう。

特定看護師求人の特徴|年収や待遇

2022年時点の看護師全体の年収は、約508万円と言われています。現状では特定看護師に限定した求人は多くはないため給与の推測が難しいものの、能力と需要を考慮すると、看護師の平均年収を大幅に超える可能性もあるでしょう。
(出典:厚生労働省「令和4年賃金構造基本統計調査」

実際の求人を見ると、病院や訪問看護ステーションでの看護師の給与は約26~38万円となっており、特定看護師の経験や能力が評価されれば、高い給与額が見込めます。4年制大学新卒のモデル月収が約27万円で、別途特定看護師手当などが支給される病院を例に挙げると、月給は約28~30万円と推定できます。その場合、賞与を含めた年収は約500~530万円となり、看護師の平均給与と同等もしくは高い給与が期待できる現場もあることがうかがえます。

厚生労働省は、2025年までに10万人以上の特定看護師を養成することを目標に掲げているため、達成へ向けて特定看護師への待遇改善も期待できます。
(出典:厚生労働省「特定行為に係る看護師の研修制度について」

関東では、特定行為研修修了者への資格手当のほか、特定行為実践時に手当を支給する救急病院や訪問看護ステーションもあります。フォローアップ研修の参加費用を支援する施設もあるため、特定看護師としてキャリア形成を目指す方は、サポート体制が充実している勤務先も選択肢の1つです。

特定看護師に向いている方

特定看護師に向いている方

特定看護師を目指すかどうか、迷う方も多いでしょう。ここでは、特定看護師に向いている方の特徴をいくつか紹介しますので、ぜひ参考にしてください。

なお、現時点で当てはまらない場合でも、研修や実務で適性が身につくケースもあるため、特定看護師に興味のある方は前向きな気持ちで挑戦しましょう。

積極的に患者さんの役に立ちたい方

特定看護師は自分の判断で特定行為が実施できるため、積極的に患者さんの役に立ちたい方に向いています。今すぐにインスリン投与量の調整を行いたい、胃ろうカテーテルを交換したいなどの場面で迅速に対処できることは、特定看護師の最大のメリットともいえるでしょう。

また、特定看護師は患者さんからの信頼を得て、より踏み込んだ相談を受けることもあります。患者さんの回復や自立を支える心強いサポーターとして活躍できることも、特定看護師の強みです。

責任感がある方

特定看護師は裁量の幅が広がる一方で、課される責任も重くなることから、看護師より一層強い責任感が求められます。特に在宅訪問では、特定看護師が1人で訪問して診療を行うなど、責任を感じる場面は少なくありません。

患者さんの命を預かる行為を行うため、慎重に判断する理解力と思考力も必要です。常に知識・技術の向上を目指し、自分の言動に責任を持てる方は、特定看護師として頼られる存在となるでしょう。

仕事により大きなやりがいを求める方

特定看護師は医学分野の勉強が必要となるうえ、責任も伴います。その分、任される仕事のレベルが高くなり、大きなやりがいを感じられるでしょう。特定看護師の処置により、患者さんの重症化が防げるケースは少なくありません。

特定看護師としての迅速な対応に、患者さんや家族から感謝されることもあります。主体的に医療に関わりたい方は、ぜひ特定看護師を目指しましょう。

チームワークを重視できる方

特定看護師は、医師や介護士、理学療法士らと協働するためチームワークが必要です。広い視野を持つ特定看護師には、チーム医療における潤滑油の役割が期待されており、多職種間を取り持つコミュニケーション能力も求められるでしょう。

ただし、特定看護師はチーム医療の中心として活躍できる存在であっても、自分の意見を通せばよいわけではありません。ほかの専門職を尊重し、最適な選択肢を提案するための冷静な判断力を養うことも大切です。

まとめ

特定看護師とは、手順書に従い、自己の判断で特定行為を実施できる看護師のことです。特定看護師になると仕事の幅が広がり、看護師のキャリアアップや給料アップにもつながります。

特定看護師が実施できる特定行為は21区分・38行為が存在します。特定看護師になるためには、自分が受講したい区分における特定行為研修の修了が必要です。特定行為研修は働きながらでも受講でき、条件に合えば給付金や助成金などの支援制度も利用できます。

また、特定看護師として活躍できる職場を探している方は、看護師求人が豊富なマイナビ看護師をぜひご利用ください。看護業界に精通したキャリアアドバイザーが転職活動をサポートいたします。

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※当記事は2024年2月時点の情報をもとに作成しています

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