• 2022年2月24日
  • 2024年8月22日

地域包括ケアシステムとは|看護師の役割から今後の課題まで解説

 

現在の日本は、急速に高齢化社会が進んでいることが実情です。内閣府が公表した「令和5年版高齢社会白書」によると、2022年10月1日現在における総人口1億2,495万人のうち、65歳以上の老年人口は3,624万人となっていました。総人口に占める高齢者の割合は29.0%であり、超高齢化社会の真っ只中といえます。
(出典:内閣府「高齢化の状況」

同データでは今後も高齢化が進むと見込まれている近年、各都道府県・各自治体では、超高齢化社会に向けたあらゆる取り組みを推進しています。そのうちの1つが、「地域包括ケアシステム」です。

今回は、地域包括ケアシステムとは何か、構築する3つの要素から地域包括ケアシステムを担う看護師の方に求められること、抱える課題まで詳しく解説します。

地域包括ケアシステムとは

地域包括ケアシステムとは、65歳を過ぎた高齢者が重度な要介護状態となっても、古くから住み慣れた地域で最後まで自分らしい暮らし・生活ができるよう、住まい・医療・介護・予防・生活支援を包括的に提供する体制のことです。

年々増加してきた老年人口は、今後数十年にわたりさらに増加することが予想されています。そして老年人口の増加により、医療や介護の需要もより高まるでしょう。そのため、厚生労働省では2025年を目途に、地域包括ケアシステムの構築を目指しています。
(出典:厚生労働省「地域包括ケアシステム」

地域包括ケアシステムの社会的・政策的背景

地域包括ケアシステム構築の目的は、大きく分けると「高齢者の尊厳の保持」と「自立生活の支援」の2つです。また、厚生労働省が主導して、これらの目的をもって地域包括ケアシステムの推進が進められている背景には、「社会的背景」と「政策的背景」が存在します。

<社会的背景:高齢化の進展>

日本は少子高齢化が進んでおり、「2025年問題」も度々挙げられています。2025年問題とは、団塊の世代(第一次ベビーブーム時期に生まれた世代)と呼ばれるすべての人々が75歳以上の後期高齢者となり、国民の医療・介護の需要が急激に高まることが予測されるという問題です。

後期高齢者が増加し、医療・介護需要がさらに高まると、現在の病院数・医療従事者数では一人ひとりの患者さんに十分なケアを提供できず、現場が機能しなくなる可能性もあります。そのため、一刻も早い地域包括ケアシステムの構築が進められています。

<政策的背景:財政問題・介護や医療のリソース不足への対応>

介護保険制度が2000年に創設されてから、介護保険サービスを利用する高齢者も急速に増加しました。しかし、少子化によって税収の減少が進み、日本における社会保障費は100兆円を超えるようになります。少子高齢化がより加速する将来、公費のみで高齢化社会を支えることには無理があるといえるでしょう。

また、介護サービスや医療サービスが必要な高齢者が増えると、それだけ病床数や介護従事者・医療従事者が必要となります。介護や医療のリソース不足に対応すべく、地域包括ケアシステムの推進が進められています。

2022年度における診療報酬改定では、地域包括ケアシステムを提供する病棟に関する要件見直しといった提言もされました。主に入院料や管理料の受け入れ割合の是正や、地域包括ケア病棟で働く人材の働き方改革などについてです。いずれも、地域包括ケアシステムを推進するための動きといえるでしょう。
(出典:厚生労働省「2022年度診療報酬改定に向けて」

地域包括ケアシステムの中核となる「地域包括支援センター」

地域包括ケアシステムの推進・実現に向けた中核的な機関には、「地域包括支援センター」が挙げられます。地域包括支援センターとは、介護・医療・保険など、高齢者やその家族のあらゆる悩みに対応する総合相談センターのような施設です。全国の市区町村で設置されており、2023年4月末時点で全国5,431か所、ブランチ(支所)を含めると7,397か所が設置されています。
(出典:厚生労働省「地域包括ケアシステム」

地域包括支援センターの主な役割は、「介護予防支援事業」と「包括的支援事業」の2つです。介護予防支援事業では、介護予防に関するケアマネジメントを実施し、ケアプランの作成や相談対応を行います。包括的支援事業では、介護予防に関するケアマネジメントに加え、総合的な相談支援業務・権利擁護業務・自立支援型ケアマネジメントの支援・ケアマネジャーへの相談や指導を行っています。

地域包括ケアシステムを構築する3つの要素

地域包括ケアシステムを構築する3つの要素

地域包括ケアシステムは、「住まい」(高齢者本人・家庭)を中心に、「医療」「介護」「生活支援・介護予防」という3つの要素によって構築されています。これらは相互に関連しあいながら、高齢者やその家族を支えていることが特徴です。

また、地域包括ケアシステムの構築には、看護師だけでなく保健師も大きな役割を担っています。「地域における保健師の保健活動に関する指針」では、保健師の方の役割を以下のように定めています。

保健師の保健活動の実施に当たっては、訪問指導、健康相談、健康教育、その他の直接的な保健サービス等の提供、住民の主体的活動の支援、災害時支援、健康危機管理、関係機関とのネットワークづくり、包括的な保健、医療、福祉、介護等のシステムの構築等を実施できるような体制を整備すること

(引用:厚生労働省「○地域における保健師の保健活動について」

それでは、ここからは「医療」「介護」「生活支援・介護予防」、それぞれの要素についてより詳しく説明します。

医療

地域包括ケアシステムの医療分野においては、下記のような施設で、患者さんへの適切な医療が提供されています。

  • 急性期病院
  • 亜急性期・回復期病棟
  • リハビリ病院
  • 地域包括ケア病棟

これらの医療施設は互いに連携しあい、日常の医療はかかりつけ医が担い、病気になった際の通院や入院は急性期病院の医師が担うという想定です。急性期を終えた患者さんのリハビリテーションや社会復帰・在宅支援はリハビリ病院・地域包括ケア病棟が担います。なお、地域包括ケア病棟は一般病棟と異なる施設基準が定められていることも特徴です。

地域包括ケア病棟についてより詳しく知りたい方は、下記の記事も参考にしてください。

地域包括ケア病棟とは? 仕事内容から働くメリット・デメリットまで

地域包括ケアシステムにおける医療では、下記のような専門職が関与します。

  • 医師
  • 看護師全般(専門看護師・認定看護師・正看護師・准看護師 など)
  • コメディカル職(臨床検査技師・理学療法士・作業療法士・管理栄養士 など)
  • 介護職(ケアマネジャー・介護福祉士・社会福祉士)
  • 医療事務 など

地域包括ケア病棟の施設基準では、看護職員の7割以上が看護師であることが条件となっています。また社会参加・在宅復帰の支援体制を整えたり、介護ケアを行ったりするためのリハビリ職員も重要となっており、幅広い専門職の確保が重要です。
(出典:厚生労働省「地域包括ケアシステム」

介護

地域包括ケアシステムにおいて、介護分野では下記のあらゆる介護施設から「在宅系サービス」「施設・居住系サービス」の2つが提供されています。

【在宅系サービス】

  • 訪問看護・訪問介護・通所介護
  • 小規模多機能型居宅介護
  • 短期入所生活介護
  • 24時間対応訪問サービス など

【施設・居住系サービス】

  • 介護老人福祉施設・介護老人保健施設
  • 特定施設入所者生活介護 など

在宅系サービスは必要に応じた在宅生活の支援(在宅医療・在宅看護・在宅介護)に近く、施設・居住系サービスのほうが幅広い支援サービスを提供しています。さらに、あらゆるサービスを複合(訪問看護+短期入所生活介護など)した「複合型サービス」もあります。なお、これらのサービスは利用者さんが途中で自由に切り替えることが可能です。

地域包括ケアシステムにおける介護では、下記のような専門職が携わります。

  • 医師
  • 看護師全般
  • コメディカル職
  • 介護職
  • ホームヘルパー
  • 送迎業 など

介護においては、当然介護領域の業務がメインです。看護師の方は利用者さんの健康管理のほか、介護従事者と連携して介護業務に携わることもあるでしょう。通所サービスの場合、介護・医療系の資格保有者だけでなく、送迎運転手も必要な人材となります。普通自動車運転免許を必須条件としている介護・医療系求人も少なくありません。
(出典:厚生労働省「地域包括ケアシステム」

生活支援・介護予防

地域包括ケアシステムにおいて、生活支援・介護予防分野ではNPO法人・自治体・老人会・ボランティア団体・民間企業が主体となり、下記のようなあらゆるサービスを提供しています。

  • コミュニティサロン・カフェの開催
  • 家事・買い物などの生活支援
  • 配食・見守り
  • 安否確認

また、上記のサービスは主に事業団体が高齢者に向けて提供するサービスではあるものの、厚生労働省ではサービスの提供と同時に、高齢者自身がボランティア活動に参加し、生活支援の担い手として活躍することも、介護予防や社会復帰に効果的としています。

地域包括ケアシステムにおける生活支援・介護予防は、医療や介護要素とは違って専門性の必要がない分野です。そのため、医師や看護師といった専門職よりも、自治体や地域住民、さらに各団体などが主体となり連携・活動します。
(出典:厚生労働省「地域包括ケアシステム」

自助・互助・共助・公助からみた地域包括ケアシステム

自助・互助・共助・公助からみた地域包括ケアシステム

次の表は、自助・互助・共助・公助それぞれの観点からみた地域包括ケアシステムの概要と代表例です。

自助 できるだけ日常生活の自立や自らの健康管理(セルフケア)に取り組むこと、医療や福祉に関する市場サービスを自分で購入することを指します。当事者団体による取り組みや高齢者ボランティアへの参加、そしてボランティアと就労の中間的な位置づけにある生きがい就労も、自助の一種です。
互助 制度によって裏付けられておらず、自発的な取り組みによって成り立つ相互の支えあいです。主な代表例はボランティア活動や住民組織活動への参加であり、高齢者ボランティアのように自助と互助の性質を併せ持つものも少なくありません。
共助 介護保険などのようにリスクを共有する仲間(被保険者)が負担を分けあい、ともに支えあうことを指します。
公助 一般財源による高齢者福祉事業や人権擁護・虐待対策、そして生活保護などに代表される、税による公的な負担です。

高齢者のひとり暮らしや高齢者のみの世帯がますます増えている現在、自助・互助の概念や範囲をアップデートさせることが必要です。都市部では強固な互助を期待しにくい一方で民間サービス市場が大きく、自助によるサービス購入の選択肢が多いといえます。郊外や地方では、都市部と比べて民間サービス市場は小さく互助の役割は大きいことが特徴です。

少子高齢化及び多くの自治体の財政状況を考慮すると、共助や公助の大幅な拡充はそれほど期待できません。そのため、自助や互助がより大きな役割を果たすことを意識した取り組みが不可欠です。
(出典:厚生労働省「地域包括ケアシステムの5つの構成要素と「自助・互助・共助・公助」」

地域包括ケアシステムのメリット

地域包括ケアシステムのメリット

地域包括ケアシステムの主なメリットは、次の通りです。

医療・介護サービスが一体的・継続的に提供される
医療機関と介護サービス提供者が情報を共有しそれぞれの高齢者に合わせたケアプランを作ることで包括的・継続的な治療やケアを提供でき、スタッフのスキル向上にも活かせます。高齢者本人のQOL向上はもちろん、スタッフの負担軽減や余分な医療費の削減にも有効です。
(出典:厚生労働省「地域包括ケアシステム」

高齢者が社会参加するきっかけになる
高齢者がボランティアやさまざまなコミュニティに参加して地域社会との接点を持つことで生きがいを得やすくなり、健康寿命の延伸にも役立ちます。また、高齢者が定年退職前の職業や家庭生活から得たスキルを地域に還元することで、若者や働き盛りの世代もさまざまなメリットを得られます。
(出典:厚生労働省「高齢者の社会参加を通じた地域包括ケアシステムのあり方検討」

要介護者や認知症の高齢者が自宅で生活を続けられる
高齢者が在宅医療や介護・生活支援サービスを活用しつつ、できる限り住み慣れた自宅などで生活することで、より自分らしく過ごせるとともに地域とのつながりを保ちやすくなります。今後さらなる高齢化にともなって必要とされる病床数も増える見込みですが、多くの高齢者が自宅で暮らすことで医療・介護施設の負担軽減が期待できます。
(出典:厚生労働省「地域包括ケアをご存じですか?」

地域包括ケアシステムは、高齢者だけでなくその家族や地域住民にとっても重要な仕組みです。介護の担い手不足によって、少人数のきょうだいに親の介護負担がのしかかる事例も多くあります。また、晩産化にともなうダブルケアの増加も大きな懸念材料です。細やかな地域包括ケアシステムは、家族の介護疲れや介護離職などのリスク軽減に役立つと期待されています。

地域包括ケアシステムの取り組み事例

地域包括ケアシステムの取り組み事例

地域包括ケアシステムにまつわる施策づくりは国全体にとって喫緊の課題であり、官民連携によるさまざまな取り組みを通じて大きな効果を上げている事例も少なくありません。次に、自治体の特性を活かした地域包括ケアシステムの取り組み事例について解説します。
(出典:厚生労働省「地域包括ケアシステム構築へ向けた取組事例」

東京都世田谷区の事例

23区中最大の人口規模を誇り都市公園などの地域資源に恵まれた世田谷区では、住民主体の地域活動が活発に行われています。区民の高齢化や区民からの意見などを受け、区は医療・介護・予防・住まい・生活支援の5分野にまたがる取り組みを実施しました。この取り組みには、地域資源やネットワークが最大限に活かされていることも大きなポイントです。

また、官民連携による取り組み「せたがや生涯現役ネットワーク」では高齢者の社会参加機会づくりに力を入れています。イベントなどを通じて地域と関わりたい中高年世代と経験豊富な人材を求める事業者・団体のマッチングを図り、生きがいづくりと地域活性化の両方を目指すねらいがあります。

新潟県長岡市の事例

長岡市は県の中央部に位置する豪雪地帯であり、農業・漁業・機械金属関連産業などが盛んです。市内には計13か所のサポートセンターが設けられ、住まい・医療・介護・予防・生活支援サービスなどに関する取り組みが実施されています。

また、地域の祭りの際に介護施設を休憩場所として提供したことを機に地域との交流が深まった事例もあります。市は、今後も地域住民から「事業所を使いたい」と提案してもらえるような関係づくりや来館者が自由に過ごせる空間づくりを目指しています。

千葉県柏市の事例

自然豊かな都心のベッドタウンである柏市では、将来の高齢化が課題となっています。そこで、医師会をはじめとする多職種と行政が連携して在宅医療を推進する「柏市豊四季台地域高齢社会総合研究会」を発足させました。

医療・看護・介護の一体的な提供によって、高齢者が住み慣れた地域で充実した人生を送りやすくなると期待できます。また、さまざまな団体の協力によって団体間の関係やルールづくりを進めやすくなることも大きなメリットです。今後は、市内全域における多職種連携ルールや訪問診療医の協力体制などの整備を目指しています。

鳥取県南部町の事例

県西部に位置し平地や丘陵地が広がる南部町は、米や果物の名産地です。高齢者の孤立や平均年金受給額の低さなどの課題を解決すべく、住民組織によって鳥取型地域生活支援システムモデル事業(地域コミュニティホーム)が実施されました。

この事業では既存の建物を改修して高齢者の共同住宅や交流の場とし、ボランティアや連携事業者による訪問介護や生活支援サービスなどを入居者に提供しています。空き家などを活用することで人件費や建設費を抑え、低所得高齢者や要介護度の低い高齢者が安心して過ごせる場所づくりを実現できました。

三重県四日市市の事例

県北部に位置する四日市市は、四日市コンビナートやさまざまな業種の企業を有する産業都市です。市内でも特に高齢化率が高く高齢者の孤立化や生活支援などが課題となっていた三重西地区では、高齢の入居者が多い団地内の空き店舗を活用して孤立化防止拠点が設置されました。

各拠点には生活相談窓口やコミュニティレストランなどが設けられ、地域住民の交流の場づくりや住民同士の互助の推進に役立っています。今後もこれらの取り組みについてさらなる検証を行うとともに、検証結果をほかの地域へ普及させることなどに向けて活動しています。

地域包括ケアシステムを担う訪問看護

地域包括ケアシステムを担う訪問看護

地域包括ケアシステムの中で、看護師の役割は「訪問看護」という形で多く果たします。

訪問看護とは、自宅で療養する高齢者のもとへ看護師が訪問し、必要な医療ケアを提供するサービスです。訪問看護に携わる看護師は、医師が作成する指示書にもとづいて、健康状態のチェックから身体介護・医療処置を行います。さらに、看護技術をもって利用者さんとその家族の相談対応や適切な指導・アドバイスをすることも看護師の重要な業務です。

通院や入院は「治療・機能回復」が目的ですが、訪問看護は「身の回りのお世話・自立援助」が目的となっており、看護師の方は一人ひとりの希望を尊重した生活をサポートする必要があります。

拡大を続ける訪問看護

訪問看護を主に行う「訪問看護ステーション」は、2023年4月時点で全国15,697か所あります。施設の開設数は2010年から毎年増加しており、高齢化が進む今後も着実に増加することが見込まれています。
(出典:一般社団法人全国訪問看護事業協会「令和5年度 訪問看護ステーション数 調査結果」

また、拡大を続けているのは量的な部分だけではありません。患者さん・利用者さん一人ひとりの希望になるべく沿ったサービスを提供すべく、サービス範囲の拡大も進められています。たとえば、認知症グループホームにおいて、精神科疾患のある患者さんや末期がん患者さんに向けて医療保険の訪問看護を提供したり、訪問看護ステーションが健康管理を提供したりなどが挙げられます。

訪問看護ステーション自体の機能拡大も進められており、都市部を中心に医療保険で療養費の算定が可能となる「機能強化型訪問看護ステーション」も増加傾向です。そのほかにも、介護ニーズと医療ニーズを併せ持つ通所サービスの「療養通所介護」や「看護小規模多機能型居宅介護」も開設が進んでおり、地域包括ケアシステムの推進に期待されています。
(出典:公益財団法人日本訪問看護財団「訪問看護がつくる地域包括ケア」

地域包括ケアシステムを担う看護師に求められること

地域包括ケアシステムを担う看護師に求められること

地域包括ケアシステムにおいて、訪問看護に従事する看護師(訪問看護師)は重要な役割を担います。患者さんに看護を提供するほかにも、さまざまな業務を行う必要があります。

また、病院で提供する看護は一般的に患者さんの医療ケアや診療補助ですが、訪問看護はやや異なる点も特徴です。ここからは、地域包括ケアシステムを担う看護師の方(訪問看護に従事する看護師の方)に求められることを紹介します。

看護の提供

訪問看護師の業務内容は、多岐にわたることが基本です。看護師の主たる業務は「患者さんの治療や健康管理」「自分らしい暮らし方のサポート」であり、病院看護は治療・健康管理をメインに、そして訪問看護は自分らしい暮らし方のサポートをメインに行います。具体的には、下記のような業務を担当します。

訪問看護の主な仕事内容
  • 利用者さんの健康状態の観察・管理・助言
  • 利用者さんの家族からの相談対応や適切な支援・助言
  • 利用者さんの身の回りのお世話(食事・口腔ケア・排泄ケアなど)
  • 認知症・精神科疾患の予防やケア
  • 医療処置
  • 身体機能・嚥下機能のリハビリ
  • ターミナルケア

上記のように、訪問看護では利用者さんに対する日々の健康管理はもちろん、利用者さん本人とその家族のターミナルケアまで幅広く対応します。医療的視点をもちながら、利用者さん本人とその家族の希望に寄り添った対応をすることが重要です。

専門職間の調整

看護師は、訪問看護の利用者さんにとって最も身近な存在です。介護の立場からしか携われない介護職とは異なり、介護・医療の両方の立場を媒介することが求められます。

地域包括ケアシステムのなかでも、訪問看護師は「利用者さん・家族・医師・医療従事者」を橋渡しする役目を担います。時には、関係者と連携・協力しながらチーム医療を提供することもあるでしょう。そのため、介護職やリハビリ専門職などといったほかの職種と連携しながら各専門職間の調整を図ることは、訪問看護師に重要な仕事といえるでしょう。

利用者さんやその家族と専門職間での調整を図るためには、高度なコミュニケーションスキルも重要です。利用者さんだけでなく、ほかの医療スタッフと円滑なコミュニケーションを図るためにも、相手の意見を大事にし、かつ尊重することを心がけておきましょう。

家族看護

訪問看護師には、「家族看護」も求められます。家族看護とは、利用者さんや患者さんの家族を対象とした看護です。

重度な介護が必要となった方や、認知症・精神科疾患を患った方の家族は、少なからず精神的な影響を受けます。訪問看護では、利用者さんとその家族も看護の対象として捉えており、利用者さんの家族の不安や精神的な負担の軽減・健康維持に向けたケアやサービス提供体制が求められます。看護師は、家族看護において下記のようなことを行います。

家族看護の仕事内容
  • 家族間コミュニケーションの橋渡し
  • 利用者さんの家族に向けた健康維持に関する指導・助言
  • 病気・病状に関する医療的知識や看護知識の指導

上記は家族看護の主な内容ですが、実際には対象の利用者さんの健康状態や家族背景により行うべき看護業務はさまざまです。問題解決や負担軽減のためのケアにはあらゆるものがあるため、一つひとつの家族に適した行動を起こすべきであることを覚えておきましょう。

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地域包括ケアシステムと訪問看護が抱える課題

地域包括ケアシステムと訪問看護が抱える課題

あらゆる背景により誕生した地域包括ケアシステムと訪問看護は、まだまだ多くの課題を抱えていることが実情です。下記に、地域包括ケアシステムと訪問看護が抱える課題を紹介します。

医療と介護の連携が不十分である

地域包括ケアシステムの柱でもある最も重要な部分が「医療と介護の連携」です。量的拡大・機能拡大が進んでいる近年は連携も徐々に進められているものの、十分に機能しているとはいい難い状態となっています。今後は24時間体制での看護が重要となっていることから、特に医師・看護師・介護職員の一刻も早い密接な連携が求められるでしょう。

地域格差が存在する

各地域において、高齢者の人口比率や、財政状況、医療・介護従事者の充足率はそれぞれ異なります。そのため、全国的に地域包括ケアシステムの推進が進んだとしても、実際には地域格差が発生する点が課題です。先行して推進している地域を例に、地域特性にあわせた計画立てはもちろん、地域住民らの理解も求められるでしょう。

訪問看護の提供体制が不十分である

地域格差にも関連する要素ですが、少子高齢化によって看護師の人手不足が全国的に騒がれています。人手不足の状態では、訪問看護の提供体制が不十分となり、地域包括ケアシステムとして十分に機能できません。これにより、現在では人手確保に向けたあらゆる対策・取り組みも同時に進められています。

業務量が多くなっている

訪問看護とひとくちにいっても、その業務内容は利用者さんの健康管理や身の回りのケア、医療処置、機能訓練、家族への対応、ほかの専門職との連携など多岐にわたります。このように、業務量の多さは大きな問題とされており、人手不足の要因となっていることも実情です。人手不足の事業所であれば看護師の方が事務作業を行うことも珍しくありません。業務量の多さの改善に向けて、システムの導入・活用による業務効率化や人員補充が求められています。

このように、地域包括ケアシステムの推進が進められている一方で、依然として多くの課題が残っています。しかし、これらの課題の改善に向けて改善策は度々検討されており、実際に改善に向けた取り組みも、地域包括ケアシステムの推進と同時に行われているため、看護師の勤務環境も徐々に改善されるでしょう。
(出典:公益社団法人日本看護協会「訪問看護 現状と課題」

自助・互助がどこまで促進できるか

地域包括ケアシステムの実現には、地域住民や事業者による理解と主体的な参加の促進が欠かせません。自助や互助のあり方は地域の状況によって変わるため、ほかの地域のモデルをそのまま取り入れるだけでなく地域の実情に沿った仕組みづくりが鍵となります。

システムについて、高齢者本人や家族に正しく知ってもらうことも重要です。高齢者本人に自らの健康と日常生活をできる限り自分で支えようと意識してもらうこと、そして自宅で介護を担う家族の不安を軽減することで、QOL向上に役立つでしょう。
(出典:厚生労働省「平成28(2016)年3月 地域包括ケアシステムと地域マネジメント」
(出典:厚生労働省「地域包括ケアシステムの5つの構成要素と「自助・互助・共助・公助」」
(出典:厚生労働省「地域包括ケアシステムの構築における今後の検討のための論点整理」

まとめ

65歳を過ぎた高齢者が要介護状態となっても、住み慣れた地域で最後まで自分らしい暮らしができるよう、住まい・医療・介護・予防・生活支援を包括的に提供する体制が、「地域包括ケアシステム」です。地域包括ケアシステムは医療・介護・生活支援・介護予防の3つの要素によって構築されており、各要素は連携しながら医療や介護が必要な高齢者とその家族を支えています。

地域包括ケアシステムの中で、看護師は主に訪問看護師という形で携わります。訪問看護は地域包括ケアシステムにおいて重要な存在であり、量的拡大・機能拡大も進んでいます。

依然として多くの課題は残っているものの、改善に向けた取り組みも同時に行われており、看護師の処遇改善も期待できるでしょう。ここまでの内容を参考に、地域包括ケアシステムの仕事に携わってみたいという看護師の方は、ぜひ「マイナビ看護師」をご利用ください。無料転職サポートのご利用で、非公開求人情報の紹介から履歴書の添削・面接日程の調整などあらゆるサポートを提供いたします。

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