胸骨は、胸郭の中心に位置する骨で、肋骨・肋軟骨・胸椎とともに人体の重要な保護機能を担っています。胸骨に関連する痛みや疾患は、多岐にわたり、それぞれに適切な対処が必要となります。
この記事では、胸骨の基本構造や周辺の疾患、救急時の胸骨圧迫方法、さらに胸骨骨折や開胸手術について詳しく解説します。胸骨について正しい知識を身につけたうえで、症状の早期発見や医療対応時の理解を深め、より適切な判断を行うことを目指しましょう。
胸骨とは
胸骨とは、胸の前方中央にあり、縦方向に伸びている長い骨です。胸骨は主に、上部に位置する「胸骨柄」、中央に位置する「胸骨体」、下部に位置する「剣状突起」の3部位で構成されています。
胸骨と肋骨の関係
肋骨とは、人間の背中側にある「胸椎」から胸骨までを接合している12本の骨のことです。肋骨の下部には、呼吸と深い関わりを持つ「横隔膜」があります。肋骨と肋骨の間には「内外肋間筋」があり、これが肋骨を動かして横隔膜をコントロールし、呼吸する仕組みです。肋骨と胸骨を接合する部分は、「肋軟骨」と呼ばれます。
肋骨・胸骨・肋軟骨・胸椎で構成される籠状骨格の呼び名は、「胸郭」です。胸郭は、重要度の高い臓器の保護、呼吸のコントロールなどの役割を担います。
胸郭の形状は、前後径と横径の比率に特徴がありますが、個人差が大きく、成長や体型によって変化します。前後径が拡大している症状は「はと胸」、中央部分にくぼみがある症状は「漏斗胸」と呼ばれます。
胸骨周辺の痛みを伴う疾患例
胸骨周辺の痛みを伴う疾患やトラブルには、さまざまな種類があります。痛い場所を指で示し、その部分を圧迫した際に痛みが悪化する場合に考えられる疾患やトラブルは、以下の通りです。
- 肋骨骨折
- 肋間神経痛
- 肋軟骨炎
肋軟骨炎とは、肋骨と胸骨の接合部分が痛む疾患です。肋軟骨炎の原因として、過剰な物理的負荷や炎症が挙げられます。
ただし、消化器系の疾患や心疾患で胸骨周辺が痛むケースもあるため、実際に患者さんをアセスメントする際には慎重な判断が必要です。実際のアセスメントにおいては生命に関わる疾患が関係しているリスクも考慮して、様子をよく観察しましょう。
救急救命時の胸骨圧迫の方法

胸骨圧迫は、生命の危機にある傷病者に対して救急隊の到着を待つ間、医師や救急救命士以外の方も実践できる心肺蘇生法の1つです。以下では、救命救急の現場で胸骨圧迫を行う際の一般的な手順を紹介します。
1 | 左右の乳頭を結ぶ線の中央に片側の手をあて、反対側の手を重ねる |
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2 | 両肘を伸ばし、圧迫部分の真上に肩がくる体勢をとる |
3 | 胸骨が4~5cm程度沈み込む強さで圧迫する |
4 | 手は胸骨から離さずに力を緩め、圧迫した胸骨を元に戻す |
5 | 1分間に100~120回程度の速さを意識し、一定のリズムで30回続ける |
圧迫は手のひら全体でなく、基部(手のひらの下部分)のみで行うことがコツです。重ねる手の指を下側にある手の指とからめ、上方向に引き上げることを意識すると、スムーズに実践できます。
胸骨圧迫では胸が元の位置に戻る際、全身から心臓へと血液が送られます。十分に圧迫した後は毎回力を緩めて、元の高さまで鎖骨を戻してください。
胸骨圧迫を効果的に行うためには、十分な圧迫を絶え間なく行うことも重要です。周囲の方にサポートを依頼できる場合には、疲労を感じる前に交代してもらいましょう。
救助者が疲労して、圧迫の強さ、速さ、解除(胸の戻り)などが不十分になるのを防ぐため、周りに協力してくれる人がいたら、1~2分ごとを目安に胸骨圧迫の役割を交代するとよいでしょう。
交代による胸骨圧迫の中断は最小限にとどめ、休んでいる救助者は、胸骨圧迫の位置、テンポ、深さが適切に維持されているかをチェックする役目に回ると効率よく救命処置を行えます。
(参照:広域災害救急医療情報システム「救命救急/応急手当」)
(参照:日本循環器学会「よくある質問」)
胸骨骨折とは

胸骨は、軽度・重度の衝撃や事故によって折れることがある部位です。胸骨骨折は比較的遭遇頻度が高い胸部外傷にあたるため、原因・症状・代表的な治療法を確認しておきましょう。
胸骨骨折の原因
胸骨骨折の主な原因は、以下の通りです。
- 交通事故
- 高所からの転倒
- 身体の接触を伴うスポーツ
など
高齢者・ステロイドを長期服用している方・骨粗鬆症の方・閉経後の女性などは上記のほか、机の角に衝突した程度の軽微な外力で胸骨骨折するリスクがあります。
(参照:一般社団法人 日本整形外傷学会「肋骨骨折」)
胸骨骨折の症状
胸骨骨折の主な症状は、痛み・圧痛・息苦しさ・皮下出血です。胸骨骨折による痛みは通常、体をそらす・肩を動かすなどの行動を取った際に悪化します。胸骨骨折では、深呼吸・咳払い・くしゃみの行いにくさを訴える患者さんも少なくありません。損傷部分を軽く圧迫した際、骨のきしむ音がすることも、胸骨骨折の症状です。
(参照:一般社団法人 日本整形外傷学会「肋骨骨折」)
胸骨骨折の診断・治療法
骨折部位が胸骨のみの場合には、整形外科で診察を行うことが基本です。胸骨骨折の診察では基本的に、胸部に対する触診とX線撮影を行います。
骨折の程度や場所によっては肺の影やほかの骨と重なり、X線撮影で損傷部分を確認できません。損傷部分を確認できない場合には、胸部CT撮影を行うこともあります。
整形外科で行う胸骨骨折の治療は、消炎鎮痛剤・湿布などを使用しつつ経過観察する方法が基本です。痛みを強く訴える患者さんに対しては、バストバンドやトラコバンドなどで固定したうえで経過観察するケースもあります。トラコバンドを装着する時は、非伸縮部を支えながら、息を吐き切ったタイミングで伸縮部の面ファスナーを固定していきます。不適切な圧迫による皮膚障害や循環障害などに注意しましょう。骨折部分の転位が著しく、周囲の臓器に影響を及ぼす場合には、手術を実施することもあります。
胸骨以外の骨折や臓器損傷が疑われる場合には、超音波検査・血液検査・心電図検査などを行うことが必要です。複数部位の骨折や臓器損傷が確認され、患者さんの命に関わる状態の時には、胸部外科での治療が求められます。
臓器損傷が確認された場合の治療法は、状況によって異なります。心臓や大血管を損傷している場合には救命措置として、緊急手術を行うことも必要です。
(参照:一般社団法人 日本整形外傷学会「肋骨骨折」)
開胸手術における胸骨切開とは

開胸手術では全身麻酔したうえで胸骨切開を行い、内部臓器の処置を進めることが通常です。以下では、胸骨切開の代表的な手法2つと代替的な選択肢にあたる「MICS(低侵襲心臓手術)」について紹介します。
胸骨正中切開
胸骨正中切開とは、胸骨を縦に大きく切開して十分な術野を確保する手法です。以下に、胸骨正中切開の主なメリットとデメリットを示します。
メリット |
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デメリット |
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胸骨正中切開は一般的に、胸骨切開の手法中、もっともスタンダードな選択肢です。手術後には多くの場合、切開した胸骨をワイヤーなどで固定します。
胸骨部分切開
胸骨部分切開とは、胸骨の下部もしくは上部半分のみを切開する手法です。以下に、胸骨部分切開の主なメリット・デメリットを示します。
メリット |
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デメリット |
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手術の対象疾患や患者さんの身体状態によっては、胸骨部分切開の選択が不可能です。たとえば、胸郭が薄い体型の方や心機能が低下している方の手術では安全面に配慮し、胸骨正中切開を行うことが推奨されます。
MICS(低侵襲心臓手術)
MICS(低侵襲心臓手術)とは、胸骨正中切開ほど大きな切開を行わず、患者さんの負担軽減を図る心臓手術手法の総称です。上記の「胸骨部分切開」も、MICSの一種にあたります。
MICSの「右肋間開胸」を採用すると、胸骨をまったく切開しない心臓手術が可能です。右肋間開胸では、肋骨と肋骨の間を切開して対象臓器へのアプローチを行います。
右肋間開胸は胸骨正中切開と比較して切開部分から心臓部分までの距離が遠く、慎重に処置する必要があることから、より長時間の手術になる点がデメリットです。一方で社会復帰までの時間を短縮でき、日常生活に対する影響を軽減しやすいメリットがあります。胸骨正中を切開しないので、術後2か月の運動制限もほとんどありません。早期リハビリが可能となり、早期退院が見込めます。
まとめ
胸骨は、胸郭の中心を成し、多くの重要な役割を果たす骨です。胸骨に関連する疾患や損傷は、命に関わるものもあり、早期の診断と適切な治療が求められます。胸骨に関する知識を身につけると、健康管理や医療行為への理解もより深まるでしょう。
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※当記事は2024年12月時点の情報をもとに作成しています
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