2017年9月に施行された「公認心理師法」によって、新たに公認心理師が誕生しました。公認心理師は心理職において初めての国家資格であり、日本の心理学の歴史においても革命的な出来事といえます。
かつての心理系資格は、民間資格しかありませんでした。そのなかでも「臨床心理士」は名称独占資格であり、メンタルヘルスに関する最高峰の資格とされていました。しかし、心理職初の国家資格である公認心理師の誕生によって、「公認心理師が心理職における最上位資格」というイメージももたれつつあります。
公認心理師は誕生から数年しか経っていない資格であるため、資格の概要や臨床心理士との違いが分からないという方も多いでしょう。そこで今回は、公認心理師と臨床心理士の違いについて詳しく紹介します。
そもそも公認心理師と臨床心理士とは?
公認心理師と臨床心理士は、いずれも心理系の仕事に活かせる仕事です。公認心理師と臨床心理士の違いを知る前に、まずはそれぞれの概要を理解しておきましょう。
ここからは、公認心理師と臨床心理士の詳しい概要を順に紹介します。心理学に関心をもつ方や進路先に迷っている方は、ぜひ参考にしてください。
公認心理師
公認心理師とは、保健医療や福祉、教育などの幅広い分野において、心理学に関するさまざまな専門的知識と技術をもって対象者へ指導や助言、援助を行う専門職です。2017年9月15日に公認心理師法が施行されたことによって誕生した資格であり、心理系資格においては唯一の国家資格となっています。
厚生労働省が公表するデータによると、2020年12月末時点における公認心理師の登録者数は「35,529人」でした。誕生から3年あまりしか経っていない段階であるにもかかわらず多くの登録者がいるという状況から、公認心理師の注目度の高さがうかがえます。
(出典:厚生労働省「公認心理師」)
(出典:厚生労働省「公認心理師の活動状況等に関する調査」)
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臨床心理士
臨床心理士とは、臨床学にもとづく心理業務を行って対象者のメンタルヘルス問題の解決に導く、いわば心理専門のエキスパートです。1988年に「日本臨床心理士資格認定協会」が発足したことによって誕生した民間資格であり、公認心理師が誕生するまでは「心理系資格の最高峰」とされていました。
公益財団法人 日本臨床心理士資格認定協会によると、2022年4月1日時点における臨床心理士の登録認定者数は「39,576人」でした。公認心理師よりもやや多く、日本の心理学会では最大の会員数を誇ると言われています。
(出典:公益財団法人 日本臨床心理士資格認定協会「臨床心理士とは」)
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公認心理師と臨床心理士の違い
公認心理師と臨床心理士はいずれも心理に関する専門職であり、共通点も多くなっています。しかし、民間資格と国家資格の違いから、異なる点もいくつか存在します。
そこで次に、公認心理師と臨床心理士の違いを項目に分けて紹介します。「公認心理師・臨床心理士どちらを目指そうか悩んでいる」という方は、進路のヒントにしてください。
公認心理師は国家資格・臨床心理士は民間資格
前述の通り、公認心理師は公認心理師法にもとづく国家資格です。2015年9月9日に成立した公認心理師法は2017年9月15日に施行され、2018年9月9日には第1回公認心理師国家試験が実施されました。
一方で、臨床心理士は心理専門職の民間資格です。1988年の「日本臨床心理士資格認定協会」の発足により誕生した臨床心理士は歴史が長く、現在でも心理職の代表資格として知られています。
国家資格である公認心理師と、民間資格である臨床心理士とでは、それぞれ受験ルートや資格更新の必要性が異なります。
公認心理師 | 臨床心理士 | |
---|---|---|
資格認定 | 公認心理師法にもとづく国家資格 | 日本臨床心理士資格認定協会が認定する民間資格 |
更新制度 | なし | あり(5年ごと) |
受験資格 | 4年制大学の卒業+指定大学院の修了 | 指定大学院の修了 |
(出典:公益財団法人日本臨床心理士資格認定協会「受験資格」)
(出典:公益財団法人日本臨床心理士資格認定協会「臨床心理士資格認定事業」)
業務内容
公認心理師の業務内容は、下記のように定義付けられています。
(1) | 心理支援を求めるクライエントの心理状態を観察し、その結果を分析する |
---|---|
(2) | 心理支援を求めるクライエントの心理相談に応じ、適切な指導・助言・援助を行う |
(3) | 心理支援を求めるクライエントの関係者からの相談に応じ、適切な指導・助言・援助を行う |
(4) | 心の健康に関する知識の普及を目的とした教育・情報提供を行う |
一方で、臨床心理士の業務内容は下記の通りとなっています。
(1)臨床心理査定 | さまざまな心理テストや心理検査、観察面接を通して、クライエントの独自性や問題点の所在、さらに適切な援助方法を明らかにする |
---|---|
(2)臨床心理面接 | あらゆる臨床心理学的技法を用いて、クライエントの問題解決に資する心理支援を行う |
(3)臨床心理的地域援助 | 特定のクライエントのみならず、地域住民や団体に属する人々に向けて支援活動を行う |
(4)上記3つの要素に関する調査・研究 | 心の問題への支援を行ううえで、知識や技術をより確実なものとするために、基礎となる臨床心理的調査・研究活動を実施する |
仕事内容として大きな違いはありませんが、公認心理師には「心の健康に関する知識の普及を目的とした教育や情報提供」も業務内容に含まれます。つまり、公認心理師は臨床心理士と比較して「地域の健康づくり」により特化した資格といえるでしょう。
(出典:厚生労働省「公認心理師」)
(出典:公益財団法人日本臨床心理士資格認定協会「臨床心理士とは」)
就職先
公認心理師・臨床心理士ともに、活動する領域は教育や医療、司法、福祉、産業など多岐にわたります。
主な職場 | |
---|---|
教育領域 | 幼稚園・学校・教育センター・学生相談室 など |
医療領域 | 精神科病院・一般病院・メンタルクリニック など |
司法領域 | 少年鑑別所・少年院・刑務所・家庭裁判所 など |
福祉領域 | 児童相談所・児童福祉施設・障がい者施設・高齢者施設 など |
産業領域 | 企業内の健康管理室・従業員支援の専門機関 など |
現状、公認心理師と臨床心理士とで就職先に大きな違いはありません。しかし、公認心理師に関する制度が整備されれば、勤務先や資格要件によって仕事内容に差が生じる可能性も考えられます。
(出典:公益財団法人日本臨床心理士資格認定協会「臨床心理士の職域」)
公認心理師と臨床心理士どちらを目指すべきか
公認心理師と臨床心理士の違いは理解できたものの、心理学系の資格者としてどちらを目指すべきか分からないという方も多くいるでしょう。
まとめると、公認心理師は2017年に創設された比較的新しい心理職唯一の国家資格であり、注目度も高まっています。しかし、公認心理師を目指す場合は4年制大学と指定大学院で合計6年間という長い期間、心理学を学んで公認心理師試験の受験資格を得る必要があります。
一方で、臨床心理士は公認心理師が誕生した現在でも信頼度の高い民間資格です。指定大学院の修了(2年間)で臨床心理士資格試験の受験資格が得られるため、比較的取得しやすい資格となっています。しかし、今後の整備状況によっては、仕事内容や役割において公認心理師との差が生じる可能性もあるでしょう。
したがって、現状ではどちらを目指すべきか、一概にはいえません。それぞれの受験資格を確認し、自身の状況や心理臨床経験と照らし合わせたうえで検討するとよいでしょう。
まとめ
公認心理師とは、保健医療や福祉、教育などの幅広い分野において、心理学に関するさまざまな専門的知識と技術をもって対象者へ指導や助言、援助を行う専門家です。一方の臨床心理士は、臨床学にもとづく専門性の高い知識や技術をもって対象者のメンタルヘルス問題の解決に導く、いわゆる心理専門のエキスパートです。
公認心理師は国家資格で、臨床心理士は民間資格という違いから、受験資格や対応カリキュラムなどにおいては違いがあります。現状で役割に大きな違いはないものの、今後の需要によっては仕事内容や年収に差が生じる可能性もゼロではないため、自身の状況や実務経験などを照らし合わせて資格取得を検討するとよいでしょう。
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※当記事は2023年1月時点の情報をもとに作成しています