大きな病院では、重大な疾患を抱えた患者さんに対して高度かつ専門的な治療・ケアを実施できるよう、病棟が細分化されています。
PICU(小児集中治療室)は幅広い年代の子どもを対象とした病棟の一種であり、医師・看護師・療法士といった職種によるチーム医療が実施されています。
当記事では、PICUの概要やNICUとの違いから、主な対象疾患、働く医療職種と役割、PICU勤務に向いている方の特徴まで詳しく解説します。小児医療・小児看護に関わりたい看護師さんは、ぜひご覧ください。
PICU(小児集中治療室)とは
PICU(小児集中治療室:Pediatric Intensive Care Unit)とは、病気やケガが原因で集中治療が必要となった子どもたちの治療・看護ケアを行うために設置される場所です。「小児集中治療管理室」とも呼ばれます。小児集中治療医が交替で常駐しており、その他看護師や薬剤師、理学療法士など各医療系職種も活躍しています。
PICUの入院対象となる患者さんの年代は、新生児(0歳)から成人(18~20歳)まで幅広いことが特徴です。しかし、上限年齢は各施設でそれぞれ異なり、病院によっては中学生程度・15歳までを対象とするところもあります。
(出典:日本集中治療医学会「PICUよりみなさまへ」)
ICUとは
PICUについて理解するためには、ICUの理解も欠かせません。ICUとは「Intensive Care Unit」の略称で、「集中治療室」を指します。生命の危機に瀕した患者さんに対し、24時間体制で集中的に治療を行うために設置されます。なお、ICUで治療を行う医師は集中治療医、看護ケアを行う看護師はICUナース・ICU看護師と呼びます。
ICUとPICUの大きな違いは、入院対象となる患者さんの年齢層です。前述の通りPICUは、新生児から成人までの子どもが主な入院対象となる一方で、ICUでは20歳以降の若い世代から後期高齢者までの幅広い大人が入院対象となります。
(出典:日本集中治療医学会「集中治療医とは」)
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PICUとNICUの違い
PICUとよく似た病棟として、NICUが挙げられます。PICUとNICUはいずれも「子どもを対象とした24時間体制の集中治療室」ですが、PICUとは具体的な項目において細かな違いがあることを覚えておきましょう。
PICU | NICU | |
---|---|---|
概要 | 小児集中治療室 | 新生児集中治療室 |
入院対象者 | 後天的な疾患やケガによって入院治療が必要となった、新生児から成人までの子ども | 先天的な疾患をもつ、生まれて間もない新生児 |
制限 | 比較的少ない | 多い |
NICUは低出生体重児が入院するため感染管理には特に厳しく、患者さんの状態によってはご両親であっても触れることすらできないなど、多くの制限があることも特徴です。
加えて、NICUは感染管理の観点から、一度退院するとNICUへの再入院ができません。NICUから退院後、何らかの原因で再度入院が必要となったときは、PICUに入室することとなります。
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PICUとGCUの違い
GCUとは「Growing Care Unit」の略称で、新生児回復室を指します。主に、NICUで治療を受けて回復した新生児を受け入れる場所です。急性期を脱した新生児の継続治療や、退院に向けての準備が行われます。
GCUへの入院対象となる例は、以下の通りです。
- NICUでの治療や観察を終えて退院調整に入る
- 低出生体重児で経過観察が必要
- 出生時に先天性疾患の疑いがあり、精密検査が必要
- 急性期は脱したものの、引き続き治療が必要
- 重度の障害により治療継続が必要など
GCUで受け入れる新生児は、比較的状態が安定していますが、小さな変化を見逃さない細やかなケアが求められます。また、家族の育児に対する不安を軽減するために、母子同室によるトレーニングなども実施されます。
(出典:地方独立行政法人大阪府立病院機構「NICU・GCUってどんなところ?」)
PICUの重要性
子どもたちの大切な未来を救うため、そしていつまでもいきいきと過ごし続けられるようサポートするためにも、PICUの存在は非常に重要です。日本集中治療医学会の小児集中治療医委員会が公表する資料には、下記の内容が示されていました。
- 重症だった小児患者さんをPICUに集約したことで、生命転帰を改善させた事例が報告されている
- PICUにおいて小児集中治療医が専従で治療にあたったことにより、患者さんの生命転帰が改善し、かつ医療資源の適正使用につながるとされた
2012年からは小児救命救急医療の充実を目的に、小児特定集中治療室管理料が新設されるなど、PICUの重要性は徐々に認知されています。少子高齢化が深刻化する近年、大切な子どもの命を守るためにもPICUの重要性はさらに高まっているといえるでしょう。
(出典:J-STAGE「わが国における小児集中治療室の現状調査」)
全国のPICU施設一覧

日本各地には多くのPICUがあり、それぞれが日本集中治療医学会に加盟・参加しています。日本集中治療医学会は、北海道・東北・関東甲信越・東海北陸・関西・中国・四国・九州の全国7支部に分けられており、35施設がPICUを設置しています。PICUを有する具体的な施設名称は、下表の通りです。
日本集中治療医学会は、1974年に設立された集中治療専門医の資格を審査し、専門医育成を行う組織です。2024年4月までに、2,770名の集中治療専門医を育成した実績があります。
看護師の育成やスキル向上として、看護師向けの教育セミナーや家族への心のケアセミナーといった教育事業を企画するのも、日本集中治療医学会の役割です。また、集中治療部の現場に欠かせない生命維持装置や生理機能情報監視装置などの安全管理にも貢献しています。
さらに、集中治療分野の発展に寄与するため、設立間もない時期から機関誌において科学論文の掲載を積極的に行っています。日本集中治療医学会で発刊されている機関誌は、以下の通りです。
- 1976年より準機関誌を発刊
- 1994年より機関誌を発刊
- 2013年より英機関誌Journal of Intensive Careを発刊
PICUにおける主な診療内容

PICUでは医師をはじめ、看護師や薬剤師、臨床工学技士などの小児集中治療チームで連携して高度な治療に対応します。PICUの主な診療内容は、以下の通りです。
- 救急救命
- 周術期管理
- 院内急変への対応など
PICUでは、入院患者や外来患者の急変・緊急事態に対応するほか、小児救命救急患者を24時間365日受け入れています。また、生体肝移植手術や心臓血管外科手術をはじめとする高度な手術に対応するため、各科と連携・協力して周術期管理を行っています。ほかの病院からの紹介や、病院間の搬送を積極的に受け入れているのも特徴です。
研究所を併設して医療の発展・改善に向けた研究を進めている集中治療センターや、小児集中治療医育成のために全国から医師を受け入れているPICU施設もあります。
PICUで扱われるECMOとは
PICU病棟で治療を受ける子どものなかには、ECMOが必要な劇症型心筋炎などの重症患者もいます。ECMOとは「extracorporeal membrane oxygenation」の略称で、対外式膜型人工肺のことです。
ECMOは心肺機能を代替する機器であり、循環不全や呼吸不全管理の最終手段として知られています。PICUにおいても小児の蘇生のために使用されます。
ECMOは首や鼠径などの太い血管から直接血液を体外に出し、酸素や二酸化炭素を調整して体に戻すため、体への負担とリスクが大きい治療法です。PICU看護師を目指す場合は、ECMOについての専門知識やノウハウも身につける必要があります。
(出典:J-STAGE「ECMO装着患者の病院間搬送における看護師の活動報告」)
PICUで取り扱う主な疾患

PICUで取り扱う主な疾患は、下記が挙げられます。
【例1】
内因(病気)・外因(怪我)を問わない全ての重症疾患(急性呼吸不全、ショック、敗血症、急性腎傷害、急性脳症、多発外傷、心停止等)や大手術後の重症例(先天性心疾患、小児外科、脳神経外科、新生児等)が対象です。
(引用:大阪市立総合医療センター「集中治療部 主な疾患・診療実績」)
【例2】
各種臓器不全・重症病態
- 緊急気道(クループ、喉頭・気管狭窄、気道異物、顔面外傷〜各種の挿管困難等)
- 呼吸不全(細気管支炎、重症肺炎、喘息重積、急性呼吸窮迫症候群:ARDS等)
- 循環不全(ショック、劇症型心筋炎、心筋症、重症心不全、不整脈等)
- 中枢神経障害(けいれん重積、急性脳炎脳症、頭蓋内出血、蘇生後脳症等)
- 急性腎不全、急性肝不全、代謝内分泌疾患(先天代謝異常症の急性増悪、糖尿病性ケトアシドーシス等) 、重症感染症(敗血症等)
- 外因性疾患(窒息、溺水、熱傷、頭部外傷、多発外傷、薬物中毒、心停止等)
周術期管理
- 心臓血管外科による開心術・非開心術の周術期管理(先天性心疾患)
- 小児外科、移植外科、脳神経外科、形成外科、耳鼻咽喉科、整形外科等による手術の周術期管理
- その他、周術期に人工呼吸やモニタリングを必要とする重症症例
(引用:埼玉県立小児医療センター「集中治療科」)
簡潔にまとめると、病気やケガを問わないすべての重症病態や大きな手術後の重症病態がPICUの対象疾患です。具体的な重症病態は多岐にわたるため、PICUで働く医師や看護師は小児特有の疾患を含む幅広い疾患に関する専門知識の習得が求められます。
また、PICUでは下記の特殊治療も実施します。
【特殊治療の例1】
ECMO(体外式膜型人工肺)、体温管理療法、一酸化窒素吸入療法、窒素吸入療法、ヘリウム吸入療法、持続的血液浄化療法、腹膜透析、血漿交換など。
集中治療科ではその他、病棟や救急外来におけるコンサルテーションや蘇生処置、中心もしくは末梢静脈カテーテルの留置、BLS、PALSなどの蘇生講習、呼吸器管理のコンサルテーション、地域の子どもたちのためのきっずセミナーなども行っています。
(引用:大阪母子医療センター「集中治療科」)
【特殊治療の例2】
先進医療・特殊医療
呼吸管理
高流量経鼻カニューラ酸素療法(HFNC)、非侵襲的陽圧換気、高頻度振動換気、気道圧開放換気、一酸化窒素吸入療法、体外式膜型人工肺(ECMO)
急性血液浄化療法
持続的血液濾過透析(CHDF)、血液透析、腹膜透析、血漿交換
循環管理
体外式膜型人工肺(ECMO)
中枢神経管理
頭蓋内圧・脳温モニタリング、低体温療法
(引用:埼玉県立小児医療センター「集中治療科」)
一般的なPICUの対象疾患に限らず、このような特殊治療に関する知識も有する医療関係者は、より重宝される存在となるでしょう。
PICUで働く医療職種とその役割

PICUでは、基本的に複数の専門診療科の医師たちが救命治療に参加します。加えて、治療効果をさらに高めるため・一人ひとりの患者さんに対してより充実したケアを提供するためにも、看護師をはじめとした多職種同士が連携し、医療チームとして進めることがほとんどです。
(出典:日本集中治療医学会「PICUよりみなさまへ」)
PICUで働く主な医療職種とその役割は、下記の通りとなっています。
医師 | 複数診療科の医師が交代しながら、24時間365日体制で適切な医療を提供します。さまざまな専門診療科のPICU医師による意見を交換しつつ、最適な治療を検討することも大切な役割です。 |
---|---|
看護師 | PICUに入院する子どもやその家族が安心して過ごせるよう、適切な診療補助・看護ケア・サポートを行います。また、リハビリテーション職などと連携して各支援・援助を提供することも大切な役割です。 |
リハビリテーション技師 | PICUに入院する子どもたち一人ひとりの状況を見て、適切なリハビリ・機能訓練を提供し、スムーズな回復のサポートを行います。 |
薬剤師 | PICUに入院する子どもたち一人ひとりの体格や年齢、病状に応じて、適切な薬や投与量を調整・提案します。 |
臨床工学技士 | 治療に必要となるさまざまな医療機関の管理・メンテナンスをしながら、日々安全な治療が実施されるようサポートします。 |
臨床検査技師 | PICUに入院する子どもたちの緊急検査に対応するため、PICU施設に常時勤務が必要です。24時間の検査体制を構築し、集中治療の現場を支えます。 |
放射線技師 | PICUに入院する子どもたちの緊急撮影に対応します。患者さんが人工呼吸器などの医療機器を身につけている場合は、医師や看護師と連携しながら検査時間を最小限に抑える必要があり、高度なスキルや経験が欠かせません。 |
理学療法士 | PICUで集中治療を受ける子どもたちの早期回復を目指し、リハビリテーションなどを通じて、身体動作を改善する支援を行います。全身状態に合わせて、呼吸などのさまざまな臓器の機能を助けることや、体の活動性を高めることが主な役割です。 |
病棟内クラーク | PICU施設で受付案内やカルテ管理、備品手配などの事務的業務を専門に担当します。医師や看護師などの医療スタッフがそれぞれの専門業務に集中し、PICU運用全体の円滑化を実現するために不可欠な存在です。 |
ソーシャルワーカー | PICUに入院する子どもたちのケアを行います。また、重症患者さんを受け入れるPICUでは、家族のケアも非常に重要です。医師や看護師と連携しながら、患者さんの集中治療に向き合う家族たちが抱える心理的・社会的な課題に寄り添い、適切な支援を行います。 |
PICUで働くことが向いている方の特徴

PICUに入院する子どもたちのほとんどが、緊急度の高い状態となっています。PICUはいわゆる「重篤小児患者受け入れの最後の砦」です。そのため、下記のような思いや特徴をもつ方は、PICUで多くのやりがいを感じながら働けるでしょう。
- 小児集中治療領域で活躍し、たくさんの子どもたちを救いたい
- 重症小児を救うために、自分が最大限できることをしたい
- 重症小児を救うことはもちろん、つらい思いをする家族もしっかり支えたい
近年は、少子高齢化が深刻化していることに加えて、医療従事者の人手不足も問題となっています。重症小児を救うことに徹したPICUの医療スタッフは、今後も需要の高まる存在となるでしょう。
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PICU看護師として働くうえで大変なこと
PICUは生命が危険な状態にある子どもたちに対して、原因や病態、基礎疾患を問わず集中管理・治療を行う現場です。人工呼吸器や点滴など、たくさんの医療機器がついている子どもに触れることが怖いと感じるケースも少なくありません。
心肺機能が回復しない場合や、回復が見込めない疾患などの場合に、薬・人工呼吸器といったサポートを中止して子どもを看取らなければならないこともあります。日々の仕事において、終末期の子どもと家族に寄り添う時間は、いくらキャリアを重ねても辛い経験です。
また、子どもたちに集中的な治療・処置を行うPICUは、一般病棟とは必要な知識や技術も異なります。PICUスタッフとしての勤務が希望の配置異動ではなかった場合、環境変化や経験不足から、不安感・恐怖心といった苦悩を抱きやすい傾向があります。
(出典:J-STAGE「PICUに配置転換となった卒後5年目以下の看護師の体験」)
まとめ
PICUとは、「Pediatric Intensive Care Unit」の頭文字をとった略称であり、病気やケガが原因で集中治療が必要となった子どもたちの治療・看護ケアを行うための病棟です。小児集中治療医が24時間365日常駐しており、看護師やリハビリテーション職などの医療系職種とともにチーム医療を進めています。
後天的な疾患やケガによって入院治療が必要となった新生児から成人までの子どもやその家族を支えるPICUは、数ある医療領域のなかでも重要性が高く、多くのやりがいを感じながら働けるでしょう。総合病院などでは医療体制がきちんと整備されているため、各々与えられた役割をしっかり果たせる点も魅力です。
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