• 2022年9月29日
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訪問看護師が仕事を辞める理由は? 大変さと辞めたいときの対処法

 

訪問看護師は、患者さん一人ひとりとじっくり向き合う看護ができ、看護師としても成長しやすいなど、非常にやりがいのある仕事です。しかし同時に不安やストレスを抱え込み疲弊しやすく、離職率が高い職場でもあります。

訪問看護師の仕事を続けるべきか否かの判断を下す際は、自分がなぜ「辞めたい」と感じているかを分析し、理解することが大切です。この記事では、訪問看護師の基本的な仕事内容と仕事を辞める方の主な理由、辞めたいと感じたときの対処方法を解説します。、ぜひご覧ください。

訪問看護は大変? 仕事内容とは

訪問看護では、看護が必要な患者さんの自宅へ直接訪問し、それぞれの傷病や障害に合った医療的なケアや生活のサポートなどを行います。患者さんによって必要とする看護内容が異なるため、柔軟かつ幅広い対応力が必要となる仕事です。

ここでは、訪問看護における看護師さんの具体的な仕事内容を説明します。

健康状態の管理

訪問看護において、基本的なバイタルサイン測定や患者さんの健康状態チェックが、看護師さんの重要な仕事です。同時に、問診時の応対や部屋の状況などから患者さんの精神状態や生活環境を把握し、家族の介護力なども評価します。

病院で行う健康管理との違いは、患者さんの生活をできるだけ妨げないよう自然に行う必要がある点です。

患者さんの健康チェックで異常が見られた場合や、次回の訪問までに変化が起きそうな場合は速やかに主治医の判断を仰ぎます。状態によっては新たな医療処置や訪問診察の必要性が生じるほか、緊急入院へ移行するケースもあります。

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医療処置

事前に主治医から指示が出ていた場合や、患者さんの健康チェックで異常が見られ新たな指示が出された場合、下記のような医療処置を行います。

  • カテーテル管理
  • 点滴
  • 採血
  • 吸引
  • 人工呼吸器などの医療機器の管理
  • インスリン注射
  • 床ずれなどによる褥瘡の処置
  • 疼痛コントロール

(出典:厚生労働省「訪問看護」

いずれの医療処置も、患者さんの状態や変化をつぶさに記録し、主治医や訪問看護に関わる他職種、患者さん本人やご家族との情報共有が必要です。また主治医の専門外となる処置を行う場合、医師同士の情報共有が成立したのち、改めて主治医から指示を出してもらう必要があります。

服薬管理

在宅医療では規則的な服薬による病状コントロールが重視されるため、患者さんの服薬管理も訪問看護師の重要な業務の1つです。そのため、患者さんには決められた用法・用量で薬を飲んでもらうことが大切です。

しかし患者さんの病状や認知状態、薬の量によっては自己管理が及ばず、服薬への支援を必要とします。薬の飲み忘れや過剰な服薬を防ぐため、看護師さんは下記のような手段を用いて服薬管理を行うケースが一般的です。

  • 残薬数の確認・整理・処分
  • 服薬カレンダーの導入
  • 服薬ケースの活用

利用可能な残薬数が多い場合や服薬のタイミングが問題で飲み忘れが多い場合、主治医に相談して処方を調整してもらうこともあります。
(出典:岐阜県立看護大学紀要 第4巻1号, 2004「在宅療養者の服薬にかかわる訪問看護の実態と課題」)

患者さんやご家族のサポート

訪問看護では下記のような患者さんやご家族のサポートも、看護師さんに求められる役割です。

  • 患者さんの症状変化や発生するトラブルの予測・共有
  • ご家族が実施するケアの指導・アドバイス
  • 健康管理や日常生活に関する相談
  • 患者さんとご家族の心に寄り添ったメンタルケア
  • 患者会・家族会・相談窓口などの紹介

緊急時の対応指導や日常生活へのアドバイスを提案することで、患者さんやご家族の負担感やストレスを軽減し、安心して介護・看護を行えます。

訪問看護師を辞める方の主な理由は?

訪問看護師を辞める方の主な理由は?

訪問看護師は、看護師の職場のなかでも離職率が高い職場です。

日本看護協会が公表した「訪問看護の伸び悩みに関するデータ」によると、訪問看護業界全体における看護師の離職率は15.0%です。訪問看護業界の離職率については2011年のデータが最新のものであり、病院の離職率が12.6%であることと比べると高い水準であることが分かります。
(出典:日本看護協会「訪問看護の伸び悩みに関するデータ」

同データにおける訪問看護師の採用率は70%を超えており、離職率の高さと同時に就業率の高さも垣間見えます。しかし、2019年のデータでは訪問看護ステーションの有効求人倍率は3.1倍と施設種類別で最も高く、なおも人手不足は続いていることが推測されます。
(出典:公益社団法人 日本看護協会「2019年度「ナースセンター登録データに基づく看護職の求職・求人・就職に関する分析」結果」

ここでは、なぜ訪問看護師を辞める方が多く、人手不足が続くのか、訪問看護師の仕事を辞める方が挙げる主な退職理由について紹介します。

自身のスキルに不安を感じるから

訪問看護師として、自身のスキルや実力に不安を感じることが、退職を考える理由の1つです。

訪問看護の現場は、病院などへの勤務時とは異なり不安に思うことや判断に迷うことを、すぐに同僚や先輩に相談しにくい場合もあるでしょう。1人で患者さんを訪問し、自分だけで対応・判断を行う必要があるため、ある程度の臨床経験が求められます。

また、病院の看護と訪問看護では必要とされる処置や使用する薬剤が異なる場合も多く、これまでとは違うスキルが必要になるケースもあります。訪問看護を始めることで自身のスキル不足に気づき、退職を考える方もいるでしょう。

教育体制が整っていないから

教育体制・教育制度が不足している状況下では、十分な教育を受けられないまま訪問看護を行うこともあります。

訪問看護師の需要が増加するなか、人手不足に陥り必要な教育体制が整っていない訪問看護ステーションも少なくありません。需要が高いステーションでは多くの利用者さんに対応するため、早い段階から先輩看護師が同行しなくなります。実際に、先輩看護師が同行する期間は1か月以内であるステーションが7割を占めています。
(出典:神奈川県訪問看護推進協議会 「訪問看護ステーションにおける人材育成についての実態調査報告書」

緩和ケアやターミナルケアなど、介護ケアや終末期医療に関わる病棟での勤務が長い看護師さんをもってしても、訪問看護で必要なスキルは別物といわれます。しかし、臨床経験の多い看護師さんは訪問看護でも対応力がある即戦力と見なされ、短期で単独訪問へ切り替えられることが多いでしょう。

責任が重いから

訪問看護師は1人で患者さんのもとに訪問します。緊急のときでも1人で対応する必要があり、正確かつ迅速な判断が求められるため、大きなストレスや責任の重さを感じやすい仕事です。

また、訪問看護を利用する患者さんのなかには、病状の回復が見込めない方も珍しくありません。訪問看護師の仕事は患者さんやご家族と密接に関わるため、患者さんが亡くなったときになかなか気持ちを切り替えられず、つらさを抱え込んでしまう看護師さんもいます。

体力的に厳しいから

訪問看護では、1日に複数の患者さん宅へ向かいます。地域の交通状況にもよりますが、訪問先の駐車場事情や移動中の渋滞回避などの理由により、自転車移動が主としているステーションもあります。

例えば訪問先同士の距離が2kmでも1日5件回った場合、10km以上を自転車で移動することになり、かなりの体力が必要です。季節や天候によっては、実際の移動距離や訪問件数以上の疲労を覚えることもあるでしょう。車を用意する訪問看護ステーションもありますが、車の運転が苦手な方にとっては精神的な負担が大きくなります。

人間関係がうまくいかないから

訪問看護ステーションの看護職員数の平均は4~5人程度です。大規模な医療施設のような派閥問題は滅多に起こらないものの、少人数の職場にも難しさがあります。
(出典:厚生労働省「訪問看護」

患者さんに適切なケアを提供するためには、少ない人員のなかでもうまく連携が取れるよう、人間関係への気遣いが必要です。また、職場内だけでなく患者さんとの人間関係も大切となります。下記は、訪問看護で患者さんとの関係を構築するときに躓きやすいポイントです。

  • 専門用語や医療用語を多用し、患者さんの理解を得られない
  • 患者さんのケアに時間を取られ、コミュニケーションの時間が取れない
  • 看護師に対する緊張・遠慮を取り払えず、打ち解けてもらえない

職場や患者さんとの人間関係をうまく構築できないと、仕事そのものが苦痛に感じる場合もあります。

オンコールの負担が大きいから

オンコール対応も、訪問看護師にとって負担が大きく退職理由の1つに挙げられる業務です。オンコールとは、患者さんが急変した際などの緊急時に備え、呼び出しなどに応じられるよう待機することです。ほとんどの訪問看護ステーションは24時間対応を取っているため、訪問看護師も持ち回りでオンコールを担当します。

オンコールの頻度や回数は施設によって異なるものの、休みの日や夜間でもオンコールの対応をする必要があり、気が休まらないと感じます。職場によっては電話対応を行っても緊急訪問しないと代休や手当が出ないところや、そもそも手当が出ないところもあり、負担を感じやすいでしょう。

給与がわりに合わないから

訪問看護の勤務時間は基本的に日勤のみであり、夜勤手当や残業手当などの加算があまりありません。また、訪問看護ステーションは小規模のところが多く、役職手当などもつきにくいことから、病院に勤務する看護師さんと比較して給与が低くなる傾向にあります。
(出典:日本看護協会「訪問看護の伸び悩みに関するデータ」

しかし訪問看護では、日勤のみの勤務でも実際はオンコールへの待機や、高いスキルを求められるなど、看護師さんにはさまざまな負担を抱えます。責任や負担と給与とを比べて、わりに合わないと感じる方もいる状況です。

将来に対する不安があるから

小規模事務所で働いている場合、キャリアプランを描きにくいことも退職を考える理由の1つに挙げられます。特に、地域に根差した訪問看護ステーションの場合、事業所の管理者や役職者が固定化されているケースが珍しくありません。今後の出世や昇進といったキャリアアップが期待できないことで、辞めたいと感じる方が多くいます。

また、人手不足で休みが取りにくい状況が続くと、私生活への影響も出てきます。訪問看護の仕事に魅力を感じていても、プライベートとのバランスが取れないと仕事の継続を諦める方もいるでしょう。

辞める前に訪問看護のやりがいを再確認

辞める前に訪問看護のやりがいを再確認

訪問看護師の仕事は、給与の水準に比べて求められるスキルは高く、感じる責任も重い仕事です。体力的・精神的な問題で「辞めたい」と感じることも多くありますが、本当に退職する前に今一度訪問看護の魅力を再確認してみましょう。

訪問看護の大変さは、仕事のやりがいにもつながっています。ここでは訪問看護のやりがいを2つ紹介します。

患者さん一人ひとりに向き合える

訪問看護は、患者さん一人ひとりに割ける時間が多い仕事です。病院勤務ではルーティン作業のようになるケースも多く、お互いに「たくさんいる看護師さん・患者さんの1人」としか認識できない場合もあります。一方、訪問看護では患者さんの生活の場で深く関わるため、じっくりとコミュニケーションを取ることが可能です。

患者さんの意向や希望に沿ったケアにつなげやすく、その方に合わせたサポートができることが訪問看護の魅力といえるでしょう。また、訪問看護では年単位で患者さんを担当することが多く、看護を重ねるなかで長期的に回復していく様子に寄り添える点も、やりがいの1つに挙げられます。

看護師として成長できる

訪問看護師の仕事は、責任が重い反面自分の裁量でケアを進められる場面も多いため、看護師としての成長やスキルアップにつながりやすいというメリットもあります。1人で医療処置を行うことで処置の手際がよくなる方や、介護予防・高度医療など診療科の枠を超えた医療に対応し、幅広い対応力が身につく方もいます。

また、さまざまな状態・病状の患者さんやご家族と接することで、コミュニケーション力の向上も期待できるでしょう。長い時間をかけて互いの信頼関係を築き上げたとき、「自分自身」を必要とされている実感が得られることも、訪問看護の魅力です。

訪問看護を辞めたいと思ったら?

訪問看護を辞めたいと思ったら?

訪問看護師としてのやりがいや、仕事の魅力は重々承知していても、やはり「仕事がつらい」「続けていけない」と感じることはあります。訪問看護の仕事が大変で「辞めたい」と思いつつも、まだ未練を感じられるときはいくつかの対処法を試してみるとよいでしょう。

ここでは、訪問看護の仕事を辞めたいと思ったときに試してみるべき対処法を3つ解説します。

1人で抱え込まず相談する

仕事が続けていけないほどつらいと思ったとき、感じている負担を抱えたままでいても事態は変わりません。まずは同僚や上司などに現状を報告し、今後について相談してみましょう。看護師一人ひとりが単独行動をとることが多い訪問看護では、自分から積極的に周りとコミュニケーションを取り、自分の負担を理解してもらう必要があります。

任される業務のレベルが自分の経験やスキルに見合っていない場合、改めて指導してくれるなど業務の負担を軽くしてもらえるかもしれません。拘束時間が多すぎる場合は訪問件数を調整してくれる・オンコール対応を減らしてくれる、といった対応をしてもらえる可能性もあります。もし相談を持ちかけても何も解決しないのであれば、職場を変える契機と判断してもよいでしょう。

休日にはなるべくリフレッシュの時間を設ける

訪問看護師の仕事は、体力的にも精神的にも負担が大きな仕事です。また、患者さんの命や人生に大きく関わる仕事柄、休日であっても常に仕事のことが頭から離れなくなる方も少なくありません。オンコール対応があり難しい場合もありますが、休日にはリフレッシュの時間を設けて心身の疲労を緩和させることが大切です。

下記は、比較的手軽にできる休日のリフレッシュ方法です。

  • 自分の趣味に没頭する
  • 映画や読書を楽しむ
  • ヨガやジョギングなどの運動をする
  • マッサージやエステ、美容室などに行く
  • カラオケやテーマパークなどで思いっきり騒ぐ
  • 旅行に行く
  • たっぷりと寝る

なお、頑張る看護師さんのご褒美となるリフレッシュ方法は、下記のページでも紹介しておりますので、ぜひご活用ください。

頑張る看護師さんにご褒美を。とっておきのリフレッシュ方法

本当に仕事を辞めるべきなのか考える

仕事を辞めるべきか悩んだときは、自分がどのような理由で「辞めたい」と思っているかを整理することが必要です。

自分のスキル不足が原因なら、経験を積むことで手際よく業務を進められるようになるかもしれません。オンコール対応が負担と感じても、仕事を続けるうちに慣れる可能性もあります。

人間関係に悩んでいる場合、自分から行動を起こすことで問題が解消するケースは珍しくありません。患者さんとの関係性が悩みなら、周りに相談して担当を変えてもらうといった解決法もあるでしょう。

しかし、職場環境のように時間の経過や自分の努力で変えられないことが理由で仕事を辞めたい場合、転職も1つの解決法です。辞めたい理由を深掘りし、何が根本的な理由なのかを考えて、必要であれば転職活動の準備を始めるとよいでしょう。

まとめ

訪問看護は看護師さんに高いスキルが要求される仕事です。業務の負担や負う責任が重いことも多く、慢性的なスタッフの不足に悩む事業所は珍しくありません。結果として現場の看護師さんにしわ寄せが行くケースもありますが、教育体制を充実させており、長く看護師さんに働いてもらえる職場環境を構築する事業所もあります。

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※当記事は2022年7月時点の情報をもとに作成しています

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