• 2022年1月26日
  • 2025年4月21日

臨床心理士とは? 資格の詳細やどんな仕事をするのかわかりやすく解説!

 

「臨床心理士とはどんな仕事をするの?」と、気になっている方も多いのではないでしょうか。

臨床心理士は心の悩みを抱える人々に対し、カウンセリングや心理療法を通じてサポートを行う専門職です。医療機関や学校、福祉施設、企業などさまざまな分野で活躍し、近年ではメンタルヘルスの重要性が高まる中、その需要が増しています。

この記事では、臨床心理士の仕事内容や資格の取り方、働く環境などを紹介します。心理職を目指している方は、ぜひ参考にしてください。

臨床心理士とは

臨床心理士は、心の問題を抱える人に対してカウンセリングや心理療法を行う専門職です。医療機関や学校、企業、福祉施設などで働き、精神的なサポートを行います。

臨床心理士の資格は日本臨床心理士資格認定協会が認定する民間資格です。1988年から検定試験が実施されており、2024年4月1日時点で41,883人が臨床心理士として認定されています。

参照元:日本臨床心理士資格認定協会「臨床心理士とは」

公認心理師・心理カウンセラーとの違い

臨床心理士と混同されやすい資格に「公認心理師」や「心理カウンセラー」があります。

公認心理師は、2017年に施行された「公認心理師法」にもとづく、心理職のなかで唯一の国家資格です。臨床心理士との業務内容に大きな違いはないものの、公認心理師の業務には心の健康に関する教育・情報提供を行うことなども含まれます。

また、「心理カウンセラー」は相談者のカウンセリングをする職業全般を指す言葉で、必要な資格がないため、個人により能力が大きく異なります。心理カウンセラーとして本格的に活動したい場合は、社会的評価の高い臨床心理士もしくは公認心理師の資格を取得するのがおすすめです。

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臨床心理士の仕事内容

臨床心理士の仕事は、心理学の専門的技術・知識を活かして相談者の心の問題を解決に導くものであり、主な業務区分は以下の4つに分けられます。

臨床心理査定(心理アセスメント)

臨床心理査定(心理アセスメント)は、相談者の考え方や行動の特性、現在の悩み、課題点を明らかにし、適切な支援方法を検討するために行われる重要なプロセスです。主に行動観察、面接、知能・発達検査、心理テストなどの方法を用いて、相談者の心理状態を多角的に評価します。

臨床心理査定では、相談者の自己理解を深めると同時にどのような心理的支援が適しているかを検討します。単に診断を下すのではなく、個々の特性や独自性を把握し、今後のカウンセリングや治療方針を決めるための重要な指標となるのです。また、必要に応じて他の専門家と連携しながら、最適な支援策を検討します。

臨床心理面接

臨床心理面接は、臨床心理士が相談者と向き合い心の問題に寄り添いながら支援を行う、臨床心理士における中心的な業務です。臨床心理査定で明らかになった相談者の特性や悩みに応じて、さまざまな心理療法を適用し、問題の克服や苦痛の軽減を目指します。

面接では単なるアドバイスではなく、相談者自身が自己理解を深め、自己治癒に向かえるようサポートすることが重要です。そのために、クライエント中心療法や認知行動療法、芸術療法など、さまざまな心理療法を使い分けます。

臨床心理的地域援助

臨床心理的地域援助とは、個人への心理支援にとどまらず、地域社会全体の心の健康を支えるための活動です。医療機関や行政機関、学校、企業などと連携し、コミュニティに属する人々のメンタルヘルスをサポートします。

具体的には、地域住民の相談対応や学校・企業でのメンタルヘルス支援、災害や事故・事件の被害者の心のケアなどを行います。また、心の問題が発生するのを未然に防ぐための啓蒙活動も実施。心理的な情報提供や提言を通じて、地域社会の健全な発展に貢献します。

調査・研究

より良い支援を提供するために、臨床心理士は臨床心理的調査や研究活動を行います。たとえば、支援に関する仮説の検証や心理療法の効果測定、臨床事例の分析などです。また、学会発表や論文執筆を通じて新しい知見を共有し、心理学の発展に貢献します。

これらの活動は、専門性を高め、より適切な支援を提供するためにも必要不可欠です。心理的援助の現場では相談者一人ひとりの状況が異なるため、過去の事例や学術研究から「どのような問題が、どのように援助・解決されたのか」を学び、実践に活かすことが求められています。

参照元:日本臨床心理士資格認定協会「臨床心理士の専門業務」

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臨床心理士が活躍する分野

臨床心理士の働く場所は、大きく分けて5つあります。勤務場所により、対象者や業務内容が異なるため、自分の希望に応じた職場を選択しましょう。

医療・保健分野

医療・保健分野では、病気やケガ、精神的な問題を抱える人への心理的援助を行います。

医療分野では医師や看護師と連携しながら、統合失調症やうつ病、依存症、認知症などの患者さんにカウンセリングや心理テストを実施し、治療の一環として精神的なフォローを行います。また、患者さんの家族に対する心理相談や退院後の生活に関する助言をすることもあります。

保健分野では、保健所や精神保健福祉センター、市町村の保健センターなどで、日常的なメンタルケアや予防改善支援を行います。たとえば、引きこもりやいじめ、各種依存症へのフォロー、発達相談、家族相談などです。小児科医や保健師とともに、乳幼児の健康診査や発達相談に関わることもあります。

医療・保健分野における主な勤務先は以下のとおりです。

  • 精神科・心療内科・小児科のある病院
  • クリニック
  • 保健所
  • 精神保健福祉センター
  • リハビリテーションセンター
  • 市町村の保健センター

教育分野

教育分野では、発達や学業、生活面における問題に対して心理的援助を行います。具体的には生徒や保護者との面接、教師へのコンサルテーションなどです。また、必要に応じて他機関と連携もします。

生徒だけでなく、教師や保護者にも心のケアが必要な場面が多くあります。そのため、臨床心理士は師へのアドバイスや保護者面談を通じて、学校コミュニティ全体の支援を行うのです。

教育分野における主な勤務先は以下のとおりです。

  • 学校内の相談室
  • 教育センター
  • 各種教育相談機関

福祉分野

福祉分野では、子ども・女性・障がい者・高齢者などさまざまな人々に対して、心理的支援を提供します。福祉の現場で直面するのは、虐待やDV(家庭内暴力)、障がい、発達障害、認知症などの問題です。

臨床心理士は、これらの問題に対して心理学的な観点からアプローチして問題解決を支援します。また、家族へのサポートや必要に応じて行政機関との連携を通じて、より良い支援が行えるよう調整します。

福祉分野における主な勤務先は以下のとおりです。

  • 児童相談所
  • 児童福祉施設
  • 障がい者作業所
  • 女性相談センター
  • 母子生活支援施設
  • 養護老人ホーム
  • 老人福祉施設

労働・産業分野

労働・産業分野において、臨床心理士は従業員のメンタルヘルスをサポートする重要な役割を果たしています。近年は労働環境の改善や従業員の精神的な健康を重視するようになり、臨床心理士の需要が高まっています。

労働・産業分野における臨床心理士の主な仕事内容は、従業員のカウンセリングや職場環境に関する相談対応です。ときには産業医や保健師と連携しながら、従業員の精神的健康を維持し、働きやすい環境を作るためのサポートを行います。

労働・産業分野における主な勤務先は以下のとおりです。

  • 企業内相談室
  • 企業内健康管理センター
  • 公共職業安定所(ハローワーク)
  • 障害者職業センター

司法・矯正分野

司法・矯正分野では、犯罪を犯した人々や事件に関わる人々の心理的側面を評価し、適切な処遇を決定するための支援を行います。また、受刑者に対して個別の心理カウンセリングを実施し、更生の手助けも行います。

司法・矯正分野における主な勤務先は以下のとおりです。

  • 家庭裁判所
  • 少年院
  • 少年鑑別所
  • 保護観察所
  • 刑務所
  • 拘置所
  • 警察関係機関

参照元:日本臨床心理士資格認定協会「臨床心理士の職域」

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臨床心理士になるには?

臨床心理士になるには、公益財団法人日本臨床心理士資格認定協会が実施する臨床心理士試験に合格し、臨床心理士資格の認定を受ける必要があります。

受験資格

臨床心理士試験の受験資格は以下のとおりです。

  1. 日本臨床心理士資格認定協会が認定する第1種指定大学院(新第1種指定校)を修了し、受験資格取得のための所定条件を充足している者
  2. 日本臨床心理士資格認定協会が認定する第1種指定大学院(旧第1種指定校)を修了し、修了後1年以上の心理臨床経験を含む受験資格取得のための所定条件を充足している者
  3. 日本臨床心理士資格認定協会が認定する第2種指定大学院(新第2種指定校)を修了し、修了後1年以上の心理臨床経験を含む受験資格取得のための所定条件を充足している者
  4. 日本臨床心理士資格認定協会が認定する第2種指定大学院(旧第2種指定校)を修了し、修了後2年以上の心理臨床経験を含む受験資格取得のための所定条件を充足している者
  5. 学校教育法に基づく大学院(専門職大学院)において、臨床心理学またはそれに準ずる心理臨床に関する分野を専攻する専門職学位課程を修了した者
  6. 諸外国で上記1.または3.のいずれかと同等以上の教育歴および日本国内における2年以上の心理臨床経験を有する者
  7. 医師免許取得者で、取得後2年以上の心理臨床経験を有する者

参照元:日本臨床心理士資格認定協会「臨床心理士資格認定事業」

臨床心理士試験の概要

臨床心理士試験は年1回実施されています。令和6年度の資格審査スケジュールは以下のとおりです。

資格審査申請書類請求期間 令和6年6月24日~令和6年8月9日
受験申込受付期間 令和6年6月25日~令和6年8月31日(当日消印有効)
筆記試験(一次試験) 令和6年10月19日(土)東京ビッグサイト(東京都江東区有明)
口述面接試験(二次試験) 令和6年11月16日(土)、17日(日)、18日(月)東京国際フォーラム(東京都千代田区丸の内)
合格発表 令和6年12月下旬予定

資格審査スケジュールは年度によって異なるため、受験する方はあらかじめ公式サイトでスケジュールを確認しましょう。

臨床心理士試験の筆記試験(一次試験)は、マークシートによる多肢選択方式試験と論文記述試験の2種類が行われます。口述面接試験(二次試験)では自己PRや受験動機を中心に、臨床心理士としての適性を見る質問が多い傾向にあります。

参照元:日本臨床心理士資格認定協会「資格審査スケジュール」

資格取得後は5年ごとに更新が必要

臨床心理士資格は、5年ごとの更新が義務付けられています。

資格更新のためには、資格取得後の5年間にポイントとして判定される研修会・学会・諸活動に参加し、計15ポイント以上を取得する必要があります。

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臨床心理士に求められるスキル

臨床心理士に求められるスキル

ここでは、臨床心理士に求められるスキルを紹介します。

現時点で自分に向いていないと感じる場合でも、勉強や経験を重ねるうちに臨床心理士としてふさわしい能力を身につけることは可能です。臨床心理士を目指す方は、適性だけにとらわれず前向きに挑戦してみましょう。

倫理観と守秘義務意識

心理的支援を行う中で得られる情報は非常にセンシティブです。相談者の個人情報を守るためにも、臨床心理士には強い倫理観と守秘義務を持っていることが求められます。

また、臨床心理士の判断や助言は相談者の人生に大きな影響を及ぼします。そのため、相談者の尊厳や人権を尊重し、常に責任を持った言動を行うことが重要です。

コミュニケーション能力

効果的な支援を行うためには、相談者とのコミュニケーションが重要です。相談者のなかには、話すことが得意でない方や臨床心理士に対して懐疑的な方もいます。相手の心を開き信頼を得られるかは、臨床心理士の力量にかかっているともいえるでしょう。

また、カウンセリングの進行状況を他の専門職と共有することもあるため、ビジネスシーンにふさわしいコミュニケーション能力も求められます。

観察力

臨床心理士には、相談者の心情や状況の変化に気付くための観察力が必要です。相談者が発する言葉だけでなく、仕草・服装・表情といった非言語メッセージを汲み取れるかどうかで、カウンセリングの質が大きく変わります。

たとえば、相談者が「今日は調子が良い」と言ったとしても、表情からあまり調子が良くないことが伺えることもあるでしょう。身なりが乱れていれば、気持ちや時間に余裕がなかったと想像できます。相談者の些細な変化や違和感が、問題の核心につながることもあるのです。

分析力・問題解決能力

臨床心理士には、相談者の問題を適切に分析したうえで解決方法を見出す能力が求められます。心理的な支援を行う際は、相談者の状況や背景をしっかりと把握し、問題がどのように発生したのかを理解することが重要です。その後、状況に応じた効果的な治療法やアプローチを選択します。

分析力が高ければ、複雑な心理的問題に対しても冷静に対処でき、問題解決に向けた道筋を描くことが可能です。

精神力

臨床心理士の仕事では、深刻な相談が寄せられることも珍しくありません。相談者の辛い気持ちに流されると、業務に支障をきたす恐れがあります。相手の気持ちに寄り添いつつ、客観的に対応する精神的な強さが必要です。

また、臨床心理士は1日に複数人からの相談に応じることもあり、精神的負担が多い職業であるといえます。相談者のサポートだけでなく、自分自身のメンタルケアも行い、安定した精神状態を保てるよう努める必要があります。

まとめ

臨床心理士は心理専門職の民間資格であり、心理面接を中心に心の健康を支援する仕事です。活躍の場は、医療・保健分野から教育、産業まで多岐にわたり、今後の需要も高まる傾向にあります。高い倫理観やコミュニケーション能力を持つ方は、臨床心理士に向いているといえるでしょう。
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