• 2021年10月25日
  • 2025年4月21日

インシデントレポートとは? 書き方・例文・ポイントを紹介!

 

医療現場では、ちょっとしたミスが重大な事故につながる可能性があります。そこで重要なのが「インシデントレポート」の活用です。インシデントレポートは、医療ミスを未然に防ぐために、ヒヤリ・ハット事例を記録し、再発防止策を検討するための報告書です。

しかし、「何をどのように書けばよいのか分からない」「書くべき内容を整理するのが難しい」と感じる方もいるでしょう。

この記事では、インシデントレポートの目的と書き方、作成時のポイントまで詳しく解説します。適切なレポート作成を通じて、安全な医療環境の実現を目指しましょう。

インシデントレポートとは

インシデントレポートとは、医療ミスにつながる恐れのある出来事(インシデント)を記録し、再発防止につなげるための報告書です。近年は紙の報告書だけでなく、専用のシステムやツールを用いたデジタル管理を導入する医療機関も増えています。

インシデントは、結果的に患者さんに影響がなかった事象を指します。一方で、実際に医療事故が発生し、患者さんに被害が及んだ場合は「アクシデント」と見なします。

インシデントレポートの目的

インシデントレポートの最大の目的は、インシデントの再発防止です。
インシデントレポートを作成することで、発生原因の分析や改善策の検討が可能です。院内で情報を共有してシステムやルールの見直しを行うことで、より安全な医療環境を整備することができます。

また、インシデントレポートは個人の責任を追及するものではなく、医療の質を向上させるためのものでもあります。インシデントを起こした際には、「なぜ発生したのか」「どうすれば防げるのか」といった視点で振り返ることが大切です。こうした積み重ねが患者さんの安全を確保することにつながります。

インシデントレポートは誰が書く?

基本的には、インシデントに直接関与した当事者がレポートを作成します。ただし、状況を客観的に把握するため、当事者だけでなくインシデントを目撃した人が記入する場合もあります。

インシデントレポートの書き方

ここでは、インシデントレポートの書き方を紹介します。

インシデントが起きたときの状況

インシデントが発生した際は、「いつ・どこで・誰が・誰に・なぜ・何をして・どうなったのか」を具体的に記載します。発生時の状況を客観的に記録することが重要です。以下の項目を意識して書きましょう。

  • 発生日時(日付、時間)
  • 発生場所(病棟、診察室、手術室など)
  • 関わった医療スタッフや患者さんの情報
  • 発生した事象(点滴の種類を間違えた、投薬量を誤ったなど)
  • インシデント発生時の対応(すぐに報告した、医師が処置を行った など)

インシデントのレベル

インシデントレポートを作成する際は、発生したインシデントがどのようなレベルのミスなのかを把握することが重要です。ここでは、厚生労働省「インシデント・医療事故の定義について」に掲載されているインシデントレベルを紹介します。

レベル 内容
レベル0 エラーや医薬品・医療用具の不具合が見られたが、患者には実施されなかった
レベル1 患者への実害はなかった(何らかの影響を与えた可能性は否定できない)
レベル2 処置や治療は行わなかった(患者観察の強化、バイタルサインの軽度変化、安全確認のための検査などの必要性は生じた)
レベル3a 簡単な処置や治療を要した(消毒、湿布、皮膚の縫合、鎮痛剤の投与など)
レベル3b 濃厚な処置や治療を要した(バイタルサインの高度変化、人工呼吸器の装着、手術、入院日数の延長、外来患者の入院、骨折など)
レベル4a 永続的な障害や後遺症が残ったが、有意な機能障害や美容上の問題は伴わない
レベル4b 永続的な障害や後遺症が残り、有意な機能障害や美容上の問題を伴う
レベル5 死亡(原疾患の自然経過によるものを除く)

インシデントといわれるのはレベル2までで、レベル3以上は医療事故(アクシデント)です。

なお、インシデントのレベルは医療機関によって異なります。インシデントレポートを作成する際は、勤め先のインシデントレベルを確認しましょう。

インシデントの原因や対策

状況をただ記載するだけでは、再発防止にはつながりません。そのため、インシデントレポートには、インシデントが発生した原因を分析したうえで再発防止のための対策を記載します。

インシデントの発生状況を改めて振り返り、状況ごとに「なぜそれが起きたのか」といった小さな原因を詳しく掘り下げることが重要です。小さな原因を掘り下げることで、根本的な原因の究明はもちろん、適切な再発防止策・未然防止策が立てられます。

インシデントレポートの例文

インシデントレポートの作成がはじめての場合、どのように書いたらよいか戸惑う方もいるでしょう。ここでは、「患者の転倒」と「点滴の取り違え」におけるインシデントレポートの例文を紹介します。

例文1:患者の転倒

発生日時 〇〇年〇月〇日 〇時〇分
発生場所 病棟(〇階〇号室)
関係者 患者A(〇〇歳・性別)、担当看護師
レベル レベル2
発生状況 夜間、患者Aがトイレに行くためベッドから降りようとした際、バランスを崩して床に転倒した。
転倒後、患者Aは自力で立ち上がることができずにナースコールを使用したため、すぐに対応した。
患者の状態 意識清明。頭部打撲なし。痛みの訴えなし。
歩行は可能であり、診察の結果、大きな問題は認められなかった。
原因 ・患者Aは夜間の排尿回数が多く、ナースコールを使用せずに自力で移動しようとした
・ベッド柵が下がった状態だった
・室内が暗く足元が見えにくかった
対策 ・患者Aにナースコール使用を改めて伝える
・夜間のベッド柵を適切に設定する
・足元灯を設置し、夜間の転倒リスクを低減する

例文2:点滴の取り違え

発生日時 〇〇年〇月〇日 〇時〇分
発生場所 病棟(〇階〇号室)
関係者 患者B(〇〇歳・性別)、担当看護師
レベル レベル2
発生状況 点滴投与の際、隣のベッドの患者Bに、本来は患者Cに投与すべき点滴を接続した。
点滴バッグと患者のネームバンドが異なることに気づき、すぐに抜針。
医師に報告し、患者Bの状態をモニタリングした。
患者の状態 患者Bに自覚症状なし。
血圧・脈拍・呼吸数に異常は認められず、医師の指示で経過観察を実施。
原因 ・点滴バッグの患者名を十分に確認せず、隣の患者に接続した
・業務が多忙でダブルチェックが不十分だった
対策 ・点滴接続前に、点滴バッグと患者のネームバンドを必ず確認する
・ダブルチェックを徹底し、2名以上で点滴の確認を行う
・患者へ声かけをして、患者の名前と点滴バッグの名前を確認する

インシデントレポートを書くときのポイント

インシデントレポートを書く際は、以下を意識して書きましょう。

6W1Hを意識して書く

インシデントレポートは、以下の6W1Hを意識して書くと誰が読んでも分かりやすい報告書になります。

  • When(いつ)
  • Where(どこで)
  • Who(誰が)
  • Whom(誰に)
  • Why(なぜ)
  • What(何を)
  • How(どのように)

6W1Hを意識することで、レポートの内容が整理され事実関係が明確になります。また、文章を組み立てやすくなるため、文章作成に慣れていない方でもスムーズに記載できるようになります。

さらに、関係者が複数いる場合は主語を明確にすることも大切です。たとえば、「看護師Aが患者Bに点滴を実施しようとしたが、医師Cの指示と異なる薬剤を準備していた」など、誰が何をしたのかを明確にすることで、分析がしやすくなります。

6W1Hを活用し、インシデントの再発防止につながる適切なレポート作成を心がけましょう。

数値や時間を具体的に書く

インシデントレポートを作成する際は、日時や薬の量、患者さんのバイタルなど、数値で表せる情報をできる限り具体的に記載することが重要です。

特に時間は、「○時○分」まで明記するのが理想的です。たとえば、「午前10時ごろ」ではなく、「10時15分」と明確に記載することで、発生時刻やその後の対応を正確に把握しやすくなります。また、点滴の投与量や薬の投与時間も、「約10mL」など曖昧にせず、「本来の指示量:20mL、実際に投与した量:25mL」のように、指示された量と実際の量を正確に記録しましょう。

数値を具体的に書くことで、インシデントの詳細を客観的に伝えられるだけでなく、原因分析や再発防止策の検討がスムーズに進みます。 反対に、数値が曖昧だと情報の正確性が欠け、改善策の立案が難しくなるため注意が必要です。

数値の具体的な記載は、医療の安全管理の基本です。データを正確に記載し、誰が読んでも状況を正しく理解できるよう心がけましょう。

なぜなぜ分析をする

インシデントレポートを作成する際は、表面的な原因ではなく、根本的な原因を追究することが重要です。 そのために有効なのが、「なぜなぜ分析」です。

「なぜ?」を繰り返し問いかけることで、インシデントが発生した本当の原因を明らかにし、適切な再発防止策を考えることができます。

たとえば、「誤った薬剤を患者に投与してしまった」というインシデントが発生した場合、以下のように「なぜ?」を繰り返して深掘りします。

  1. なぜ、誤った薬剤を投与したのか?
    →薬剤の確認を怠ったから
  2. なぜ、確認を怠ったのか?
    →業務が立て込んでおり、焦っていたから
  3. なぜ、焦っていたのか?
    →人員不足で一人あたりの業務負担が大きかったから
  4. なぜ、人員不足だったのか?
    →シフト調整がうまくできていなかったから
  5. なぜ、シフト調整がうまくできなかったのか?
    →業務の繁忙期が考慮されていなかったから

「なぜ?」を繰り返すことで、インシデントの背景にある問題が明確になり、表面的な対策ではなく根本的な改善策を導き出すことができます。

また、「なぜなぜ分析」を行う際は、複数の原因が考えられる場合はすべて挙げることが大切です。たとえば、「業務負担の増加」と「確認手順の不徹底」という異なる要因が絡んでいる場合、それぞれの視点で原因を追究し、適切な対策を考えましょう。

インシデントを防ぐためには単に事象を記録するだけでなく、「なぜそれが起こったのか?」を掘り下げてチーム全体で原因を共有し、具体的な再発防止策を実行に移すことが重要です。

主観ではなく客観的な事実を書く

インシデントレポートを作成する際は主観的な表現を避け、客観的な事実のみを記載することが重要です。

自分のミスに関する報告では、つい言い訳や反省を書きたくなるかもしれません。しかし、インシデントレポートは反省文や始末書ではなく、事実を正確に伝えて原因を分析し、再発防止策を考えるためのものです。

たとえば、以下のような主観的な表現は避けましょう。

  • 慌てていたため、誤って別の患者に薬を渡してしまった
  • もっと慎重に確認すべきだったのに、うっかりミスをしてしまった

これを客観的な事実に言い換えると、以下のようになります。

○月○日○時、患者Aに処方された薬剤(○○mg)を患者Bに誤って投与した。確認時に患者名を読み上げず、視認確認のみで渡したことが原因

主観的な表現を排除し、「何が起きたのか」を誰が読んでも正しく理解できるように記録することが重要です。インシデントレポートを適切に作成することで、問題点を明確にし、効果的な改善策を導き出すことができます。

推測の情報は入れない

インシデントレポートを作成する際は、推測ではなく、実際に確認した事実のみを記載することが重要です。

たとえば、患者さんがベッドの横に倒れているのを発見した場合、「転倒していた」と記載するのは不適切です。転倒の瞬間を目撃していないため、それはあくまで推測にすぎません。

  • NG:患者がベッドから転倒していた
  • OK:○月○日○時、訪室時にベッドサイドで仰向けに倒れている患者を発見した

また、周囲の状況から判断した内容も避け、確実に発生した事実のみを記載しましょう。

  • NG:床が濡れていたため、患者が滑って転倒した可能性がある
  • OK:○月○日○時、床に水がこぼれており、その近くに患者が仰向けで倒れていた

推測を入れてしまうと、事実と異なる情報が報告される可能性があり、正確な原因分析や再発防止策の検討に支障をきたします。インシデントレポートは、客観的な事実を正しく伝えることが目的です。実際に見たこと、確認できたことのみを記載するよう心がけましょう。

まとめ

インシデントレポートは、医療の安全を守るために重要な役割を果たします。インシデントの原因を分析し、適切な対策を講じることで、同じミスの再発を防ぐことが可能です。作成時は6W1Hを意識し、客観的な事実を具体的に記載しましょう。また、「なぜなぜ分析」を活用して根本的な原因を追究し、効果的な再発防止策を考えることが大切です。

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