• 2021年10月25日
  • 2023年6月13日

インシデントレポートとは? 報告書の書き方も分かりやすく解説

 

医療現場において、患者さんに対して誤った医療行為の実施につながる出来事や、医療ミスにつながりかねない出来事が発生することを「インシデント」と言います。

新人看護師に限らず、ベテラン看護師でもインシデントを起こす可能性は十分にあります。インシデントの再発を予防するためには、「インシデントレポート」が欠かせません。大きな役割を持つインシデントレポートであるからこそ、概要や基本的な書き方は必ずおさえておかなければなりません。

そこで今回は、インシデントレポートの概要や目的から、書き方と注意点について詳しく解説します。インシデントレポートを書くことが苦手な看護師や、インシデントレポートについて知りたい方は、ぜひ参考にしてください。

インシデントレポートとは?

インシデントレポートとは、誤った医療行為の実施につながる出来事や、医療ミスが発生する恐れのある事態を指す「インシデント」を報告する、いわば報告書のことです。近年では紙ベースのインシデントレポートから、専用のシステム・ツールを導入してデジタル化し、パソコン上で簡単に作成・提出できるようにしている病院も増加傾向にあります。

インシデントレポートを作成すれば、インシデントが起きた原因を突き止められ、再発防止策を立てられます。ケースによっては、院内ルール変更などの大きなきっかけとなることもあるでしょう。

インシデントレポートを作成するのは、インシデントを起こした当事者だけではありません。ほかの看護師によるインシデントを発見した看護師も、同僚への注意喚起を目的として作成することがあります。

なお、誤った医療行為を実際に行い、患者さんに被害を与えた医療事故のことは「アクシデント」と言います。このように、インシデント・アクシデントで明確な違いがあることも必ず覚えておきましょう。

インシデントレポートの目的

インシデントレポートを作成する目的は、主に「インシデントの再発防止」です。インシデントの再発を防ぐために、インシデントレポートにインシデントの原因や再発防止策を記入します。

インシデントを起こした当事者がインシデントレポートで事実を報告することは、非常に勇気がいるものです。しかし、インシデントレポートはミスをしたスタッフの反省文や始末書ではありません。あくまでも、インシデントが起きたという事実の把握・インシデント事例の管理・分析をして、再発防止に努めるための報告書です。

インシデントレポートは、なぜインシデントを起こしたのかといった根本的な原因を突き止めることで、背景にある問題点や次なる課題点を把握することにもつながります。

つまりインシデントレポートの作成は、病院全体でのインシデントの背景や課題の共有・再発防止のために重要な作業であるといえるでしょう。

インシデントレポートが苦手な看護師は多い?

インシデントレポートが苦手な看護師は多い?

インシデントレポートは、今後同じようなミスを犯さないため・起きたインシデントを病院全体で共有するために作成すべき報告書です。しかし、新人看護師・ベテラン看護師に限らず、インシデントレポートを苦手とする方は多い傾向にあります。

インシデントレポートに苦手意識を持つ理由は、下記の通りです。

  • 上司や先輩に追及されたり責められたりしそうで怖い
  • 書き方が分からない
  • 報告書作成に手間と時間がかかる
  • 改善につながった経験がなく、作成の意義を感じられな 

インシデントレポートは、決して命令されて作成する反省文や始末書ではないものの、自身のミスを報告することやスタッフ全体に共有されることから苦手意識を持つことも珍しくありません。

インシデントレポートへの苦手意識をなくす方法

インシデントレポートへの苦手意識をなくす方法としては、以下のマインドセットが効果的です。

患者さんのためにレポートを書くことを意識する
インシデントレポートの目的は、医療事故を防止し、患者さんが安全に医療を受けられる環境を作ることです。インシデントレポートによって、医療の透明性が確保され、医療に携わる人が大規模なアクシデントを起こす可能性を減らせます。   事故の発生を未然に防ぐことで、患者さんは安心して来院できます。

責任を追及するものではないことを念頭に置く
インシデントレポートは責任を追及するものではなく、将来的な事故を防ぐ重要な報告書です。そのためインシデントレポートは「裁判所から開示請求を受けても拒否できる」などの形で、責任追及を個人が受けない仕組みになっています。   むしろ、責任追及を恐れてインシデントレポートを書かなかった場合、将来的なアクシデントを招くだけでなく、事故の隠ぺいなどを疑われる恐れもあります。自分にとって不利益にならないためにも、インシデントレポートを書きましょう。

(出典:総務省 情報公開・個人情報保護審査会「医療事故・紛争報告書(平成12年度−平成13年度)の不開示決定に関する件(平成15年(行情)答申第267号、268号)」

また、インシデントレポートの記入例やテンプレートを用意することで、レポートを書くハードルを下げられ、苦手意識をなくしやすくなります。あらかじめ書くべき必要な項目が整理されていることで、書く際の手順が明確になるだけでなく、必要な情報の書き忘れを防ぐことも可能です。

インシデントレポートの書き方

インシデントレポートの書き方

インシデントレポートに対して苦手意識を持つ原因の1つに、「書き方が分からない」ことが挙げられます。書き方が分からなければ、作成にさらに時間がかかり、焦りから改善につながるような内容をまとめられない可能性もあります。

厚生労働省では、Webサイトに重要事例情報を公開しているため、インシデントレポートを書く際の例として参考にすることがおすすめです。基本的には、以下の3項目に沿ってまとめられています。

  • 具体的な内容
  • インシデントが発生した要因
  • 実施した、もしくは考えられる改善案

上記をふまえ、ここからはインシデントレポートを書く際のポイントを詳しく解説します。

インシデントのレベルを把握しておく

インシデントレポートを作成する際は、まず起こしたインシデントがどのようなレベルのミスなのかを把握することが重要です。インシデントレベルとアクシデントレベルの例は、下記表を参考としてください。

インシデント レベル0 医療上のエラーや不具合は見られたが、患者には実施されなかった
レベル1 医療上のエラーや不具合が見られ、患者にも実施されたが、実害や影響を及ぼす変化は生じなかった
レベル2 医療上のエラーや不具合による患者の軽度な変化が見られたが、緊急治療は必要なかった または、検査・一時的かつ簡単な処置・治療(消毒・鎮痛剤の投与など)を要した
アクシデント レベル3 医療事故により、患者に生命の危機を及ぼす影響はないものの、緊急かつ濃厚な治療を要した
レベル4 医療事故により、患者に永続的な障害や後遺症が残った
レベル5 医療事故により、患者が死亡した

なお、インシデントレベル・アクシデントレベルの定義は、病院の方針によってもやや異なる点に注意が必要です。病院によっては、一時的かつ簡単な処置・治療を要した出来事をアクシデントと定義するところもあります。

5W1Hを意識して時系列でまとめる

厚生労働省の「重要事例集計結果」からも分かる通り、インシデントレポートを作成する際は、「具体的な内容」や「インシデントが発生した要因」の項目を詳細に記載することが大切です。

「いつ・どこで・誰が・何を・なぜ・どのように」が分かる5W1Hを意識して、それぞれの項目を整理すると、文章を組み立てやすくなります。特にチーム医療となりやすい看護師は、1つの物事に複数人が関わることも多々あるため、各看護師の行動を分かりやすく時系列でまとめましょう。

投与量や時間などは具体的な数字で書く

患者さんへの投与量や投与した時間など、数値化できるものは具体的な数字で書くことがポイントです。患者さんへの投与量については、指示された投与量と実際に投与した量まで書きましょう。また投与した時間についても、分単位で記録することが理想です。

NG例 「〇月〇日、指示された投与量とは異なる量で投与してしまった」
OK例 「〇月〇日〇時〇分ごろ、投与量は〇mlと指示されていたにもかかわらず、誤って患者Aさんに〇mlを投与してしまった」

インシデントの原因や対策を記録する

厚生労働省の「重要事例集計結果」にも「インシデントが発生した要因」「実施した、もしくは考えられる改善案」の項目がある通り、原因や今後の対策の記載も必要です。

起きたインシデントの状況だけをインシデントレポートにただ記載するだけでは、再発防止にはつながりません。また、大きな原因を見つけることも大切ですが、インシデントの発生状況を改めて振り返り、状況ごとに「なぜそれが起きたのか」といった小さな原因を詳しく掘り下げることも重要です。

小さな原因も掘り下げることで、根本的な原因の究明はもちろん、適切な再発防止策・未然防止策を立てられるでしょう。

インシデントレポートを書く際の注意点

インシデントレポートを書く際の注意点

インシデントレポートを書く際は、下記の点に注意が必要です。

〇言い訳ではなく事実を述べる

自身の間違いを報告する場でもあるインシデントレポートには、反省や言い訳を含む傾向があります。しかし、今後の再発防止対策として共有するインシデントレポートに反省や言い訳は必要ありません。起こったインシデントの事実を、ただ簡潔に述べることが重要です。

〇余計な情報は入れない

前後の情報を詳しく書こうとするのはいいのですが、余計な情報を含ませすぎているケースもあります。余計な情報が多く含まれたインシデントレポートは読みづらく、重要な情報を見落とす可能性も否めません。何を削ればいいか分からないという方は、一度「本来すべきこと」と「してしまったこと(起きてしまったこと)」の2つに絞ってみましょう。

〇推測の情報は入れない

転倒したところを見ていないにもかかわらず、仰向けで床に横たわっている患者さんを見て「患者が転倒していた」と書くなど、推測の情報を入れないようにしてください。実際に転倒した場面を見ていなければ、「転倒した」という状況はただの憶測にすぎません。見たままの状況を事実として記載しましょう。

インシデントレポートは病院全体に共有されることがあるため、書き方に戸惑う看護師も多くいます。しかし、インシデントレポートの本来の目的は「問題点と再発防止策の洗い出し」です。インシデントレポートを上手に書くことだけが目的とならないよう、本来の目的も忘れずに、分かりやすいインシデントレポートを作成してください。

看護師によくあるインシデントの種類とレポートのポイント

看護師によくあるインシデントの種類とレポートのポイント

厚生労働省では「医療安全対策ネットワーク事業」として、医療機関で起こったインシデントレポートを集め、専門家がそれぞれのレポートを評価する事業を行っています。

看護師によく起こりうるインシデントの種類と、レポート作成のポイントを、医療安全ネットワーク事業の事例から解説します。
(出典:厚生労働省「医療事故情報収集等事業について」
(出典:公益財団法人 日本医療機能評価機構「再発・類似事例の分析」

チューブやカテーテルのトラブル

チューブやカテーテルが抜けるインシデント事例は複数件報告されています。発生原因として、患者さん自身がチューブ類、カテーテル類などを勝手に外すケースがあります。

勝手にチューブ類、カテーテル類などを外すケースでは、患者さんへチューブ類、カテーテル類などの必要性を説明することが重要です。意識レベルが清明で理解力もある患者さんの場合は、事前に説明を行ったうえでチューブ類、カテーテル類などの挿入を行う運用にするとよいでしょう。必要性を説明していなかった理由などがあれば、一緒にインシデントレポートに記載すると、事故防止につなげられます。

また、患者さんがチューブ類、カテーテル類などを抜くのはどのような時なのか、どうしたら抜かれなかったかを再考しましょう。特に乳幼児にチューブ類、カテーテル類などを挿入する場合は、成長に伴いチューブ類、カテーテル類などを固定する位置や止め方を変える必要があります。定期的に現在のやり方で問題がないか、評価を行うことが再発防止につながります。

与薬の間違い

与薬の間違いも多く報告されているインシデント事例です。与薬の間違いは、判断ミスだけでなく、患者さんの名前の確認ミスや、医師の指示の聞き間違い・思い込みなどが原因で発生します。

与薬ミスが起きた際には、インシデントレポートに与薬についてのマニュアルを付記し、問題点がないか確認しましょう。また、事故が発生した背景や要因なども明確に記載すれば、具体的な改善策を考えることが可能です。具体的にどのような指示があり、どのように指示を受け取ったのかを記録に残すことで、コミュニケーションエラーが要因となるインシデントを防止しやすくなります。

機器の操作ミス

医療機器の電源の入れ忘れや、チューブと機器の接続ミスなど、機器の操作ミスも多く報告されています。

インシデントレポートには、機器の種類・設置場所・患者さんの状態などの詳細な情報を記載しましょう。また、機器の操作マニュアルを付記し、どのような手順を取っているときにインシデントが発生したのかを記載することで、マニュアルの改善にもつながります。

また、操作ミスだけでなく、ミス前後の情報についても詳しい記載が必要です。操作ミスが起こる前には何をしていたのか、なぜミスに気付いたのか、ミス発見後に患者さんにはどのように対応したのかを詳細にインシデントレポートに記載しましょう。

機器の操作ミスの要因としては、必要な操作を正しく理解できていないケースや、確認が不十分で電源を入れたと思い込んでいるケースが多いです。確認表などの導入や、一定の時間でチェックを行うシステムを構築するのもよいでしょう。

患者さんの転倒や怪我

患者さんが病院内で転倒や怪我をするインシデントも複数件存在します。服薬などが原因で運動に支障をきたしている患者さんの転倒や、ベッドの固定器具が外れて落下するというケースがあります。

インシデントレポートには、実際に怪我をしたときの環境や、その前後の状況について詳しく記載しましょう。また、患者さんの年齢や性別、病名や服薬していた薬への理解度などの患者情報を記載すれば、今後の事故防止につなげられます。

ベッドが原因で患者さんが転落した場合には、ベッド点検業務をルール化し、不具合に気が付いたらその場で直す取り組みをすることが安全管理のために重要です。また、薬の影響で転倒しやすくなる恐れがある場合には、十分な説明を事前に行いましょう。

患者さんの取り違え

検査や点滴を行う際に、患者さんの名前を正しく確認しないまま施術を行い、後になって別の患者さんであったと気付くという報告内容もあります。

なぜ取り違えが起きたのか、なぜ確認が漏れたのかなど、インシデント発生の原因と考えられるポイントについて、詳細に記入しましょう。また、通常の手順を踏んでいなかった場合には、その手順を取った理由を書くことで、その後の分析やインシデント防止に役立ちます。

インシデントが起きた後の対策方法

インシデントが起きた後の対策方法

インシデントが起きた後には、以下の3つの対策を行いましょう。

  • 気持ちを切り替える
  • 原因と対策を考える
  • 改善方法を周囲に相談す

インシデントが起こった場合、被害や損害を最小限に抑えられるよう、素早く正確な対応が求められます。ショックを受け、冷静な判断ができないままでは適切な対応が行えないため、まずは気持ちを切り替えましょう。

対応が完了したら、インシデント発生の報告とインシデントレポートの記入作業が必要です。インシデントが発生した原因を調査し、対策を考えましょう。反省文ではない点を意識し、インシデントの再発をいかに防ぐかという視点からレポートに記入することで、有益なインシデントレポートになります。

対策や改善方法を考える際には、周囲の方にも相談するのが望ましいです。情報を共有し、意見を交換することにより、自分では気付かなかった問題が見つかる場合や、改善点を指摘してもらえる場合があります。

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効果的な反省の仕方とは

まとめ

インシデントレポートの概要や目的から、書き方と注意点について詳しく解説しました。インシデントレポートとは、誤った医療行為の実施につながる出来事や、医療ミスが発生する恐れのある事態を指す「インシデント」の報告書です。インシデントの再発を防ぐためにも、インシデントレポートは欠かせません。

インシデントレポートはある程度のフォーマットが用意されているものの、誰もが瞬時に理解できる報告内容を作ることは大変です。患者さんをしっかり預かるうえで重要なインシデントレポートであるからこそ、きちんと教えてくれる職場を選ぶことをおすすめします。

ここまでの内容を参考に、きちんとインシデントレポートの書き方を教えてくれる職場・知識を得られる職場に転職したいという方は、看護師専用の転職サイトであるマイナビ看護師から、ぜひ転職を検討してみてはいかがでしょうか。

※当記事は2023年4月時点の情報をもとに作成しています

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