「医師事務作業補助者はどんな仕事をするの? 」「資格は必要? 」など、医師事務作業補助者について詳しく知らない人も多いのではないでしょうか。医師事務作業補助者は医師の事務業務をサポートする職種で、規模の大きな医療機関において欠かせない存在となっています。
この記事では、医師事務作業補助者ができた経緯や仕事内容、やってはいけない業務を解説。また、医師事務作業補助者に向いている人の特徴とスキルアップにおすすめの資格を紹介しています。
医師事務作業補助者とは
医師事務作業補助者とは、診断書の文書作成・電子カルテへの入力といった医師の事務作業を代行・サポートする職種です。職場によっては、「医療クラーク」と呼ばれることもあります。
NPO法人 日本医師事務作業補助研究会が2020年8月に発表した「医師事務作業補助者の実態調査」によると、2014年時点で医師事務作業補助者の数は28,097人。医師事務作業補助者が働く施設数は3,252施設でした。なお、2020年には約4万人が医師事務作業補助者として従事していると推計されています。
参照元:日本医師事務作業補助研究会「「医師事務作業補助者の実態調査」結果報告書」
医師事務作業補助者ができた経緯
医師の負担軽減を目的として、2000年ごろからいくつかの病院で医師事務作業補助業務が取り入れられました。実際に全国の病院において医師事務作業補助者の配置が拡大されたのは、2008年からです。
2008年に診療報酬が改定されたことによって、「医師事務作業補助体制加算」が創設されます。「医師事務作業補助体制加算」は、医師事務作業補助者の配置による人件費が国から補助されるようになるという制度です。当制度の創設により、医師の負担が特に大きい病院や大学病院では、瞬く間に医師事務作業補助者の配置が拡大したのです。
医師事務作業補助者と医療事務の違い
医師事務作業補助者の主な業務は、医師の事務業務のサポートおよび代行です。一方、医療事務は病院・クリニックといった医療機関の窓口で受付・会計などの業務を担当します。
同じ医療機関で働いていても、行う業務や役割、活躍するフィールドは異なるため、医療業界での勤務を希望する方は両者の違いを知っておきましょう。
医師事務作業補助者の仕事内容
医師事務作業補助者は、主に診療記録等の代行入力や各種臨床データの整理など、医師の事務業務のサポートおよび代行を行います。入院時のオリエンテーションで患者さんやその家族と接する機会もあるので、文書作成能力だけでなくコミュニケーション能力も必要です。
以下では、医師事務作業補助者の主な仕事内容を5つ紹介します
診療記録等の代行入力
厚生労働省の「働き方改革の推進について(その2)」によると、医師事務作業補助者の導入によりもっとも改善・軽減がみられた業務は、「診断書や紹介状、意見書、処方箋、各種保険の証明書などの作成代行」でした。92.3%の医師が、医師事務作業補助者の導入によって改善・軽減がみられたと答えています。
医師事務作業補助者が代行入力する記録や書類は、以下のとおりです。
- 電子カルテへの医療記録の代行入力
- 臨床写真など画像の取り込み
- カンファレンス記録や回診記録の記載
- 手術記録の記載
- 各種サマリーの修正
- 各種検査オーダーの代行入力
医師事務作業補助者は、医師の診察に同行し、医師の指示に従いながらその場でカルテを入力・作成をします。誰が見ても分かる正確な診療記録を入力できる文章力や理解力が必要です。
各種書類の記載
医師事務作業補助者は、医師が最終的に確認または署名することを条件に各種書類の記載を行うことができます。実際に記載する書類は、以下のとおりです。
- 損保会社等に提出する診断書
- 介護保険主治医意見書等の書類
- 紹介状の返書
- 診療報酬等の算定に係る書類
医師事務作業補助者は、診療結果をもとに上記の文書を医師の指示に従いながら作成します。ときには、入退院時や手術時に必要な手続き・保険証明書などの発行も行います。
検査の説明や入院時のオリエンテーション
日常的に行われる検査に関する定型的な説明をするのも、医師事務作業補助者の仕事です。
また、患者さんが医師から入院に関する医学的な説明を受けたあとに、医師事務作業補助者が入院時のオリエンテーションを行います。患者さんやその家族に対して療養上の規則や入院時の案内を行い、入院誓約書等の同意書を受領するのです。
厚生労働省の「働き方改革の推進について(その2)」によると、医師事務作業補助者の導入により改善・軽減がみられた業務で2番目に多かったのが、「患者の診療、入院などの手続き 、説明」でした。約40%の医師が、医師事務作業補助者の導入によって改善・軽減がみられたと答えています。
症例実績や各種臨床データの整理
医師事務作業補助者は症例実績や各種臨床データの整理など、医療の質を向上させるための事務作業も行います。具体的な業務は、以下のとおりです。
- 症例実績や各種臨床データの整理
- 研究申請書の準備
- カンファレンスの準備
- 医師の当直表の作成等の業務
いずれの業務も、医師による指示のもと行います。
行政上の業務
医師事務作業補助者は、厚生労働省や各自治体などに報告する診療データの整理や感染症サーベイランス、各地域の救急医療情報システムに関する入力作業など、行政上の業務も行います。
高齢化が進み地域医療が重要となりつつある近年、地域医療を構成するために必要となる行政上の業務需要はさらに高まるとされています。そのため、医師事務作業補助者による行政上の業務は、今後多くの病院でより求められることになるでしょう。
医師事務作業補助者がやってはいけない業務
医師事務作業補助者には、やってはいけない業務が定められています。具体的な業務内容は以下のとおりです。
- 医師以外から指示された業務
- 医療機関の運営に関する業務
- 受付・窓口業務
- 看護業務の補助
医師事務作業補助体制加算の要件で、医師事務作業補助者が指示を受けるのは医師と決まっています。そのため、医師以外から指示された業務は行えません。
なお、受付・窓口業務は医療事務が、看護業務の補助は看護助手が行います。
医師が受付・窓口業務や看護業務の補助を行うことはありません。そのため、医師事務作業補助者にとっても担当外の業務となるのです。
医師事務作業補助者になるには32時間以上の研修が必須
医師事務作業補助者になるには、32時間以上の研修の受講が必要です。「医師事務作業補助体制加算」では、以下のように明記されています。
当該責任者は、医師事務作業補助者を新たに配置してから6か月間は研修期間として、業務内容について必要な研修を行うこと。なお、6か月の研修期間内に32 時間以上の研修(医師事務作業補助者としての業務を行いながらの職場内研修を含む。)を実施するものとし、当該医師事務作業補助者には実際に病院勤務医の負担軽減に資する業務を行わせるものであること。
医師事務作業補助者が受ける研修の内容は、以下のとおりです。
- 医師法や薬事法、健康保険法などの関連法規の概要
- 個人情報の保護に関する事項について
- 医療機関で提供される一般的な医療内容および各配置部門における医療内容・用語など
- 診療録等の記載・管理および代筆・代行入力について
- 電子カルテシステムについて(オーダリングシステムを含む)
医師事務作業補助者は、32時間の研修で業務で求められる知識と技術を身につけます。
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医師事務作業補助者の仕事はきつい?
医師事務作業補助者は多職種との連携や患者さんの対応など、人と関わる機会が多い仕事です。そのため、医師事務作業補助者の仕事を事務作業と考えている人は、想像と違ってきついと感じることがあるようです。また、地道な作業が多いのも医師事務作業補助者の仕事がきついといわれている理由でしょう。
以下では、医師事務作業補助者の仕事がきついといわれている理由を4つ解説します。
多職種との連携が大変
医師事務作業補助者は医師・看護師・薬剤師などの多職種と連携する機会が多く、板挟みになることもあるため、関わりが難しいと感じる人もいます。
また、医師事務作業補助者の仕事をデスクワークだと思っている方は人と関わる機会の多さに驚いたり、人とコミュニケーションを取るのが苦手な人は人間関係の構築が大変だったりするでしょう。
患者さんの対応が難しい
精神的に追い込まれてしまい、不安や不満、苛立ちを医師事務作業補助者に向ける患者さんもいるため、ときには関わり方に悩んだり困ったりすることがあるでしょう。患者さんをできるだけサポートしたいという想いはあっても、理不尽な要求をしてくる患者さんにストレスを感じてしまうことがあるようです。
地道な作業の連続がつらい
医師事務作業補助者の仕事は、診療記録等の代行入力や各種書類の記載、症例実績・各種臨床データの整理など、地道な作業の連続です。そのため、単調な作業が苦手な人にとってはつらいと感じることがあるでしょう。たとえ、地道な作業が得意な方であっても、長く同じ作業をしていると大変に感じてしまうようです。
同僚が少ない
働く病院の規模にもよりますが、医師事務作業補助者の人数は少ない傾向にあり、なかには医師事務作業補助者が自分一人しかいないという職場もあります。そのため、相談できる人が少なく不安を感じたり、孤独を感じたりすることがあります。
医師事務作業補助者に向いている人
医師事務作業補助者の仕事は、医師のサポートとして事務作業を行うことだけではありません。治療を円滑に進めるために、多数の医療従事者や患者さん、患者さんの家族と関わる機会が多々あります。そのため、事務処理能力だけでなく、コミュニケーション能力も必要といえるでしょう。
以下では、医師事務作業補助者に向いている人の特徴を3つ紹介します。
地道な作業をコツコツ続けられる人
医師事務作業補助者は、主に医師の事務仕事を代行・サポートする職業であるため、「地道な作業をコツコツ続けられる人」が向いているといえます。一般事務経験のある方やルーティン化された業務を飽きることなく日々進められる方は、医師事務作業補助者の仕事に適性があるでしょう。
コミュニケーション能力が高い人
医師事務作業補助者は、医師のほかにも各医療従事者や患者さん、患者さんの家族とも関わる機会があるため、コミュニケーション力が必要です。ときには、医師と医療従事者・患者をつなげる橋渡し役となることも。人と関わることに抵抗がない方や積極的に会話ができる方は、医師事務作業補助者として活躍できるでしょう
責任感がある人
医師事務作業補助者は、今後の診療や治療にも大きく関わる医療文書を作成・管理するので、責任重大な仕事です。些細なミスが、医療ミスにつながる可能性もあります。そのため、一つひとつの業務に責任を持って対応できる人が、多くの職場で求められる人材となるでしょう。
医師事務作業補助者のスキルアップにつながる資格
医師事務作業補助者になるために、特別な資格や経験は必要ありません。しかし、業務に関連する資格を取得していれば就職・転職が有利になるほか、スキルアップにもつながります。
以下では、医師事務作業補助者のスキルアップにつながる資格を3つ紹介します。
医師事務作業補助技能認定試験(ドクターズクラーク®)
医師事務作業補助技能認定試験とは、医師事務作業補助者として必要な各医療文書の作成や医学・薬学に関する法律の専門知識、技能レベルを有していることを認定する試験です。医師事務作業補助技能認定試験の合格者には、「ドクターズクラーク(R)」の称号が与えられます。
医師事務作業補助技能認定試験の受験資格・試験日程・試験方法は、以下のとおりです。
受験資格 |
下記のいずれかに該当する者
|
---|---|
試験日程 | 年6回(奇数月) |
試験方法 | 在宅試験(学科試験・実技試験) |
医師事務作業補助技能認定試験は、教育訓練をしっかり履修してきちんと試験勉強を行えば、合格は決して難しくないでしょう。
参照元:一般財団法人日本医療教育財団「医師事務作業補助技能認定試験(ドクターズクラーク®)」
医師事務作業補助者実務能力認定試験
医師事務作業補助者実務能力認定試験とは、医師事務作業補助者として必要な文書作成能力や医療関連知識を有していることを認定する試験です。医師事務作業補助技能認定試験のように、合格することで与えられる称号はありませんが、医師事務作業補助者としての基本的な実務能力が備わっていることの証明となります。
医師事務作業補助者実務能力認定試験の受験資格・試験日程・試験方法は、以下のとおりです。
受験資格 | 不問 |
---|---|
試験日程 | 年3回(6月・10月・3月) |
試験方法 | 在宅試験(学科試験・実技試験) |
医師事務作業補助者実務能力認定試験は受験資格がなく、誰でもチャレンジできる試験です。合格率は概ね60~80%と発表されており、難易度も決して高すぎることはありません。公式から販売されているテキストを活用して試験対策を行うと良いでしょう。
参照元:全国医療福祉教育協会「医師事務作業補助者実務能力認定試験」
医師事務作業補助者(ドクターズオフィスワークアシスト®)検定試験
医師事務作業補助者(ドクターズオフィスワークアシスト®)検定試験は、医師事務作業補助者として必要な医療関連知識やスキルを証明するための検定試験です。検定試験の合格者には、「ドクターズオフィスワークアシスト(R)」の称号が与えられます。
医師事務作業補助者(ドクターズオフィスワークアシスト®)検定試験の受験資格・試験日程・試験方法は、以下のとおりです。
受験資格 | 不問 |
---|---|
試験日程 | 年6回(奇数月) |
試験方法 | 在宅試験(学科試験・実技試験) |
合格率は60%程度と発表されており、きちんと試験対策を行う必要のある検定試験といえます。受験資格は特に設けられていないため、無資格・未経験で挑戦する場合は必ずテキスト教材などを活用して試験勉強を行いましょう。
参照元:JSMA 技能認定振興協会「医師事務作業補助者(ドクターズオフィスワークアシスト®)検定試験」
医師事務作業補助者の将来性
人手不足が問題になっている医療業界で、医師事務作業補助者は欠かせない存在となっています。
実際、厚生労働省の「働き方改革の推進について(その2)」によると、医師事務作業補助者の配置は、医師の働き方の貢献・患者満足度の向上・チーム医療の推進・地域連携の推進・病院経営への貢献に効果があるとされています。
医師事務作業補助者の配置は、さまざまな負担軽減策の中でも効果が大きく、医師事務作業補助体制加算の届出は増加を続けているのが現状です。
超高齢社会である日本において、今後も医療を必要とする人は増加し、医師の負担はさらに大きくなっていくでしょう。それに伴い、医師事務作業補助者の活躍の場もさらに広がると予想されます。
まとめ
医師事務作業補助者は、医師が行う診断書の文書作成・電子カルテへの入力といった事務作業を代行・サポートする職種です。医師事務作業補助者は、2008年の診療報酬改定により、多くの医療機関で配置されるようになりました。近年では、「医療秘書」「医師クラーク」という呼称でも浸透しています。
医師事務作業補助者は無資格・未経験で働くことができ、実際に他業種からの転職で活躍している人も多いため、キャリアチェンジを考えている人にはおすすめの仕事です。
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