身体拘束は本人の尊厳を損ない、実施する側にとっても大きな負担となる行為です。医療機関でも、身体拘束の最小化や廃止に向けた取り組みが進められています。しかし、患者さんや利用者さんの安全を守るために身体拘束が議論される場面もあるでしょう。看護師の皆さんは身体拘束のルールについて理解し、患者さんの側に立ったケアを提供することが必要です。
この記事では、医療や介護における身体拘束の問題点や、身体拘束の三原則、身体拘束を行わざるを得ないときに行う手続きや注意すべき点を解説します。
看護における身体拘束とは
看護や介護の現場における身体拘束とは、患者さんや利用者さんの行動の自由を本人以外が制限する行為を意味します。身体拘束として原則禁止される対応の例は、以下の通りです。
- 点滴や経管栄養チューブを抜かせないため、ミトン着用を強要する
- ベッドの周囲をサイドレール等で囲む
- Y字型拘束帯や腰ベルトを使用し、車椅子に固定する
- おむつを外させないため、介護衣を着用させる
(出典:厚生労働省「介護施設・事業所等で働く方々への身体拘束廃止・防止の手引き」1-2.身体拘束とは)
上記は、身体拘束に該当する可能性のある行為の例示にすぎません。実際にはより多くの行為が身体拘束に該当し、廃止・防止の対象に含まれます。
身体拘束が問題視される理由
身体拘束が問題視される理由は、患者さんや利用者さんと看護師や介護サービス提供者の両方にさまざまなデメリットがあるためです。法律家には「身体拘束は逮捕・監禁罪の構成要件を満たし、職業上の正当行為と評価できる場合が例外」と考える方もいるため、自覚を持った行動を取る必要があります。
(出典:静岡県「身体拘束ゼロをめざして」2医療(看護・介護)行為と刑事責任)
身体拘束を受けた患者さんや利用者さんは精神的・身体的な苦痛を感じてQOLは低下し、人間としての尊厳も侵害されます。関節拘縮や筋力低下等が生じて更なる医療措置が必要になった場合、社会的な損失の発生も避けられません。また、身体拘束は、看護師等のモチベーションを低下させ、専門職としての誇りを損なう行為です。
(出典:厚生労働省「介護施設・事業所等で働く方々への身体拘束廃止・防止の手引き」1-3.身体拘束はなぜ問題なのか)
医療機関に対する身体拘束の禁止を明示する法令は存在しないものの、2000年に施行された介護保険法は介護施設に身体的拘束等の禁止を指示しています。医療機関や介護施設に身体拘束廃止委員会の設置を推奨する自治体も存在し、前向きな取り組みが欠かせません。
(出典:厚生労働省「介護保険関連施設等の身体拘束廃止の追跡調査及び身体拘束廃止の取組や意識等に関する調査研究事業報告書」(2)高齢者介護施設における権利侵害と身体拘束廃止理念の浸透)
(出典:千葉県「第1 身体拘束廃止を推進するために」)
身体拘束の三原則について

医療や介護現場では、状況に応じてやむを得ず、身体拘束を実施する可能性があります。「やむを得ない状況にあたるか」の妥当な判断基準は、「切迫性」「非代替性」「一時性」の三原則をすべて満たしているかどうかです。以下で紹介する切迫性・非代替性・一時性の概念を理解し、身体拘束適正化の方向性を確認しましょう。
各見出しの執筆にあたって、以下のページを参考にしています。
(出典:厚生労働省「介護施設・事業所等で働く方々への身体拘束廃止・防止の手引き」3-1.緊急やむを得ない場合の三つの要件)
切迫性
切迫性とは、身体拘束を行わない場合、患者さんや利用者さんの生命もしくは身体に危険が及ぶリスクが著しく高いことです。身体拘束を行わない場合にほかの患者さん等に危険が及ぶリスクが著しく高い状況においても、切迫性を満たす可能性があります。
切迫性を判断する際には、身体拘束によって患者さんや利用者さんの日常生活に生じる悪影響を考慮することが欠かせません。悪影響を考慮しても身体拘束の必要性があると評価できる場合にのみ、切迫性を満たす判断が可能です。
切迫性の判断では、他の関係機関や医療職がどのような見解を持っているかも確認します。高齢の患者さんの場合には、日常生活を詳細に把握している介護職員の見解も聞き、参考にすることが重要です。
非代替性
非代替性とは、身体拘束や行動制限以外に患者さんや利用者さんの安全を確保する手段がないことです。非代替性を判断する際にはケアチームメンバーの意見も聞き、患者さんの安全を脅かす原因を調査します。そのうえで身体拘束を行わずに看護・介護するすべての方法の可能性を検討し、本人等の生命または身体を保護するという観点から、他に代替手法が存在しない場合に、非代替性の判断が可能です。
薬剤の使用・病室内の環境整備などの手段で状況を改善できる場合には、非代替性を満たしません。継続的な病室の見回りによって状況を改善できる場合も、同様です。
組織全体の取り組みとしては、身体拘束や行動制限の回避策を研修等で話し合い、代替手段を検討するスキルを向上させることが要求されます。必要があれば外部関係者の意見を聞いたうえ、代替手段を模索する方法によっても、非代替性に関する誤判断リスクの軽減が可能です。
一時性
一時性とは、患者さんや利用者さんに対する身体拘束が一時的であることです。身体拘束が「一時的」と判断されるためには、患者さんや利用者さんの状態や環境に応じ、もっとも短時間の身体拘束に止める必要があります。
身体拘束を実施する前には、関係機関や関係者の意見も聞き、適切な実施期間と時間帯を検討しなければなりません。状況が変化して必要性が薄れた場合、即座に拘束解除することも重要です。
身体拘束を行う際の手続きと注意点

患者さんや利用者さんの尊厳を守りつつ身体拘束を行うためには、適正な手続きを経て必要性を確認する取り組みが欠かせません。以下では、厚生労働省の手引きと日本看護倫理学会のガイドラインを参考にして、身体拘束を行う際の手続きと注意点を紹介します。
(出典:厚生労働省「介護施設・事業所等で働く方々への身体拘束廃止・防止の手引き」)
組織的な判断の重要性
身体拘束の必要性の判断は看護師や介護職員単独もしくは数名でなく、組織として行う必要があります。やむを得ず身体拘束を行う場合にもほかの職種の職員を交えたカンファレンスを実施し、必要性を確認しましょう。
カンファレンスには通常、医師・看護師・介護職員などが参加します。カンファレンスで身体拘束の必要性が合意された場合には、目的・方法・期間などについて話し合い、できる限り詳細に説明し、 十分な理解を得るよう努めることが重要です。
職場に身体的拘束最小化チームや身体拘束廃止委員会がある場合には拘束中や実施後に報告し、適正性の確認を受ける必要があります。組織に対する報告は業務リーダーが担当するケースも多いものの、職場のルールを把握し、適切に行動しましょう。
本人と家族への説明と同意
組織として身体拘束の必要性を確認した場合にも、患者さんや利用者さん本人もしくは家族に以下の事項を説明し、同意書を取得します。
- 心身の状態
- 拘束を実施しない場合の不利益
- 身体拘束の方法
- 目的、理由
- 拘束期間、時間帯 など
本人や家族への説明方法や担当者は事前に明文化し、組織としてのルールを確立したうえ、運用にあたることが重要です。医療機関では多くの場合、医師が同意書の作成や説明を担当します。
ただし、患者さんや利用者さんの状態によっては、緊急で身体拘束を行うことも避けられません。やむを得ず緊急で身体拘束を行う場合、組織のルールに従って手続きを進めることを前提として、電話で状況を説明し、後日同意書を取得する方法もあります。
(出典:厚生労働省「介護施設・事業所等で働く方々への身体拘束廃止・防止の手引き」3本人や家族に対する詳細な説明)
記録と評価の必要性
やむを得ない状況で身体拘束を実施する場合には、その状態および時間、その際の本人の心身の状況、緊急やむを得なかった理由を記録し、保存する必要があります。身体拘束中も概ね2時間ごとに専用のチェックシートを活用して継続の必要性を評価し、記録化しましょう。
身体拘束中は最低週1回を目安として、ほかの職種の職員も交えたカンファレンスを実施します。医療機関の場合は医師や看護師などによるカンファレンスを実施し、身体拘束の解除に向けた評価を行うことが必要です。
以下は、身体拘束を解除する場合の基準の例を示します。
- 身体拘束の三原則を満たさなくなった
- 事前に検討した拘束期間を超えた
看護師や介護職員は身体拘束中も早期に解除できる方法を模索し、拘束の恒常化を避けなければなりません。必要があれば、マッサージ・清拭などのケアを実施し、安全管理に努めてください。
(出典:厚生労働省「介護施設・事業所等で働く方々への身体拘束廃止・防止の手引き」3-3. 緊急やむを得ない場合に記録すべき内容)
まとめ
身体拘束は医療機関において、基本的には避けるべき・最小限にすべき行為です。身体拘束を判断する場合は、カンファレンスなどを通じて組織的に対応し、個人の独断を防ぎ、非代替性や一時性の誤った評価を避けるのが大切です。また、身体拘束についての記録を残し、過剰な身体拘束をしていないか見直しましょう。できる限り拘束を行わずにリスクを低減する代替手段を模索する姿勢は、看護の質を一層高めることにつながります。
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※当記事は2025年1月時点の情報をもとに作成しています
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