「やる気が出ない」「気分が沈む」「集中力が続かない」といった心身の変化には、脳内の神経伝達物質であるドーパミンが関わっている可能性があります。ドーパミンは、意欲や快感、運動調節などに関与しており、そのバランスが崩れるとさまざまな不調につながるとされています。
当記事では、ドーパミンの働きや、不足によって生じる病気、生活の中で分泌を促す方法について解説します。看護師としての知識を深めたい方や、日々のコンディションを整えたい方は、ぜひ参考にしてください。
勝木 将人(かつき まさひと)
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2016年東北大学卒。脳神経外科専門医。脳卒中、頭痛診療、頭部外傷などが専門。 |
ドーパミンの働きとは
ドーパミンは、快感や多幸感、意欲、運動調節などに関与する神経伝達物質です。食事に含まれるアミノ酸(フェニルアラニンやチロシン)から体内で合成され、脳内のさまざまな領域に分布しています。
近年の研究により、ドーパミンは単なるホルモンの前駆体ではなく、脳内で独自の働きをもつ重要な物質であることが明らかになってきました。その役割は多岐にわたり、人の感情・行動・学習・習慣形成などに深く関与しています。
(出典:東邦大学医療センター大森病院 臨床検査部「ドーパミンとパーキンソン病」)
快の感情を与える
ドーパミンは、報酬や快感と深く関わり、特に「うれしい」「気持ちいい」といった快の感情を引き起こす働きがあります。美味しいものを食べたときや、好きな音楽を聴いたとき、目標を達成したときなど、心地よい経験の際に分泌され、脳に快感を与えます。
快感を得た経験を繰り返すようになるなど、行動を強化する仕組みは、「報酬系」と呼ばれる脳の働きに基づいており、日常の行動選択にも大きな影響を与えています。
(出典:東邦大学医療センター大森病院 臨床検査部「ドーパミンとパーキンソン病」)
(出典:日本脳科学関連学会連合「第23回 脳の中の「快楽」センター」)
やる気・意欲の向上
ドーパミンは「やる気ホルモン」とも呼ばれ、意欲的に物事へ取り組むための原動力になります。ドーパミンの分泌は前向きな感情を引き出し、新しいことへ挑戦する意欲を高める働きがあるとされています。
京都大学の研究では、期待外れの状況においても特定のドーパミン神経が活性化し、側坐核からドーパミンが分泌されることが明らかになりました。これは「うまくいかなかったあとでも意欲を持ち続けられる」という脳の仕組みで、失敗や困難を乗り越える力ともいえます。ドーパミンは単なる快感だけでなく、粘り強く挑戦を続ける意志にも関わる重要な物質です。
(出典:京都大学「目標に向けて努力し続けられる脳の仕組みを解明―期待外れを乗り越えるためのドーパミン機能―」)
注意力・集中力の維持
集中力や注意力を保つうえでもドーパミンは必要な存在です。特に前頭前野という脳の領域では、ドーパミンが「今、何に意識を向けるか」をうまくコントロールします。理化学研究所の研究によると、ドーパミンの働きが弱まると集中力が落ちたり、作業を続けるのが難しくなったりすることが分かっています。
また、やるべきことに意識を向け続けるには「これをやりたい」という気持ち、動機づけも大切です。ドーパミンは、モチベーションの維持にも一役買っています。
(出典:理化学研究所「ドーパミン受容体の機能に新視点」)
記憶や学習の強化
ドーパミンは、学習や記憶の働きにも関わっています。快い経験とともに分泌されることで体験の印象が強まり、記憶として定着しやすくなるとされています。また、やる気や集中力が高まる状態では、学習への意欲も維持されやすくなり、知識の吸収効率の向上が期待できます。
ドーパミンが活発に働いているときには、新しいことへの関心が高まり、積極的に物事へ取り組もうとする姿勢が強まります。
運動機能の調整
体をスムーズに動かすためにも、ドーパミンは重要な神経伝達物質です。特に「黒質」という脳の部位から分泌されるドーパミンは、大脳基底核や線条体に伝わり、運動の開始や制御に関わっています。これらの働きがあるおかげで、人は歩く・止まる・立ち上がるといった動作をスムーズに行えています。分泌量が不足すると、動き出しにくくなる、体が震えるといったパーキンソン病特有の症状が現れるのもそのためです。
また、ドーパミンが分泌される経路が障害されると、行動の順番や企画に関わる脳の機能も低下し、運動だけでなく集中力や記憶力にも影響を与えることがあります。
(出典:東邦大学医療センター大森病院 臨床検査部「ドーパミンとパーキンソン病」)
ドーパミンの不足で起こる病気

ドーパミンが不足すると、脳の働きや感情の調整がうまくいかなくなり、さまざまな不調が現れることがあります。特に「パーキンソン病」は代表的な疾患で、運動機能の障害が顕著に表れます。また、「ADHD(注意欠如・多動症)」や「うつ病」なども、ドーパミンの分泌量や受容体の働きが関係していると考えられています。
以下では、ドーパミンの不足で起こる病気について解説します。
パーキンソン病
パーキンソン病は、主に高齢者に多く見られる神経変性疾患で、ふるえ(振戦)、動作の遅れ、筋肉のこわばり(筋強剛)、姿勢の不安定さといった運動症状が特徴です。脳の中にある「黒質」と呼ばれる部位の神経細胞が変性し、ドーパミンの分泌量が大きく低下することで発症します。50歳以上で起きることの多い病気ですが、まれに40歳以下で起こることもあり、その場合は「若年性パーキンソン病」と呼びます。
歩行障害やすくみ足、表情の乏しさ、小字症などの症状が進行とともに現れ、日常生活に影響を及ぼします。少なくなったドーパミンを補う薬物治療が基本となりますが、進行に伴い認知機能の低下や感情面の変化が見られることもあり、心身両面での支援が求められる病気です。
ADHD(注意欠如・多動性障害)
ADHD(注意欠如・多動性障害)は、注意力の持続が難しい「不注意」、落ち着きのなさやそわそわした行動にあたる「多動性」、思いついた行動を抑えられない「衝動性」を特徴とする発達障害の1つです。不注意や多動性、衝動性の症状が12歳以前から見られ、学校や家庭、職場など複数の場面で支障をきたしている場合に診断されます。
ADHDの原因は明確には解明されていませんが、前頭前野の機能調節の偏りや、ドーパミン・ノルアドレナリンといった神経伝達物質の不足が関与していると考えられています。ドーパミンが不足することで、集中力や感情のコントロールがうまくいかず、不注意や衝動的な行動が現れやすくなります。そのため、ADHDの治療では、ドーパミンの働きを調整する薬剤が処方されることもあります。
(出典:NCNP病院 国立精神・神経医療研究センター「ADHD(注意欠如・多動症)」)
(出典:医療法人東横会 たわらクリニック「注意欠陥・多動性障害(ADHD)」)
うつ病
うつ病は、気分が沈む、やる気が出ない、眠れない、食欲が落ちるなどの症状が続く精神疾患で、日常生活に支障をきたすことがあります。原因はさまざまですが、脳内の神経伝達物質のバランスが崩れることが大きく関与しており、特にドーパミンの不足は、意欲や楽しみを感じる力を低下させる要因とされています。
従来の治療ではセロトニンやノルアドレナリンを主な標的とする抗うつ薬が多く用いられてきました。しかし、意欲の改善が不十分なケースでは、ドーパミン系に作用する薬剤を用いた治療が効果を示すことがあります。近年では、ドーパミンの働きに着目した治療が注目され、早期の回復につながる可能性も報告されています。
(出典:医療法人社団 緑会 佐藤病院「うつ病とは」)
(出典:精神科・心療内科 川崎メンタルクリニック「ドパミン効果主体のうつ病治療」)
ドーパミンを増やす方法

ドーパミンは、以下のような日々の生活習慣や意識的な行動によって分泌を促せます。
タンパク質・チロシン摂取 | チーズ・納豆・卵などに含まれるチロシンは、ドーパミンの原料です。バランスの取れた食事を心がけることで神経伝達物質の生成がスムーズになります。 |
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達成感を得る | 目標を達成したときや褒められたとき、脳の「報酬系」が刺激されドーパミンが分泌されます。小さな成功体験を積み重ねることが効果的です。 |
好きな音楽を聴く | カナダのマギル大学の研究では、好きな音楽を聴いたとき、脳はドーパミンの分泌を促進するという結論を出しています。 |
新しいことに挑戦する | いつもと違う道で家に帰ったり、行ったことのないお店に行ったり、新しい趣味を始めてみたりなど、新しいことに挑戦すると新鮮さや達成感を得られます。脳は活性化されドーパミンの分泌につながるといわれています。 |
まとめ
ドーパミンは、快感や意欲、運動機能、学習・記憶などに関わる重要な神経伝達物質です。不足すると、パーキンソン病やADHD、うつ病などのリスクが高まり、心身にさまざまな影響を及ぼします。適切な食事や運動、達成感のある行動、音楽や新しい体験を通じてドーパミンの分泌を促すことで、心の健康やモチベーションの維持につながります。日々の生活習慣を整えることが、ドーパミンの働きをサポートする第一歩です。
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※当記事は2025年4月時点の情報をもとに作成しています
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