• 2025年7月8日
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ブリンクマン指数とは? 指数が高いほど危険が増す疾患も解説

 

ブリンクマン指数とは、喫煙が人体に与える影響を示す指標です。数値が高くなるほど、肺がんや心疾患、脳卒中など多くの疾患リスクが高まるため、患者さんの健康管理に重要な指標の1つです。また、日本では、禁煙外来での保険適用の判断材料にも用いられています。

この記事では、ブリンクマン指数の基本的な意味や、指数が高い場合に特に注意が必要な疾患について解説します。また、看護師が禁煙支援を行うにあたって、患者さんが喫煙のリスクを理解し、禁煙に取り組めるようサポートするコツについても紹介するため、ぜひ参考にしてください。

■監修者
五藤良将(ごとう よしまさ)

医療法人社団五良会 理事長/竹内内科小児科医院 院長。
防衛医科大学校を首席で卒業後、内科医として長年にわたり地域医療に従事。糖尿病、禁煙外来、抗加齢医学などを専門とし、テレビ・雑誌などでの医療監修多数。日本内科学会認定内科医。わかりやすい医療の提供を信条とし、患者に寄り添った診療を行う。

ブリンクマン指数とは

ブリンクマン指数(Brinkman index)とは、以下の計算式で求められる、喫煙による人体への影響を表す指数です。

ブリンクマン指数=1日の喫煙本数×喫煙年数(例:1日20本を20年間→指数400)

ブリンクマン指数は、喫煙者の健康リスクを定量的に評価するために、医療現場や健診で広く活用されており、禁煙外来受診者への健康保険の適用可否を決める基準としても使われます。35歳以上の禁煙外来受診者の場合、ブリンクマン指数が200以上の際に保険診療が可能です。

ブリンクマン指数と疾患リスクの関係

喫煙による健康リスクは、これまでに吸ったタバコの量と関連があり、ブリンクマン指数が高いほどがんなどの疾患の発病率が高いといわれています。例として、ブリンクマン指数による肺がんリスクの目安を以下に挙げます。

・ブリンクマン指数による肺がん発生に関する相対危険率の目安

ブリンクマン指数 男性の相対危険率 女性の相対危険率
0 1 1
200~399 1.55 3.39
400~599 2.01 5.27
600~799 4.20
800~999 6.02
1000~1199 4.85
1200以上 8.34
(出典:科学技術情報発信・流通総合システム「Brinkman lndex登場のいきさつ」

一般的にブリンクマン指数が400以上で肺がんが発生しやすい状態、600以上で肺がんの高度危険かつCOPD(慢性閉塞性肺疾患)を発症するリスクが高い状態といわれます。また、ブリンクマン指数が1200以上の方は、咽頭がんの危険性が高くなります。

加えて喫煙習慣は、気管支喘息をはじめとする呼吸器疾患や、狭心症などの冠動脈疾患、合併症の危険性も高めるといわれています。喫煙は骨密度や歯の喪失数、不妊、皮膚の老化と関連するという研究結果も公表されており、ブリンクマン指数が高い方は幅広い面で疾患リスクが高い状態といえるでしょう。

ブリンクマン指数が高いほど発症の危険が増す代表的な疾患

ブリンクマン指数が高いほど発症の危険が増す代表的な疾患

タバコには有害物質が多く含まれており、ブリンクマン指数が高いほど、さまざまな疾患にかかる可能性が高くなります。以下では、ブリンクマン指数の高い人が発症しやすい代表的な疾患を6つ紹介します。

がん

がん(悪性腫瘍)は、遺伝子に傷が付いてできる異常な細胞のなかでも悪性のものです。がん細胞が体内で増殖すると、摂取した栄養素をがん細胞が吸収することで、低栄養や体重減少、食欲減退、筋肉量の減少といった症状が現れます。

タバコには、5,000種類以上の化学成分が含まれており、そのうちの約70種類に発がん性があることが知られています。特に肺がんや咽頭がん、喉頭がん、食道がん、肝臓がん、胃がん、膵臓がん、膀胱がんなどは、喫煙者に発病しやすいため、注意が必要です。
(出典:厚生労働省「喫煙とがん」

虚血性心疾患

虚血性心疾患は、心臓に酸素を運ぶための冠動脈が、動脈硬化などの影響で狭くなって生じる疾患の総称です。喫煙をすると、動脈の炎症・収縮によって動脈硬化や血栓の形成が進行し、血圧の上昇、心拍数の増加により心臓に負担がかかり虚血性心疾患の発症につながりやすくなると考えられています。

2006年に公表された調査報告によると、男女約4万人を11年間追跡した際、喫煙者のグループは、非喫煙者のグループと比べて虚血性心疾患の発症リスクが3倍になりました。また同調査では、1日に吸うタバコの本数が多いほど、虚血性心疾患の発症率が高くなることも報告されています。
(出典:国立がん研究センターがん対策研究所「喫煙と虚血性心疾患発症との関連について」
(出典:厚生労働省「喫煙と循環器疾患」

脳卒中

脳卒中は、脳の血管が詰まる・破れるといった症状が出る疾患の総称です。脳血管障害とも呼ばれ、主に脳梗塞・脳出血・くも膜下出血の3つに分類されます。

国立がん研究センターが2004年に公表した調査では、喫煙者は非喫煙者と比べて男性で約1.3倍、女性で約2.0倍脳卒中のリスクが高まることが報告されました。特に、くも膜下出血は喫煙との関係が深く、喫煙者は非喫煙者と比べて男性で約3.6倍、女性で約2.7倍発病しやすいことが報告されています。
(出典:国立がん研究センターがん対策研究所「男女別、喫煙と脳卒中病型別発症との関係について」

呼吸器疾患

喫煙習慣は、喘息やCOPDといった呼吸器疾患の要因にもなり得ます。アメリカの疫学調査では、喘息を含むCOPDで死亡した人のうち、男性の85%、女性の64%が喫煙に関連していることが試算されました。また、喫煙者のCOPDでの死亡率は非喫煙者の10倍ともいわれており、喫煙は呼吸器疾患の発病率や死亡率に深い関連があると考えられます。

また喫煙習慣は、肺機能の発達障害や呼吸器機能の低下、新型コロナウイルス感染症の重症化などにも関連するといわれているため、健康リスク評価を行う際は注意が必要です。
(出典:公益財団法人喫煙科学研究財団「喫煙と呼吸器疾患」

骨粗鬆症

骨粗鬆症は、骨密度が減少し、骨折などを起こしやすくなる病気です。特に閉経後の女性に発病しやすく、老化や女性ホルモンの減少が発病に影響すると考えられています。

加えて、喫煙習慣も骨密度の減少や骨粗鬆症の発症に関連することが知られています。2017年に発表された研究では、タバコに含まれるニコチンには、骨を吸収する破骨細胞を増加させ、骨を減少に導く作用があることが報告されました。また海外の研究では、喫煙者は非喫煙者と比べて骨塩含有量(BMC)が低い傾向にあり、男女ともに骨折リスクが2~6倍高いことも指摘されています。喫煙によって引き起こされる低酸素状態は骨の修復、形成を妨げる可能性があります。
(出典:慶應義塾大学「迷走神経とニコチンが骨粗鬆症を誘引するメカニズムを明らかに」
(出典:日本禁煙推進医師歯科医師連盟「各種資料(整形外科疾患に対する喫煙の影響)」

歯のう蝕・喪失・歯周病

喫煙習慣は、歯のう蝕(虫歯)や喪失、歯周病のリスクも高めます。ニコチンの血管収縮作用には、歯周病がある歯茎の出血を抑える効果があり、歯周病の自覚症状がないまま状態が悪化しやすくなります。また、喫煙によって口内の自浄作用が弱まると、う蝕も起きやすくなり、歯周病やう蝕の進行で歯を失うリスクが増大します。

歯周病リスクは1日10本以上の喫煙で5.4倍、10年以上の喫煙で4.3倍に上昇するというデータもあり、口内トラブルと喫煙には深い関連があることが分かります。
(出典:特定非営利活動法人 日本臨床歯周病学会「歯周病と煙草の関係」

看護師が患者さんの禁煙を支援するコツ

看護師が患者さんの禁煙を支援するコツ

看護師が患者さんの禁煙を支援する場合、以下のような「4A+A」による動機付け声かけ法を意識しましょう。

【4A】

  • Accept: 認める
  • Admire: 褒める
  • Ask:尋ねる
  • Advice: 伝える

【+A】

  • Arrange:次につなげる

禁煙治療の開始時には、相手の言葉や意見を認めたうえで励ましの言葉をかけ、「起床後どのくらいでタバコを吸うか」といった依存度を確認する質問をすることが効果的です。そのうえで、まずは患者さんが「楽に・自然に」禁煙できるような情報提供をすれば、禁煙が長続きしやすくなります。

すでに治療管理を受けている患者さんに対しては、成功・不成功にかかわらず努力をねぎらい、ありのままの気持ちを話せる雰囲気を作ることも大切です。

喫煙を再開した場合でも、「今回は1週間も禁煙できましたね」といった声かけをしつつ、次回の禁煙に対して前向きなイメージを持てるようなアドバイスを提供しましょう。

患者さんのニコチン依存を軽減するには、以下のような行動療法を紹介することもポイントです。

【行動療法の例】

  • 食後すぐに歯を磨く
  • 氷を舐める
  • 深呼吸する
  • お茶を飲む
  • ガムや干し昆布などを噛む
  • マスクをする
  • 体を動かして気を紛らわせる
  • 夜更かしを控える
  • 喫煙したくなる環境・場所を避ける
  • タバコや灰皿を捨てる
  • タバコ以外のストレス解消法を探す

また、達成可能な目標を設定して成功体験を蓄積する、不安や悩みへの対処法を一緒に考えるといった支援を行うことも、禁煙を成功させるコツの1つです。ニコチン依存症の場合は自分だけの力で禁煙することは難しいので、禁煙補助薬(バレニクリンやニコチンパッチ、ニコチンガム)を使用して禁煙サポートをしていきます。
(出典:J-STAGE「3.禁煙支援の実際とコツ」

まとめ

ブリンクマン指数が高くなるほど、肺がんや虚血性心疾患、骨粗鬆症、歯周病などの病気が発症しやすくなります。患者さんの禁煙を促すためにも、健康リスクを数値で具体的に伝えるとよいでしょう。患者さんが禁煙に成功するためには、励ましや小さな目標達成の積み重ね、行動療法の提示が大切です。ニコチン依存に悩む患者さんが自信を持って禁煙に取り組めるよう、「4A+A」による動機付け声かけ法を意識して支援を続けましょう。

マイナビ看護師では、スキルアップやキャリアアップを目指す看護師の方の希望に合った職場を、看護業界に精通したキャリアアドバイザーが紹介します。履歴書や職務経歴書の転職、模擬面接などのサポートも手厚く行うので、ぜひ一度ご相談ください。

喫煙が健康に与える影響は非常に広範囲であり、患者のQOL(生活の質)を大きく左右します。ブリンクマン指数は、喫煙歴を数値化することで健康リスクを可視化できる有用な指標です。看護師がこの指数を理解し、患者に合わせた禁煙支援を行うことは、予防医療の重要な一歩となります。患者さんに寄り添いながら、確かな知識と継続的な支援で禁煙成功を後押ししましょう。

※当記事は2025年4月時点の情報をもとに作成しています

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