アダムスストークス症候群とは? 主な原因や症状・看護のポイント
  • 2025年7月7日
  • 2025年7月7日

アダムスストークス症候群とは? 主な原因や症状・看護のポイント

 

不整脈によって脳への血流が遮断され、一過性の脳虚血を引き起こす「アダムスストークス症候群」は、急変対応が求められる場面も多く、医療従事者として正確な知識と的確な判断が不可欠です。特に看護師には、検査・治療に伴うケアから観察、指導に至るまで幅広い対応が求められます。

当記事では、アダムスストークス症候群の定義から原因、不整脈の種類による症状の違い、検査方法、治療法、看護師の役割に至るまで、現場で活用できる具体的な知識を解説します。症状を見逃さず、安全なケアを提供するための知識を深める一助として、ぜひ参考にしてください。

■監修者
眞鍋 憲正(まなべ かずまさ)

信州大学医学部卒業 / 信州大学大学院疾患予防医科学専攻スポーツ医科学講座 博士課程修了 / UT Southwestern Medical Center, Internal Medicine, Visiting Senior Scholar / Institute for Exercise and Environmental Medicine, Visiting Senior Scholar / UT Austin, Faculty of Education and Kinesiology, Cardiovascular aging research lab, Visiting Scholar/ 天理大学 体育学部 准教授

アダムスストークス症候群とは?

アダムスストークス症候群とは、不整脈によって脳への血流量が減少し、めまい・全身けいれん・意識消失(失神)といった一過性の脳虚血症状を引き起こす病態です。

アダムスストークス症候群という名称は、19世紀にアダムスとストークスという2名の医師が、徐脈によって起こる失神発作の症例を報告したことに由来しています。後に頻脈によって起こる失神発作も知られるようになり、現在では不整脈を原因とする心原性失神の1つとして扱われる場合もあります。

アダムスストークス症候群の主な原因

アダムスストークス症候群の主な原因

アダムスストークス症候群の原因となる不整脈は、大きく分けて「徐脈性不整脈」と「頻脈性不整脈」の2つです。以下では、それぞれの不整脈を引き起こす疾患を挙げて、主な症状と特徴を解説します。

徐脈性不整脈

徐脈性不整脈は、脈が通常よりも遅くなるタイプの不整脈です。通常の心拍数は1分間に60~100回であるのに対し、心拍数が1分間に60回未満となったときに徐脈性不整脈と呼ばれます。
(出典:慶應義塾大学病院 KOMPAS「徐脈性不整脈」

徐脈性不整脈を引き起こす代表的な疾患には「洞不全症候群」と「房室ブロック」があります。

  • 洞不全症候群
    洞不全症候群は、心臓収縮の電気信号を発する「洞結節」の細胞に異常が生じて、電気信号を出す機能が弱くなる状態のことです。洞不全症候群が起こると心臓収縮の指令を正常に伝えられず、徐脈性不整脈を引き起こします。洞不全症候群の原因の多くは、特発性の洞房結節の線維化によるものです。ほかにも虚血性心疾患・心筋症・心筋心膜炎などが原因となることもあります。
  • 房室ブロック
    房室ブロックは、心臓収縮の電気信号を伝達する「房室結節」の細胞に異常が生じ、洞結節からの電気信号が適切に伝わらなくなる病態です。命に関わる危険な状態は、II度房室ブロックのMobitzII型からIII度房室ブロックです。房室ブロックが起こると心臓収縮を正常に行えず、徐脈性不整脈の発生につながります。房室ブロックの主な原因は、刺激伝導系に発生する特発性の線維化・硬化、虚血性心疾患などです。

頻脈性不整脈

頻脈性不整脈は、心拍数が1分間に100回を超える状態を指します。
(出典:日本医科大学 千葉北総病院「不整脈の解説」

頻脈性不整脈を引き起こす主な疾患は「心室細動」「心室頻拍」の2つです。

  • 心室細動
    心室細動は心停止の一種で、心臓を動かす電気刺激が無秩序になることで心室が協調できなくなり、心臓のポンプ機能が低下して血液を送り出せなくなる状態です。心室細動が発生すると、脳をはじめ全身の臓器に血液が届かなくなる急性循環不全を起こすリスクがあり、死に至る可能性もあります。心室細動の主な原因は冠動脈疾患や心不全、心筋症などの心疾患です。ほかにも電気ショックや溺水、薬物の影響によって発生するケースがあります。
  • 心室頻拍
    心室頻拍は、心室の異常な電気刺激によって起こる「心室性期外収縮」が高頻度で出現する状態のことです。心室頻拍が発生すると動悸やふらつき、胸の不快感、息切れなどが起こります。心室頻拍の主な原因は心筋梗塞や心筋症などの病気です。また、心臓の病気がない場合でも起こる、突然死の恐れがあるブルガダ症候群もあります。

アダムスストークス症候群の症状

アダムスストークス症候群の症状

アダムスストークス症候群になると、脳血流の減少によって下記のような症状が見られます。

  • めまい
  • ふらつき
  • 意識障害
  • 全身のけいれん
  • 意識消失

また、症状の表れ方は不整脈の種類によっても異なります。徐脈性不整脈の場合は心臓の収縮が弱くなるため、目の前が暗くなるように感じやすい点が特徴です。

一方、頻脈性不整脈の場合は心拍数が上昇することにより、自覚症状として動悸や胸の痛み、違和感が見られることがあります。

アダムスストークス症候群の検査

アダムスストークス症候群の検査

アダムスストークス症候群の検査では、最初に「心電図検査」を行います。心電図の波形をもとに、どのような不整脈が起きているかを調べることが検査の目的です。

心電図検査で原因を調べられない場合には「ホルター心電図検査」を行います。ホルター心電図検査は携帯型の心電計を装着し、日常生活上の心電図や脈拍を24時間記録する検査です。

ホルター心電図検査でも原因を正確に捉えられない場合は、「心臓電気生理学的検査(EPS)」や「植え込み型心電図ループレコーダー」による記録を行います。「植え込み型心電図ループレコーダー」は、胸の皮膚と脂肪の間に入れ、発作が起きた時の記録をします。機械を取り出さずに外部からプログラマーを当ててデータを読むことができます。

ホルター心電図検査における看護のポイント

ホルター心電図検査では医師が患者さんに問診を行った後に、看護師が下記の手順で電極を装着します。

1 電極装着部位をアルコール綿で拭く。
2 皮膚・電極間の接触抵抗を下げるために、電極装着部位を皮膚前処理剤でこする。余分な処理剤は濡らしたガーゼなどで拭き取る。
3 誘導コードを装置に接続し、電極装着部位に電極を装着する。
4 余った誘導コードは、ひとまとめにしてテープで留めるなどして大きく動かないようにする。
5 記録開始前に波形やノイズなどを調べ、記録に問題がないことを確認する。
6 患者さんに入浴の可否や日常生活への影響、装置の使い方などを説明する。
7 24時間後に電極を外し、電極装着部位の皮膚障害がないかを観察する。

ホルター心電図検査は長時間かつ日常生活のなかで行う検査であるため、トラブル防止と発生時の対処を意識することが大切です。また、患者さんによっては認知機能の低下などにより、24時間の管理が難しいケースがあります。入院の場合は看護師が行動の確認を行い、自宅での検査の場合は家族に協力を依頼しましょう。

アダムスストークス症候群の治療

アダムスストークス症候群の治療

アダムスストークス症候群の治療法は、原因である不整脈が徐脈性不整脈か頻脈性不整脈かによって異なります。最後に、徐脈性不整脈の場合と頻脈性不整脈の場合に分けて、アダムスストークス症候群の治療法を解説します。

徐脈性不整脈が原因の場合

徐脈性不整脈が原因の場合は、ペースメーカーの植え込みが主な治療法です。ペースメーカーは心拍を監視し、心拍の欠落を検出したときに電気刺激を送って心臓の動きを改善します。ペースメーカーの植え込みは手術で行うため、看護師は術前から術後にかけて包括的な看護ケアを提供します。具体的な看護ケアの内容は下記の通りです。

  • 術前のバイタルサインや心電図波形、植え込み部位の皮膚状態、患者さんの疾患などの情報収集
  • 術前の患者さんが抱える不安への対応
  • 術後に形成されたポケットや創部の異常確認
  • リード線の脱落予防を目的としたバストバンド装着
  • 合併症を発症していないかの観察

また、手術翌日には患者さんに退院指導を行います。ペースメーカー会社が作成したパンフレットなどを用いて、退院後の日常生活における注意点や検脈のやり方を説明しましょう。

頻脈性不整脈が原因の場合

頻脈性不整脈が原因の場合は、植え込み型除細動器(ICD)の装着や薬物療法による治療を行います。

植え込み型除細動器は、心室細動や心室頻拍などが起きたときに電気ショックを発生させて、心拍を正常な状態に戻す装置です。看護師は患者さんへ退院指導を行う際、植え込み型除細動器の説明を行い、処方された内服薬の管理方法も指導しましょう。

薬物療法は、抗不整脈薬の投与による治療法です。抗不整脈薬の効果には、心拍数を正常に戻す「リズムコントロール」と、心室が電気信号に応答する割合を調整する「レートコントロール」の2つがあります。薬物療法では、看護師は薬剤師と連携し、患者さんが自己管理しやすいように服薬指導を行いましょう。

高齢者の場合、抗不正脈薬や高心拍操作薬などの心房細動を抑えるための薬が原因で、脈が遅くなりすぎて洞不全をきたしてしまうことがあります。その場合は薬の量を減らす、または別の治療法を考える必要があります。

まとめ

アダムスストークス症候群は、不整脈による一過性の脳虚血が原因で意識消失などを引き起こす疾患です。不整脈の種類によって、原因や治療法は異なります。検査時のケア、術前術後の観察、患者指導など、看護師には幅広い役割があり、的確な知識と判断力が重要です。

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アダムス・ストークス症候群は、心臓の電気的異常により一時的に心拍が停止または著しく低下し、その結果、脳への血流が減少して一過性の意識消失(失神)を引き起こす疾患です。主に房室ブロックや高度な徐脈性不整脈が原因となり、突然の失神に加え、転倒や外傷を伴うこともあるため、迅速な診断と治療が不可欠です。診断には心電図やホルター心電図などが有用で、治療としてはペースメーカーの植え込みが根本的な解決策となります。この記事では、疾患の仕組みから症状、検査、治療に至るまでが分かりやすく解説されており、患者さんやその家族が突然の失神の意味を正しく理解する助けになります。特に「ただの立ちくらみ」と誤解されやすい点に注意が必要で、早期受診の重要性を伝える上でも非常に有意義な内容です。

※当記事は2025年4月時点の情報をもとに作成しています

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