腓骨神経麻痺は、腓骨神経が圧迫されることで感覚障害や運動障害が生じる疾患です。主に外部圧迫や外傷が原因となり、足指のしびれや歩行障害を引き起こします。腓骨神経麻痺は糖尿病が原因となり発症することもある疾患のため、症状を訴える患者さんがいる場合には血糖値の管理も大切です。
当記事では、腓骨神経麻痺の原因や症状、診断方法、治療法に加え、予防や看護でのポイントについて解説します。
久高 将太(琉球大学病院所属)
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琉球大学医学部医学科卒業 / 琉球大学病院勤務 / 専門は内分泌代謝・糖尿病内科、総合内科、公衆衛生学・疫学/医学博士(博士号)/職位は助教。 |
腓骨神経麻痺とは
腓骨神経麻痺とは、腓骨神経が何らかの原因で圧迫され、腓骨神経支配領域に感覚の低下やしびれなどが生じる疾患です。腓骨神経は坐骨神経の枝の 1つにあたり、腓骨頭部に巻きつく形状になっています。腓骨神経の主な役割は、以下の通りです。
- 下腿外側から足背の感覚を脳に伝える機能
- 足首や足指の動きを司る筋肉に命令を伝える機能
腓骨神経麻痺では圧迫によって腓骨神経の機能に支障が生じ、上記のいずれかもしくは両方に関する症状が生じます。
(出典:医療法人社団 り整形外科クリニック「腓骨神経麻痺」)
腓骨神経麻痺の原因

腓骨神経麻痺の代表的な原因は、外部からの圧迫です。腓骨神経は比較的皮膚の浅い部分を走行していることもあり、圧迫の影響を受けやすい構造になっています。下肢の牽引で長時間仰向け姿勢を取り、腓骨頭部が圧迫されると、腓骨神経麻痺を起こしかねません。骨折などの外傷の治療目的でギプス固定されているとき、腓骨頭部が強く圧迫された場合も同様です。日常生活においては、長時間の正座や足組みによる慢性的な圧迫で、腓骨神経麻痺を起こすリスクがあります。
以下はそのほか、腓骨神経麻痺につながる主な原因です。
- ガングリオンなどの腫瘤、腫瘍
- リウマチなどの全身性疾患
- 糖尿病などの代謝性疾患
- 怪我、外傷
交通事故や労災事故にあった際の直接的な衝撃や損傷が腓骨神経に影響し、腓骨神経麻痺につながるケースもあるため、因果関係を理解しておきましょう。
(出典:公益社団法人 日本整形外科学会「腓骨神経麻痺」)
(出典:医療法人社団 倫生会 みどり病院「腓骨神経麻痺について~リハビリテーションと日常生活上での注意点~」)
腓骨神経麻痺の症状

腓骨神経麻痺の主な症状には、感覚障害と運動障害があります。腓骨神経麻痺の感覚障害では、下腿外側から足背、もしくは足指のしびれが顕著な症状です。同じ部分の感覚が鈍麻する、もしくはまったく感覚がない状態になるケースもあります。腓骨神経による足指のしびれは、腓骨神経以外の神経が支配する小指を除き、生じることが特徴です。
運動障害としては、足首を持ち上げる筋肉が十分に機能しなくなり、さまざまな歩行障害が生じます。「下垂足」と呼ばれる状態になり、以下のトラブルが生じることも、腓骨神経麻痺の代表的な症状です。
- 段差、階段でつまずきやすくなる
- 足を引きずる形の歩き方になる
- 足首が上がりにくくなる
腓骨神経麻痺では足首が十分に上がらないことが影響し、「鶏歩」と呼ばれる歩き方になることもあります。
ただし、腓骨神経麻痺の症状の出方は重症度や原因によって異なり、上記のすべてが生じるとは限りません。
(出典:医療法人社団 り整形外科クリニック「腓骨神経麻痺」)
(出典:医療法人社団 倫生会 みどり病院「腓骨神経麻痺について~リハビリテーションと日常生活上での注意点~」)
腓骨神経麻痺の診断

腓骨神経麻痺が疑われる場合には、視診・筋力検査・感覚検査・神経伝達速度検査・ティネルサインなどを実施し、感覚障害と運動障害の有無を確認します。視診のポイントは、「下垂足が見られるか」です。感覚検査では筆などを使用し、腓骨神経支配領域の感覚、しびれの有無を確認します。
神経伝達速度検査は、「腓骨神経の伝達速度が通常以上に遅くなっているか」を確認する目的で実施する検査です。ティネルサインでは、「腓骨頭部を叩いたとき、腓骨神経の支配領域にしびれや痛みが誘発されるか」を確認します。下垂足が見られ、感覚障害とティネルサインがある場合には、障害部位の確定が可能です。
腓骨神経麻痺の確定診断を出すためには、筋電図検査・X線検査・MRI検査・超音波検査なども必要に応じて実施します。MRI検査を実施すると、ヘルニアや坐骨神経障害などとの鑑別が可能です。また、圧迫の原因となる皮下腫瘍、ガングリオンなどの腫瘤が見つかることもあります。
(出典:公益社団法人 日本整形外科学会「腓骨神経麻痺」)
腓骨神経麻痺の治し方

腓骨神経麻痺の治し方は原因や重症度合いに応じて異なるものの、医療機関で実施する治療方法は、保存的療法と手術療法に分類できます。保存的療法と手術療法で実施する処置の概要は、以下の通りです。
(出典:公益社団法人 日本整形外科学会「腓骨神経麻痺」)
保存的療法
保存的療法は、腓骨神経麻痺の原因が不明もしくは回復の可能性がある場合に選択される治療法です。腓骨神経麻痺は時間の経過とともに改善するケースも多く、一般的には保存的療法を初期治療として選択し、自然回復をサポートします。
保存的療法で実施する可能性がある対処の詳細は、以下の通りです。
圧迫の除去 | ギプスなど、腓骨頭周囲を圧迫している直接的な原因を除去する対処 |
---|---|
薬剤内服 | ビタミン剤や抗炎症薬を内服させ、経過観察する対処 |
運動療法 | リハビリテーションプログラムを通じて、筋力や関節機能の維持・強化を図る対処 |
物理療法 | 筋肉に電気刺激を与えて、強制的に筋収縮を起こさせる対処 |
装具療法 | 足底板や足関節固定装具を使用して、歩行を補助する対処 |
装具療法は通常、運動療法や物理療法などを実施したものの回復が見られにくい場合に検討されます。
(出典:医療法人社団 り整形外科クリニック「腓骨神経麻痺」)
手術療法
骨折・脱臼などの外傷や腫瘤が原因の腓骨神経麻痺では、早期に手術を実施します。神経の損傷がある場合には神経剥離・神経縫合・神経移植などを実施し、機能の回復を助ける処置が必要です。
神経剥離 | 神経の表面を覆う筋膜、靭帯組織を切離する手術 |
---|---|
神経縫合 | 切断された神経を縫い合わせて、つなげる手術 |
神経移植 | 身体のほかの部分から神経を採取して、損傷部分に移植する手術 |
神経移植は基本的に神経の損傷部分が大きく、神経縫合で対処できない場合に検討されます。神経剥離・神経縫合・神経移植で神経機能の回復見込みが薄い場合には、損傷を受けた部分にほかの腱を移動する「腱移行手術」の実施が選択肢の1つです。
(出典:公益社団法人 日本整形外科学会「腓骨神経麻痺」)
(出典:一般社団法人 日本脊髄外科学会「8.腓骨(ひこつ)神経障害」)
腓骨神経麻痺の予防

患者さん自身の心がけによって腓骨神経麻痺を予防するには、適度な運動習慣を付けてバランスの良い食事を取ることが基本です。腓骨神経への過剰な圧迫を避けるためには、サイズの合う靴を履く方法があります。
手術中や入院中の患者さんに対しては、看護師の方が以下を心がけることで、腓骨神経麻痺の予防が可能です。
- 定期的な体位変換で圧迫を解除する
- 腓骨頭周辺をクッションで圧迫しない
- ギプスは腓骨頭にかからない形で装着させる
患者さんを仰向け姿勢でベッドに寝かせる場合は下肢部分が外旋位にならないように注意し、回旋中間位を保持します。下肢部分が外旋位になる姿勢を取らせると、ベッドの柵やクッションで腓骨頭周辺を圧迫するリスクがあるためです。
体位を保持する目的で足の下にクッションを置く場合には、膝関節・股関節が軽度屈曲した状態になる位置へ調節します。ギプスや弾性ストッキングによる圧迫が腓骨神経麻痺につながるケースもあるため、腓骨頭にかからない形で装着させてください。褥瘡予防で踵を浮かせるためのクッションを入れることで膝が過進展になっていると神経が牽引されるので、ポジショニングも注意が必要です。
腓骨神経麻痺の患者さんに対して看護師が気をつけること

腓骨神経麻痺をすでに発症している患者さんをケアする際にも、腓骨頭周辺の負担を軽減するため、定期的な体位変換が必要です。体位を変換する際には足関節、足指を動かしてもらい、様子を観察する方法で運動障害の改善度合いを把握します。併せて、下肢のしびれの有無を確認し、感覚障害の改善度合いの把握に努めることも必要です。
腓骨神経麻痺の患者さんを看護する際にはそのほか、以下の事項にも注意します。
- 歩行状態に応じたサポートを提供する
- 日常生活を送るうえでの注意点を説明する
- リハビリの進捗状況を把握し、必要な援助を提供する
- 患者さんの心理状態を理解し、不安の緩和に努める
リハビリに消極的な患者さんに対しては必要性を説明し、前向きな取り組みを促す支援が必要です。転倒のリスクがある患者さんの場合は安全面に配慮し、病室の環境整備を行いましょう。
まとめ
腓骨神経麻痺は腓骨神経が圧迫され、感覚の低下や運動障害が生じる疾患です。主な原因は外部圧迫や外傷で、症状には足指のしびれや歩行障害が含まれます。診断には筋電図検査や神経伝達速度検査が用いられ、治療は保存的療法や手術療法が選択されます。また、予防には圧迫の回避や適切な体位保持が重要で、看護時には定期的な体位変換とリハビリ支援が必要です。
腓骨神経麻痺の患者さんへの対応は、疾患の理解と適切なケアが重要です。医療現場での知識とスキルを活かしたい方は、ぜひマイナビ看護師をご利用ください。看護業界に精通したキャリアアドバイザーがスムーズな転職のサポートをいたします。
※当記事は2025年2月時点の情報をもとに作成しています
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