高ナトリウム血症は、血清ナトリウム濃度が正常値を上回る状態で、主に水分の不足やナトリウムの過剰摂取が原因とされています。軽症から重症まで症状はさまざまであり、口渇感や無気力などから全身痙攣や昏睡に至ることもあります。
そのため、高ナトリウム血症が疑われる際は適切な治療や看護が必要であり、診断には血清ナトリウム濃度の測定が必須です。当記事では、高ナトリウム血症の症状・原因・治療法、看護のポイントについて詳しく解説します。
中路 幸之助(医療法人愛晋会中江病院 内視鏡治療センター所属)
![]() |
1991年に兵庫医科大学を卒業後、 兵庫医科大学、獨協医科大学を経て、1998年 医療法人協和会に所属。 2003年から現在まで、医療法人愛晋会中江病院の内視鏡治療センターで臨床に従事している。 専門分野はカプセル内視鏡・消化器内視鏡・消化器病。学会活動や論文執筆も積極的に行っており、日本内科学会総合内科専門医・指導医、日本消化器病学会専門医・指導医・学会評議員、日本消化器内視鏡学会専門医・指導医・学術評議員、日本消化管学会代議員・近畿支部幹事、日本カプセル内視鏡学会認定医・指導医・代議員を務めているほか、 米国内科学会(ACP)の上席会員(Fellow)でもある。 |
高ナトリウム血症とは?
高ナトリウム血症とは、血清ナトリウム濃度が正常値である135~145mEq/Lを超えて上昇した状態を指します。具体的には、何らかの原因によって身体の水分調節機能に異常が生じ、体内のナトリウム量が水分量に対して過剰になっている状態を意味します通常ヒトの体内では、たとえ食塩を多く摂取したとしても、口の渇きを感じて水分をを多く摂取するほか、下垂体から分泌された抗利尿ホルモンが腎臓に働きかけ、尿による水分の排出を抑えてナトリウム濃度を正常に引き戻します。高ナトリウム血症になりやすい方として、自力で飲水できない乳幼児や意識障害のある患者さん、高齢者などが挙げられます。
高ナトリウム血症の主な症状は口渇であり、診断には血清ナトリウムの測定が必要です。また、必要に応じてそのほかの臨床検査を実施するケースもあります。軽度の場合は水分摂取によって改善が見込めますが、重症の場合には医師の管理下で点滴などによる慎重な水分補給が必要です。
高ナトリウム血症の症状|なるとどうなる?

高ナトリウム血症になるとどうなるか、主な症状を紹介します。
軽症の場合 | 中等度~重症の場合 |
---|---|
|
|
軽症の場合は口渇感や無気力などの症状が現れますが、水分補給により改善するケースが多い傾向にあります。中等度以上の場合は発熱や脱力感などが見られ、重症者は全身痙攣や昏睡などの症状が出ることもあります。また、脳組織の萎縮、血管の牽引により脳出血やくも膜下出血、脳静脈血栓などの合併症が報告されており、特に重症例では注意が必要です。
体液量が減少した高ナトリウム血症では、体重減少・尿量減少や、皮膚の乾燥、頸静脈の虚脱などの症状が見られるのが通常です。さらに、血清ナトリウム濃度が180mEq/L以上になると致死的なリスクが高まるとされています。しかし、血清ナトリウム濃度の高さと重症度には必ずしも医学的な関連性があるわけではなく、血清ナトリウム濃度の上昇速度が速いほど重症になりやすいと考えられています。
高ナトリウム血症の原因

高ナトリウム血症が引き起こされる原因は、水分の欠乏やナトリウムの過剰摂取などさまざまです。体液の一種である細胞外液の量により、考えられる原因が異なる点が特徴です。
ここでは、体液量の増減ケース別に高ナトリウム血症の原因について詳しく解説します。
体液量が減少した高ナトリウム血症
体液量が減少している高ナトリウム血症は、ナトリウムの喪失に伴ってより多くの水分が失われたことが原因となって引き起こされます。腎性の原因として挙げられるのは、ループ利尿薬の服用です。ループ利尿薬はナトリウムの再吸収を阻害し、水分の排泄量を増加させる役割を持ちます。
また、グリセロール・マンニトール・尿素などにより引き起こされる浸透圧利尿も、腎臓の濃縮機能を阻害するため、高ナトリウム血症の原因になる場合があります。浸透圧利尿は体内で過剰となった糖・尿素窒素などの尿中への漏れによって起こり、水分の再吸収ができないことから高ナトリウム血症につながります。浸透圧利尿による高ナトリウム血症の具体的な原因は、糖尿病患者さんの高血糖や、ナトリウムの過剰投与などです。
体液量がほぼ正常の高ナトリウム血症
体液量がほぼ正常の高ナトリウム血症は、水分不足が主な原因です。中枢性尿崩症や腎性尿崩症も、水分不足で生じると考えられています。腎外性の原因による大量の発汗で脱水状態となった場合、体液量の減少が見られる前の段階で高ナトリウム血症が発症するケースもあります。
また、体液量がほぼ正常の高ナトリウム血症として、本態性高ナトリウム血症も挙げられます。本態性高ナトリウム血症は脳損傷を持つ子どもや慢性疾患のある高齢者に見られ、脳の口渇中枢の病変により引き起こされる口渇機序の障害が特徴です。さらに、バソプレシン分泌を誘導する浸透圧闘値の変化も、体液量がほぼ正常の高ナトリウム血症の原因となります。
体液量が増加した高ナトリウム血症
高ナトリウム血症で体液量増加が見られる原因は、水分摂取制限を伴うナトリウム摂取の大幅な増加です。具体例には、乳酸アシドーシス治療中の高張性炭酸水素ナトリウムの摂取が挙げられます。高張性炭酸水素ナトリウムを過剰に輸液することで、体液量が増加した状態で高ナトリウム血症を引き起こします。
そのほかの体液量増加を伴う高ナトリウム血症の原因として挙げられるのは、高張食塩水や調整が不適切な高カロリー輸液などです。ただし、体液量が増加した高ナトリウム血症は、高ナトリウム血症のなかでも稀なケースです。
高ナトリウム血症の診断

高ナトリウム血症は、血液検査による血清ナトリウム濃度の測定結果で診断されます。血清ナトリウム濃度の正常値は135~145mEq/Lです。血液検査で145mEq/Lを上回る場合は、高ナトリウム血症と診断されます。また、身体観察で体液量の増加・減少もチェックします。
高ナトリウム血症の原因を明らかにするには尿検査が有効です。尿検査では尿量・尿浸透圧のほか、尿中のナトリウム濃度やカリウム濃度を測定します。
さらに、尿崩症が疑われる場合には、高張食塩水負荷試験とバソプレシン負荷試験を実施することもあります。高張食塩水負荷試験は、高濃度の食塩水を投与しながら血液の浸透圧・抗利尿ホルモンの分泌状況を評価する検査です。その後に実施されるバソプレシン負荷試験では、抗利尿ホルモンを投与して尿量や尿の浸透圧の変化を確認します。
高ナトリウム血症の患者さんの看護ポイント
高ナトリウム血症の患者さんを看護する際は、水分出納管理が重要です。水分出納において観察すべきポイントは、以下の通りです。
経口摂取量 | 経口摂取量の把握では、患者さんへの聞き取りだけでなく、観察・飲食管理の実施も求められます。特に塩分・水分に制限がある患者さんは、制限への理解度や持ち込み飲食の有無などもチェックしましょう。 |
---|---|
輸液量・輸液内容 | 基本的に医師や薬剤部の管理範囲ですが、輸液内容は適切か最終確認をするつもりで観察しましょう。常に医師とコミュニケーションを取り、治療の方向性や意図を理解することも大切です。 |
体液喪失の有無 | 排尿・下痢・嘔吐・発汗など、水分喪失に関しても正確にチェックすることが重要です。利尿剤を利用している患者さんは尿量の把握が不可欠であるため、予定尿量に足りない場合は迅速な対応が必要です。 |
体液貯留の有無 | 浮腫などの体液貯留は、全身清拭などで患者さんの全身状態を観察する際に発見できます。浮腫が見られる場所や程度、日々の症状変化をしっかりと観察して、必要があれば医師に報告しましょう。 |
体重 | 体重測定は基本の身体計測です。食事の影響を受けにくい時間に計測して変化を観察しましょう。また、浮腫や胸水などが見られる患者さんの場合、体重の増減から水分貯留量を判断することが可能です。 |
高ナトリウム血症の治療方法
高ナトリウム血症の治療は水分の補充が基本です。体内の水分量を増やすと、血清ナトリウム濃度を正常範囲に低下させることができます。意識がはっきりしており、かつ消化管の機能障害がない患者さんの場合、水分を経口摂取するのが効果的です。嘔吐や意識障害などの症状がある患者さんは、ブドウ糖液などの点滴静脈注射のほか、鼻から胃へチューブを挿入して白湯を注入する方法でも水分を補給できます。高ナトリウム血症を急速に補正すると、脳浮腫を起こす可能性があるため、1日あたり10mEq/L程度に低下を抑えることが安全とされています。
また、高ナトリウム血症を患う患者さんの多くは、発症から2日以上経過した慢性の状態です。慢性状態から急激に血清ナトリウム濃度を低下させると脳浮腫・肺水腫を引き起こす可能性があるため、血液検査を実施しながら緩やかに濃度を低下させる必要があります。
高ナトリウム血症の治療は、患者さんの症状により適切な方法が異なります。それぞれの患者さんの病態をしっかりと把握して、適切な治療法を選択することが重要です。
まとめ
高ナトリウム血症は、水分不足やナトリウムの過剰摂取などが主な原因で発症する疾患です。症状の進行度に応じて治療法が異なり、特に重症例では慎重な治療が求められます。患者さんの状態に合わせた水分管理やナトリウム摂取の調整が重要となるので、看護の現場では細かな観察と迅速な対応を心がけるようにしましょう。
看護師としてのキャリア形成や転職を考えている方は、「マイナビ看護師」まで一度ご相談ください。看護職専門のキャリアアドバイザーが一人ひとりに合う求人情報やキャリアアドバイスを提案し、理想の働き方を実現するお手伝いをいたします。
※当記事は2025年1月時点の情報をもとに作成しています
-
今話題のトラベルナース!短期間かつ高給与の求人が揃ってます!
-
転職先で給与アップしたい方へ★
年収500万円以上の高収入求人や応募のポイントをご紹介! -
人気の転職時期である4月に転職するメリットはたくさん!
-
働きながら綺麗になれる♪常に人気の美容クリニック求人をピックアップ!
-
企業でも看護師資格を活かして働けます!ワークライフバランス◎
-
シフト勤務の環境を変えたい方向けに、土日祝休みの求人をご紹介!
-
看護師さんの約半分は夜勤なしで勤務中!無理なく働ける夜勤なし(日勤のみ)求人をご紹介!