アドバンス・ケア・プランニング(ACP)とは|必要性や話し合うこと
  • 2025年4月29日
  • 2025年4月25日

アドバンス・ケア・プランニング(ACP)とは|必要性や話し合うこと

 

寿命が近づいたとき、どのような最期を迎えたいかは人それぞれ異なります。そのため、万が一のときに備えて、本人が大切にしていることや受けたい医療・ケアについて事前に明確にしておき、信頼できる家族や医療従事者と話し合うことが重要です。

このようなプロセスのことを、「アドバンス・ケア・プランニング(ACP)」といいます。当記事では、アドバンス・ケア・プランニングの概要や終活との違い、さらにアドバンス・ケア・プランニングで考えることや話すこと、そのポイントについて詳しく紹介します。

■監修者
中路 幸之助(医療法人愛晋会中江病院 内視鏡治療センター所属)

2009年群馬大学医学部卒。伊勢崎市民病院、群馬県立心臓血管センター、済生会横浜市東部病院を経て、2024年6月よりMyクリニック 本多内科医院院長。総合内科専門医、循環器内科専門医。

アドバンス・ケア・プランニング(ACP)とは?

アドバンス・ケア・プランニングとは、患者さんとその家族、さらに医師や看護師などの医療従事者があらかじめ今後の治療・療養・ケアについて話し合う自発的なプロセスのことです。「Advance Care Planning」の頭文字をとって「ACP」と略称されることが多く、日本語では「人生会議」という愛称がつけられています。

アドバンス・ケア・プランニング(ACP)は、患者さんが自分で意思を表明できない状態となった際、家族や医療従事者が本人に代わって今後行っていく治療やケアを判断する必要がある場面で大きな助けとなります。また、本人にとって満足のいく最期を迎えることにもつながるでしょう。
(出典:公益社団法人 東京都医師会「アドバンス・ケア・プランニング(ACP)―人生会議―」
(出典:厚生労働省「アドバンス・ケア・プランニング いのちの終わりについて話し合いを始める」

アドバンス・ケア・プランニング(ACP)と終活の違い

アドバンス・ケア・プランニングと似た言葉に「終活」があります。

終活とは、人生の最期を見据えて事前に行う活動や準備のことです。具体的には、自分が亡くなった際の葬儀やお墓の準備、さらにエンディングノートや遺言書の作成、財産管理、生前整理などが挙げられます。終活の目的は、自分が亡くなった後の家族の負担を軽減するとともに、残された時間を自分らしく過ごすことにあります。

一方でアドバンス・ケア・プランニングは、「万が一のとき」に向けて患者さん本人が自身の医療やケアに関する希望を事前に整理し、家族や医療者と共有する取り組みのことです。

つまり、終活は「最期に向けた人生全般の準備」であるのに対して、アドバンス・ケア・プランニングは「人生の最終段階における“医療・ケア”に特化した事前の話し合い・共有」といえます。
(出典:東京都保健医療局「ちょっと待って、誤解してない!? ACP」
(出典:江田島市「「人生会議」って知っていますか?~最期まで住み慣れた「島でねばる」ために、江田島市版“人生会議ノート”を活用しよう~」

アドバンス・ケア・プランニング(ACP)の必要性

アドバンス・ケア・プランニング(ACP)の必要性

患者さん本人が意思を表明できなくなった際は、基本的に家族や医療従事者などの代理意思決定者が患者さんに代わって治療方針を決定します。

事前にアドバンス・ケア・プランニングを行うことの最大のメリットは、「患者さんが望まない医療を避けられる」という点です。加えて、家族の精神的な負担軽減・家族間の意見の対立防止につながるほか、医療従事者にとっても患者さんの想いに寄り添った医療やケアを提供しやすくなります。

また、「終末期には約70%の患者さんが意思決定能力を失う」とされていることから、病状が進行するほどアドバンス・ケア・プランニングの重要性は増すといえます。

加えて、アドバンス・ケア・プランニングは一度きりではなく、患者さんの健康状態や生活環境が変化するたびに見直しを行うことが大切です。
(出典:厚生労働省「アドバンス・ケア・プランニング いのちの終わりについて話し合いを始める」

アドバンス・ケア・プランニング(ACP)の「生命倫理の4原則」

アドバンス・ケア・プランニング(ACP)の「生命倫理の4原則」

アドバンス・ケア・プランニングの考え方は、「生命倫理の4原則」を基盤としています。

生命倫理の4原則とは、トム・L・ビーチャムとジェイムズ・F・チルドレスが1979年に提唱したものです。医療・医学研究の場面で倫理的な問題に直面したとき、医療従事者はどのように対処すべきかを示す倫理的な指針として広く用いられています。

自律性の尊重
(respect for autonomy)
患者さん本人の意思や決定を尊重し、それを制限・妨害しないこと
無危害
(nonmaleficence)
患者さんに危害を及ぼさない、または危害を予防すること
善行
(beneficence)
患者さんにとっての最善を尽くすこと
公正
(justice)
常に患者さんを公平に扱い、限りある医療資源を平等に提供すること

たとえ患者さん本人の意思に基づいていたとしても、それが危害を及ぼすものであれば実行に移すべきではありません。

したがって、アドバンス・ケア・プランニングを進める際には、患者さんや家族と話し合いを重ねながら時間をかけて慎重に意思決定を行い、医療倫理を満たした形で患者さんの希望を反映させることが大切です。
(出典:神戸大学「生命倫理4原則」
(出典:株式会社メディカル・サイエンス・インターナショナル「「倫理的に正しい」とはどういうことか?」

アドバンス・ケア・プランニング(ACP)で考える・話すこと

アドバンス・ケア・プランニング(ACP)で考える・話すこと

アドバンス・ケア・プランニングの方針や決定プロセスは、患者さん本人の意思を確認できる場合とできない場合とでやや異なることをまず覚えておきましょう。

【本人の意思を確認できる場合】

本人と医療・ケアチームの合意に基づいた意思決定が基本です。方針の決定には、医療従事者による検討と患者さん本人への説明が不可欠となります。

【本人の意思を確認できない場合】

家族との話し合いを都度行いながら、患者さんの推定意思を尊重し、最善の方針を追求します。また、家族が医療・ケアチームに判断を委ねる場合も、本人にとって最善を基本とします。話し合った内容は文書に記録します。

また、アドバンス・ケア・プランニングの方針を決定する際は、「患者さんの状況」「患者さんが大切にしたいこと」「医療やケアに関する希望」の3つの項目を軸に考える必要があります。ここからは、それぞれの項目について詳しく説明します。

患者さんの状況

患者さんの意思を尊重した医療・ケアを提供するためには、まず患者さんの状況をしっかりと把握することが重要です。

  • 家族構成や生活環境
  • 健康状態や治療歴
  • ほかにかかっている医療機関や利用している介護保険サービス など

これらを把握することで、患者さんが直面している課題や意思決定支援の方向性が理解でき、状況に応じた現実的なケアプランを立てやすくなります。
(出典:厚生労働省「終末期医療 アドバンス・ケア・プランニング(ACP)から考える」

患者さんが大切にしたいこと

患者さんが大切にしたい価値観や希望を明確にすることは、アドバンス・ケア・プランニングにおいて最も重要といえます。下記のポイントを中心に話し合うとよいでしょう。

  • これまでの人生で大切にしてきたこと
  • 現在の暮らしで気になっていることや改善したいこと
  • 理想の生き方と最期の過ごし方
  • 意思決定に関わってほしい信頼できる人
  • 大切な人に伝えておきたいこと など

これらを明確にすることで、患者さん本人とその家族や代理人が納得できる方針を立てやすくなるほか、医療チームも患者さんの価値観を尊重したケアを提供しやすくなります。
(出典:厚生労働省「終末期医療 アドバンス・ケア・プランニング(ACP)から考える」

医療やケアに関する希望

患者さんが希望する医療やケアは、それぞれ異なります。よくある希望としては、下記が挙げられます。

  • できる限り生命を維持したい
  • 現在の痛みや苦しみを和らげたい
  • 自然な形で最期を迎えたい(延命措置は受けたくない)

こうした希望を確認するためには、医療従事者が十分な情報提供を行いながら、患者さんや家族と慎重に話し合いを進めることが大切です。

また、話し合いの結果はACPシートや人生ノートなどの書面に記録し、その内容を患者さんや家族と共有することも欠かせません。患者さんの希望が変わった場合は、その都度内容を見直すことも必要です。
(出典:厚生労働省「終末期医療 アドバンス・ケア・プランニング(ACP)から考える」

アドバンス・ケア・プランニング(ACP)のポイント

アドバンス・ケア・プランニング(ACP)のポイント

アドバンス・ケア・プランニングを効果的に進めるためには、適切な実施タイミングと具体的なポイントをおさえておくことが大切です。

基本的に、アドバンス・ケア・プランニングは患者さんの年齢や病状に関係なく、どのタイミングでも始められる取り組みです。ただ、患者さんの病状が悪化し始めた段階や、終末期医療への移行を検討する段階で話し合いが行われることが特に多く、これらのタイミングがアドバンス・ケア・プランニングを始める主なきっかけといえるでしょう。

アドバンス・ケア・プランニングを行う際におさえておくべきポイントは、下記の通りです。

相談相手に決まりはない

アドバンス・ケア・プランニングの相談相手や代理決定者の範囲には明確な決まりがなく、家族や医療従事者のほか、信頼できる友人など、患者さんにとって話しやすい相手であれば誰でも構いません。患者さんが自由に意思を表現できる環境を整えることが最も大切です。

繰り返し話し合う

アドバンス・ケア・プランニングは一度の話し合いで完結するものではなく、健康状態や生活環境の変化に応じて適宜内容を見直す必要があります。繰り返し話し合うことで、患者さんの最新の希望に応じた適切な医療やケアを提供できるようになります。

多職種で患者さんに寄り添う

アドバンス・ケア・プランニングを進める際は、医師や看護師だけでなく、ケアマネジャーやリハビリスタッフなど多職種が連携し、患者さんに寄り添うことが大切です。それぞれの専門性を活かしながら、患者さんを包括的に支援しましょう。

まとめ

アドバンス・ケア・プランニングとは、患者さん本人とその家族、さらに医療従事者など周囲の人たちとであらかじめ今後の治療・療養・ケアについて話し合い、共有する取り組みのことです。「ACP」や「人生会議」とも呼ばれます。

患者さんが理想とする最期を迎えられるようにするため、そして遺された人たちの精神的な負担を軽減させるためにも、多職種と連携を図りながらアドバンス・ケア・プランニングを行うことが大切です。

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※当記事は2025年1月時点の情報をもとに作成しています

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