IADLは「手段的日常生活動作」のことで、ADLよりも複雑な動作や判断力が求められる動作を指します。医療機関の患者さんや介護施設の利用者さんの自立を評価する重要な指標の1つであり、近年では介護分野だけでなく医療分野でも注目されています。
医療・介護分野で活躍する看護師がIADLの理解度を深めることで、ケアが必要な患者さんがより自立した生活を送れるよう支援することが可能です。
そこで今回は、IADLの概要やADLとの違いから、IADLの評価項目とIADL能力低下を予防するための方法まで詳しく紹介します。
久高 将太(琉球大学病院所属)
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琉球大学医学部医学科卒業 / 琉球大学病院勤務 / 専門は内分泌代謝・糖尿病内科、総合内科、公衆衛生学・疫学/医学博士(博士号)/職位は助教 |
IADLとは?
IADLとは、「Instrumental Activities of Daily Living」の頭文字をとった略称であり、日本語では「手段的日常生活動作(手段的ADL)」といいます。IADLは、日常生活において必要となる基本的な動作ではなく、買い物や食事の準備、金銭管理など、より複雑な動作と適切な判断力が求められる応用的な動作です。
また、日常生活上必要な基本動作は「ADL」と呼びます。ADLとIADLは、いずれも介護サービスを利用する高齢者や患者さんの自立度・生活機能を測るうえで欠かせない評価指標です。名称が似ているため混同されがちですが、違いを正しく理解していなければ医療・介護分野での適切な支援につながらない可能性があることに注意しましょう。
そこでまずは、ADLとIADLの違いを分かりやすく説明します。
(出典:健康長寿ネット「ADL低下(日常生活動作)」)
ADLとIADLの違い
前述の通り、IADLは複雑な動作と判断が求められる応用的な動作(手段的日常生活動作)のことです。一方で、ADLは最低限の日常生活に欠かせない基本的な動作を指しており、「基本的日常生活動作」とも呼ばれています。
つまり、IADLはADLよりも高次の能力を必要とする動作であり、より自立した生活を支えるための重要な要素といえます。
ADLとIADLの違いをより明確に理解するためにも、それぞれの項目をチェックしておきましょう。
ADLの項目 |
|
---|---|
IADLの項目 |
|
ADLが身体を動かす機能に着目している一方で、IADLは身体を動かす機能に加えて、理解力や判断力といった社会生活にかかわる能力が重視されることが特徴です。ADLが高くても、食事の準備や家事が難しく、趣味や余暇活動を楽しめない場合、生活の質や充実度(QOL)の向上は期待できません。
したがって、近年の医療・介護分野ではADLだけでなくIADLも重要視されており、日常生活能力の維持やIADL低下の予防に向けた取り組みが医療従事者にも求められています。
IADLの評価項目

IADLの評価においては、アメリカの心理学者Lawtonによってつくられた「手段的日常生活動作(IADL)尺度」が主に用いられます。
手段的日常生活動作(IADL)尺度では、「電話を使用する能力」から「財産取り扱い能力」までの8つの評価項目が設けられています。8つの評価項目の中にある3~5つの記載内容は、その評価項目に関連する具体的な動作レベルです。
被評価者の状況に最も当てはまる番号を選択し、その番号に対応する右端の数値を合計することでIADLの得点を算出します。この合計スコアによって、個人の自立度や支援が必要な領域が明確になり、ケアや支援計画の作成に役立てられます。
【IADLの評価項目】
項目 | 男性 | 女性 |
---|---|---|
A 電話を使用する能力 | ||
1. 自分から電話をかける(電話帳を調べたり、ダイアル番号を回すなど) | 1 | 1 |
2. 2, 3 のよく知っている番号をかける | 1 | 1 |
3. 電話に出るが自分からかけることはない | 1 | 1 |
4. 全く電話を使用しない | 0 | 0 |
B 買い物 | ||
1. 全ての買い物は自分で行う | 1 | 1 |
2. 小額の買い物は自分で行える | 0 | 0 |
3. 買い物に行くときはいつも付き添いが必要 | 0 | 0 |
4. 全く買い物はできない | 0 | 0 |
C 食事の準備 | ||
1. 適切な食事を自分で計画し準備し給仕する | 1 | |
2. 材料が供与されれば適切な食事を準備する | 0 | |
3. 準備された食事を温めて給仕する、あるいは食事を準備するが適切な食事内容を維持しない | 0 | |
4. 食事の準備と給仕をしてもらう必要がある | 0 | |
D 家事 | ||
1. 家事を一人でこなす、あるいは時に手助けを要する(例: 重労働など) | 1 | |
2. 皿洗いやベッドの支度などの日常的仕事はできる | 1 | |
3. 簡単な日常的仕事はできるが、妥当な清潔さの基準を保てない | 1 | |
4. 全ての家事に手助けを必要とする | 1 | |
5. 全ての家事にかかわらない | 0 | |
E 洗濯 | ||
1. 自分の洗濯は完全に行う | 1 | |
2. ソックス、靴下のゆすぎなど簡単な洗濯をする | 1 | |
3. 全て他人にしてもらわなければならない | 0 | |
F 移送の形式 | ||
1. 自分で公的機関を利用して旅行したり自家用車を運転する | 1 | 1 |
2. タクシーを利用して旅行するが、その他の公的輸送機関は利用しない | 1 | 1 |
3. 付き添いがいたり皆と一緒なら公的輸送機関で旅行する | 1 | 1 |
4. 付き添いか皆と一緒で、タクシーか自家用車に限り旅行する | 0 | 0 |
5. まったく旅行しない | 0 | 0 |
G 自分の服薬管理 | ||
1. 正しいときに正しい量の薬を飲むことに責任が持てる | 1 | 1 |
2. あらかじめ薬が分けて準備されていれば飲むことができる | 0 | 0 |
3. 自分の薬を管理できない | 0 | 0 |
H 財産取り扱い能力 | ||
1. 経済的問題を自分で管理して(予算、小切手書き、掛金支払い、銀行へ行く)一連の収入を得て、維持する | 1 | 1 |
2. 日々の小銭は管理するが、預金や大金などでは手助けを必要とする | 1 | 1 |
3. 金銭の取り扱いができない | 0 | 0 |
(引用:国立研究開発法人 科学技術振興機構「手段的日常生活活動(IADL)尺度」)
IADLの低下を予防する方法

患者さんのIADLの低下を防ぐためには、IADLを正しく評価・アセスメントするほか、日常生活における身体機能や認知機能の維持に向けた取り組みも欠かせません。
ここからは、IADLの低下を予防する(IADLを維持する)ための5つの方法について分かりやすく紹介します。
適度な運動を習慣化する
運動不足の日々が続くと、骨量や筋肉量が減少し、結果としてIADLの低下につながります。したがって、定期的かつ適度な運動はIADLの維持において非常に重要な役割を果たすといえるでしょう。適度な運動は筋力や身体の柔軟性を保つだけでなく、認知機能の低下予防にも効果的です。
また、高齢者の場合は膝や腰への負担をできる限り避けることが大切です。そのため、ウォーキングや椅子に座ったまま行える体操など、身体に無理のない軽い運動を習慣化することが推奨されます。
介護施設や医療機関でリハビリを提供していたとしても、他の時間に何もしないと身体機能は低下しやすくなります。
リハビリの時間以外での活動性を高めるために、プリントを渡すなど自主トレを促すのもおすすめです。
栄養バランスの取れた食事を心がける
骨量や筋肉量の低下は、栄養バランスの乱れや栄養状態の悪化でも引き起こされます。したがって、栄養バランスの取れた食事を心がけることは、適度な運動の習慣化と同じくらい重要といえるでしょう。
特に、高齢者にとっては筋肉の維持をサポートする「タンパク質」や、タンパク質の吸収と免疫力の維持を助ける「ビタミン」を意識した栄養価の高い食事が欠かせません。患者さんの好みに応じて味付けに工夫を凝らす・彩りや盛り付けに気を使うなどして、食事の時間を楽しく感じてもらえるようにすることもポイントです。
生活環境を整備し安全性を確保する
安全性を確保した生活環境の整備は、身体能力低下を補いつつ自立生活を支える重要な要素であり、IADLの維持に不可欠といっても過言ではありません。
IADLの維持に向けた生活環境の整備方法には、「福祉用具の活用」と「住環境のリフォーム」の2つが挙げられます。
●福祉用具の活用
補助杖やシルバーカー、スロープなど、日常生活や外出時に便利な福祉用具を活用することで身体的負担が軽減され、基本的動作や応用的動作に対する積極性の向上が期待できます。なお、こうした福祉用具は、介護保険を利用して購入またはレンタルが可能です。
●住環境のリフォーム
住環境をより安全にするためのリフォームとして、開き戸から引き戸への変更、滑りにくい床材への張り替え、玄関や浴室、トイレへの手すり設置などが挙げられます。なお、こうしたリフォームの一部も介護保険の対象です。
福祉用具や住環境のリフォームを活用して生活環境を整えることで、転倒や事故のリスクを大幅に軽減でき、IADLの維持にも大きな効果が期待できます。
本人の意思を尊重し適切に見守る
過剰な看護や介護によって本人の自立心が損なわれると、本来は自分でできていたはずの動作が失われるおそれがあります。
そのため、患者さんの能力や意思・意欲を尊重しつつ、必要な範囲で見守りながら適切にサポートすることが重要です。「介護・介助する」と「自立支援を促す」のバランスをしっかりと意識し、患者さんのIADLの維持に努めましょう。
趣味や役割を持てるよう支援する
趣味や社会的役割は、認知機能や心の健康の維持に大きな役割を果たします。
まずは「買い物に行く」「友人に会っておしゃべりする」などの簡単な活動から始め、少しずつ社会参加の機会をつくることが有効です。さらに、地域のサークルやボランティア活動に参加することによって、新たな趣味・仲間が見つかるほか、自身の社会的役割が見出され、自己肯定感や自尊心の向上にもつながります。
積極的な外出や他者とのコミュニケーションは、IADLだけでなく生活の質向上にも寄与します。より充実した日々を過ごしてもらうためにも、高齢者が積極的に活動できる環境を整えてあげるとよいでしょう。
また「脳トレ」をすることもおすすめです。IADLには複雑な動作も関わっているため、身体機能だけでなく認知機能も求められます。買い物や服薬管理などの項目はある程度の認知機能が必要です。
買い物では商品の選択やお金の計算が、服薬管理では薬の種類や飲む時間を覚えていることが必要なので、自宅で趣味程度にドリルや数独などをやってもらうのもよいでしょう。
まとめ
IADLとは、最低限の日常生活に不可欠なADLよりも複雑な動作や判断力が求められる応用的動作のことです。QOL向上と密接な関係にあることから、近年の医療・介護分野ではIADLも非常に重要視されています。
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