血中の酸素濃度が十分に保てない低酸素血症は、放置すれば重篤な呼吸不全へと進行し、生命の維持に大きな影響を及ぼしかねない症状です。新型コロナウイルスなどの呼吸器疾患につながる感染症がいまだに猛威をふるう中で、医療従事者は低酸素血症にすぐに気づく必要があります。早期発見して適切な治療を実現できるように、低酸素血症に関する基礎知識を身につけておきましょう。
この記事では、低酸素血症と高二酸化炭素血症の違いや、低酸素血症の原因となる疾患、低酸素血症の症状、予防法について解説します。
中路 幸之助(医療法人愛晋会中江病院 内視鏡治療センター所属)
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2009年群馬大学医学部卒。伊勢崎市民病院、群馬県立心臓血管センター、済生会横浜市東部病院を経て、2024年6月よりMyクリニック 本多内科医院院長。総合内科専門医、循環器内科専門医。 |
低酸素血症とは
低酸素血症とは、動脈血中の酸素が不足していることで起きる症状の総称です。低酸素血症は呼吸不全による肺機能の異常を疑う病態に該当し、以下のいずれかの判断基準を満たす場合に診断されます。
- 室内気吸入下のPaO2(動脈血酸素分圧)値が60Torr以下
- パルスオキシメーターで測定したSpO2(経皮的酸素飽和度)値が90%以下
低酸素血症の治療法は原因や状態によって異なるものの、多くの場合、酸素療法による呼吸管理が必要です。状態によってはリハビリテーション・気道吸引・栄養管理の専門スタッフのサポートも受け、効果的な呼吸ケアを実践します。
(出典:昭和大学「呼吸不全、低酸素血症」)
高二酸化炭素血症とは
呼吸不全の主な病態には低酸素血症以外に、高二酸化炭素血症もあります。高二酸化炭素血症とは、血中に二酸化炭素貯留が見られる状態です。低酸素血症のみが確認される呼吸不全は「I型呼吸不全」、二酸化炭素貯留も見られる呼吸不全は「II型呼吸不全」に分類されます。
(出典:昭和大学「呼吸不全、低酸素血症」)
低酸素血症性呼吸不全と高二酸化炭素血症性呼吸不全では症状が異なり、いずれに該当するかの判断では、血液ガス分析が必要です。血液ガス分析とは、PaO2・SpO2・pHを測定する検査を指します。
(出典:厚生労働省「呼吸機能検査ガイドラインⅡ」③高炭酸ガス血症)
PaCO2(動脈血二酸化炭素分圧)の正常値は、35~45Torrです。呼吸不全の判断基準を満たすもののうち、PaCO2が45Torr以下の場合はI型呼吸不全、45Torr以上の場合はII型呼吸不全と判断できます。
(出典:日本薬学会「動脈血ガス分析」)
低酸素血症の原因

低酸素血症の主な原因は、肺胞低換気・換気血流比不均等・シャント・拡散障害です。一般的には複数の原因が混在した状態で、呼吸不全を起こします。各原因の概要や低酸素血症を招くメカニズムは、以下の通りです。
(出典:特定非営利活動法人日本緩和医療学会「2呼吸不全の病態生理」1呼吸不全)
肺胞低換気
肺胞低換気とは、十分なガス交換を行うために必要な肺胞換気量を確保できない状態です。肺胞低換気では肺胞内に出入りする空気の量が極端に減少することで、酸素量が不足します。
肺胞低換気で低酸素血症を起こす場合の主な原因は、以下の通りです。
- 抗不安薬や麻薬性鎮痛薬の影響
- 呼吸中枢に関わる脳血管障害
- 筋萎縮性側索硬化症などの神経筋疾患
- 肺もしくは胸郭の異常 など
肺胞低換気による低酸素血症の場合には通常、高二酸化炭素血症も併発し、II型呼吸不全を起こします。
(出典:一般社団法人日本呼吸療法医学会「慢性呼吸不全」)
換気血流比不均等
換気血流比不均等とは、肺胞換気量と血流量のバランスが崩れた状態です。正常な肺においても、重力の影響で生理的に不均等が生じているため、肺尖部と肺底部の換気血流比を比較すると、立位では肺尖部が高くなり、肺底部は低くなります(生理的換気血流比不均等)。しかし、何らかの疾患で換気量の減少した肺胞が血流量の豊富な場所に多数存在する場合、静脈血が十分に酸素化されません。
換気血流比不均等で低酸素血症を起こす場合の主な原因は、以下の通りです。
- 気道疾患
- 間質性肺疾患
- 肺胞疾患
- 肺循環障害 など
換気血流比不均等のみが原因の低酸素血症では高二酸化炭素血症を併発せず、I型呼吸不全を起こします。A-aDO2(肺胞気動脈血酸素分圧較差)は開大するものの、酸素吸入などの処置によってPaO2を改善できることが通常です。
シャント
シャントとは、右室を出た静脈血が肺胞内のガスに接触せず、酸素化されない状態で左心系に還流する状態です。シャントによる低酸素血症は主に、痰の詰まりによる無気肺や先天性の心疾患が原因で起こります。シャントによる低酸素血症は、酸素吸入によるPaO2の上昇を期待しにくい点が特徴です。
拡散障害
肺胞には、肺胞から肺胞の毛細血管に酸素などのガスを供給する「拡散機能」と呼ばれる働きがあります。拡散のプロセスに障害が生じ、正常に酸素の供給が行われない状態を拡散障害と呼びます。安静時は通常、拡散障害が極めて高度でない限り、低酸素血症は起こりません。
拡散障害を招く直接的な原因は、以下の通りです。
- 肺胞膜の障害もしくは肥厚
- 肺胞面積の減少
- 肺毛細血管血液量の減少 など
上記のほか、貧血によるヘモグロビン濃度の低下が原因で拡散障害が生じる可能性もあります。
低酸素血症の症状

低酸素血症の主な症状は、進行度や重症度に応じて変化します。低酸素血症の看護ケアを担当する際に適切な対処を行うため、主な初期症状や重症化した場合に懸念される症状を確認しましょう。
初期症状
低酸素血症の急性期では呼吸数が増加して、息切れや動悸を訴える患者さんが多いです。息切れや動悸を訴える患者さんのPaO2値は、60~40Torr程度と推測されます。頻呼吸や頻脈も、急性期の患者さんが訴えやすい症状の1つです。
ただし、初期症状の有無や現れ方は、低酸素血症の重症レベルによって変化する可能性があります。軽症の患者さんの場合、坂道や階段を上る際などの限定的な場面における息切れのみを訴えることもあるため、注意しましょう。
重症化した場合の症状
重度の低酸素血症では重度の息切れを感じ、日常生活に支障が生じることも少なくありません。低酸素血症によって全身がエネルギー不足になり、内臓にも負担がかかるためです。
PaO2値が40~20Torr程度にまで低下すると、不穏や興奮などの精神症状・チアノーゼ・不整脈などが生じる可能性もあります。チアノーゼとは体内で酸素が十分に行き渡っていない状態を示すサインであり、皮膚の色が青みがかる症状です。皮膚の色が薄い患者さんの場合、口の中・目周辺・爪が灰色に変色もしくは白みがかるケースもあります。
PaO2値が20Torr以下程度に低下した場合に懸念される症状は、昏睡やショック状態です。
脳や心臓が機能不全に陥ると、生命にかかわる可能性もあります。
慢性的な低酸素血症の影響
慢性的な低酸素血症に顕著な症状は、運動・力仕事を行っている際の息切れやばち状指(バチ指)です。ばち状指とは、指先が丸く膨らみ、太鼓の「バチ」のように見える状態を意味します。
慢性的な低酸素血症は肺血管を収縮させ、心臓に慢性的な負担をかけます。心臓に過重な負担をかける生活が続くと、心不全のリスクとなります。
(出典:国立研究開発法人国立国際医療研究センター病院「慢性呼吸不全と在宅酸素療法、在宅人工呼吸器療法」)
低酸素血症と高二酸化炭素血症を併発している患者さんを看護する場合、高二酸化炭素血症の進行により、以下の症状が見られるケースもある点に注意しましょう。
- 頭痛
- 血圧上昇
- 羽ばたき振戦
- 意識レベルの低下 など
ただし、高二酸化炭素血症が穏やかに進行した場合、上記の症状を自覚できない可能性もあります。
低酸素血症の予防法
ウイルス感染症などが原因の低酸素血症を予防するには、うがい・手洗い・生活習慣の改善といった基本的対策を徹底する方法があります。インフルエンザワクチン・肺炎球菌ワクチンなどの予防接種を受ける方法によっても、風邪やウイルス感染症などによる低酸素血症の予防が可能です。
慢性的な低酸素血症に対しては体温や酸素飽和度をチェックすると、病状の変化を早期に発見できます。酸素飽和度が低下している場合には医師の判断を受け、酸素療法を実施することも必要です。
酸素療法は、酸素毒性の発生するリスクを考慮しつつ、PaO2を60~80Torr(酸素飽和度92~100%)に維持することを目標として実施します。PaO2を60~80Torrに維持できれば、各組織へ十分な酸素を供給し、息切れなどの症状軽減を図れることが理由です。
ただし、酸素濃度は高ければよいものではありません。過剰な高濃度の酸素を投与すると、発生した活性酸素が呼吸器の細胞を障害する酸素中毒の原因になります。
酸素中毒の発生するリスクは、濃度と時間に依存します。したがって、高濃度の酸素投与を行う際にはほかの療法への移行も選択肢に含めたうえで、慎重な判断が必要です。
(出典:一般社団法人日本呼吸療法医学会「COPD急性増悪の呼吸管理」)
まとめ
低酸素血症の初期は、呼吸数の増加や動悸、息切れといった目立ちにくい症状が発生し、重症化・慢性化するとばち状指やチアノーゼなどの特徴的な症状が現れます。患者さんが動悸や息切れを訴えたときや、呼吸数が多いと感じたときは、酸素飽和度をチェックしましょう。
低酸素血症の患者さんに対しては、日常的な感染予防や栄養管理に関する指導を行うことで、根本的な悪化を防ぐのも大切です。初期症状や重症化のサインを見逃さないように、日々のアセスメントをしましょう。
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※当記事は2025年1月時点の情報をもとに作成しています
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