• 2024年1月26日
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責任感が強い看護師ほど言いがちな“大丈夫“。タフな人ほど注意したいメンタルリスクを精神科医Tomyが解説

 

心や体が疲れ、誰かに助けを求めたほうがいいはずなのに、つい言ってしまう「大丈夫」という言葉。多重課題やイレギュラーに追われていても、場数を踏んだ中堅看護師さんほど、自分は本気で「大丈夫」と思ってしまいがちですが、過信しすぎるのは危険かもしれません。

そこで今回は、看護師でもある筆者が、メディアやラジオなど多方面で活躍中の精神科医Tomy先生に「大丈夫」という言葉の裏にあるメンタルリスクや、心が限界をむかえないために日頃からできることを教えてもらいました。

責任感が強すぎる看護師ほど心のアラートを出すのが苦手

Tomy先生によると、心のアラートを出すのが苦手でつい「大丈夫」と言ってしまう看護師には主に以下のような特徴があるそうです。

筆者
他者から心配されても「大丈夫」と答えてしまう看護師には、どのような特徴があるのでしょうか?

Tomy
「他者に迷惑をかけたくない、心配させたくない」という思いを抱いている人が多いですね。真面目で責任感が人一倍強く、他者からの評価を誰よりも気にする傾向が強いはず。少しでも先輩看護師や同期から大丈夫かと聞かれると、本人のプライド的にも「心配されないようにもっと頑張らないと」と余計に無理をしてしまいます

また「心配される=仕事ができていない」という方程式が頭の中で成り立ってしまっているがゆえに、他者からの評価を下げないように「大丈夫」という言葉を唱えて、自分で問題を抱え込んでしまう面もあります。

筆者
中には、本当にメンタルが強くて何が起きても本気で「大丈夫」と言う看護師もいます。

Tomy
本当にメンタルが強い看護師の「大丈夫」には、「何とかなる」や「失敗しても問題ない」「いざというとき、誰かが助けてくれるだろう」といった、ある種無責任な、もしくは豊富な経験に基づいた楽観的思考が伴っているはずです。なので、責任感が強く、アラートを出すのが苦手なタイプの「大丈夫」とは意味合いが異なります。

<心のアラートを出すのが苦手で「大丈夫」と言ってしまう看護師の特徴>
①真面目で責任感が人一倍強い

②他者に迷惑をかけたくないと考えている
③「心配される=仕事ができていない」と捉えがち
④一人で問題を抱え込み、自分だけで解決しようとする

「大丈夫」の過信は、仕事の効率をさらに下げる要因に

「無理をしていることは明らか、しかし、つい『大丈夫』と言ってしまう看護師は、仕事の効率がより下がる可能性が高い」とTomy先生は指摘します。

Tomy
周りに「大丈夫」と言っているうちに、業務量に追い付かなくなり、仕事がどんどん増えてしまう。次第に、最優先に取り組むべきことの判断がつかなくなり、業務効率はますます下がってしまいます。結果として自分一人ではどうにもできない状態になってしまう可能性があるでしょう。

筆者
最も避けたかった結果に自ら進んでしまう悲劇ですね……。いっぱいいいっぱいの自分を自覚してしまうと、さらに落ち込んでしまいそうな気がします。

Tomy
「なぜ自分はこんなにできないのか」とショックを受ける可能性は十分にあるでしょう。また、先輩看護師からは「さっき『大丈夫』と言ったよね?」と確認されてしまい、さらに落ち込むことも予想されます。

「大丈夫」という言葉には、自分の心に言い聞かせるおまじないとしての側面と、本当に物事が問題ないか保障するために使う側面があります。後者を考えると安易に「大丈夫」とは言わず、一度冷静になって、業務上本当に問題ないか考えることが大切でしょう。

<「大丈夫」の過信が招くリスク>
①1人で抱えることがどんどん増えてしまう

②優先順位がわからなくなり、業務効率が低下する
③「自分は仕事ができない」と悲観的な気持ちになる
④結果的に大丈夫ではない状態に陥り、信用を失う

心や体が限界をむかえる前にできる、セルフマネジメント

心や体が限界をむかえないために大切なのは「変調に気付くこと」「無理をする期間と無理をする目的を明確にすること」と、Tomy先生は話します。

睡眠・食事に支障が出始めたら要注意!

Tomy
まずは自分の心や体の変調に気付くことが大切です。最もわかりやすいのは、睡眠。眠たいのに仕事のことばかり考えてしまって眠れない、いつもとは違う時間に目が覚めてしまうなどの睡眠障害が発生したら、限界のアラートが出ています。ほかにも、お腹は減っているのに食べたいと思えない、平常時より食べ過ぎてしまうなどの変化があらわれたときも注意が必要でしょう。

筆者
家で寝ているのにナースコールや心臓モニターの音が聴こえるというのは、看護師あるあるなのですが、こうした現象も限界をむかえているサインなのでしょうか?

Tomy
個人差はありますが、オンオフが切り替えられていない状態であることは明らかです。そういった現象が長く続くようであれば、思い切って働く環境を変えてみるのも一つの手段でしょう。

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無理をしなければいけないときは、目的と期間を明確にしよう!

筆者
「大丈夫とは言えなくなってきているけど、せめて今の職場で一人前になってから転職しよう」という考えのもと、無理をしてしまっている看護師は多いと思います。そのような人は何に気を付けるべきでしょうか?

Tomy
看護師という専門的な仕事である以上、スキルを高めるために無理をしなければいけない瞬間はあると思います。しかし、漠然と無理をするのは危険でしょう。「目的(何をもって一人前になるのか)」と「期間(それをいつまで続けるのか)」を明確にすることが大切です。

きっと看護師の皆さんが、学生時代、大変な看護実習を乗り越えられたのは「看護師になるという夢を叶えるため」という目的と、「あと1~2年頑張れば終わる」という期間が明確になっていたから。看護師になっても同様に「とりあえずここまで頑張ってみよう」という気持ちを持って、仕事に励んでみてください。同時に自分ができること、できないことを明確に認知して同僚や先輩看護師に頼る癖をつけるよう心がけてみましょう。

筆者
一方で、メンタルが非常に強く、傍目から見るとキャパオーバー気味でも、元気に働けている看護師もいます。なぜなのでしょうか?

Tomy
ストレス耐性などの個人差はありますが、きっと自分の得意な分野、または好きな分野で頑張っているため無理が効くのだと思います。好きだからこそ、どんな無理も厭わないのでしょう。しかしそのような人も無理をする期間や限界値をあらかじめ決めておくことをおすすめします。得意だからといって何でも引き受けてしまうと、気づかないうちに心や体が限界をむかえてしまうためです。むしろ、得意なこと・好きなことをしている人の方が、メンタルリスクへの警戒心がないから、どんどん頑張り続けられてしまって危険かもしれません。

<心と体が限界をむかえないためにすること>
①睡眠や食欲に変化がないか振り返ってみる
②やむを得ず無理をする場合は、無理をする目的と期間を決める
③自分ができること、できないことを認知し、人に頼る癖をつける
④得意分野ほど限界に気が付きにくいので要注意

無理をしている看護師に向けて、周りがしてあげられること

気丈に振る舞っているものの、無理していることが明らかな看護師に向けて、周りの看護師がしてあげられること。Tomy先生は「たとえ心配だったとしても、むやみに業務外連絡はしない方がいい」と話します。

Tomy
仕事終わりや休みの日に病院から連絡がくると、それがどんな内容であれ多くの看護師さんの仕事スイッチはオンに切り替わってしまいます。それだけでストレスになり心が疲れてしまうので、たとえ心配でも重要な報告以外は連絡をしないことが大切でしょう。急ぎではないけれど確認が必要なことは電話ではなくショートメッセージを送るようにするなど、配慮を心がけてください。

<無理をしている看護師に向けて、周りができること>
①たとえ心配でも、むやみに業務外連絡をしないこと
②急用ではない確認事項は電話ではなくショートメッセージを活用する

Tomy先生のアドバイス、いかがでしたでしょうか?心と体は正直なもの。仕事はもちろん大切ですが、どうか自分を大切にすることも忘れないでくださいね。

精神科医Tomy
精神保健指定医、日本精神神経学会専門医。Twitterフォロワー38万人越え。クリニックに常勤医として勤務する傍ら、執筆やYouTube、Voicyなど多方面で活躍。著書に『精神科医Tomyが教える 1秒で不安が吹き飛ぶ言葉』(ダイヤモンド社)、『精神科医Tomyの気にしない力』(大和書房)などを持つ。

取材:内山直弥(TAC企画)、企画・編集:藤田佳奈美(同)

著者プロフィール