• 2022年11月28日
  • 2024年9月18日

看護におけるアドヒアランスとは? 関連用語や向上の取り組みも解説

 

患者さんに積極的に治療を受けてもらうためには、患者さん自身が治療方針に納得し、治療の重要さを理解しておかなければなりません。患者さんが自らの意思で治療に向き合う概念のことを、アドヒアランスといいます。

医師や看護師は、アドヒアランス不良を招かないためにも、日常的な看護ケアだけでなくさまざまな取り組みに尽力する必要があります。そのためには、医師や看護師がまずアドヒアランスについて専門的な知識を習得することが重要といえるでしょう。

そこで今回は、看護におけるアドヒアランスの概要や、アドヒアランス不良が起きたときのリスク、アドヒアランスの関連用語、アドヒアランスを高めるための取り組み(看護師向け)を詳しく紹介します。

看護におけるアドヒアランスとは?

アドヒアランスとは、服薬や行動制限を含む治療方針に対して、患者さんが十分に理解・納得し、決定した治療内容に沿って積極的に実施・継続することを指します。患者さんの疾患の治療においては非常に重要なことであり、何らかの理由が原因で患者さんが治療方針に納得がいかず、治療に消極的となる状態を「アドヒアランス不良」といいます。

医師や看護師は、患者さんのアドヒアランス不良を招かないためにも、下記のような事柄を詳しく説明し、患者さんに納得してもらわなければなりません。

  • 服薬する薬剤の効能や副作用
  • 適切な服用方法
  • 服薬漏れが起きた際のリスク
  • 行動制限を行う理由
  • 行動可能な範囲 など

そのうえで、患者さんの同意を得て、自らの意思で治療に向き合えるようにサポートすることが重要です。

アドヒアランスと関連する用語

アドヒアランスと関連する用語

医療業界では、アドヒアランスのほかにもさまざまな専門用語が存在します。その中で、アドヒアランスと意味がやや似ている言葉も少なくありません。

ここからは、アドヒアランスと関連するいくつかの用語について、アドヒアランスとの違いや関連性を詳しく紹介します。職業倫理系の知識を深めたい看護師の方は、ぜひ参考にしてください。

コンプライアンス

コンプライアンスは、「規範や倫理を遵守すること」という意味を持ちます。医療業界におけるコンプライアンスには、「患者さんが医師や看護師の指示に従って治療に参加すること」と「医師や看護師が法令や社会的な倫理を遵守し、治療や業務を進めること」の2通りに分けられます。

かつては、アドヒアランスではなく患者さんが医師や看護師の指示通り治療に参加するかどうかのコンプライアンスが重要とされていました。しかし、コンプライアンスでは医療機関側から一方的に行われる指示に対する患者さんの準拠状況しか見られず、ノンコンプライアンスの原因は患者さん側にあるとみなされることが問題となっていました。「患者さんは医療従事者側が決定した治療方針に従順であるべき」というレッテルをはがすためにも、現在ではアドヒアランスが最も重要視されています。
(出典:公益社団法人 日本薬学会「アドヒアランス」

また、医師や看護師が法令や社会的倫理を遵守して治療や業務を進めるという意味のコンプライアンスは、古くから重要視されている概念です。医療関係者がコンプライアンスに違反すると社会的な信頼を大きく損なうため、倫理の本質を理解・把握したうえで、それらに応じた適切な行動をとる必要があります。
(出典:厚生労働省「中小病院向け コンプライアンス体制構築のためのポイント」

インフォームド・コンセント

インフォームド・コンセントとは、患者さんやその家族が治療方針について十分に納得・理解し、医療従事者も患者さんや家族が治療方針をどのように受け止め、かつどのような医療を選択するかといった情報を関係者間で共有し、双方ともに合意するというプロセスです。

インフォームド・コンセントが不十分だと、患者さんや家族は医療に対して不信感を抱いたり、治療に積極的に参加できなかったりする恐れがあります。そのため、医師や看護師は単純に病状や治療内容を告げて患者さんに合意を求めるのではなく、患者さんに理解してもらうことにも努めなければなりません。

アドヒアランスと意味はやや似ていますが、アドヒアランスは「患者さんが十分に理解・納得し、決定した治療内容に沿って積極的に実施・継続する」という概念である一方で、インフォームド・コンセントは「患者さんが治療方針に納得し、同意する」プロセスであることが大きな違いです。アドヒアランスを向上するためには、インフォームド・コンセントが必要となります。
(出典:公益社団法人 日本看護協会「インフォームドコンセントと倫理」

アドボカシー

アドボカシーとは、自分の意思をうまく伝えることのできない患者さんや障害者の権利・主張を守り、代弁することです。看護師は、患者さんのアドボケート(権利擁護者)として、患者さんが自らの権利を守るための決定ができるよう、あらゆる方面から支援します。

適切なアドボカシーが実施できていなければ、患者さんの不信感が高まり、治療に対して消極的になり、結果としてアドヒアランス不良を招く可能性があります。インフォームド・コンセントと同様、アドヒアランスを向上させるためには、看護師によるアドボカシーが非常に重要です。
(出典:厚生労働省「第2部 倫理とコミュニケーション 3. 専門職としての意識と責任」

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コンコーダンス

コンコーダンスはイギリスで誕生したもので、「調和」、「一致」といった意味を持つ言葉です。医療現場では、薬の服用に際して、処方者や説明者が患者さんのライフスタイル・気持ちを重視する考え方を指します。

治療成果を高めるために、薬物療法などの医療と患者さんの価値観・ライフスタイルが調和する必要があると考えるのが特徴です。コンコーダンスは、医療従事者と患者さんのパートナーシップを基盤とする、服薬の新しい解決策として重要な役割を担っています。

アドヒアランス不良が起きるとどうなる?

アドヒアランス不良が起きるとどうなる?

アドヒアランス不良が起きると、患者さん自身や社会全体にさまざまな影響を及ぼします。具体的な影響として、次の3つを解説します。アドヒアランスの重要性を理解する参考にしてください。

安全かつ効果的な治療を継続できなくなる

体調が良好などの理由で、患者さんが服薬回数を自己判断で減らすと、治療効果を正しく評価できません。誤った評価のもと、効果的な治療に結びつかない可能性もあります。

自己判断で服薬を中断する、回数を減らすといった行動によって、病状が悪化する恐れもあるため大変危険です。安全かつ効果的な治療を継続するためには、患者さん自身に服薬意義や用法用量を正しく理解してもらう必要があります。

思わぬ副作用が起こる

医療機関で処方される薬の用法用量は、患者さんそれぞれの体の状態に合わせて決められています。処方された用法用量を守って服用しないと、効果が得られないばかりか、想定外の副作用が起こるリスクがあるため注意が必要です。

ステロイド薬のように、自己判断で服用を中止すると全身の倦怠感や食欲低下などの離脱症状が出るものもあります。思わぬ副作用が現れると、患者さんにとってトラウマにつながる場合が少なくありません。治療効果が得られるまで、副作用を防ぎながら服薬を安全に継続するためにも、アドヒアランスの向上を意識するのが大切です。

医療コストを圧迫する

アドヒアランス不良は、医療コストの圧迫という形で、日本社会全体に影響を及ぼす可能性があります。アドヒアランス不良によって、薬が飲まれずに捨てられると、残薬という社会的課題につながり兼ねません。

また、患者さんが消極的で治療に関して協力関係が築けない場合は、病状の悪化や再発を引き起こす恐れがあります。本来必要のなかった治療が発生する、治療期間が長引く、といったケースもあります。アドヒアランス向上によって正しい服薬を促し、医療コストを削減することで、医療の安定供給を支えるのが重要です。

看護でアドヒアランス不良を招く原因

看護でアドヒアランス不良を招く原因

看護が関わる範囲において、アドヒアランス不良につながる原因は複数存在します。具体的な原因として、次の7つを挙げて解説します。アドヒアランス不良の兆候をキャッチし、対処するために役立ててください。

薬物治療に無関心

薬物治療についてきちんと理解ができていないと、患者さんが薬物治療に無関心な状態で日常生活に戻り、アドヒアランス低下につながる場合があります。特に、高血圧や高脂血症といった自覚症状が少ない疾患では、薬物治療の大切さが認識されにくいケースもあるため注意が必要です。

アドヒアランスを向上させるには、患者さんに、処方された薬を飲むべき理由を知ってもらう必要があります。医師・看護師・薬剤師などの医療従事者が連携して適切な説明を行い、患者さん自身が納得したうえで、投薬治療へ積極的に参加してもらいましょう。

服用する薬の数が多い

服用する薬が複数ある、1日の服薬回数が多いといった理由で、残薬などのアドヒアランス不良につながる可能性もあります。患者さんが、意図せず飲み間違えるケースも考えられます。

また、多くの薬を併用する場合には、副作用をはじめとする有害事象が発生する危険性が高まる点も忘れないようにしましょう。服薬する薬の数が多い程、アドヒアランス低下のリスクも高まる点を理解したうえで、患者さんの言葉に注意深く耳を傾け、適切なコミュニケーションをとる必要があります。

患者さんが薬剤の補充をしなかったことや、処方薬の補充が早すぎることに気づいたり、患者さんと一緒に処方箋の指示を見直したりする過程で、患者さんの誤解もしくは不安を見出し、軽減できます。医師に、複雑または頻回な用法の変更や薬剤変更の依頼をすることもできます。
(出典:厚生労働省「平成30年度診療報酬改定の概要 調剤」

薬が飲みにくい

薬の形状や味、大きさなどが合わず、服薬に苦手意識を抱える患者さんも少なくありません。特に、嚥下機能が低下している患者さんは錠剤・カプセルに対して抵抗感を持ち、服用を諦める場合があります。また、空腹時にしか飲めない薬など、特殊な飲み方をする薬もアドヒアランス低下につながるリスクがあります。

薬の形状や大きさによって服薬に抵抗感がある場合は、服薬専用ゼリーなどを試すのも1つの方法です。薬が飲みにくい理由は、それぞれの患者さんによっても異なるため、対話などを通して状況を把握する工夫が欠かせません。

薬を飲み忘れる

薬を飲み忘れる行為も、アドヒアランス不良を招く要因の1つです。薬を飲み忘れるケースにも、さまざまな原因があります。患者さんが治療の必要性を正しく理解できていない場合は、服薬への意識が薄れて飲み忘れにつながります。

また、薬の種類や1日に飲む回数が多い、服薬のタイミングがライフスタイルに合わないなどの理由で飲み忘れるケースもあるでしょう。さらに、認知症が原因で正確な服薬管理ができず、飲み忘れる患者さんも見られます。何が薬の飲み忘れにつながっているかを特定し、アドヒアランスの改善・向上を目指すのが大切です。

副作用が怖く継続が難しい

服薬治療の重要性や必要性はよく理解しているものの、副作用が怖いという理由でアドヒアランスが低下するケースもあります。最近では、インターネットなどを通じて情報を取得しやすいため、処方された薬の副作用報告などを読んで不安を抱える患者さんも少なくありません。

さらに、実際に副作用が発現して危険を感じる、日常生活に支障が出るといった経験をした場合も服薬を控える可能性があります。患者さんの気持ちに寄り添い、ほかの医療従事者とも連携しながら不安を軽減する方法を探って、適切なケアを実践する必要があります。

金銭的な負担を感じている

金銭的な負担も、アドヒアランス不良を招く原因の1つです。経済的な懸念があって投薬治療が患者さんの負担になっている場合、症状が落ち着くと自己判断で服用を止める、服用回数を減らすケースが考えられます。

ジェネリック医薬品などを活用することで、金銭的な負担を軽減する方法もあります。患者さんが金銭的な不安を打ち明けるのに抵抗を感じるケースもあるため、相談しやすい関係性を作るように意識しましょう。

重篤な精神疾患を患っている

患者さんが重篤な精神疾患を患っている場合は、病気の特性によって、アドヒアランスが低下する可能性があるため注意が必要です。うつ病では、服薬の意義や必要性を見出せない、服薬への意欲が低下するなどのケースが考えられます。

統合失調症では、多くの情報が同時に入ると混乱する、といった症状も見られます。服薬の説明が理解できていないことで、アドヒアランス不良が起こるリスクを考慮し、患者さんと丁寧にコミュニケーションを重ねる工夫が大切です。疾患教育や服薬教室といったプログラムに参加するように関わることもできます。

看護師向け|医療現場でアドヒアランスを高める取り組み

看護師向け|医療現場でアドヒアランスを高める取り組み

アドヒアランスを向上するためには、看護職による取り組みが重要です。看護師が実践できる「アドヒアランス向上に向けた取り組み」には、下記のようなものが挙げられます。

  • 患者さんへのアプローチ
  • 医療従事者によるアセスメント
  • 医療従事者と患者さんの信頼関係

最後に、看護師向けの「アドヒアランスを高めるための取り組み」について、それぞれ詳しく紹介します。

患者さんへのアプローチ

アドヒアランスを高めるためには、まず「なぜ患者さんのアドヒアランスが低下しているのか」を把握しなければなりません。アドヒアランスが低下する主な要因には、患者さんが病気や治療に対して無関心または楽観的であることや、服薬に対する何らかの懸念や経済的懸念があること、さらに指導・指示の誤解などが挙げられます。

看護師は、患者さん一人ひとりのアドヒアランス低下要因を追求し、適切なアプローチを行う必要があります。例えば、病気や治療に対して無関心・楽観的な治療アドヒアランスの低い患者さんに対しては、用法用量を守って服薬しない場合のリスクを説明するなどのアプローチがあるでしょう。また、経済的懸念のある患者さんに対しては、負担を軽減できる薬剤への変更を提案することなども一例です。嚥下困難を軽減するための小さな薬剤への変更といった工夫も必要です。
(出典:松尾太加志,ヒューマンインタフェースシンポジウム 2012「医療者と患者のコミュニケーション‐服薬に関するバックグラウンドの違い」

医療従事者によるアセスメント

アドヒアランスが低下する要因は、決して患者さん側だけにあるわけではありません。医師や看護師が患者さんに対して行うアセスメントが不足していることも、アドヒアランス不良の大きな要因です。

例えば、患者さんが自らの意思で服薬を中止した場合は、なぜそのような行動をとったのかをきちんとアセスメントし、服薬アドヒアランス低下の問題解決に向けてアプローチを行う必要があります。アセスメントが不十分であれば、適切なアプローチを行うことは困難です。患者さんの言動やバイタルサインを日常的にチェックして、アドヒアランス改善に向けた最適な対策を検討しましょう。

医療従事者と患者さんの信頼関係

アドヒアランスを左右する要素には、医療従事者と患者さんの信頼関係も挙げられます。たとえ患者さんが治療の重要性や服薬の詳細情報を正確に把握していたとしても、担当する医師や看護師などの医療従事者に対する信用がなければ、治療方針そのものに不信感を抱く可能性があります。結果として治療の実施意欲が低下し、アドヒアランス不足を招くことも考えられるでしょう。

反対に、医療従事者と患者さんの信頼関係をしっかり築き上げていれば、治療に対してスムーズに納得してもらえ、医療従事者からの指示も継続的に遵守できるようになります。

患者さんからの信頼を得るためには、日常的に患者さんとコミュニケーションをとるだけでなく、患者さんの生活スタイルが尊重される治療方針を提案したり、日頃から小さなことでも何らかのサポートをしたりすることが重要です。

まとめ

医療従事者側から伝えられた治療方法に患者さんが納得し、主体性を持って治療を継続できるようにするためには、アドヒアランス不良を防ぐことが重要です。

アドヒアランス不良が起きると、医師や看護師だけでなく患者さんにも悪影響を及ぼす可能性があります。医療従事者は日頃から患者さんに対して十分なアセスメントで適切なアプローチを行ったり、信頼関係を築き上げたりして、アドヒアランスを高めましょう。

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※当記事は2024年7月時点の情報をもとに作成しています

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