• 2022年9月29日
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看護で聞かれる「アドボカシー」とは? 4つのモデルと遂行のポイント

 

アドボカシーとは、権利擁護・代弁などの意味をもつ言葉です。この言葉は、主に政治経済・社会制度へと影響を与えるための活動を指すときに使われます。医療現場では「患者さんの権利を守る」という意味で用いられることが多く、医療従事者として理解しておきたい概念です。

この記事では、看護におけるアドボカシーの概要と、看護アドボカシーの4つのモデルについて紹介します。医療現場で働く看護師さん、あるいはこれから看護師さんを目指す方は必見です。

看護におけるアドボカシーとは?

看護におけるアドボカシーとは「患者さんの権利擁護」を意味する言葉であり、患者さんの安全や医療の質の保証などに関係する概念です。患者さんの自由な意思決定を支援するためにも、それぞれの治療におけるメリットだけでなく、リスクも理解できるように十分な情報を伝えることが重要となります。

アドボカシーが注目されている背景には、1960年代にアメリカで起こった患者さんの権利運動や、医療現場におけるインフォームドコンセントの導入と定着などがあげられます。1970年代後半までには、患者さんを最優先に考える看護アドボカシーが広く認められるようになりました。その後日本でも、1988年に日本看護協会「看護師の倫理規定」のなかではじめて「患者さんの権利擁護」に関する文言が明記されました。

現在では、看護倫理において、アドボカシーの理解は必要不可欠であると考えられています。医療者として、患者さんと信頼関係を結ぶ際にも重要な概念であるため、きちんと理解しておきましょう。
(出典:国立研究開発法人科学技術振興機構 J-STAGE「アドボカシーは看護者の役割か」

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看護師が押さえたい「擁護されるべき患者さんの権利」

擁護されるべき患者さんの権利は、良質の医療を受ける権利、選択の自由の権利、自己決定の権利などさまざまです。リスボン宣言より、患者さんの権利について一部抜粋して紹介します。

1.良質の医療を受ける権利
a. すべての人は、差別なしに適切な医療を受ける権利を有する。

b. すべての患者は、いかなる外部干渉も受けずに自由に臨床上および倫理上の判断を行うことを認識している医師から治療を受ける権利を有する。

c. 患者は、常にその最善の利益に即して治療を受けるものとする。患者が受ける治療は、一般的に受け入れられた医学的原則に沿って行われるものとする。

d. 質の保証は、常に医療のひとつの要素でなければならない。特に医師は、医療の質の擁護者たる責任を担うべきである。

e. 供給を限られた特定の治療に関して、それを必要とする患者間で選定を行わなければならない場合は、そのような患者はすべて治療を受けるための公平な選択手続きを受ける権利がある。その選択は、医学的基準に基づき、かつ差別なく行われなければならない。

f. 患者は、医療を継続して受ける権利を有する。医師は、医学的に必要とされる治療を行うにあたり、同じ患者の治療にあたっている他の医療提供者と協力する責務を有する。医師は、現在と異なる治療を行うために患者に対して適切な援助と十分な機会を与えることができないならば、今までの治療が医学的に引き続き必要とされる限り、患者の治療を中断してはならない。

2.選択の自由の権利
a. 患者は、民間、公的部門を問わず、担当の医師、病院、あるいは保健サービス機関を自由に選択し、また変更する権利を有する。

b. 患者はいかなる治療段階においても、他の医師の意見を求める権利を有する。

3.自己決定の権利
a. 患者は、自分自身に関わる自由な決定を行うための自己決定の権利を有する。医師は、患者に対してその決定のもたらす結果を知らせるものとする。

b. 精神的に判断能力のある成人患者は、いかなる診断上の手続きないし治療に対しても、同意を与えるかまたは差し控える権利を有する。患者は自分自身の決定を行ううえで必要とされる情報を得る権利を有する。患者は、検査ないし治療の目的、その結果が意味すること、そして同意を差し控えることの意味について明確に理解するべきである。

c. 患者は医学研究あるいは医学教育に参加することを拒絶する権利を有する。

(引用:日本医師会「患者の権利に関するWMAリスボン宣言」

患者さんの権利を擁護するためには、上記を含めた宣言の理解が必要です。すべての患者さんがアドボカシーの対象であることを認識し、日々の仕事のなかで積極的な支援を提供することが看護師の役割です。

看護アドボカシーの4つのモデル

看護アドボカシーの4つのモデル

看護アドボカシーには、次の4つのモデルがあります。

  • 人間尊重モデル
  • 実存的モデル
  • 機能的モデル
  • 文化間の橋渡し役モデル

「看護アドボカシーとは具体的に何をすることなのか」を考えるためには、4つのモデルについて理解することが重要です。ここでは、それぞれのモデルの概要や問題点について紹介します。

人間尊重モデル

人間尊重モデルには、次の2つの特徴があります。

  • 看護とは「道徳的わざ(moral art)」を行うことであり、その哲学的基盤にアドボカシーを置く。
  • 「同じ人間に対して行うこと」という前提がある。

人間尊重モデルでは、看護師も患者さんも同じ人間であると理解することが大切です。看護の知識やスキルを取得し適用することは、道徳的行為そのものだと考える必要があります。

患者さんを人間として尊重するためには、病気の症状により本人の人間性がどのように傷つくことがあるのか理解することが重要です。患者さんの状況を理解する際の観点として、人間尊重モデルでは次の4つを重視しています。

  • 自律性・独立性の喪失
  • 行動の自由の喪失
  • 意思決定能力の干渉・妨害
  • 他者の管理下に自分自身が置かれること

注意点として、人間尊重モデルでは、看護師の人間性に期待する面が大きい点が指摘されています。看護師の独善に陥るリスクもあることは、事前に理解しておくべきでしょう。
(出典:足立智孝 麗澤大学紀要91巻「看護アドボカシー概念の検討」

実存的モデル

実存的モデルとは、自己決定する自由が最も基本的かつ価値のあるものであるという原則に基いたモデルです。看護師さんには、患者さんの希望に沿うことをしたり、望みを推定するのではなく、患者さん自らが自己決定する自由を正しく行使できるような支援が求められます。

自己決定を行う場合、「本当に自由を行使して意思決定するとはどういうことか曖昧である」点が問題としてあげられます。何がしたいのかが明確ではない患者さんに対して、看護師が容易に患者さんの意思を操作する、あるいは強い影響を及ぼして誘導するリスクがあることには注意が必要です。
(出典:日本産業標準調査会 CORE「看護アドボカシー概念の検討」

機能的モデル

機能的モデルは、アドボカシーのリスクを承知したうえで、看護師にとってより実践可能な処置方法や看護技術を示したものです。

機能的モデルに基づく看護師の役割は「患者さんに情報を提供すること」「患者さんを支援すること」の2つです。患者さんを客観視した関わり方をすることが求められるモデルといえるでしょう。

看護師さんには、人間関係・社会秩序に基づく幅広い知識の取得や、患者さんに対して偏見のない情報を提供することが求められます。
(出典:日本産業標準調査会 CORE「看護アドボカシー概念の検討」

文化間の橋渡し役モデル

文化間の橋渡し役モデルは、患者アドボカシーにおけるキャリアの根拠の1つとしてあげられます。看護師はアドボケイトするのに有利な位置にいて「機能的・時間的な立場での調停役である」という考えをアドボカシーと結びつけたものです。

患者さんの日常における文化システムと、医療供給システムの間には差異があり、調停者としての看護師さんによる説明が必要となります。患者さんのカルチャーショックによる不安や心配をなくすためにも、看護師さんが2つのシステムを仲介する架け橋的な存在として対応することが重要です。
(出典:竹村節子,大阪大学学術情報庫「医療における患者アドボカシー : 看護師の役割に影響を与える要因の検討」

看護におけるアドボカシー遂行のポイント・課題

看護におけるアドボカシー遂行のポイント・課題

看護におけるアドボカシーを遂行する際には、患者さんの「自己決定」について慎重に考える必要があります。自律的に意思決定できる人間であったとしても、患者さんが心の底から納得した「本当」の意味での自己決定になっていないケースもあるためです。

患者さんのなかには、家族との関係性を優先して、自分の気持ちを必ずしも強く表明しない人も多くいます。患者さん本人の価値観ではなく、家族の意向を反映した治療方針を選択する人も少なくないでしょう。代弁者として患者さんの本心を家族に伝えるのか、あるいは「家族との関係性を大事にしたい」という患者さんの意思を尊重するのか、看護師さん自身が選択する必要があります。

看護におけるアドボカシーを遂行する際には、患者さんに寄り添いながらケアすることが必須です。患者さんの自己決定が本心によるものかどうかは、他者である看護師には判断しにくいこともあるでしょう。患者さんに寄り添い、家族との関係性にも配慮しながら、誰に対してのアドボカシーなのかを考えることが重要です。

まとめ

看護におけるアドボカシーとは「患者さんの権利擁護」に関係する概念です。看護を実践するうえでは、アドボカシーの4つのモデルについて理解を深めて、患者さんに寄り添うことが重要になります。

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※当記事は2022年7月時点の情報をもとに作成しています

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