• 2022年11月28日
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看護におけるアドヒアランスとは? 関連用語や向上の取り組みも解説

 

患者さんに積極的に治療を受けてもらうためには、患者さん自身が治療方針に納得し、治療の重要さを理解しておかなければなりません。患者さんが自らの意思で治療に向き合う概念のことを、アドヒアランスといいます。

医師や看護師は、アドヒアランス不良を招かないためにも、日常的な看護ケアだけでなくさまざまな取り組みに尽力する必要があります。そのためには、医師や看護師がまずアドヒアランスについて専門的な知識を習得することが重要といえるでしょう。

そこで今回は、看護におけるアドヒアランスの概要や、アドヒアランス不良が起きたときのリスク、アドヒアランスの関連用語、アドヒアランスを高めるための取り組み(看護師向け)を詳しく紹介します。

看護におけるアドヒアランスとは?

アドヒアランスとは、服薬や行動制限を含む治療方針に対して、患者さんが十分に理解・納得し、決定した治療内容に沿って積極的に実施・継続することを指します。患者さんの疾患の治療においては非常に重要なことであり、何らかの理由が原因で患者さんが治療方針に納得いかず、治療に消極的となる状態を「アドヒアランス不良」といいます。

医師や看護師は、患者さんのアドヒアランス不良を招かないためにも、下記のような事柄を詳しく説明し、患者さんに納得してもらわなければなりません。

  • 服薬する薬剤の効能や副作用
  • 適切な服用方法
  • 服薬漏れが起きた際のリスク
  • 行動制限を行う理由
  • 行動可能な範囲 など

そのうえで、患者さんの同意を得て、自らの意思で治療に向き合えるようにサポートすることが重要です。

アドヒアランス不良が起きるとどうなる?

アドヒアランス不良が起きると、結果として医師や看護師だけでなく、患者さんにもさまざまな悪影響をもたらす可能性があります。具体的な悪影響には、下記のようなものが考えられます。

治療効果の正確な測定・評価ができなくなる

患者さんに対して適切な医療を実施するためには、患者さんの状態を正しく評価し、その評価に沿って治療計画を立てなければなりません。しかし、特に服薬ではアドヒアランス不良によって患者さんがきちんと行わなかった場合、治療効果を正確に評価することが困難となります。現在の用量では不十分とみなし、不必要に処方薬を与える可能性もあるでしょう。

思わぬ副作用が起こる

服薬においては特に、用法用量をきちんと守ったうえで正しく服用しなければその効果が期待できません。アドヒアランス不良により患者さんが間違った方法で服薬を行うと、想定外の副作用が起こるリスクもあるため注意が必要です。

医療コストが圧迫する

アドヒアランス不良によって患者さんが治療に消極的になると、症状の悪化・再発を引き起こす可能性があります。結果として本来であれば必要のない治療を受けなければならなくなったり、治療期間が長引く可能性があるでしょう。

アドヒアランスと関連する用語

アドヒアランスと関連する用語

医療業界では、アドヒアランスのほかにもさまざまな専門用語が存在します。その中で、アドヒアランスと意味がやや似ている言葉も少なくありません。

ここからは、アドヒアランスと関連するいくつかの用語について、アドヒアランスとの違いや関連性を詳しく紹介します。職業倫理系の知識を深めたい看護師さんは、ぜひ参考にしてください。

コンプライアンス

コンプライアンスは、「規範や倫理を遵守すること」という意味をもちます。医療業界におけるコンプライアンスには、「患者さんが医師や看護師の指示に従って治療に参加すること」と「医師や看護師が法令や社会的な倫理を遵守し、治療や業務を進めること」の2通りに分けられます。

かつては、アドヒアランスではなく患者さんが医師や看護師の指示通り治療に参加するかどうかのコンプライアンスが重要とされていました。しかし、コンプライアンスは医療機関側から一方的に行われる指示に対する患者さんの準拠状況しか見られず、ノンコンプライアンスの原因は患者さん側にあるとみなされることが問題となっていました。「患者さんは医療従事者側が決定した治療方針に従順であるべき」というレッテルをはがすためにも、現在ではアドヒアランスが最も重要視されています。
(出典:公益社団法人 日本薬学会「アドヒアランス – 薬学用語解説」

また、医師や看護師が法令や社会的倫理を遵守して治療や業務を進めるという意味のコンプライアンスは、古くから重要視されている概念です。医療関係者がコンプライアンスに違反すると社会的な信頼を大きく損なうため、倫理の本質を理解・把握したうえで、それらに応じた適切な行動をとる必要があります。
(出典:厚生労働省「中小病院向け コンプライアンス体制構築のためのポイント」

インフォームド・コンセント

インフォームド・コンセントとは、患者さんやその家族が治療方針について十分に納得・理解し、医療従事者も患者さんや家族が治療方針をどのように受け止め、かつどのような医療を選択するかといった情報を関係者間で共有し、双方ともに合意するというプロセスです。

インフォームド・コンセントが不十分だと、患者さんや家族は医療に対して不信感を抱いたり、治療に積極的に参加できなかったりするおそれがあります。そのため、医師や看護師は単純に病状や治療内容を告げて患者さんに合意を求めるのではなく、患者さんに理解してもらうことにも努めなければなりません。

アドヒアランスと意味はやや似ていますが、アドヒアランスは「患者さんが十分に理解・納得し、決定した治療内容に沿って積極的に実施・継続する」という概念である一方で、インフォームド・コンセントは「患者さんが治療方針に納得し、同意する」プロセスであることが大きな違いです。アドヒアランスを向上するためには、インフォームド・コンセントが必要となります。
(出典:公益社団法人 日本看護協会「インフォームドコンセントと倫理」

アドボカシー

アドボカシーとは、自分の意思をうまく伝えることのできない患者さんや障害者の権利・主張を守り、代弁することです。看護師は、患者さんのアドボケート(権利擁護者)として、患者さんが自らの権利を守るための決定ができるよう、あらゆる方面から支援します。

適切なアドボカシーが実施できていなければ、患者さんの不信感が高まり、治療に対して消極的になり、結果としてアドヒアランス不良を招く可能性があります。インフォームド・コンセントと同様、アドヒアランスを向上させるためには、看護師によるアドボカシーが非常に重要です。
(出典:厚生労働省「第2部 倫理とコミュニケーション 3. 専門職としての意識と責任」

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看護師向け|医療現場でアドヒアランスを高める取り組み

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アドヒアランスを向上するためには、看護職による取り組みが重要です。看護師さんが実践できる「アドヒアランス向上に向けた取り組み」には、下記のようなものが挙げられます。

  • 患者さんへのアプローチ
  • 医療従事者によるアセスメント
  • 医療従事者と患者さんの信頼関係

最後に、看護師向けの「アドヒアランスを高めるための取り組み」について、それぞれ詳しく紹介します。

患者さんへのアプローチ

アドヒアランスを高めるためには、まず「なぜ患者さんのアドヒアランスが低下しているのか」を把握しなければなりません。アドヒアランスが低下する主な要因には、患者さんが病気や治療に対して無関心または楽観的であることや、服薬に対する何らかの懸念や経済的懸念があること、さらに指導・指示の誤解などが挙げられます。

看護師は、患者さん一人ひとりのアドヒアランス低下要因を追求し、適切なアプローチを行う必要があります。例えば、病気や治療に対して無関心・楽観的な治療アドヒアランスの低い患者さんに対しては、用法容量を守って服薬しない場合のリスクを説明するなどのアプローチがあるでしょう。また、経済的懸念のある患者さんに対しては、負担を軽減できる薬剤に変更することを提案することなども一例です。
(出典:松尾太加志,ヒューマンインタフェースシンポジウム 2012「医療者と患者のコミュニケーション‐服薬に関するバックグラウンドの違い」

医療従事者によるアセスメント

アドヒアランスが低下する要因は、決して患者さん側だけにあるわけではありません。医師や看護師が患者さんに対して行うアセスメントが不足していることも、アドヒアランス不良の大きな要因です。

例えば、患者さんが自らの意思で服薬を中止した場合は、なぜそのような行動をとったのかをきちんとアセスメントし、服薬アドヒアランス低下の問題解決に向けてアプローチを行う必要があります。アセスメントが不十分であれば、適切なアプローチを行うことは困難です。患者さんの言動やバイタルサインを日常的にチェックして、アドヒアランス改善に向けた最適な対策を検討しましょう。

医療従事者と患者さんの信頼関係

アドヒアランスを左右する要素には、医療従事者と患者さんの信頼関係も挙げられます。たとえ患者さんが治療の重要性や服薬の詳細情報を正確に把握していたとしても、担当する医師や看護師などの医療従事者に対する信用がなければ、治療方針そのものに不信感を抱く可能性があります。結果として治療の実施意欲が低下し、アドヒアランス不足を招くことも考えられるでしょう。

反対に、医療従事者と患者さんの信頼関係をしっかり築き上げていれば、治療に対してスムーズに納得してもらえ、医療従事者からの指示も継続的に遵守できるようになります。

患者さんからの信頼を得るためには、日常的に患者さんとコミュニケーションをとるだけでなく、患者さんの生活スタイルが尊重される治療方針を提案したり、日頃から小さなことでも何らかのサポートをしたりすることが重要です。

まとめ

医療者側から伝えられた治療方法に患者さんが納得し、主体性をもって治療を継続できるようにするためには、アドヒアランス不良を防ぐことが重要です。

アドヒアランス不良が起きると、医師や看護師だけでなく患者さんにも悪影響を及ぼす可能性があります。医療従事者は日頃から患者さんに対して十分なアセスメントで適切なアプローチを行ったり、信頼関係を築き上げたりして、アドヒアランスを高めましょう。

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※当記事は2022年9月時点の情報をもとに作成しています

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