• 2022年7月26日
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看護の実践で重要な「倫理綱領」とは? 項目ごとに分かりやすく解説!

 

看護を学ぶうえで重要となる項目が「看護倫理」です。看護学校の授業や就職後の教育プログラムなどでレポートを作成するような際も、看護倫理は重要な要素となります。

看護倫理は難しい表現で書かれていることもあるため、「分かりにくい」という印象を抱く看護師さんもいるでしょう。特に「倫理綱領」の分野を苦手に感じる方は少なくありません。

当記事では、倫理綱領の内容を項目別に解説します。これから看護師を目指す看護学生、また看護に関する知識を深めたい方は、参考にしてください。

目次

看護における「看護倫理」とは?

看護倫理とは、国際看護師協会(以下、ICN)によって定められた、看護職が業務を行ううえで守るべき「道徳」や「規範」を指すものです。患者さん一人ひとりに最適な看護を行うために、守るべき原則や取るべき行動指針が定められています。

看護倫理は、大きく分けて「倫理原則」「倫理綱領」「臨床倫理」の3つから成り立っています。看護倫理を理解するうえで、この3つの関係性を押さえることが重要です。

「倫理原則」とは、すべての患者さんに質の高い医療・看護の提供を実現するために守るべき原則のことです。「医療倫理学に基づいた4つの原則」に加えて、「医療専門職の義務・規則の基礎となる2つの原則」の合計6つの原則で構成されています。

「倫理綱領」とは、看護職が業務を行ううえで、倫理的に正しい判断や行動をするための基準をまとめたものです。そして、医療の現場における「臨床倫理」は、臨床の現場で倫理原則や倫理綱領に基づいた治療方針を実施するために、視点を4つに分けて情報を整理するツールを指します。

看護職の倫理綱領16項目

看護職の倫理綱領16項目

看護職における倫理綱領は、ICNが定めた看護の倫理原則をもとに、日本看護協会が2003年に定めたものです。その後、看護を取り巻く環境や社会情勢が大きく変化していることから見直しが行われ、2021年3月にいくつかの内容が改訂されました。

下記は主な改訂点の一部です。

倫理綱領の主な改訂点
名称について 「看護者」という名称を「看護職」へ変更
構成について 「看護者の倫理綱領」の構成を「前文」「条文」「解説」の3つから「前文」と「本文」の2つに変更
本文について さまざまな場で活躍する看護職の行動指針となるよう、「看護職の倫理綱領」の全体の表現を見直し変更

(出典:公益社団法人日本看護協会「看護職の倫理綱領」

ここでは、倫理綱領の16項目について、概要・事例・改訂前からの変更点を解説します。

人間の生命、人間としての尊厳及び権利を尊重する

・概要

いかなる場でも「人間の生命、人としての尊厳及び権利を尊重し、常に温かな人間的配慮を持つこと」を意味します。患者さんに対して、その方らしい健康な生活の実現に貢献できるよう努めます。

・事例

何らかの要因で排尿に困難を抱える患者さんが「排尿したい」という意思を示したとき、排尿の可否といった医学的な観点のみに固執せず、本人の意思を最大限に尊重した対応を実施する。

・改訂前からの変更点

意思決定支援に関する部分の削除に伴い、人の生命、尊厳、権利を尊重した先にある看護の使命の表現が記載されています。

対象となる人々に平等に看護を提供する

・概要

看護師は、年齢や性別、国籍、経済的状態といった患者さんの性質に関係なく、すべての患者さんに平等な看護を提供します。

・事例

入院日数が長いなど、経営観点で利益の大きい患者さんの受け入れを優先するのではない。あくまで、すべての患者さんに対する平等な対応が求められる。

・改訂前からの変更点

社会の変化と人々の健康や生き方への意識の変化を踏まえて、個別的特性、ニーズに応じた看護の必要性について加筆されています。

対象となる人々との間に信頼関係を築き、その信頼関係に基づいて看護を提供する

・概要

看護は、患者さんとの間に築かれる信頼関係を基盤として成立する。そのため、看護や支援を効果的に行えるよう、看護師は患者さんとの信頼関係を築き、発展するよう努めます。また、患者さんからの信頼に対し、誠実に対応できるよう努めます。

・事例

患者さんに対して必要な看護ケアを行う際、ケアの目的や注意点などを正確に説明し、患者さんが不安のない状態でケアを受けられる配慮をする。

・改訂前からの変更点

近年ではSNSを通じて、看護師と患者さんやご家族との関係に変化が見られるため、「個人的な関係に発展する行動はとらないこと」などが追記されています。

人々の権利を尊重し、人々が自らの意向や価値観にそった選択ができるよう支援する

・概要

看護師は、患者さんが自らの意向や価値観に沿った選択ができるよう、誠意をもって対応します。患者さんには、看護ケアや治療について、十分な情報を得る権利やケア・治療の方針について選択・決定に関わる権利があるため、患者さんの権利を尊重します。

・事例

患者さんが最先端の治療方法や治験中の医薬品などに興味関心を示した場合は、その意思を尊重したうえで適切な支援ができるよう対応する。

・改訂前からの変更点

意思決定における権利として、「知る権利」以外も含められるよう「人々の権利」と修正されています。

対象となる人々の秘密を保持し、 取得した個人情報は適正に取り扱う

・概要

看護師には守秘義務があるため、業務を行ううえで得た患者さんの秘密や個人情報は、治療・療養の場面で必要とされる正当な機会・理由以外で漏らしてはならない。ゆえに、患者さんに関する情報が流出・漏えいしないよう、看護師は細心の注意を払って情報を共有・発信するよう努めます。

・事例

勤務中やプライベートの時間に限らず、患者さんの特定につながる情報(氏名や年齢、病状など)を口外しない。

・改訂前からの変更点

倫理とは内的な自律から生じることに対し、法は外的強制力によって作られるとの理由から、自律を強調した内容とするため守秘義務の遵守については現行から削除されました。

対象となる人々に不利益や危害が生じているときは、人々を保護し安全を確保する

・概要

看護師がケアするべきことは受診した際の病気や怪我に限りません。家庭内暴力および児童虐待など、身体的および精神的な危険にさらされていると想定される場合は、患者さんを保護できるよう働きかけを行います。

・事例

患者さんの発言や外傷から虐待や家庭内暴力などが疑われるとき、社会福祉士などDVの対応が可能な職種を交えた多職種カンファレンスを開催する。

・改訂前からの変更点

他職種の業務には干渉できないと考えず、対象となる方を保護し安全の確保を優先するように修文されています。

自己の責任と能力を的確に把握し、実施した看護について個人としての責任をもつ

・概要

看護における自身の能力を正しく判断したうえで、説明責任や判断、その結果に関する責任を負うことを意識します。自身の能力を超える看護が必要な場合、さらに高い能力を持つ看護師に相談し、支援や指導を求めるなど、安全で質の高い看護を提供するよう努めます。

・事例

初めて扱う医薬品や機器を使用する際は、効果や使用する量、時間、注意点などを確認する。

・改訂前からの変更点

責任と能力の範囲を超えた業務は、質の低下を招くだけでなく、対象となる患者さんの安全確保に関わるため、「安全で質の高い看護を提供する」に修文されました。

常に、個人の責任として継続学習による能力の開発・維持・向上に努める

・概要

職場で指示された研修や学会・研究会への参加だけでなく、自主学習を積極的に行うなど、質の高いケアができるよう常に自身を磨き、努力する必要があります。

・事例

所属する病院・施設のケア方針を尊重しつつ、より効果的な治療法やケア技術の知識・スキルの習得・向上を常に心がける。

・改訂前からの変更点

自己の能力開発が強く求められていることを表現するため、「免許を受けた後も自ら進んでさまざまな機会を活用し、能力の開発・維持・向上」という表現に変更されています。

多職種で協働し、よりよい保健・医療・福祉を実現する

・概要

看護師同士だけでなく医師や薬剤師などの医療関係者を筆頭に、他職種と協力・連携して看護を行います。

・事例

入院していた高齢の患者さんに支援が必要な場合、退院後も安心して日常生活を送れるよう、地域の社会福祉士や看護師・介護士といった職種とともに十分に話し合いを行う。

・改訂前からの変更点

相互理解を深めることは信頼関係の構築につながるとして、「協力関係を維持し」から「相互理解を深めることを基盤とし」という表現に変更されています。

より質の高い看護を行うために、自らの職務に関する行動基準を設定し、それに基づき行動する

・概要

より質の高い看護業務ができるよう、自分自身や職場のグループ単位などで行動基準を設定し、決定後は全員が遵守します。

・事例

治療方針が定まらない中で患者さんに適切なケアが提供できていない場合は、個人だけでなく職場のグループ単位、組織単位で看護倫理に基づいた看護基準を設定する。

・改訂前からの変更点

「看護実践、看護管理、看護教育、看護研究の望ましい基準を設定し」から「自らの職務に関する行動基準を設定し」に変更されています。

研究や実践を通して、専門的知識・技術の創造と開発に努め、看護学の発展に寄与する

・概要

最新の研究や実践を活用し、自身の看護に取り入れます。また、自身が行っている看護を通し、新たな看護の知識・スキルを構築して、看護学の発展に貢献することも重要です。

・事例

積極的に看護研究を実施したり、看護研究の論文を提出したりする。あるいは院内や部署での知識の共有などに尽力する。

・改訂前からの変更点

エビデンスの重要性を強調するために、現行の「研究や実践等により得られた最新の知見」を「科学的知見」とする表現に変更されています。

より質の高い看護を行うため、看護職自身のウェルビーイングの向上に努める

・概要

よりよい看護を行うためには、自身が健康な状態で幸福な生活を送っていることが大事です。自身のウェルビーイングを向上させるために、ワークライフバランスを重視する、メンタルケアに努めるなどストレス軽減を図ります。

・事例

熱が出た場合や体調が悪いときは出勤を控え、医療ミスを事前に予防する。自分自身の健康を維持するため自宅で療養する。

・改訂前からの変更点

安全な職場環境の整備に関する必要性を強調するため、「すべての看護職が健全で安全な環境で働けるよう、個人と組織の両方の側面から取り組む」と加筆されました。

常に品位を保持し、看護職に対する社会の人々の信頼を高めるよう努める

・概要

看護師は看護が必要な方々からの信頼が重要です。そのため、誠実さや品性、社会的な常識などをしっかりと身につけ、看護師としての品位を保持できるよう努めます。

・事例

確かな知識と技術で、患者さんにとって温かい看護を心がけ、礼節や振る舞いにも気を付ける。

・改訂前からの変更点

改定後は「看護職は、その立場を利用して看護職の信頼を損なうような行為及び不正行為はしない。」との記述が加筆されています。

人々の生命と健康をまもるため、さまざまな問題について、社会正義の考え方をもって社会と責任を共有する

・概要

差別、格差、暴力など、人々の生命や健康、尊厳、権利に関する社会問題は、看護師も考えるべき問題です。人々の生命や健康が脅かされる状況になる前に、適切な対応が取れるよう努めます。

・事例

清潔な空気や水を患者さんに提供するため、所属する施設内の設備を整えるよう働きかけるほか、安全な食物の確保や騒音対策などの環境保護に取り組む。

・改訂前からの変更点

世界で起きている差別や貧困など、社会に存在し続ける問題が身近にあると認識する必要があるため、「社会正義の考え方をもって」と追記されています。

専門職組織に所属し、看護の質を高めるための活動に参画し、よりよい社会づくりに貢献する

・概要

看護職は、医療、福祉、看護などに関する制度の改善に関われる職業です。看護の質を高めるための活動に参加したうえで、よりよい社会づくりに貢献します。

・事例

看護研究の発表といった活動を通し、社会に必要な医療資源・看護資源の確保や、理想とされる看護環境の実現につなげる。

・改訂前からの変更点

「看護職は専門職組織を通じて」という表現から、「看護職は専門職組織に所属し」という表現に変更されています。

様々な災害支援の担い手と協働し、災害によって影響を受けたすべての人々の生命、健康、生活をまもることに最善を尽くす

・概要

看護職は人々の生命や健康、生活を守る専門職として災害リスクの低減に努めます。また、災害時には災害支援の担い手とともに働いて、それぞれの機能や能力を最大限発揮できるよう協力し合います。

・事例

物資が乏しい中で実施できる看護ケアを習得し、院内に災害チームがあれば積極的に参加する。また、ほかの職種との連携についてイメトレなどを実施する。
(出典:日本看護協会「看護職の倫理綱領」

なお、この項目は改訂によって追加された項目です。

看護師が「倫理綱領」以外に押さえるべき倫理項目とは?

「倫理綱領」以外に押さえるべき倫理項目

看護師として働くうえでは、「倫理綱領」以外にも押さえるべき項目があります。より質の高い看護を実践できるよう、「倫理原則」と「臨床倫理」についての理解を深めましょう。

ここでは、倫理原則で重要な「生命倫理の4原則」と、臨床倫理で重要な「臨床倫理の4分割法」を詳しく解説します。

生命倫理の4原則

生命倫理の4原則とは、医療従事者が倫理的な問題に直面した際、どのように解決すべきかを判断する指針となる4つの項目です。

  • 自立尊重原則
    情報提供や疑問・不安の解決を通し、患者さん自身の決定や意思を大切にして、患者さんの行動を制限したり干渉したりしないことを意味します。
  • 善行原則
    患者さんのために善をなすこと、最善を尽くすことであり、組織や医療関係者の利益となる決定をするのではなく、患者さんの利益となる行動をするという意味です。
  • 無危害原則
    患者さんに危害を及ぼさないという意味であり、転倒・転落による怪我の予防など、患者さんに危害が及ぶことを避けるために十分な注意を払います。
  • 正義原則
    患者さんを平等かつ公平に扱うことであり、医療においては限られた医療資源を提供できる人数の範囲内で、平等かつ公平に提供します。

(出典:厚生労働省「3.専門職としての意識と責任」

臨床倫理の4分割法

「臨床倫理の4分割法」は、臨床現場において、円滑に治療方針を決定するための実践的な方法として活用されています。患者さん・家族・医療関係者が足並みを揃えて治療を進められないなど、治療方針の決定が滞る場合は下記の4つの視点に区分し、患者さんに対する情報を整理します。

医学的適応 患者さんの意向
  • 医学的診断や予後
  • 治療目標
  • 治療適応がなくなる状況
  • 治療の成功可能性
  • 患者さんの意思決定能力
  • 患者さんの治療に関する意向
  • 事前の意思
  • 代理決定者
QOL 周囲の状況
  • QOLの定義と評価
  • 治療した場合、治療しなかった場合の社会復帰の可能性
  • QOLを改善する際の倫理的課題
  • 緩和ケア
  • 医療者・医療施設側の利益相反
  • 家族・利害関係者
  • 経済的問題
  • 治療に影響を及ぼす宗教、法律、臨床研究、医学教育、公衆衛生、安全関連事項

看護倫理のレポートを書くときのポイント

看護倫理のレポートを書くときのポイント

看護倫理のレポートを作成する際のポイントとして、以下の流れで書くことを心掛けましょう。

・看護観(簡略的)

はじめに、看護倫理のどのようなポイントに着目して記述するか、自分の看護観を端的に述べましょう。最初に看護観を述べることで、読み手にとって分かりやすい内容となります。

・経験・事例

次に、自分が実際に体験したことなど、看護観を深く考えるきっかけになった事例について書いていきます。経験を踏まえて、段落で示した看護観に沿った内容を書くことが重要です。

・看護観(具体的)

冒頭で述べた看護観を具体的に書いていきます。看護倫理上の観点から、どのような看護を目指すとよいかなど自身の考えを詳しく述べます。

・今後の試み

最後に、自分の看護観を踏まえて今後はどのようにしていきたいか、自身が看護師となったときの試みや目標を述べましょう。その際、レポートで扱った看護倫理上のポイントに関連した内容にすることが重要です。

まとめ

倫理綱領は難しい表現が多く、苦手意識を持つことも珍しくありません。しかし、看護を実践するうえで重要な指針が書かれているため、看護学生はもちろん経験豊富な看護師さんも、倫理綱領を再度確認してよりよい看護ケアを実践しましょう。

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※当記事は2022年7月時点の情報をもとに作成しています

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