HCU(高度治療室)はどのような治療を行うところか、詳しく知らないという方もいるでしょう。HCU(高度治療室)には心筋梗塞や急性心不全、くも膜下出血などの重症化リスクが高い患者さんが入院しており、医師や看護師、リハビリ職などの多職種が連携して治療を行う場所です。
当記事では、HCU(高度治療室)の施設基準やICU(集中治療室)との違いにくわえて、向いている看護師の特徴や役割、やりがい・大変なことなどを解説します。
HCU(高度治療室)とは?
HCUとは「High Care Unit(ハイケアユニット)」の頭文字をとった略称で、日本語では「高度治療室」や「準集中治療管理室」と呼ばれています。HCU(高度治療室)は、ICU(集中治療室)と一般病棟の間の立ち位置で、主に大手術の後や重症化リスクの高い患者さんが入院しています。
2022年12月29日時点のHCU(高度治療室)のベッド数は、全国で7432床です。HCUの病床は東京都の982床を筆頭に、埼玉県に675床、大阪府に549床、埼玉県に587床、神奈川県に582床、福岡県に474床と、都心部に多い傾向にあります。
(出典:一般社団法人日本集中治療医学会「各都道府県別 ICUおよびICUに準ずる治療室のベッド数」)
HCUの施設基準
厚生労働省の「基本診療料の施設基準等及びその届出に関する手続きの取扱いについて」によると、HCU(高度治療室)の施設基準は、以下の通りです。
(1)専任の常勤医師が常時1名以上いること
(2)ハイケアユニット入院医療管理を行うにふさわしい専用の治療室を有していること
(3)救急蘇生装置(気管内挿管セット、人工呼吸装置など)、除細動器、心電計、呼吸循環監視装置を治療室内に常時備えていること(治療室が特定集中治療室と隣接しており、共有しても緊急の事態に十分対応できる場合はこの限りではない)
(4)HCU勤務の看護師は、HCUに勤務している時間帯はHCU以外での夜勤を行わないこと
(5)「ハイケアユニット用の重症度、医療・看護必要度に係る評価票」の基準を満たす患者さんが8割以上いること
(6)「ハイケアユニット用の重症度、医療・看護必要度に係る評価票」の記入は、院内研修を受けたものが行うこと
(出典:厚生労働省「基本診療料の施設基準等及びその届出に関する手続きの取扱いについて」)
これらの基準を満たした治療室でないと、HCU(高度治療室)として認められません。
HCUで治療する主な疾患
HCU(高度治療室)で治療する主な疾患や症状は、以下の通りです。
- 心筋梗塞
- 急性心不全
- 急性呼吸不全
- 大動脈解離
- ショック
- くも膜下出血
- 脳梗塞
- 意識障害
- 急性中毒
- 心肺蘇生後
- 大きな手術の術後
HCU(高度治療室)では、主に術後の経過観察が必要な方や重症化リスクのある方の治療を行っています。医療機関によっても異なりますが、重病でも急変の可能性が低い慢性疾患を抱える患者さんは、HCU(高度治療室)ではなく一般病棟で治療することが多いです。
HCUに関わる職種
HCU(高度治療室)では、多職種で治療にあたっています。HCU(高度治療室)で活躍する主な職種は、以下の通りです。
- 各診療科の主治医
- 麻酔科医
- 救急医
- 看護師
- 薬剤師
- 診療放射線技師
- 臨床検査技師
- 臨床工学技士
- 理学療法士(PT)
- 作業療法士(OT)
- 言語聴覚士(ST)
- 事務職員
各診療科の主治医のほかに麻酔科医や救急医など、多くの部門の医師が携わっています。また、看護師や薬剤師はもちろん、理学療法士や作業療法士といったリハビリ職、診療放射線技師や臨床工学技士といった技術職がいるHCU(高度治療室)もあります。
HCU(高度治療室)は、多職種によるチーム医療で成り立っている現場です。
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HCUとICUの違い

HCU(高度治療室)とICU(集中治療室)は、いずれも症状の重い患者さんの治療を行いますが、重症度が異なります。以下では、HCU(高度治療室)とICU(集中治療室)の違いを、入室基準と看護師の配置基準の2つに分けて解説します。
救急度
HCUには重症であるものの、救急度が比較的低い患者さんが入室します。一方のICUはHCUとは違い、救急度と重症度がいずれも高い患者さんを対象とした病室です。ICUとHCUを両方保持する病院ではICUでの急性期治療が落ち着き、救急度の高い状態を抜け出した患者さんをHCUへ移動させ、経過観察することもあります。
ただし、HCUにおいても患者さんが急変した際には、心肺蘇生や挿管介助などの救急措置を取ることが必要です。HCU看護師は、患者さんの急変によって救急度が高まる可能性があることを念頭に置き、適切に対応できる準備を整えておく必要があります。
また、HCUへ入室させる患者さんの救急度の基準は、医療機関によって異なることにも注意しましょう。ICUの病床が不足しているもしくはない病院では、HCUで救急度の高い患者さんを受け入れる可能性もあります。
入室基準
ICU(集中治療室)には、主に生命の危機にあるような重症の患者さんが入室し、医師や看護師が24時間体制で生命維持を行います。
一方、HCU(高度治療室)は、ICU(集中治療室)の患者さんに比べ重症度は低いものの急変する可能性がある方や、一般病棟の看護配置ではケアが難しい方が入室します。HCU(高度集中治療室)への入室経緯は、「ICUからの転室」「救急外来からの入室」「術後管理のための入室」の3つのパターンに分けられます。
看護師の配置基準
HCU(高度治療室)とICU(集中治療室)の看護師の配置基準は、厚生労働省の「基本診療料の施設基準等」によって定められています。
特定集中治療室管理料の施設基準等の項目によると、「常時、当該治療室の入院患者の数が二又はその端数を増すごとに一以上であること」と定められています。つまり、ICU(集中治療室)では、患者さん2名に対し看護師1名の配置が必要です。
一方、ハイケアユニット入院医療管理料の施設基準の項目によると、「常時、当該治療室の入院患者の数が四又はその端数を増すごとに一以上であること」と定められています。つまり、HCU(高度治療室)では、患者さん4名に対し看護師1名の配置が必要です。
(出典:厚生労働省「基本診療料の施設基準等」)
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病床数
一般的にHCUの病床数は、1施設あたり7~8床程度です。大規模な医療機関では、12~16床程度を確保しているケースもあります。
ICUの病床数は1施設に対して2床程度であることが通常で、HCUと比較すると少数です。ICUでは医師や看護師が24時間体制で手厚い治療や看護を行うため、人的要件リソースの問題もあり、HCUと同程度の病床は確保されません。
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HCUの看護師の役割と仕事内容

ここでは、HCU(高度治療室)で働く看護師の役割や仕事内容、求められていることを解説します。また、HCU看護師の1日の業務の流れも紹介します。どのようなタイムスケジュールで業務にあたっているのか、参考にしてください。
HCU看護師の業務の流れ
HCU看護師は、2交代制もしくは3交代制で24時間体制の看護を提供することが通常です。以下は、HCU看護師が日勤する日のスケジュール例を示します。
時刻 | 業務内容 |
---|---|
8:30 | 業務開始、夜勤スタッフからの申し送り |
9:00 | 状態観察 |
10:00 | 日常生活援助、リハビリテーション、検査出し、処置介助、他職種カンファレンス、排泄や更衣など |
11:00 | 転棟先への申し送り、カルテ処理など |
12:00 | 昼食の配膳、経管栄養投与、配薬など |
12:30 | 交代で昼休憩 |
14:00 | 状態観察、カルテ記入 |
15:00 | 翌日の点滴準備、手術患者さんのリストアップ、排泄、清潔ケア |
16:30 | 夜勤スタッフへの申し送り |
17:00 | 業務終了 |
多くのHCUでは、ナースステーションと病床が隣接した場所にあります。HCUでは手術後や重症化リスクの高い患者さんを受け入れることから、常に急変を意識し、急変時にはすぐに対応する必要があるためです。HCU看護師はナースステーションで事務作業を行っている最中も患者さんに意識を向け、モニタリングに努めます。
HCU看護師が夜勤する際には16:30頃に業務を開始し、翌日の9:00頃に終了するスケジュールが一般的です。HCUでは、夜勤の時間帯に緊急入院患者さんの受け入れが発生することも珍しくはありません。患者さんの状態の変化によっては、深夜や早朝に応急処置や検査を行うケースもあり柔軟な行動が必要です。
HCU(高度治療室)に向いている看護師の特徴

HCU看護師を目指したいと考えている方のなかには、自分はHUC看護師に適正なのかどうか気になる方もいるのではないでしょうか。ここでは、HCU(高度治療室)に向いている看護師の特徴を4つ紹介します。
観察力がある
観察力のある看護師は、HCU(高度治療室)勤務に向いているといえます。
HCU(高度治療室)にいる患者さんは重症度が高く、いつ急変してもおかしくありません。そのため、「血圧が少し下がってきた」「脈が早くなった」など、些細な変化にもすぐに気付けることが大事です。
また、「違和感がある」「何かおかしい」など、勘が鋭い看護師もHCU(高度治療室)勤務に向いているでしょう。うまく言葉で言い表せないことであっても、事前に察知することで急変を事前に防げる場合があります。
スピーディーに対応できる
スピード感を持って対応できる看護師は、HCU(高度治療室)勤務に向いているでしょう。
患者さんが急変した場合、対応に迷っている暇はありません。少しの時間のロスが予後に影響を及ぼす可能性があるため、正確なアセスメントをして素早く対応する必要があります。
また、素早く対応するために、的確に状況を把握する「判断力」とすぐに行動できる「決断力」も必要です。
体力がある
看護師の仕事は体力勝負です。特に、HCU(高度治療室)は24時間体制で治療を行っており、緊急入院や急変も多いため多忙を極めます。また、ADLが低下している患者さんの体位交換やおむつ交換を行う際には、力が必要です。
さらに、HCU(高度治療室)は急変と隣り合わせの環境なので、常に緊張感がありプレッシャーも大きいでしょう。そのため、心身ともにタフな看護師がHCU(高度治療室)に向いているといえます。
勉強熱心である
勉強熱心な方は、HCU(高度治療室)でやりがいを持って働けるでしょう。
HCU(高度治療室)では最先端の治療が行われており、新しい医療機器や治療法、薬に触れる機会が多くあります。また、対象の科目・疾患が限定されず、さまざまな病気やケガを抱える患者さんもいるので、幅広い知識が求められます。
そのため、勉強することを苦と思わず、積極的に学ぶ姿勢がある方がHCU(高度治療室)勤務に向いているでしょう。
HCU(高度治療室)の看護師になるには

HCU(高度治療室)の看護師になるために、特別な資格は必要ありません。希望すれば、新人看護師でも配属される可能性はあります。
現在HCUで働いていない看護師がHCUで働きたい場合は、まずは看護師長に異動を申し出るとよいでしょう。異動したい理由を添えて異動希望の手続きを行い、院内のHCUで看護師配置の空きがあれば、異動できる可能性は十分あります。
HCUがない病院で働いている方や、希望した働き方が難しい方の場合は、転職も1つの手段です。HCUがある病院で、かつHCU勤務の看護師求人に応募することで、HCUの看護師に転職できます。
HCUの看護師を目指して転職する場合は、応募先の病院でHCUがICUと併設かどうかを確認しましょう。
HCUがICUと併設の病院では、HCUをICUの一部に位置付けて、HCUの看護師がICUでも働くケースがあります。スキルアップはしたいものの、患者さんとのコミュニケーションも重視したい看護師は、HCUが独立している職場が向いています。
また、HCUにどのような患者さんが多いか確認しましょう。
ICUから転室した患者さんが多い場合は、経過観察が必要ではあるものの、ほとんどの患者さんは回復期に近づいています。対して、重症化によって一般病棟からHCUへと来た患者さんが多い場合は、集中的な看護体制が必要です。
患者さんの状態によって看護師の業務内容は変化するため、自分が希望する環境・働き方にあった転職先を選ぶことが大切です。
HCU看護師として働くやりがいと大変さ

HCU看護師の仕事には一般病棟看護師とは異なる魅力がある一方、特有の大変さを感じる場面もあります。HCU看護師に関する理解を深めるため、仕事を通じて実感できるやりがいと大変さを理解しておきましょう。
HCU看護師のやりがい
HCUではさまざまな診療科・疾患の患者さんを受け入れることから、広範な専門知識を習得し、看護師としての成長を目指しやすい環境です。医師や薬剤師などとも連携を取り、患者さんの支援にあたる過程では、チーム医療に欠かせないコミュニケーションスキルも磨けます。
患者さんがHCUに入室している期間は通常、2~3日程度です。HCU看護師は、患者さんが日に日に回復していく過程を間近で支援し、自身の仕事の重要度を頻繁に実感できます。
転棟や退院の日には、看護師としての役割を再認識し、大きなやりがいを感じるでしょう。また、患者さんを重症化させることなく、回復していく経過を間近で見守れることも、やりがいのひとつといえます。
HCUでも、患者さんやご家族とコミュニケーションを取る機会はあるため、患者さんやご家族から感謝の言葉をかけられた際には、看護師としてのやりがいを実感します。
HCU看護師の大変さ
患者さんの入れ替わりや状態の変化が激しいところです。また医師の指示も変わりやすく、急な医療処置や薬剤の変更などが生じることもあり、状況に合わせた対応が求められます。
一般病棟看護師からHCU看護師へ転身する場合には、さまざまな医療機器の操作方法や看護技術を覚えることが必要です。業務の合間に不足している知識を補うべく自主的に勉強しなければならないことに、大変さを感じる可能性もあります。
ただし、HCU看護師として働く中で培った対応力や幅広い分野の知識は、看護師として働いていくうえでの財産です。大変さを乗り越えて日々の業務に取り組み、患者さんを適切に支援できた経験は、今後の自信につながるでしょう。
HCUとして活躍する看護師の体験談

以下では、HCU看護師として活躍している方の仕事内容や働き方を紹介します。HCU看護師として働く自身の姿をより具体的にイメージするためのヒントとして、参考にしてください。
体験談その1 |
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心臓血管外科・心臓血管内科の重症患者さんを主に受け入れているICUで看護師は、心電図の管理や透析治療の支援などを担当します。患者さんは今後の治療について不安を感じているケースも多く、心に寄り添う看護を実施することが必要です。 HCU看護師として働くうえでは大変なことも多いものの、一人の人間として大きく成長できる仕事であるといいます。職場の雰囲気が良く、不安を感じた際には先輩看護師のフォローを受けられる点も、心の支えになっている様子です。 |
体験談その2 |
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HCUに勤務して1年目の看護師は先輩のサポートを受けつつ、状態観察や手術前後のケアを担当しています。HCUは、自身で意思表示できない患者さんもいる病棟です。バイタルサインのチェックやフィジカルアセスメントを通じて必要な情報を収集し、回復を支援するため、日々努力しているといいます。 |
HCU看護師として必要な知識や技術は、先輩看護師の姿を見て学習することや、研修に参加することで習得できます。「患者さんに貢献したい」といった気持ちをもとに前向きに努力すれば、未経験からでも十分にHCU看護師として活躍が可能です。
HCUで使用される最新医療機器・設備

HCUでは先進医療技術に対応したさまざまな医療機器を使用して、患者さんの生体機能の維持や回復を支援することもあります。以下は、HCUで使用される医療機器の一例です。
- 人工呼吸器
- 経皮的心肺補助装置
- 大動脈バルーンポンプ
- 除細動器
- 心電計
- 呼吸循環監査装置
- 血液浄化装置
- 血液透析装置 など
HCU看護師は、上記の医療機器の使用、消毒、管理、およびメンテナンスなどを担当します。疾患によっては患者さんが医療機器を使用する場合もあるため、本人やご家族に使用方法や安全な取り扱いについて案内し、正しい活用を促すことが必要です。
HCUでは最新の診断機器を活用して必要な検査を実施し、医師の診断をサポートする高度な医療を提供します。HCUで使用される診断機器の一例は、以下の通りです。
- 超音波診断装置
- ポータブルX線撮影装置
- 血液ガス分析装置 など
HCUに用意されている設備は、医療機関の方針や受け入れる患者さんの特性に応じて異なります。たとえば、脳神経外科の患者さんを多く受け入れるHCUでは身体機能の回復を支援する目的で、リハビリテーション室が用意されているケースもあるでしょう。感染症の救急患者さんを受け入れるHCUでは、医療機関内での感染拡大を回避する目的で陰圧室が用意されていることもあります。
まとめ
HCU(高度治療室)勤務は、数多くの疾患に携われるのでスキルアップにつながります。症状の重かった患者さんが回復したときには、大きな達成感も得られるでしょう。
HCU(高度治療室)看護師になるために、特別なスキルやキャリアは必要ありません。「急性期看護を極めたい」「看護師として数多くの経験を積んで成長したい」とお考えの方は、HCU(高度治療室)看護師を目指してみてはいかがでしょうか。
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※当記事は2024年8月時点の情報をもとに作成しています