• 2022年8月3日
  • 2023年9月11日

看護職賠償責任保険とは? 保険の種類・選び方からQ&Aまで

 

看護師が働く医療機関や施設のほとんどは、医療事故のリスクが伴う職場です。忙しいときや疲れているときにうっかりミスを起こし、背筋が凍る思いをしたことがある看護師の方もいるのではないでしょうか。近年では看護師を対象にした訴訟も増えており、自分自身を守るためにも看護職賠償責任保険へ加入するなどの備えが必要です。

当記事では、看護職賠償責任保険の補償内容や加入すべき理由、保険の選び方などを解説します。看護職賠償責任保険に関するQ&Aや医療事故を起こさないためのポイントも紹介するため、ぜひ参考にしてください。

看護職賠償責任保険とは?

看護職賠償責任保険は、看護師が職務を遂行するうえで発生した事故や事件に際し、請求された損害賠償責任の一部を負担してくれる保険のことです。近年では医療事故の内容に応じて、病院や医師だけでなく看護師に対しても責任や損害賠償を追求する訴訟事例があります。

万が一の事態に遭遇した際、働く看護師のことを守ってくれる保険制度が看護職賠償責任保険です。また、賠償責任保険は、通常病院やクリニックが、在籍している看護師に対して包括で契約していることがほとんどです。

看護職賠償責任保険で補償される内容

看護職賠償責任保険に加入することで受けられる主な補償は、以下の3種類です。

対人賠償
対人賠償は、看護業務の遂行中に患者さんへケガや後遺症を負わせた場合に支払う治療費、および休業補償などに適用される保険です。
事例
  • 薬剤の取り違えにより患者さんが傷害を負った
  • 採血や点滴を行う際に神経を損傷した
対物賠償
対物賠償は、看護業務の遂行中に患者さんや見舞客の私物、機材などを損壊した場合に支払う弁償代、および賠償金などが対象となります。看護師本人が破損した場合だけでなく、誤って廃棄した場合や盗難に遭った場合にも適用される保険です。
事例
  • 患者さんのコンタクトレンズを誤って廃棄した
  • 病室で使用しているパソコンを落として故障させた
人格権侵害
人格権侵害は、患者さんやその家族が人格を否定された、名誉毀損があったと感じて訴訟を起こしたときなどに適用されます。患者さん個人に対する問題だけでなく、病院で起こった情報漏えいに対する責任の追及に対しても適用される保険です。
事例
  • 患者さんの身体を拘束したことが不当であると訴えられた
  • 患者さんの症例を開示したことがプライバシーの侵害であると訴えられた

(出典:看護職賠償責任保険制度「看護職賠償責任保険制度とは」
(出典:株式会社メディクプランニングオフィス「看護職向け賠償責任保険」

また、保険会社によっては下記の補償制度を独自に用意していることもあります。

感染見舞金制度
勤務中・プライベートに関わらず、看護師自身が感染症に罹患した場合の入院、通院・自宅待機の日数に応じた金額が支払われる保険です。

被災時の見舞金制度
ボランティア活動中に被災するといった場合に見舞金が支払われます。自然災害が原因で食中毒を起こした場合も適用対象です。

法律相談
看護業務の遂行中に受けたハラスメントや発生したトラブル、患者さんから受けた激しいクレーム行為について、弁護士へ相談した際に発生する相談を無料で受け付けている

(出典:株式会社メディクプランニングオフィス「看護職向け賠償責任保険」

看護師は看護職賠償責任保険に加入するべき?

看護師は看護職賠償責任保険に加入するべき?

看護師の中には、看護職賠償責任保険に加入しない方も一定数いますが、多くの看護師は万一の事態に備え保険に加入している傾向があります。

勤務先によって規則は異なるものの、基本的に看護職賠償責任保険への加入は義務ではありません。しかし、近年では看護師が行える医療行為の範囲は拡大しており、看護師が負う責任の重さや医療事故・対人賠償事故を起こすリスクも増えています。

そのため、病院全体で看護職賠償責任保険への加入を推奨するケースは珍しくありません。また、万が一の事態に備え看護師自身の判断で個人的に保険へ加入する方もいます。

新人看護師から看護職賠償責任保険に加入するべき理由

2017年看護職員の労働実態調査結果報告では、看護師として働く方の8割以上が、業務でミスやニアミスを起こしたことがあると答えています。

基本的に、看護師の業務は医師の監督下で行われるため、病院内で発生した医療事故に関しては病院や医師が責任を負います。しかし、看護師本人が訴訟の対象になる可能性が比較的高いケースもあるでしょう。

看護職賠償責任保険加入者は、下記のようなメリットを受けられます。

  • 賠償責任で請求された金額を補填してくれる
  • 医療事故発生時は相談に乗ってくれる
  • 訴訟内容や請求金額の正当性を調査・判断してくれる
  • 比較的低額な掛け金で加入できる

(出典:日本医療労働組合連合会「2017年看護職員の労働実態調査結果報告」

新人看護師は、慣れない業務が多いためにインシデントの当事者になりやすいことも事実です。近年では医療の高度化が進んでいることから、新人看護師であっても医師から高度な医療行為のサポートを指示されることもあり、インシデントの発生リスクはさらに高まっています。

万が一のリスクに備えるためにも、看護師として就職した後はなるべく早い段階で保険に加入することが大切です。

看護職賠償責任保険の取扱団体・代理店|各保険の特徴

看護職賠償責任保険の取扱団体・代理店|各保険の特徴

看護職賠償責任保険は、どの代理店を通して加入するかによって保険料やプラン内容が細かに異なります。下記は、代表的な看護職賠償責任保険取扱団体・代理店の保険料・補償内容・強みをまとめた表です。

取扱団体・代理店 保険料 補償内容 強み
日本看護協会 2,650円
  • 対人賠償
  • 対物賠償
  • 初期対応費用(うち見舞費用)
  • 人格権侵害
  • 法律相談費用
  • スケールメリットによる安価な年会費
  • 専用コールセンターなどの設置による迅速な対応
  • 医療安全に詳しい相談員と顧問弁護士が連携
  • 事故発生直後~解決の全プロセスで対応・支援可能
  • 民事・刑事・行政責任の各事案にて相談可能
  • 日常業務内の医療安全に関わる内容も相談可能
  • ハラスメントに関する相談への対応・助言が可能
Willnext

Aプラン:2,980円

Bプラン:3,440円

  • 対人事故
  • 対物事故
  • 人格権侵害
  • 初期対応費用
  • 受託物
  • 錠交換費用
  • 共済制度による各種見舞金制度
  • 感染見舞金制度
  • 一般社団法人日本看護学校協議会共済会の年会費100円と共済制度運営費810円込み
  • 特定行為中・特定行為研修中の賠償事故も補償可能
  • 病院の機材を破損した場合も補償可能
  • 訪問看護中の預かりものも補償可能
  • 鍵交換費用も補償可能
  • プライベート時の感染症罹患、および自宅待機期間も見舞金の給付可能
  • 顧問弁護士による無料法律相談が利用可能
  • ボランティア活動中のケガや職業感染事故への見舞金給付可能
  • インターネットからの加入申し込みが可能
株式会社エージェント・インシュアランス・グループ 3,340円
  • 法律上の損害賠償金
  • 争訟費用
  • 損害防止軽減費用
  • 緊急措置費用
  • 協力費用
  • インターネットでの加入申し込みが可能
  • 団体割引が適用されるため、保険料は一般契約の20%引き
  • 保険料の振り込みにネットバンキングを利用可能
  • 年度途中での中途加入が可能
株式会社メディカル保険サービス 5,640円
  • 法律上の損害賠償金
  • 争訟費用
  • 損害防止軽減費用
  • 緊急措置費用
  • 協力費用
  • 初期対応費用
  • 訴訟対応費用
  • 保険料が高額な分、補償額も手厚い
  • 対人・対物補償の支払限度額は1億円

※上記補償内容には一部特約も含まれます

(出典:日本看護協会「看護職賠償責任保険制度」
(出典:Willnext「看護職向け賠償責任保険」
(出典:株式会社エージェント・インシュアランス・グループ「看護職賠償責任保険」
(出典:株式会社メディカル保険サービス「看護職・訪問看護事業者向けの保険」

日本看護協会

日本看護協会の「看護職賠償責任保険制度」は、日本看護協会の会員のみ加入できる保険です。掛け金は年間2,650円と、ほかの保険と比較して保険料の安さが最大の特徴となっています。

基本的な補償はすべて揃えられているだけでなく、専用コールセンターの設置、医療安全に詳しい相談員と顧問弁護士の連携など、補償内容が非常に充実していることも魅力です。

また、日常業務内の医療安全に関わる内容の相談も可能で、就業中のケガや感染症に対しても被保険者に保険金が支払われることもあります。ハラスメントに関する相談も対応しているため、新人看護師にとっては安心の保険となるでしょう。

看護職賠償責任保険は、日本看護協会会員でない方も入会手続きが完了次第、Webまたは・郵便振替のいずれかの方法で簡単に加入手続きを行えます。
(出典:日本看護協会「看護職賠償責任保険制度」

Willnext

Willnextの「看護職向け賠償責任保険」は、日本看護学校協議会共済会の会員のみ加入できる保険です。補償限度額の違いによってAプラン・Bプランの2つに分けられており、必要性に応じて適切なプランを自由に選択できます。

各プランの掛け金は、Aプランで年間2,980円、Bプランは年間3,440円であり、Bプランのほうが手厚くなっています。例として、対人賠償における1事故あたりの補償限度額は、Aプランで5,000万円、Bプランは1億円です。

また、看護職向け賠償責任保険は、訪問看護中の預かりものや鍵の紛失などによる錠交換費用も補償できるなど、細かな看護師保険サービスが展開されていることも魅力といえるでしょう。

なお、看護職向け賠償責任保険の掛け金には日本看護学校協議会共済会の年会費(100円)と共済制度運営費(810円)が含まれています。日本看護学校協議会共済会の会員になっている方にとってはうってつけの保険です。
(出典:Willnext「看護職向け賠償責任保険」

株式会社エージェント・インシュアランス・グループ

株式会社エージェント・インシュアランス・グループの「看護職賠償責任保険」は、東京海上日動火災保険株式会社が引受保険会社となる看護師・准看護師・保健師・助産師向けの保険です。掛け金は年間3,340円で、法律上の損害賠償費用から損害賠償請求の解決に向けた協力費用まで、考え得るリスクに備えるさまざまな補償が充実しています。

なお、看護職賠償責任保険の申し込みは、看護職個人でも加入できる団体保険のみの受付となっています。看護職賠償責任保険に加入したい場合は、基本的に保険契約者である「株式会社イースウェル」が立ち上げている「働く女性の会」に加入して申し込むこととなります。団体保険扱いとなるため、補償内容はそのままで保険料が一般契約(個人加入)から20%割引されます。

看護職賠償責任保険への加入手続きは、インターネット上で簡単に行えます。申込フォームから手続きを踏めば、保険加入と同時に働く女性の会会員となるため、スムーズに加入できる点も魅力といえるでしょう。
(出典:株式会社エージェント・インシュアランス・グループ「看護職賠償責任保険」

株式会社メディカル保険サービス

株式会社メディカル保険サービスの「看護職賠償責任保険」は、株式会社エージェントと同様の、東京海上日動火災保険株式会社が引受保険会社となる看護職向けの保険です。掛け金は年間5,640円と紹介した中では最も高く、その分補償内容が非常に充実していることも特徴となっています。

例として、対人・対物賠償の補償額上限は1億円と、ほかの損害賠償保険と比較して圧倒的な額です。高級住宅地で訪問看護を行うことの多い看護師や高額な医療器具・機器の多い職場で働く看護師にとっては、最も安心できる保険といえるでしょう。

株式会社メディカル保険サービスの看護職賠償責任保険への申し込みは、郵送のみとなっています。資料・申込書は、公式ホームページ上の問い合わせフォームから簡単に請求できます。
(出典:株式会社メディカル保険サービス「看護職・訪問看護事業者向けの保険」

看護職賠償責任保険が適用されてから支払いまでの流れ

看護職賠償責任保険が適用されてから支払いまでの流れ

看護職賠償責任保険の適用に必要な手続きややり取りは、保険の種類によって異なります。しかし、基本的な流れはどの種類でもおおむね共通です。万が一の際に落ち着いて対応するためにも、どのようにして賠償責任保険が適用されるのか把握しておきましょう。

ここでは、看護職賠償責任保険が適用されてから支払いに至るまでの基本的な流れを、「対人賠償」と「対物賠償」の2つを例に紹介します。

対人賠償の場合

対人賠償で看護職賠償責任保険を利用する場合の基本的な流れは、以下の通りです。

1 医療事故の発生
医療事故が発生した時点で、まず医師へ連絡、患者の応急処置などを行い、対応が落ち着いてから保険担当者に連絡します。サポート体制によっては、事故疑いの場合でも事前相談が可能です。
2 医療事故が確定
医療事故であると確定した場合は、保険会社に事故報告書を提出します。加入している保険内容によっては、被害者および被害者家族へのお見舞いもサポート可能です。
3 被害者による賠償請求
保険会社側の顧問弁護士と連携して訴訟に対応します。
4 事故審査委員会の開催
看護の有識者・弁護士・保険会社の事故処理責任者・日本看護協会の代表などで構成された事故審査委員会が開催されます。
5 賠償責任の内容や請求金額の妥当性を審査
被害者が被った損害の度合いに対する事実確認、および請求金額の妥当性を詳細に調査・審査します。
6 賠償金の支払い
害に応じた賠償金額が保険会社より支払われます。

対物賠償の場合

対物賠償で看護職賠償責任保険を利用する場合の基本的な流れは、下記の通りです。

1 対物事故の発生
事故が発生した時点で、まずは上司・病院に報告します。その後、被害者が賠償を希望した場合、対応が協議されます。保険会社が事故の状況を確認するため、事故現場や被害物の写真撮影も必要です。
2 保険会社へ報告
看護師に過失があると判断された場合、保険会社に事故の報告を行います。
3 病院側の対応協議
保険会社で算出された看護師の過失や責任性の割合、損害に対する補償額の目安をもとに、被害者への対応方針を協議します。
4 被害者への対応
被害者へ損害賠償に関して説明するとともに、修理費用見積書や領収書など、損害の確認に必要な書類の提供も依頼します。
5 保険会社へ請求
保険会社の指示に従い、事故当時の写真や必要書類などを提出します。
6 賠償金の支払い
損害に応じた賠償金額が保険会社より支払われます。

看護職賠償責任保険の選び方

看護職賠償責任保険の選び方

看護職賠償責任保険を選ぶにあたっては、適用範囲と補償額に加え、保険会社や団体によるサポート体制をよく確認したうえで適切な保険会社を選ぶことが大切です。

ここからは、看護職賠償責任保険選びの方法を、「適用範囲と補償額」「サポート体制」の2つのポイントに分けてそれぞれ詳しく説明します。

適用範囲と補償額

補償の適用範囲と限度額は、加入する保険によって細かに異なります。

主な補償範囲としては、対人・対物賠償や人格権侵害、法律上の損害賠償金などが挙げられます。保険プランによっては、鍵や預かりものの紛失・盗難など業務上起こり得る比較的小さなトラブルにも対応する補償が適用範囲となるケースもあります。適用範囲が広ければその分掛け金も高額となるため、日頃の業務内容に応じて適切な保険・プランを選びましょう。

また、補償内容が同じでも、保険料が高くなれば万が一の場合に支払われる保証額も高くなります。訪問看護など、患者さんの高額な財物に触れる機会がある場合は賠償金が高額になる可能性を考慮したほうがよいでしょう。

サポート体制

看護職賠償責任保険を選ぶ際は、保険会社や代理店のサポート体制も要チェックです。

事前・平時の法律相談や感染症対応など、保険会社によってサポート体制の詳細は異なります。保険会社・代理店やプランによっては、事故発生前の業務に関する安全上の相談やハラスメント相談にも対応しているなど、万が一のリスクにより備えられるサポートを提供しています。

加入前には、各保険の資料にしっかり目を通したうえで、「保険に含まれるサポート体制が自身の業務に見合っているか」を軸にプランの必要性を確認しましょう。疑問点があれば、直接保険会社や代理店に問い合わせることも大切です。

看護職賠償責任保険に関するよくあるQ&A

看護職賠償責任保険に関するよくあるQ&A

看護職賠償責任保険への加入を検討する際は、保険そのものへの理解を深めておく必要があります。保険のことを十分に理解するためにも、まずは保険に関する基本的な疑問を解決しておくことが重要です。

ここでは、看護職賠償責任保険に関するよくあるQ&Aを4つ紹介します。

加入方法の一般的な流れが知りたいです

以下は、看護職賠償責任保険に加入する際の一般的な流れです。

1 資料請求
各種保険会社に資料請求を行います。
2 加入申込書の入手
保険会社から保険に関する資料一式と、加入申込書が郵送で送られてきます。
3 加入申込書類の返送
入会申込書・口座振替依頼書などを各書類に必要事項を記入し、返信用封筒で返送します。
4 加入証書の送付
看護職賠償責任保険の加入者証が送付されます。

なお、上記はあくまでも一般的な加入手続きです。保険の種類によっては、下記のように詳細が異なる場合もあります。

  • 保険を運営する協会や協議会への会員登録が必須の場合がある
  • 入会金や会費が別途必要になる場合がある
  • インターネット上で申し込みから決済まで完結できる保険もある
  • 支払い方法が限定されている場合がある

実際に加入を希望する場合は、必ず各保険の申し込み手続きを確認してください。ほとんどの保険で、インターネット上から保険に関する詳細な資料をダウンロードできます。

賠償されないケースもありますか?

保険会社によって詳細は異なりますが、主に下記のケースでは保険適用外となる傾向があります。

  • 故意に起こした事故や事件に起因する賠償請求の場合
  • 戦争・暴動・労働争議に起因する賠償請求の場合
  • 自然災害に起因する賠償請求の場合
  • 必要な法定資格を所持せず行った業務に起因する賠償請求の場合
  • 看護師としての業務外で起こした事故や事件に起因する賠償請求の場合
  • 日本国外で起こした事故や事件に対する賠償請求の場合
  • 保険解約後に事故が発覚し賠償請求された場合
  • 美容を唯一の目的とする業務に起因する賠償請求の場合
  • 刑事訴訟における賠償請求の場合
  • 自動車(原付含む)・航空機・船舶の所有や使用、管理に起因する賠償請求の場合

上記の中で、「美容を唯一の目的とする業務」は美容外科などが当てはまります。美容医療を専門とする病院で働く場合は、「美容医療賠償責任保険」も検討するとよいでしょう。

契約期間は決まっていますか?

看護職賠償責任保険は、基本的に1年満期の契約です。また、自動更新されない会社がほとんどのため、自身で保険加入期間を把握し更新手続きを行う必要があります。なお、加入期間も保険会社によって異なります。

たとえば、日本看護協会の看護職賠償責任保険であれば、毎年4月1日16時~翌年4月1日16時までが加入期間となります。一方、日本看護学校協議会共済会の看護職賠償責任保険であれば、毎年3月31日16時~翌年3月31日16時までが加入期間です。更新の案内もメール・郵送など対応が分かれるため、期限切れの前に手続きを行いましょう。

なお、加入期間中の退会も可能ですが、保険解約後に発覚した事故は補償対象外となります。職を離れる場合は携わった業務内容と賠償保障期間を照らし合わせて、解約時期を検討することが大切です。

複数の保険会社から見積りをとったほうがいいですか?

看護職賠償責任保険の加入を検討した際は、なるべく複数の保険会社から見積りをとるとよいでしょう。しっかりと比較検討をするためには、このとき「なるべく同様の条件で見積もってもらう」ことが大切です。

複数の保険会社から同じ条件で見積もってもらうことで、保険料の相場や基本的な補償範囲について具体的に把握できるようになります。結果として、自分にとって最適な保険会社をスムーズに見つけられやすくなるでしょう。

しかし、見積りをとりすぎると比較対象の保険会社が多くなり、かえって加入までに多くの時間がかかる可能性もあります。看護職賠償責任保険を提供する保険会社を見つけ次第やみくもに見積りをとるのではなく、気になる保険会社をある程度ピックアップし、2~3社に絞り込んだうえで見積もってもらうようにしましょう。

【番外】看護師が医療事故を起こさないための重要ポイント

【番外】看護師が医療事故を起こさないための重要ポイント

故意でなかったとしても、ひとたび医療事故が起これば民事や刑事によって何かしらの責任を追及される事例は珍しくありません。看護師として働く以上、医療事故のリスクを完全になくすことは難しいでしょう。しかし、医療事故が発生する確率を低くすることは可能です。

ここでは、医療事故を起こさないために看護師が気をつけるべきことを3つ紹介します。

6つのRを確認する

看護師が医療事故を起こさないためには、6つのRを常に確認することが大切です。国家試験でも出題される6つのRとは以下の通りです。

綴り 意味
Right Patient 正しい患者
Right Drug 正しい薬剤
Right Purpose 正しい目的
Right Dose 正しい用量
Right Route 正しい用法
Right Time 正しい時間

看護師自身のミスによって起こる医療事故の一つに、薬品の誤投与が挙げられます。薬品の誤投与は、忙しいときや看護行為に慣れてきたときに起こしやすいうえ、重大な医療事故に結びつく恐れが高いミスです。最低でも薬品の準備段階・薬品の投与段階の両方で、毎回入念に6つのRを確認しましょう。

また、医師の指示が常に正しいとは限りません。医師が間違った薬品名や用量を指示していないか判断するためにも、薬品の薬理や作用に対する十分な理解が必要です。

ホウレンソウを徹底する

看護師が医療事故を起こさないためには、ホウレンソウ(報告・連絡・相談)を欠かさないことが大切です。公益社団法人大阪府看護協会 医療安全対策委員会では、医療におけるホウレンソウを以下のように定義しています。

報告
  • 仕事の経過や結果を上司や先輩に知らせること
  • 報告までが仕事
連絡
  • 関係者に仕事上の事実や情報を伝えること
  • 適切に、確実に
相談
  • 判断に迷うときや意見を聞いてもらいたいときなどに上司や先輩に意見を聞きアドバイスをもらうこと
(引用:公益社団法人大阪府看護協会 医療安全対策委員会「医療従事者が知っておきたい基礎知識」

看護師の仕事は自身の業務だけで完結できるわけではありません。常にチームの一員として適切に動くことが求められます。チーム間での情報共有が機能していれば、患者さんの異変に早く気づけるため、重大な事故を未然に防ぐことが可能です。自己判断のみで情報を取捨選択せず、すべての情報をしっかりと伝えるようにしましょう。

必要に応じて環境を変える

業務のペースや職場の勤務状況が自身に合わないと感じた場合、環境を変えることも一つの方法です。周りがてきぱきと動ける方ばかりでは、無理にペースを合わせようとして注意力が散漫になる場合もあります。また、合わない環境で無理に働き続けると、寝不足や疲労が蓄積してミスやニアミスを誘発しかねません。

落ち着いた環境で冷静な判断が下せる職場であれば、確認漏れが起こりにくく、周りとのホウレンソウをスムーズに行える確率も上がります。今の職場が合わない、努力してもミスが減らせないと感じる場合は、部署異動や転職も検討し、環境を変えてみるのも一案でしょう。

まとめ

看護職賠償責任保険とは、職務を遂行するうえで発生した事故や事件に際し、請求された損害賠償責任の一部を負担してくれる看護師向けの保険です。

近年では、看護師自身が医療事故で賠償請求をされる事例も増えています。万が一の際、被害者に最大限の謝意を示しつつ自身の将来を守りたい場合は、看護職賠償責任保険への加入が望ましいでしょう。

医療事故を起こさないためには、日頃の努力を怠らないだけでなく落ち着いて働ける職場環境も大切です。今の職場が自身に合わないと感じるときは、看護師求人サイト「マイナビ看護師」から、看護業界に精通したキャリアアドバイザーの転職サポートをぜひご利用ください。会員登録・キャリアアドバイザーへの相談は、完全無料となっています。

※当記事は2023年7月時点の情報をもとに作成しています

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