「看護師の仕事は好きだけど、子育てしながら働くのは大変……」
「夜勤や研修が多くて、プライベートの時間がなかなか確保できない!」
「看護師もワークライフバランスを実現できるの?」
こんにちは、ナースぷらす編集部の吉田です。
最近ニュースなどで話題になっている「ワークライフバランス」。
これは、仕事とプライベートをどちらも充実させて、相乗効果を生み出そうという考え方のこと。
たとえば……。
できるだけ残業をせずに帰宅するようにしたら、家族と過ごしたり趣味に打ち込む時間が増え、イライラすることが減った。
その結果、仕事でも心の余裕が生まれ、うっかりミスが少なくなり、同僚や上司とのコミュニケーションも円滑になった。
ワークライフバランスはこうした好循環を指します。
近ごろ、テレワーク(在宅勤務)やリフレッシュ休暇などを推奨することで、ワークライフバランスの改善に力を入れる一般企業が増えてきました。
また、ワークライフバランスは少子高齢化による労働力不足を解決するカギになるともいわれ、国もワークライフバランスの推進を急いでいます。
でも看護師さんの場合、どのようにしてワークライフバランスを改善すればいいのでしょうか?
看護職は、患者さんを日夜ケアしなければならない大変なお仕事。
夜勤をしたり、休日にも研修や会議に出席したり、急な呼び出しがあったりしますよね。 また、まとまった有給休暇が取りにくいといった悩みもよく聞きます。
実際、マイナビ看護師がおこなったアンケートによると、「ワークライフバランスがばっちりとれている」という人は8.5%しかいなかったんです……!
でも実は最近、看護師さんが仕事とプライベートをしっかり両立できるよう、ワークライフバランスに取り組む病院・クリニックが増えてきているんです!
たとえば、時短勤務などさまざまな勤務形態から選べるようにしたり、申し送りの効率化によって残業時間を減らしたり。
また、ワークライフバランスを実現するために、仕事の仕方や時間の使い方を自分なりに工夫している看護師さんもたくさんいらっしゃいます。
そこで今回、ナースぷらす編集部では、看護師さんのワークライフバランスについて、深く切り込んでみます!
看護師さんがワークライフバランスに悩む背景や、ワークライフバランスを推進している病院・クリニックの事例を紹介。
また、実際に現場で働く師長さんや看護師さんにインタビューやアンケートを実施して、ワークライフバランスに取り組むアイデアも伺ったので、詳しくお伝えしますね!
今まさしくワークライフバランスに悩んでいる看護師さんはもちろん、「将来は子育てもしたいけれど、看護師を続けられるかな……」などと不安に思っている方のヒントになれば幸いです。
なお、看護師さんがワークライフバランスに取り組む事例やアイデアを今すぐ見たい場合は、以下のリンクをタップしてくださいね。
また、ワークライフバランスの定義やメリット、一般企業の事例を知りたい方は、以下の記事もあわせてご覧ください。
>>ワークライフバランスの定義やメリットについて詳しく知る
(別の記事に移動します)
それでは、まいりましょう!
看護師がワークライフバランスに悩む背景
冒頭でお伝えしたとおり、看護師さんはワークライフバランスをとるのが難しい職業です。
それは、「看護師不足」という昨今の社会的背景と、「患者さんの命を守る」という責務があるからなんです。
まずは、「看護師不足」という社会的背景について見ていきます。
看護師不足という社会的背景
今、各施設で看護師さんの人数が足りておらず、1人当たりの仕事の負担が大きくなっています。
それがワークライフバランスをとりにくい大きな理由。
マイナビ看護師がおこなった調査によると、「看護師が不足している」と感じている病院やクリニックは57.9%にも上りました。
(出典:マイナビ看護師『看護師白書』2020 年度版)
ここで注意したいのは、看護師さんの人数自体は減っていないということ。
実は看護職員(保健師、助産師、看護師、准看護師)そのものは増加傾向にあり、2016年には約166万人を突破しています。
(出典:日本看護協会出版会編集『平成29年 看護関係統計資料集』)
でも、高齢化によって患者さんの人数が増えたことで、病院・クリニックや介護施設で必要な看護師さんの人数も増加しています。
そのため、「看護師さんは増えているけれど、各施設では人手が足りない」という状況になっているんです。
厚生労働省のシミュレーションでは、2025年までに必要とされる看護職員数は約200万人。
ここ数年と同じペースで看護職員が増えたとしても、2025年に約200万人に達するのは厳しいと予想されています。
一方、看護師の離職も看護師不足に影響を与えています。
日本看護協会によると、2019年度の正規雇用の病院看護職員の離職率は11.5%で、横ばいの状態。
しかも、この離職率自体は、他の職種と比べて特段高いわけではありません。
(出典:日本看護協会「2020 年 病院看護実態調査」 結果)
看護師さんは仕事と家庭の両立が難しく、一度離職すると復職しないケースも多いそう。
看護師の資格をもっているのに働いていない「潜在看護師」の方は、2014年時点で約71万人もいると推定されています。
もし潜在看護師の方が現場に復帰してくださったら、この人手不足は解消されるかもしれません。
でもそのためには、病院・クリニックがワークライフバランスの制度を整えることが重要ですよね……!
続いて、看護師さんならではのワークライフバランスに悩む背景を解説します。
こちらの背景は、看護師さんの離職の理由にもなっているんです。
看護師という職業ならではの背景
看護職は、患者さんの命を守るべき責務があります。
それがやりがいでもありますが、つねに緊張感をもって働き続けなければならず、責任も重いため、ワークライフバランスがとりにくいのも事実です。
看護師さんならではのワークライフバランスの悩みを、以下にリストアップしてみました。
- 有給休暇をとりにくい
- 長期休暇が少ない
- 夜勤・交代制勤務の負担が大きい
- 休日も研修や会議、呼び出しがあったり、疾患の勉強をしなければならない
- 女性が多い職場なので、周りや自分自身の結婚・出産といったライフイベントの影響を受けやすい
- プライベートでも健康相談をされる
- ネイルやヘアカラーなど好きなおしゃれができない
とくに多くの看護師さんが悩んでいたのは、有給休暇や残業に関すること。
マイナビ看護師が看護師さんにとったアンケートでは、「休みがとりにくい」が1位、「残業が多い」が2位でした。
ちなみに、アンケートでは、こんな声も……。
- 疾患や看護の勉強をしたいのに、心身ともに疲れて寝てしまい、休みを有効に使えない
- プライベートの健康相談がすごく多いのでイライラします
- 人手不足だから、夜勤専従をしています
せっかく志をもって看護師になったのに、残念ですよね……。
繰り返しになりますが、どんな看護師さんにとってもワークライフバランスはとても大切な考え方。
なぜなら、仕事だけでなくプライベートも充実させることで、心身のストレスが軽減し、穏やかに過ごせる時間が増える。
すると、仕事へのモチベーションが上がって質のよい看護ができるようになり、スタッフや患者さんにさらに感謝されるようになる。
すると、自己肯定感が高まり、人生の幸福度もアップするんです。
看護師さんがワークライフバランスを取り入れるメリットは大きいんですよ。
一方、病院・クリニックにとっても看護師さんのワークライフバランスを推進するメリットは大きいです。
ここからは、なぜ看護師さんにワークライフバランスが必要なのかをお伝えします。
今すぐ、ワークライフバランスを実現するためのアイデアを知りたい方は、以下のリンクをタップしてくださいね。
なぜ看護師にワークライフバランスが必要なの?
なぜ看護師さんがワークライフバランスを実現する必要があるのかというと、実はワークライフバランスが看護の現場の重大な課題を解決するカギとなるからなんです。
その課題とは、以下のとおりです。
- 看護師不足
- 看護師の健康リスク
順番に見ていきましょう。
1.看護師不足
先ほどもお伝えしたとおり、看護師不足は現場の負担が増え、ワークライフバランスが悪化する背景になっています。
そして、ワークライフバランスが悪化すると、働きたくても離職せざるをえない看護師さんが出てきて、ますます看護師不足が加速。
さらに、人手が足りないために看護の質も低下してしまうという、負のスパイラルに……。
とくに結婚、出産、介護など大きなライフイベントに直面した看護師さんは、家庭との両立が困難になって離職するケースが多いんです。
そんな負のスパイラルを断ち切るには、勤務形態を柔軟に選べるようにしたり、子育て・介護支援制度を整えたりして、どんな立場の看護師さんも働ける環境をつくることが重要です。
そのようにしてワークライフバランスを実現することで、離職が減り、長く働き続ける人や復職する人が増え、結果として看護師不足が改善すると期待されています。
2.看護師の健康リスク
看護職は、患者さんの健康に関わる判断や処置をつねにおこなわなければならず、強いストレスが伴う仕事。
加えて、病棟勤務の場合は、夜勤・交代制勤務や長時間労働などの負担も大きくなりがちです。
こうした心身へのストレスや負担が軽減されないと、睡眠の質が低下したり、月経周期が乱れたり、循環器への負担が生じたりして、糖尿病や高血圧といった重い病気のリスクが高まってしまいます。
また、慢性的な体調不良によって集中力や判断力が落ちることで看護の質が低下し、重大な医療事故が発生するリスクも高まってしまうんです。
だから、ワークライフバランスを整えることは、看護師さん本人はもちろん病院・クリニックにとっても本当に重要です。
日本看護協会でも、看護師さんが健康に長く働き続けられる労働環境を目指し、「夜勤中の仮眠時間を確保する」「夜勤をした人の時間外労働をなくす」といった提案をおこなっています。(参照:日本看護協会「就業継続が可能な看護職の働き方の提案」)
ここまで、なぜ看護師さんがワークライフバランスを実現する必要があるのかをお伝えしてきました。
では、病院・クリニックは具体的にどんな取り組みをおこなえばいいのでしょうか?
ここからは、ワークライフバランスを推進する病院の事例をお伝えします。
ワークライフバランスを推進する病院が増加中!注目の事例を紹介
2019年に「働き方改革」が本格的にスタートし、ワークライフバランスに取り組む企業・組織が増えています。
これまで労働環境が厳しいイメージが強かった病院・クリニックも例外ではありません。
マイナビ看護師の調査によると、75.6%の事業者が看護職員の労働環境改善・定着のために何かしらの取り組みを実施中または予定・計画していました。
(出典:マイナビ看護師『看護師白書』2020 年度版)
看護師のワークライフバランス推進の旗振り役となっているのは、日本看護協会です。
日本看護協会では以前より、ワークライフバランスに取り組む病院・クリニックを表彰する「カンゴサウルス賞」事業を実施。
また、「看護職のワーク・ライフ・バランス推進ガイドブック」を配布し、ワークライフバランスの具体的な施策を提案してきました。
このガイドブックで紹介されているワークライフバランス施策を中心に、病院・クリニックが実施している取り組みを見ていきましょう。
病院の代表的なワークライフバランス施策
病院・クリニックでワークライフバランスを実現するための施策には、主に以下のようなものがあります。
- 多様な勤務形態
- 夜勤・交代勤務制の改善
- 労働時間の管理
- 子育て支援
- 復職支援
「そうそう、その取り組みがうちの病院にも必要なの……!」とうなずく看護師さんが多いかもしれませんね。
ひとつずつカンタンに解説していきましょう。
1.多様な勤務形態
子育てや介護など、さまざまな事情からフルタイムで働けない人のために、時短勤務制度を整えたり、複数の勤務時間帯から選べるようにする取り組みが増えています。
また、時短勤務の看護師さんの配置先も広がっています。
以前は時短勤務の看護師さんといえば外来に配置されることがほとんどでしたが、最近は病棟にも増えてきているんですよ。
2.夜勤・交代勤務制の改善
病棟で働く看護師さんにとって、夜勤・交代勤務制は負担が大きく、ワークライフバランスが悪化する要因になっています。
夜間の長時間労働が事故発生につながりやすいという研究もあり、看護の現場では夜勤・交代制勤務の負担軽減が急務です。
マイナビ看護師の調査によると、夜間の負担を軽減する取り組みを実施中または予定・計画している事業者は46.1%でした。
(出典:マイナビ看護師『看護師白書』2020 年度版)
また、夜間の負担軽減に取り組んでいる事業者に、効果が高かった施策を聞いたところ、以下のような結果となりました。
出典:マイナビ看護師『看護師白書』2020 年度版
3.労働時間の管理
有給休暇を取得しやすくしたり、時間外労働を減らしたりなど、労働時間を管理することもワークライフバランスを改善するうえで大切です。
有給休暇を取得しやすくする取り組みには、「時間単位や半日単位で取得できるようにする」「有給休暇の取得率の目標を設定する」といったものがあります。
働き方改革により、2019年から年5日以上の有給取得が義務付けられたこともあり、この取り組みは今後ますます広がっていきそうです。
一方、時間外労働を減らす取り組みとしては、「研修や会議は日勤の時間帯におこなう」「体位変換の介護業務は介護士に依頼するなど、他職種と連携する」「看護記録を効率化するシステムを導入する」といったものがあります。
また、2人でパートナーを組み、時差出勤により情報収集や申し送りを分担する「2人パートナー制」も時間外労働を減らすのに効果的とされています。
4.子育て支援
子育て中の看護師さんが働きやすいように子育て支援制度を整えている病院・クリニックも増えています。
代表的な取り組みは院内保育所。
通常保育はもちろん、夜間保育や病児保育に対応している病院も多いです。
また、未就学児だけでなく小学生も預けられる託児所を設けている病院も。
そのほか、病院によっては、子どもの体調不良による休みがあった場合に、周りの人にしわ寄せがいかないように代わりの看護師を派遣する制度を整えています。
5.復職支援
結婚や出産をきっかけに離職した看護師さんが復職しやすい制度も大切です。
一度離職してブランクが空いてしまうと、「今の医療技術についていけないのではないか」「医療事故を起こしてしまうのではないか」といった不安から、復職をためらうケースが多いからです。
復職セミナーといった復職支援制度は、都道府県の看護協会が運営するナースセンターが実施していますが、独自の研修制度を用意する病院も出てきています。
続いては、ワークライフバランスに実際に取り組んでいる病院・クリニックの事例をご紹介します。
ワークライフバランスを推進する病院で働く現役師長さんへのインタビューも必見です。
ワークライフバランスを取り入れている病院の事例
まずは、医療機関の労働環境の改善事例を掲載する厚生労働省の「いきサポ」より、2つの病院の事例をご紹介します。
武蔵村山病院
『誕生日休暇など有給取得を促進し、離職率が15.6%から7.2%に改善!』
1つ目の事例は、東京都武蔵村山市で初めての総合病院として2005年に開院した武蔵村山病院です。
武蔵村山病院
●基本情報
- 主たる医療機能の特徴・・・急性期機能
- 病床数・・・300床
- 看護職員数・・・237人
●きっかけ・課題
- 開院して間もないため、職員を呼び込む魅力がない
- 離職率が高い
●主な取り組み
- 24時間対応の院内保育所設置
- 有給取得の促進
- 休暇制度の充実(誕生日休暇など)
- 院長賞の授与
- 等級制度・能力給の導入
- 「心の健康づくり計画」を策定し、メンタルヘルス対策の取り組みを実施
●効果
- ・離職率が15.6%(2013年度)から7.2%(2018年度)に改善
- ・年次有給休暇の取得率が52.4%(2013年度)から90.7%(2018年度)に改善
武蔵村山病院は比較的新しい病院でしたが、新しいということ以外に職員を呼び込める魅力がありませんでした。
そのため、離職率は2013年度時点で15.6%と高い水準に。
そこで、「働きやすい職場」を目指すべく、子育てを支援したり有給の取得を促したりと、さまざまな制度を整えました。
とくに、子育て支援策として設置した24時間体制の「院内保育所」は喜ばれたそうです。
夜間保育はもちろん、復職時に保育所が見つからなかった場合の一時保育にも活用でき、職員からの評判は上々。
また、公休が4週8休と少ないことに対し不満の声があがっていましたが、新たに誕生日休暇などの休暇を増やしたことで職員の満足度がアップ。
その結果、2018年度には離職率が7.2%と大幅に改善し、有給取得率も90.7%と高い水準に達しました。
今後は「働きがい」を重視し、キャリア設計や教育の施策にも積極的に取り組むそうです。
埼玉精神神経センター
『多様な勤務形態や夜勤の負担軽減で離職率改善!男性の育休取得者も』
埼玉精神神経センターは、神経内科と精神科の専門病院です。
同院がワークライフバランスに取り組んだきっかけは、育成してきた看護師の離職でした。
埼玉精神神経センター
●基本情報
- 主たる医療機能の特徴・・・急性期機能
- 病床数・・・357床
- 看護職員数・・・199人
●きっかけ・課題
- 育成してきた看護師が一般病院に転職してしまう
- 離職率が12.9%と高め
●取り組み
- 多様な勤務形態(フレックスタイム制、時短勤務など)
- 夜勤の負担軽減(夜勤明けの早帰りの推進、仮眠時間の確保や延長など)
- 長期休暇の取得推進
- 院内保育園や学童保育
●効果
- 離職率が9%程度に改善
- 1週間程度の連休の取得率が49.5%(2013年)から79.2%(2016年)に上昇
- 男性看護師の育休取得
- 夜勤中の平均仮眠時間が約1時間から75分(2019年)に延びた
同院は専門性が高いことから、看護師にとってキャリア面の強みになると考えてきました。
ところが、独り立ちできるまで育成してきた看護師が、一般病院も経験してみたいとして転職するケースが発生し、離職率が12.9%と高めになってしまったのです。
そこで同院は、看護部長と看護主任を主体に、離職率を改善する施策を実施。
たとえば、夜勤の負担を軽減するために「夜勤明けの早帰りの推進」「夜勤回数の制限」「仮眠時間の確保」などに取り組んだほか、フレックスタイム制や時短勤務などさまざまな勤務形態を用意。
また、長期休暇の取得も促進しました。
すると、離職率が9%程度で安定し、看護師の定着と新陳代謝を良いバランスで維持できるようになったのです。
さらに、1週間程度の連休の取得率が49.5%(2013年)から79.2%(2016年)に上昇。
男性看護師が1年間の育休を取得するケースも出ているそうです。
2016年には、日本看護協会からワークライフバランスを推進した病院に授与される「カンゴサウルス賞」を受賞しています。
【現役師長さんインタビュー】働き方の相談窓口を設置する横須賀市立うわまち病院の取り組み
ここからは、ワークライフバランスに取り組む病院で働く師長さんのリアルな声をお伝えしていきます。
今回インタビューさせていただいたのは、横須賀市立うわまち病院 内科病棟師長の伊藤清恵さんです。
うわまち病院は地域医療支援病院で、病床数は417床(※新型コロナウイルス感染症への対応で変動あり)、看護職員数は370名程度。
働き方改革がスタートする以前から、業務改善の一環としてワークライフバランスの推進に積極的に取り組んできました。
伊藤さんは2011年に入職し、新型コロナウイルス感染症が拡大する直前に師長になりました。
ご自身も1歳のお子さんを育てながら、スタッフのワークライフバランスを実現するために日々奮闘されています。
うわまち病院でのワークライフバランスの取り組みを、コロナの拡大前と後での変化もまじえながらお話しいただきました。
●インタビューにご協力いただいた方
伊藤 清恵さん
急性・重症患者看護CNS(専門看護師)。
うわまち病院には2011年に入職し、2021年から内科病棟師長。当院で管理職として初めて産休・育休を取得し、1歳のお子さんを子育て中。
■「女性活躍推進プロジェクト」が多様な働き方をサポート
――まずは、うわまち病院で今どんなワークライフバランスの取り組みを実施しているのかを教えてください。
伊藤師長
取り組みの一つとして、看護師が働き方を相談できる「女性活躍推進プロジェクト」があります。
子育て・介護などさまざまな事情で働き方に悩んでいる看護師に対し、「こういう働き方なら続けられるのでは?」と提案する窓口です。
本人が直接相談しづらいという場合は、師長が代理で窓口に相談するケースもあります。
こうした取り組みによって、今ではさまざまな勤務形態の方が働いていますね。
――院内保育所もあるそうですね。
伊藤師長
これまで色々な病院で働かせていただきましたが、うわまち病院の院内保育は充実しているほうだと思います。
ただ、私が入職した頃はまだ利用者が少なく、コメディカルなど多職種の方々も預けられたのですが、今はかなり利用者が増え、利用できる職種に制限をかけている状況です。
利用者が増えたのは、育休中の看護師が復帰したいタイミングですぐに復帰できるように支援する体制を整えたからというのもあります。
育休を9カ月や10カ月で終えて、早めに復帰するケースが増えているんです。
――看護師さんの悩みとして多い「休暇」については、どんな取り組みをされていますか。
伊藤師長
私が師長になって病棟目標を掲げた際、「最短5日の連休を取得できるようにする」という指針を出し、年間で休みのスケジュールを立てました。
また、普段も「体をしっかり休めたい」といったスタッフに配慮して、できるだけ3連休を取得できるようにしていました。
ただ、休みを増やす分、働く人数が少なくなるので、残業が多くなってしまうという面はあります。
そのため、スリム化できる業務はスリム化するのが課題ですね。
■師長として初めての産休・育休取得
――ワークライフバランスの取り組みによって、どのような効果が得られたのでしょうか?
伊藤師長
私が10年前に入職した当時はかなり離職率が高かったのですが、改善されたと思います。
また、勤務形態が多様になり、時短勤務の方も増えました。
これまで時短勤務の方は外来に配属されることが圧倒的に多く、当院も例にもれなかったのですが、ここ最近は病棟にも必ず時短勤務の方が配属されるようになりました。
――ワーママナースが増え、活躍の場が広がっているのですね。
伊藤さんご自身のワークライフバランスはいかがでしょうか?
伊藤師長
実は、当院で師長として初めて産休・育休を取得して、1歳の子を子育て中です。
私より以前は、看護師は主任やスタッフのときにしか産休・育休を取得していなかったんです。
自分自身が育休を取ったことで、これまでスタッフから聞いてきた「復帰場所をどこにすればよいか」「どの部署なら働けるか」といった悩みが自分の中で繋がった感じがします。
「ああ、こういった思いでみんなは復帰してくるんだな」と理解できるようになりました。
普段の業務については、ほぼ定時で仕事が終わっているのですが、私の性格上、他のスタッフが終わっていないとつい手伝ってしまいます。
そこで割り切れれば子育てに専念できるのかもしれませんが、なかなか割り切れないので難しいですね。
■新型コロナウイルス感染症への対応でオンラインシフト
――新型コロナウイルス感染症の拡大により、ワークライフバランスの取り組みは変化しましたか?
伊藤師長
新型コロナウイルス感染症によって、診療の方法が変わって残業が増えるなど、新たな課題が生まれているなと感じます。
一方、研修会や会議のオンライン化が院内で進んでいます。
スタッフへの周知事項もオンラインで見られるようにしたところ、各自の好きな時間や場所に確認できるので業務負担の改善につながっていると感じますね。
――今はコロナ対応が最優先だと思いますが、コロナが落ち着いたら実施したい取り組みはあるのでしょうか?
伊藤師長
当院は福利厚生が充実していて、職員旅行や忘年会といったイベントにもともと力を入れていました。
こうしたイベントによって院内のコミュニケーションが活性化する面が大きいので、以前のような環境に戻れたらいいなというのはありますね。
――伊藤さん、ありがとうございました!
現場で働き、スタッフの悩みに親身に寄り添う師長さんならではの貴重なお話でしたね。
今回のインタビューで伺った内容を、箇条書きでまとめてみました。
●横須賀市立うわまち病院の取り組み例
- 「女性活躍推進プロジェクト」に働き方の相談ができる
- 長期休暇を取得できるよう配慮している
- どの部署にも必ず時短勤務のスタッフを配属
- 師長も産休・育休を取得できる
- 新型コロナウイルス感染症への対応をきっかけに、オンライン化を推進
続いて、ワークライフバランスを実現するために看護師さん自身ができるアイデアをご紹介します。
現役の看護師さんと座談会をおこない、仕事やプライベートでどんな工夫をしているのかを伺いましたよ。
家庭との両立を目指そう!看護師がワークライフバランスを実現するためのアイデア
繰り返しになりますが、ワークライフバランスとは、仕事とプライベートをどちらも充実させて、相乗効果を生み出そうという考え方のことです。
看護師さんがワークライフバランスを実現するためには、病院・クリニックがワークライフバランスの制度を整えるのがもちろん欠かせません。
でも、今すぐに制度を整えられるとは限りませんし、そもそもプライベートは看護師さん個人の領域。
だから、病院・クリニックに頼りきりにしないで、看護師さん自身が仕事とプライベートで自分なりに工夫することも大切なんです。
こちらは、マイナビ看護師が看護師さんに「プライベートの時間を少しでも増やすために工夫していること」をアンケートした結果です。
「料理は冷凍食品などを活用する」「休日も早寝早起き」「思い切って転職」といった意見が上位でした。
もし良かったら、こうしたアイデアを参考にしてくださいね。
さて、ここからは、2名の現役看護師さんにワークライフバランスのアイデアを伺った座談会のもようをレポートします!
現役看護師×元看護師のワークライフバランス座談会
今回の座談会に参加していただいたのは、寺本さんと大竹さん。
寺本さんは地域密着病院で働く20代独身の看護師さん。
大竹さんは訪問看護ステーションで働き、2人のお子さんを育てている30代のワーママナースです。
また、看護師であり、現在マイナビに所属している高山も参加しました。
三者三様のワークライフバランスに対する考え方や工夫をさっそく見ていきましょう。
●座談会に参加していただいた方
20代独身で、2016年より社会医療法人至仁会 圏央所沢病院の脳卒中センターに常勤で勤務。看護師1年目で転職も経験。
看護師が働きながら学びつづける支援方法を学ぶために、2019年9月から1年半アメリカに留学し、2021年6月に同院に再就職。留学中の生活や学びに関するコラムを連載。
30代既婚で、社会福祉法人皐仁会 けやきの里訪問看護ステーションに常勤で勤務。
大学病院で約10年働いている間に2人の娘を出産し、引越しを機に在宅医療の分野にキャリアチェンジ。
40代既婚で、マイナビが運営するメディアで編集者として活躍する看護師(保健師)。
1児のママで、プライベートではサイクリングやバレエに打ち込む。
■ワークライフバランスの状況と勤め先の取り組み
――まずは、ご自身の今のワークライフバランスの状況や、お勤め先のワークライフバランス施策についてお話を伺いたいです。
寺本さん
私は社会医療法人至仁会 圏央所沢病院の脳卒中センター(以下、SCU)で働いています。
2016年に入職したのですが、留学のために2019年8月にいったん退職し、2021年6月に再就職しました。
留学前はフルタイムで看護師として働きながら英語の勉強や留学準備をしていて、とても大変だったのですが両立できました。
また、帰国後も自分の時間を保てているので、ワークライフバランスの面では本当に充実していると思います。
病院全体の取り組みとしては、24時間保育がウリで、看護師はもちろんコメディカルなど多職種で利用できます。
また、各病棟には妊婦さんも多く、妊婦さんに負担をかけないようにみんなでサポートし合うような組織風土です。
私が所属するSCUの施策としては、二交代制で日勤と夜勤の勤務時間が夕方に1時間重なるようになっています。
重なった時間帯の入院対応などは夜勤の人が担当するので、日勤の人は後回しになりがちな記録や後輩の指導に集中できます。
これがSCUの残業時間が少ない大きな要因かなと思いますね。
大竹さん
私は社会福祉法人の中にある訪問看護ステーションで、常勤で働いています。
看護師になって19年ほどになりますが、もともとは大学病院に10年ほど勤め、その間に2人の娘を出産しました。
引越しを機に、以前から興味があった在宅医療にキャリアチェンジし、今のステーションは3カ所目になります。
訪問看護ステーションなので基本的に日勤で、シフト制ではありません。
今のステーションは臨時の訪問も比較的少ないので、規則正しい生活ができていると感じています。
ワークライフバランスの取り組みとしては、社会福祉法人が運営している託児所があります。
また、勤務時間が8時45分~17時15分の実働7.5時間で、他の施設よりも短めです。
そのため、お子さんを産んでセカンドキャリアとして働く場のようになっています。
あとは基本的に病院のように記録がなく、訪問時間内に終わらせるので、記録業務のための残業がほとんどないのが特徴です。
マイナビ:高山
私は今、マイナビの正社員としてマイナビ看護師の企画営業部で働いていますが、それまでは常勤や非常勤で看護師や保健師をしていました。
10年以上前に常勤で働いていた頃はクラシックバレエに打ち込んでいたんですが、行きたいレッスンになかなか通えなかったのがストレスで。
当時の私にとっては、ワークライフバランスが保たれていませんでした。
その結果、看護師を辞めてダンス留学するという奇行に走るわけなんですが(笑)
でも、思うようにレッスンに通えなかったことを抜きで考えれば、オンオフがはっきりしていて、比較的恵まれた職場だったと思います。
■ワークライフバランスを実現するためにおこなっている工夫
――ワークライフバランスを実現するために、仕事中におこなっている工夫は何かありますか?
寺本さん
勤務が終わる2時間くらい前から、周りのスタッフの業務の進捗を見るようにしています。
というのも、入院の対応などをすると、どうしても後れを取ってしまい、人によって仕事量に偏りが出てしまうからです。
自分がヘビーなときは早めに助けを求めて、自分がスムーズに進んでいるときは後れを取っている人をサポートするようにしています。
みんなで早く帰るというのを大事にしたいですね。
また、記録に関しては、電子カルテの下書き保存ができるので、患者さんの状態が変化したり、処置をおこなうたびに電子カルテにパッとメモをしています。
退勤前に思い出しながら書くのは大変ですが、こうしておくと、メモを文章化していくことで抜けがなくなり、記録も比較的早く書けるようになりました。
大竹さん
私の職場は訪問看護という仕事上、もともとスケジュールを立てやすいんです。
また、全員のスケジュールがいっぱいにならないように余裕をもたせているので、誰かが突然お休みになっても代わりの人がフォローに回れます。
もしどうしても訪問できない場合は、患者さんにご相談して訪問日時を調整してもらうケースもあります。
マイナビ:高山
現職の直前は、子どもを保育園に預けながらクリニックに常勤で働いていました。
定時に終わらないとお迎えに間に合わないので、患者さん対応以外でコントロールできるところは早め早めにやるように心がけていましたね。
ある程度予約を入れるクリニックだったので、検診や注射の時間はなるべく早めにしておいて、夕方に来院する会社帰りの患者さんの受け皿に余裕をもたせていました。
――家庭やプライベートの時間を確保するためにおこなっている工夫はありますか?
寺本さん
1日のどこにプライベートの時間を割くかを自分の中でルール化しています。
たとえば、夜勤前はしっかりと睡眠をとるようにしているのですが、そこはプライベートの時間と捉えないようにしています。
その代わり、夜勤明けは少し寝たら、その後はずっと自分の時間にします。
また、仕事でわからなかったことや受け持った患者さんの疾患の振り返りを毎日30分くらいおこなうようにしています。
その振り返りが仕事に活かされて、また早く帰れるようになるといった良い循環につながると思っています。
あとは食事とお風呂はできるだけ早く終わらせるというように、プライベートの中でも優先順位を決めるようにしています。
大竹さん
今は子どもがだいぶ大きくなりましたが、まだ小さい頃は習い事の送迎などにファミリーサポートを頻繁に利用していました。
また、買い物は週末にまとめて済ますと決めて、平日は基本的にスーパーなどに行かないようにして時間をつくっています。
マイナビ:高山
実は私は大竹さんと友人関係なのですが、大竹さんをロールモデルにしている面が強いんです。
というのも、私は「きっとママになったら出歩けないんだろうな」と思っていたんですが、先にママになった大竹さんは妊娠中も出産後もしっかりと遊んでいて(笑)
「そっか、ママもこんな風に行動していいんだな」と思わせてくれた人なんです。
その後、私も妊娠中から夫を教育して、自分のプライベートも充実できるような環境、つまり夫婦2人で子育てをしていく環境を整えました。
■ワークライフバランスと転職
――ワークライフバランスをよりよくするために、転職を考えたり実際に転職したことはありますか?
寺本さん
留学後のキャリアは色々と考えたのですが、やっぱり今の病院に戻ろうと思いました。
戻った理由はさまざまですが、その一つはワークライフバランスを保てる自信があったということでした。
当院は定時になるとロッカーが人で溢れかえる日も多く、ワークライフバランスの大切さを日々感じます。
その点は転職のときに意識しましたね。
大竹さん
私がやりたい看護が在宅だったので、結果的に夜勤がなくて定時で帰れて、ワークライフバランスがとりやすいのかなと思っています。
もしずっと大学病院で働きたいと希望していたら、どうなっていたのかなというのは少し考えます。
でも、自分の中で何を大事にしたいのか、優先順位を決めると、働き方の答えも出るのかもしれません。
マイナビ:高山
前職のクリニックは、娘を保育園に入れるためのポイントのために選んだので、『自分がやりたい仕事に就く』という気持ちは封印しました。
そのため、仕事はしているけれど自己実現には向かっておらず、「私は40歳を過ぎてこのまま終わるのかな」と悶々とした2年間でした。
でも、その当時に「自分のキャリアも子どものことも遊びも、全てをバランスよくできるのは、どういう働き方なんだろう」と考え抜いたからこそ、転職活動をして今の仕事にたどり着けたような気がしています。
そういう意味では、あの悶々とした2年間は、ワークライフバランスの大切さを実感するために必要だったのかなと思います。
――皆さん、貴重な経験や本音を話していただき、本当にありがとうございました!
今回の座談会で伺ったアイデアを以下にまとめてみました!
●仕事中にできるワークライフバランスのアイデア ・退勤の2時間前から自分や周りの人の仕事量を確認し、フォローし合う ・記録は電子カルテの下書き機能を使ってこまめにメモしておく ・誰かが突然休んでもカバーできるようにスケジュールに余裕をもたせる ・検診や注射など、患者さん以外でコントロールできるところは早めに終わらせるようにする ●プライベートでできるワークライフバランスのアイデア |
自分1人でできるものもあれば、職場の人や家族と取り組むアイデアもありますね。
周りの人と協力し合うことで、皆のワークライフバランスがよくなっていくこともありますので、ぜひこれらのアイデアを参考にしてみてください。
また、自分に合った働き方を叶えるには、思い切って転職するのもひとつの方法なんですね……!
3人のお話を伺い、ワークライフバランスを実現するためには、「自分はどのように働いていきたいのか」をしっかりと考えることが大切だとよくわかりました!
また、自分に合った働き方を叶えるには、思い切って転職するのもひとつの方法なんですね……!
もしあなたが今ワークライフバランスに悩んでいたら、働く環境を変えてみることで状況が改善するかもしれません。
マイナビ看護師では、「夜勤なし」「土日・祝日休み」など条件に合った職場が探せます。
看護師専任のキャリアアドバイザーに無料で相談もできるので、ぜひのぞいてみてくださいね。
まとめ
人の健康や命を支え、社会的な意義がとても大きい分、心身への負担も強い看護師。
やりがいをもって長く続けるには、自分に合った働き方を見つけ、ワークライフバランスを実現することがとっても大切です。
そこで、この記事のまとめとして、ワークライフバランスを実現するために大切なことを、あらためて以下に記載させていただきます。
- 職場に頼りきりにせず、自分自身も仕事とプライベートで自分なりに工夫する
- 職場の人や家族と協力し合う
- 自分の希望の働き方を明確にする
- 場合によっては、自分の希望の働き方ができる職場に転職することも考える
ワークライフバランスを実現するためには、自分自身で工夫する部分と、周囲に働きかける部分の両軸が必要。
特に「3」について、「今の働き方ではしんどいけれど、自分にはどんな働き方が合っているのか分からない・・・」とお一人で悩んでいる場合には、ぜひ誰かに相談してみてください。
人に相談することで、自分の希望が明確になって、次に取るべき行動も見えてきますよ。
マイナビ看護師では、看護師専任のキャリアアドバイザーが、あなたにぴったりの働き方を一緒に考える「働き方相談会」を実施しています。
ご相談は無料。
電話やメールなど、ご希望の方法で受け付けているので、お気軽にお申し込みくださいね。
看護師というやりがいのある仕事を、あなたらしく続けられますように応援しています!
●この記事の制作にご協力いただいた方 ・横須賀市立うわまち病院 内科病棟師長 伊藤 清恵さん ・社会医療法人至仁会 圏央所沢病院 寺本 美欧さん ・社会福祉法人皐s |