• 2025年5月18日
  • 2025年5月16日

睫毛反射とは|意識レベルの評価や看取り・死亡確認との関係性を解説

 

睫毛反射(しょうもうはんしゃ)とは、睫毛(まつ毛)に触れた際に無意識にまばたきをする反射であり、意識レベルの評価や中枢神経障害の確認に活用されます。特に、看護の現場では脳幹機能の評価や看取りの際に重要な指標となります。

当記事では、睫毛反射の仕組みや対光反射との違い、死亡確認との関係について解説します。看護師や医療従事者の方に役立つ情報を分かりやすくまとめているので、ぜひ参考にしてください。

■監修者
本多 洋介(Myクリニック本多内科医院 院長)

Myクリニック 本多内科医院(神奈川県横浜市)院長。2009年、群馬大学医学部卒。伊勢崎市民病院、群馬県立心臓血管センター、済生会横浜市東部病院を経て、2024年6月より現職。総合内科専門医、循環器内科専門医。

睫毛反射とは

睫毛反射(しょうもうはんしゃ)とは、睫毛(まつ毛)を指などで触れたときに無意識でまばたきをする反射です。睫毛に触れたことによる刺激は三叉神経を通って脳に伝わり、脳から顔面神経に命令が伝わって、まばたきという動きが生じます。

睫毛反射の反射中枢は脳幹部分の橋に存在しており、患者さんに中枢神経障害がある場合や死亡時には睫毛反射は消失します。

対光反射との違い

患者さんの目に関わる反射には「対光反射」もあります。対光反射とは、瞳孔付近に光刺激を与えたときに瞳孔が収縮(縮瞳)する反射です。瞳孔に光が当たったことは、視神経から視交叉と視索を経て脳に伝わります。脳が動眼神経に瞳孔を収縮する命令を伝えて、瞳孔が収縮する反応が起こる仕組みです。ペンライトで光を当てる際は、外側から内側へ光を当てます。

正常な場合は、光を当てた側と反対側でも同時に縮瞳が起きます。

患者さんが中枢神経障害を起こしている場合や、死亡している場合には、対光反射の消失が見られます。睫毛反射と対光反射は、どちらも中枢神経の異常を評価するときに使われる反射です。しかし、対光反射の消失は死亡判定の条件として使われるのに対し、睫毛反射は死亡判定の条件には含まれないという違いがあります。

意識レベルの評価と睫毛反射

意識レベルの評価と睫毛反射

患者さんの意識レベルを評価するとき、意識障害の深さを見極めるために睫毛反射を調べることがあります。

意識レベルとは、患者さんがどの程度覚醒しているかを示した指標です。意識レベルを用いることで患者さんの意識状態を客観的に評価できます。閉眠していても、意識レベルが正常か判断し難い時に補助的に睫毛反射を確認します。

以下では、看護師が意識レベルの評価をするときの順序を紹介します。

声掛け

声掛けは、患者さんに自発的な開眼や発語がないときに行います。

患者さんに対して「○○さん、目を覚まされましたか」「私の手を握ってみてください」といった声掛けを行い、患者さんが開眼や発語をするか確認しましょう。患者さんが声掛けに反応して開眼や発語をしたり、手を握るなどの指示に応じたりする場合は、ほぼ覚醒している状態にあると考えられます。

また、通常の声量での声掛けに反応しない場合は、声量を大きくして声掛けを行います。

触覚刺激

声掛けに患者さんが反応しない場合は触覚刺激を行います。

触覚刺激とは、肩を軽く叩く、身体を揺するなどの身体的な刺激を与えることです。同時に声掛けをしてもよいでしょう。触覚刺激を加えると一時的に開眼や発語が見られるものの、すぐに眠りに戻る場合は、一般的に「半覚醒状態」と称されることがあります。

痛み刺激

触覚刺激を行っても患者さんが反応しない場合は、痛み刺激を行います。

痛み刺激とは、患者さんに軽い痛みを与えて反応を見ることです。痛み刺激の方法には、握り拳を作って中指のPIP関節で胸骨前面を強く圧迫する「胸骨刺激」や、ペンなどで手指または足指の爪床を強く圧迫する「爪床刺激」があります。痛み刺激を行うときは、圧迫した部位に青あざが残らないように注意してください。

また、高齢者や虚弱体質の方に胸骨刺激を行うと胸骨の骨折を招くリスクがあります。患者さんの年齢や状態も考慮して、適切な対応を選択しましょう。
(出典:一般社団法人 日本離床研究会「Q&A Vol.39 意識レベルのアセスメント、痛み刺激の与え方」

脳幹反射

患者さんが痛み刺激にも反応しない場合は、脳幹反射を確認します。

脳幹反射とは、中脳・橋・延髄といった脳幹部により統合される反射のことで、脳幹機能が保たれているかを評価する指標です。「睫毛反射」や「対光反射」、角膜を刺激したときに両眼が閉じる「角膜反射」などが脳幹反射に含まれます。

脳幹反射が鈍くなっている場合や、全く見られない場合は、患者さんの脳幹機能に異常があると考えられます。
(出典:医療法人いちえ会 伊月病院「脳の機能について」

意識レベルの評価

患者さんの意識レベルを評価するときは、JCSやGCSという指標が用いられます。

JCSは「Japan Coma Scale」の略で、日本国内で一般的に用いられている評価方法です。患者さんの意識レベルを「刺激しなくても覚醒している」「刺激すると覚醒する状態」「刺激しても覚醒しない状態」の3つで区分し、さらに詳細な小区分で評価します。小区分では、0から300の間で評価します。0が正常な状態と評価し、数字が大きくなるにつれて重篤であると示されます。

もう1つのGCSは「Glasgow Coma Scale」の略で、海外で広く用いられている評価方法です。GCSでは患者さんの状態を「E(開眼)」「V(言語)」「M(運動)」の3つで区分し、各区分に配点をして評価を行います。Eは1~4点、Vは1~5点、Mは1~6点で評価し、EVMの合計点は、3~15点となります。健常者では15点となり、最も重度の場合では3点です。GCSは細かく意識状態を把握できます。

睫毛反射と看取り・死亡確認の関係性

睫毛反射と看取り・死亡確認の関係性

終末期の患者さんを看取って死亡確認をする際は、死の3徴候と呼ばれる以下の身体所見を調べます。

  • 心拍の停止
  • 呼吸の停止
  • 瞳孔散大、対光反射の消失

患者さんの睫毛反射の消失は「瞳孔散大、対光反射の消失」に含まれる内容であり、死亡確認の際に調べられる特徴の1つです。

最後に、死亡確認の4つの確認事項と手順を解説します。

心拍停止の確認

死亡確認では最初に、心拍停止を確認します。医師が聴診器を胸部に当てて、心臓の拍動が聞こえるかを調べることが一般的な方法です。また、患者さんに心電図が装着されている場合は、心電図モニターの波形がフラットになることでも心拍の停止を確認できます。

心拍停止を確認した後は、患者さんの脈拍も触診で確認しましょう。脈拍はあごの下にある頸動脈や、手首の橈骨動脈に人差し指・中指・薬指の3指を当てて確認します。

患者さんの心拍と脈拍がないことを確かめれば、心拍停止の確認は完了です。

呼吸停止の確認

次に、呼吸停止の確認をします。

看取りの際は呼吸間隔が不規則になり、医師が聴診器を当てて患者さんの呼吸状態を診断します。患者さんの呼吸音が聞こえなくなっていれば、呼吸停止の確認は完了です。

なお、呼吸停止の確認後でも、大きく息を吐くように見える動き(下顎呼吸、鼻翼呼吸、あえぎ呼吸や単発の延髄反射など)が起こる場合があります。これは体内に溜まった二酸化炭素を排出しようとする反応であり、患者さんが蘇生したわけではありません。

大きく呼吸を吐く動きを見た家族の方は「まだ生きている」と感じることがあるため、死亡確認は時間をかけて行う必要があります。

瞳孔散大・対光反射消失の確認

呼吸停止の確認後には、瞳孔散大・対光反射消失の確認を行います。

死亡すると全身の筋肉が緩み、瞳孔は大きく開いた状態で固定されます。脳幹機能の停止によって対光反射も消失するため、ペンライトの光を目に照射しても瞳孔の収縮が起こりません。睫毛反射も消失しており、患者さんの睫毛に触れてもまばたきをしなくなります。

心拍と呼吸の停止、瞳孔散大・対光反射の消失のすべての徴候が見られたとき、医師は死亡宣告をして、死亡時刻の通知と記録を行います。

異常死ではないかの確認

最後に、患者さんの死が異常死ではないかの確認を行いましょう。

患者さんの頭部周辺に外傷などがないかを調べ、病死もしくは自然死であることを確認します。万が一、頭部周辺に外傷などが確認された場合は、警察に異常死の可能性があることを報告して検死を行う必要があります。

まとめ

睫毛反射とは、睫毛に触れた際に無意識にまばたきをする反射であり、意識レベルの評価や中枢神経障害の確認に用いられます。患者さんの意識状態を判断する際には、声掛け、触覚刺激、痛み刺激を順に行い、反応を確認します。睫毛反射は意識レベルの確認のなかでも、脳幹反射の確認の際に行われる行為です。

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睫毛反射は意識障害のある患者さんなどに対して確認することの多い反射ですが、実際に自分でやってみると、反射があるのかないのかわかりにくいということがあります。しっかりと知識を付けて、実際にやってみることによって身についていくものですので、しっかりと学習&実践していきましょう。

※当記事は2025年2月時点の情報をもとに作成しています

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